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第四の魔術師 〜魔術を拒む異端者〜  作者: 第四
第一章:第一節 『平穏な――学院?』
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第十一話 秘密の共有


「そもそもリオンは私の連絡先知らないでしょ?」


「あ…」


肝心なところを見落とした今世紀最大の馬鹿(リオン)は、私がここぞとばかりに待ち侘びた絶望顔を見せてくれた。


「いや、あ…じゃないでしょ」


いつもリオンに投げかける声調とは違って、子守りをするように母性が滲む私の声。


――本当に考えてなかったんだな、こいつ。


「はぁ…、まぁいいや。ほら、スマホ貸して。交換してあげるから」


「ほんとに!?やったぁぁぁ!」


鼓膜にじんじんと痛みが走る。


うるせぇ。


私たちは連絡先を交換し、グループチャットを作成した。

グループ名が「三角関係」なのは解せないが。


「ねぇ、セリアさん」


ゼイルに話しかけられる。今の彼には、ただ純粋に『私を知りたい』という興味が表面化していた。そんな様子に、私は友人として接してくれてる気がして、心が温まる。


「どうしたの?」


「明日は学校お休みだけど、普段は休日に何してるの?」


家での過ごし方を思い出す――


ヴェルガとセラフェと共に暮らし、一緒に住むもふもふちゃんと戯れ、盛大な自堕落生活をする。時たま、牧場バイトなんかして、牛さんとも触れ合う。年中、自然に囲まれた生活習慣である。


――休日か〜家でごろごろしてるな。

することも特にないし。


あ、でも魔術の練習は少ししてるな。


「ちょっとだけ魔術の練習してるよ」


人差し指と親指で空気を掴むような仕草で、微小の程度を表す。


「へぇ~すごい。真面目だね」


心底感心したような反応をされる。

…ゼイルの方が真面目な気がするんだけど。私だけかな?


「そんなことないよ〜」


私は謙遜する。実際私より頑張っている人は大勢いるので、口が裂けても「頑張ってる」…なんて言えないのだ。


「ねぇ、セリアさん。暇ならどっか遊びに行かない?三人でさ」


リオンが割り込んで言う。ゼイルとの握手の際、邪魔してきやがったことに腹を立てたが、今は不思議と怒りはない。

もしかしたら、この馬鹿(リオン)に免疫がついてきたのかも。


「遊びにか〜」


休日はバイトと魔術練習以外の用では、全く外に出ない私。


普段はずっと家にいるし、たまには悪くないかもな〜


「私は行きたいかも。ゼイルは?行きたい?」


「(記憶の中でのセリアさんと行ったあの場所はどこだったんだろう…行ってみたら、何か手掛かりが掴めるかも)」


ゼイルが小さく呟く。何か思い詰めてる様子だ。


「ゼイル?聞いてる?」


「え?あ、うん。そうだね…僕も行きたいかも」


彼は慌てて答えた。


「どうしたの?さっきから変だよ?」


「…大丈夫。心配しないで」


私を見て、余計に深く、神妙な面持ちで考え込んでしまったゼイル。その目には、確かに潤いが多かった。


――魔術実習の時から、ゼイルの私を見る目はずっとこんな感じだ。


ほんとに大丈夫だろうか?

心配だ。


「じゃあな、ゼイル。また休日に」


「うん。リオン君も、セリアさんも、また休日に」


「うん、またね」


私たちはゼイルと別れた。



――やっぱり変だ。


僕はずっと考え込んでいた。


あのことがあってから、セリアさんと会う度に思い出してしまう。


「(僕とセリアさんが恋人だった…)」


照れ臭さと安心を覚えるこの関係に、僕は違和感を感じていた。


「(夢じゃないのか?あれは過去に本当にあったこと…なのか?)」


にわかには信じられないが、妙に鮮明に脳裏に焼きつく。今まで、こんな感情を覚えたことはない。


初めての感覚…


「いつか分かるときは来るのかな?」


「何が分かるときが来るんですか?」


「え?」


アサーシが急に話しかけてくる。


どうやら、気付かぬうちに教室まで足を運んでいたようだ。


…流石に集中し過ぎたな。


「えっと、これは…言えないかな」


アサーシの目つきが鋭くなる。僕を試すように。僕から何か引き出すように。


「…そうですか。人の土足に踏み入りすぎるのも良くないので、これ以上は聞きません」


ほっ…

アサーシは後ろの席に向かって歩き出す。その後ろ姿は、年甲斐もなく数多の経験を重ねてきた、老人のような風格があった。


「ただし」


アサーシの声のトーンが上がる。


な、なんだ?…詮索はしないんじゃ?


「いつか聞かせてください。あなたが、私を許せるようになったら」


彼は振り返りながら告げた。

その表情には、『いつかその日が来てしまう』ことを確信しているような、優しくも――切なげな想いが、のしかかっているように見える。


どういう意味だ…?


「…っと口が滑りました。忘れてください」


アサーシは、初めて年相応の笑みと悲しみを孕んだ顔を見せる。その目は、僅かに滲んでいる。

そこには、一人の青年には抱えきれない責任と、業を背負わされているように感じた。


「アサーシ、何があったの?」


「いえ、別に」


とても――答えてくれるような口調ではなかった。



引き戸が開いた。


「お前ら〜席につけよ。今から、昨日の対抗戦の結果を発表する。…って言っても、大体分かってると思うがな」


担任が少し、自慢げな表情で入ってくる。


「まず結果から。勝者は――A組だ」


「よっしゃぁぁぁ!」

「勝てたね〜!」

「私たち、良くやった方じゃない?」


クラスメートが叫び出す。

隣のクラスから雄叫びが聞こえてこなかったので、なんとなくそうじゃないかとは思っていた。


…けど、実際に聞くと嬉しいものだな。


「やったね!ゼイル君!アサーシ君!」


リゼリアさんが喜びを共有してくる。


いつもなら少し胃もたれするぐらいの活発さだが、

…今は素直に嬉しい。


「うん、やったね。リゼリアさんも頑張ってたよね?」


リゼリアさんは少し驚いた顔を見せた後、叫ぶ。


「今、笑った?笑ったよね!ゼイル君の笑顔初めて見た!なんか、私も嬉しくなってきちゃう!」


僕の顔を見て、彼女の背後の後光が割り増しで煌めきを強まった。


僕、笑ってたのか…自分でも驚きである。


「アサーシ君はど…う?」


リゼリアさんはアサーシに聞こうとして、言葉に詰まる。


「(素直に喜びたいのに。みんなと喜びを分かち合いたいのに。なんで僕がこんな目に…僕が何かしたかよ…クソッ)」


アサーシは心底悔しそうに、ぼやいていた。


「アサーシ君、大丈夫?」


リゼリアさんが彼の背中をさすり、気にかけた。


「…私は大丈夫です。気にしないで、皆さんで盛り上がって居てください」


彼は悔しそうに唇を噛み締め、拳を握りしめていた。


「でも、アサーシ君を置いて喜ぶことなんか――」


「ほっといてくださいよ!!」


アサーシの声が静まり返った教室に響き渡る。


「あっ…(また、やってしまった。こんなことばっかり…)…すみません。私、トイレ行ってきます」


「お、おう。気をつけてな」


担任は鳩が豆鉄砲を食らったが如く、目を丸くして言った。


――クラスメイトもそうか。

皆、今起きた現象に空いた口が塞がらない様子だ。


「アサーシ君…」


一人の少女は悲しげに言う。


「アサーシ君大丈夫かな…?」


「何かあったのかな…?」


「あんなアサーシ君、見たことない…」


窓から吹く風が、クラスメートたちのヒソヒソ声を乗せて耳に届く。


「…!私、ちょっと行ってくる!」


「あ、リゼリア!授業中だぞ!」


担任の声は届かず、少女は駆け出す。



――あのままじゃ駄目だ。あのまま一人で抱え込んでたら、いつか爆発する。

…そうなればもう戻れない。

もとの自分には二度と。


…手遅れになる前に、早く!


私はアサーシ君を追って、彼の奥底を聞き出そうと思い、走り出した。


無駄かも知れない。余計に彼の神経を逆撫でするだけかも知れない。

それでもいい。

やる後悔より、やらない後悔の方が――私は嫌だから。


C組の引き戸が開く。


「こら〜授業中でしょ?それに廊下走ったら駄目でしょ?」


担任の先生だろうか?

…何か邪悪なオーラを纏ってる。


「すみません、今急いでて!後で、お叱りは受けますので!」


「あ、ちょっと!」


私は先生の声を振り切り、一目散にトイレへ駆け出した。



中等生区域を通り過ぎた時だった。


確かここの角を曲がって、さらに曲がったところに――


「ここの問題分かる人〜」


「は〜い!」


体を捻る道中で、初等生たちの元気な声が木霊した。

私にもあの時期があったな…


角を曲がり切った。

あった!

男子トイレに入るのは気が進まないけど、仕方ない。


「アサーシ君〜?いる〜?」


私の声は残酷にも、虚無へと消えてしまう。


「アサーシ君、どこにいるの…」


トイレから出てすぐ、廊下にある窓に目が行く。


「そう言えば、この窓から私の家見えるんだっけ?」


私は家を探すために東部領(グラディア)の中心を見てみる。


「あそこが私の家…ここから見ると案外大きいんだな。さて、アサーシ君は…」


私は目線を下にやる――


――居た。白髪の青年が。


「あれは…ベンチに座ってるのか。行ってみよう」


木々に隠れているため探すのに戸惑ってしまった。

木樹の下にあるベンチに座っているようだ。


私は階段を下り、一階へと降り、東玄関口――からは行けないので、南玄関口から脱出する。

そのまま、迅速に東門方向へと走った。


「アサーシく〜ん!やっと見つけた…」


私は息を切らしながら言う。息を整えるため、両手を両膝の上に乗せ、全身で体を落ち着かせた。


「リゼリアさん…なんで…」


彼は猫が初めてメロンを食べたかのように、目を瞠目させた。

私が来るとは、露にも思ってなかった様子だ。


「敢えて言うなら、アサーシ君を迎えに来た…かな?」


「え?…ブッ、ハハハハハハ!」


アサーシ君は一瞬驚いた後、吹き出していた。

そんなに面白かったかな?


「迎えに来たって…なにそれ?笑」


「馬鹿にしないでよ!心配して来たんだから!」


私は腕を組み、頬を膨らませながら言う。せっかく心配して来たというのに…カンカンである。


「ごめん、ごめん。面白くてつい。…で?そんな僕を、リゼリアさんは連れ戻したいの?」


今“僕”って…普段は“私”なのに…


「なんで“僕”を使ったの?もしかして、本当はそっち使ってるの?」


「え?…ハッ!」


アサーシ君は目を背ける。

耳を赤く染めている。


「…忘れて」


「え〜どうしよっかな〜笑」


私は意地悪な言い方で言う。

しめしめ…これはチャンスですなぁ…

普段は落ち着いてるアサーシ君だけど、今だけは私の掌の上…!

ふむ…どう料理してやろうか。


「じゃあ、私を“リゼリア”って呼び捨てしてくれたら忘れてあげる。」


私は期待を込めた視線で訴える。


「…それでいいの?」


彼はこちらに振り返る。彼の瞳が見開かれる。


「それがいいの!

だってさ、この前 “もう少し親交が深まれば、あり得なくはないですけど…” って言ってくれてたじゃん?

呼び捨てってことはさ――私のこと、友達だと思ってくれてるってことでしょ?

それって、すっごく嬉しくない?」


胸の内の思いを素直に話した。


「友達――僕とリゼリアさんが…?」


彼の声が震えながら上ずった。


「だからさ――」


その瞬間、彼の涙腺が緩み、目から無力感が溢れ出しているように見えた。


「僕、昔から一人だったんです。

誰かとか関わっても“僕はいつかこの人を傷つけてしまう”っていう思いが込み上げて、辛くなるんです。


けど、立場上…こんなこと誰にも話せなくて。ずっと一人で抱え込んでて。もう…どうにかなっちゃいそうだったんです。気が狂いそうで…」


内に秘める思いを、噛みしめるように語ってくれる彼。その寂しそうな表情からは、私の中の正義感にも似た感情が動き出してくる。


「うん…」


「それで今日、ずっと押し留めていた感情が抑えきれなくて…みんなを傷つけてしまいました。もう、みんなと関わる資格はありません」


「そんなことは…」


「じゃあ、何ですか!」


アサーシ君は怒号をぶつける。


「どうすればいいんですか…

僕はこれからも、みんなを裏切りながら生きていけばいいんですか…?そんなのあんまりじゃないか…


僕はもう自分に嘘をつきたくない。


もう…限界なんだ。だから、僕のことは放っておいて――」


アサーシ君の拳が震えていた。食いしばる歯の音が、鼓膜の奥底まで聞こえてくる。


「馬鹿!」


「え…」


私は言葉を遮る。


「それは、本当にアサーシ君の望むことなの?それこそアサーシ君の言う“自分に嘘をつくこと”じゃないの?」


そうだ。嘘は、自分に対してもついていいものじゃない。私はそれを――身をもってひしひしと痛感させられてきた。


「それは…でも、みんなを傷つけたくないのも本当で…」


「なら、話せばいい」


「え?」


彼の目を真っ直ぐ見つめる。


「傷つけてしまうことが分かってるなら、話せばいい。話せば楽になることもある」


「でも、そんなことしたら…」


「人は傷つけられるって分かっていないから、より傷つくの。…私もそう。自分の気持ちを押し込めて、ずっと我慢してたことがある」


私は幼少期――父の声を脳裏に浮かべる。私も、いつかは腹を決めなきゃならない。


「けど、それは傷つけられる方にとっても、良くないことなの。だから、私は話すようになった」


きっと、お父さんも私と同じだ。

――いくら他人には出来ても、家族には簡単に打ち明けられない。


「だから、話して?どんなことでも、受け止めてあげるから」


「リゼリアさん…」


アサーシ君の目から、涙が溢れ出す。彼の声は揺らいでいた。


見ていられなくて、――私はそっと彼を抱きしめた。


腕の中で、彼の肩が小刻みに震えていた。


彼の細い肩、冷えた体温。痛々しい泣き声。


それでも、確かに温かかった――


「ずっと、辛かった。なんで僕ばっかりって、自分を押し殺してきた。でも、もう嫌なんだ」


彼は嗚咽混じりに泣きながら、一つひとつ言葉を紡いでいく。


「仕事だからって、政府の――

……いや、言えない」


アサーシ君は顔を伏せた。


「あの人の名前を口にしただけで、僕は消されるかもしれないから」


“あの人”…?

私は思わず聞き返しそうになる。

けれど、彼の震える声を見て、言葉を飲み込んだ。


「……あの人には逆らえない。“あの世界”の誰もが逆らえない。それだけ、あの人の確立した地位は、確固たるものだから。


逆らえば、家族がどうなるかすら分からない。

……それだけは、想像もしたくない。


みんなみたいに“当たり前”を味わうことすら叶わない。

誰かを傷つける度に、心がすり減っていく…そんな生活に嫌気が差した。


自殺を考えたこともあった。でも、僕に残された道なんて、一つしかなくて…」


「うん」


私は彼の声を静かに聞いていた。


「…誰かと関わるたびに思う」


彼は深く俯いた。


「…いつか、この人も傷つけるんだろうなって。…不幸にしてしまうんだろうなって」


彼は、改めて人との関わりを避ける理由を語ってくれた。

彼の声は誰かを傷つけてきたとは思えないほど痛々しく、優しかった。


「話してくれてありがとう。これから、ため込みすぎて辛くなったら、私に話してくれて良いから。

少しずつでも、みんなにも話せるようになったら良いから。…だからって、無理はしたら駄目だよ?」


「うん、ありがとう――リゼリア」


「…!」


私たちはこの日、友達となった。

共に秘密を共有する仲として――



――リゼリアさん、遅いな。


教室の空気は、さっきの出来事のまま止まっている。


誰も大きな声を出さない。

笑い声もない。


……あんなアサーシ、初めて見た。


僕は、机の上で拳を握った。

爪が食い込んで、少し痛い。


彼の辛さは僕には分からない。

けど、彼の苦しみを少しでも和らげてあげられれば、結果は違っていたかも知れない。


…それは存外、無理な話か。

僕らはまだ、出会って間もないのだから。


「と、とりあえず座ろうか」


担任が空気を切るように言った。


「…はい」


クラスメートたちも、さっきまでの活気はどこへ行ってしまったのか、気が沈んでいる様子だ。


「遅くなってしまい、すみません!」


リゼリアさんが勢いよく引き戸を引き、声を張り上げる。


「私の方こそ、すみません」


アサーシが深々と頭を下げながら、申し訳なさそうに言う。


「…言いたいことは山ほどあるが、まずは戻ってきてくれて良かった。リゼリア、ありがとう」


担任がリゼリアさんに伝える。


「いえいえ、私は大したことはしてません」


リゼリアさんが、言葉とは裏腹に誇らしげに胸を反らせている。彼女らしい仕草に、クラスの空気が少し晴れた。


「(後で、話せる限り話してもらえないか?今後も、こんなことがないとは限らないわけだし)」


担任が、リゼリアさんとアサーシに小声で話しかけた。


「(分かりました。けど、きっとアサーシ君はもう大丈夫です。私が付いてますから!)」


「(…!リゼリア…)」


リゼリアさんは誇らしげに話している。


アサーシは――なにやら嬉しそうだ。恥ずかしそうな、照れ臭そうな、そんな顔だ。

何があったんだ…?


「はい、じゃあ二人とも席についてくれ。もう、休み時間も終わってしまっているからな。

授業は…魔法演習か。この授業は俺が担当する。今からグラウンドに行くから、廊下に並んでくれ」


「はい」


さて、廊下に出るか。


ん?アサーシとリゼリアさんが、何やら仲よさげに話している。


「リゼリア、さっきはありがとう」


「全然いいよ!気にしないで!」


…なんかアサーシ、リゼリアさん呼び捨てしてないか?今朝はまだ“さん”付けだったような…


不審に思いながら整列し、校舎外の赤レンガに向かった。

廊下の窓から見える空は、暗がりが顔を覗かせていた。

深茶色の窓の縁には、銀色の何かが見えた。


「さて、今から魔法演習を行う」


靴に砂埃が舞った。僕らを囲むようにして、結界が張り巡らされる。


冷や汗が額を伝った。

普段よりも、体内の魔力が濃くなった感覚に陥る。


担任の声が、どこか冷たかった。

いや、昨日までとは――まるで違う。


「この授業では、スキルの使用は無しだ。魔法だけを使ってもらう。まずは、各々の得意な属性の魔法を使ってみてくれ」


得意な属性…?


――違う。

僕の魔法は、そもそも属性なんてものじゃない。


火槍(フレイム・スピア)!」


水泡(アクア・スプラッシュ)!」


風切(エアロ・スラッシュ)!」


回復(ヒール)…」


みんな、既に各々の得意魔法を、詠唱破棄で行っていた。

レベル高ぇ…流石は《セレスティア中央魔術学院》。

僕は…どうしようかな?


「は〜い、一旦止めようか。全体的にいい感じだな。次は、俺がお手本を見せよう」


担任のお手本――。

…ゴクリ。

みんなの喉にも唾液が通る。

どんな魔法を…


「――よく見ておけ。これが氷属性の上級魔法だ」


担任はゆっくりと手を上げた。


――その瞬間、魔力の息吹が押し寄せる。

背筋が凍った。

春とは思えない冷気が、肌を刺す。


――魔力が、重すぎる。

――緊張が走る。


凍てつく肌の感触がこの担任の――いや、この公爵の力を物語っていた。


「氷の刃よ、凍てつく力を解き放て――」


…駄目だ。


あの魔力は、演習の威力じゃない。

直撃すれば死ぬ――


そう直感した僕は、反射的に展開していた。


結界(アイギス・ウォール)!」


叫んだ直後、氷の刃が解き放たれた。


氷切息吹(アイス・エマンセ)――」


その瞬間――


僕の結界が、一瞬で砕けた。その衝撃で、砂埃が舞う。


……え?

嘘だろ。


「ほう……」


公爵は静かに呟いた。


「何者だ?」


公爵の瞳が細くなる。彼の瞳には、もはや生徒など見えていないだろう。


――視界に映る砂が落ち着く。開けた世界を見て、普段の視界の良さを実感させられる。


「なるほど……」


公爵は手を顎に当てた。


「そうか――」


空高々と顔を上げ、ゆっくりと笑った。


「――異端者(ゼイル)


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