第十話 約束の痛み
「これでやつの動きを止める!」
金髪の青年から発せられた沼が、アサーシ目掛けて走り出す。
僅か――アサーシは足を崩す。
「くっ…」
隠密が解かれ、姿が露わになった彼。
余裕のない表情からは、自陣営の危機が迫っているのだと、ひしひしと感じられる。
「今だ、セリアさん!」
金髪の青年が叫ぶと同時に、少女の手から氷のような槍が出現する。
「…させるか。同調」
再び魔法を発動する。
同調により、アサーシの魔力効率が上がる――
「…!また…!」
金髪の青年は既視感を顔に滲ませる。
…そう。アサーシは何度もスキルを使ってる――なんて思ったか?…同じ手は使わねぇよ。
僕は目の前に立ち往生する敵に向けて、嘲ってやった。
「また?…それはどうかな」
意図までは悟られないよう、慎重に言葉を選ぶ。
…相手を煽るのは、ちょっと楽しいな。
「リオン…白髪の人の気配が消えた。さっきより薄くなってる!」
「これでいつでも奇襲可能ってわけか…クソッ…」
アサーシの気配は、素人でなくても全く探知し得ない程薄くなった。
ここですべきなのは、セレナさんたちの動きを止めること。なら――
「…断絶」
――断絶とは、術者とマナ供給・魔力供給の“接続”を一瞬だけ断つもの。
これにより、相手のスキルも――タイミングによっちゃあ魔法までも封じられる。
…まぁマナ消費が激し過ぎるから、余りにピーキーだけどね。
「…!」
一瞬、セレナさんの分身の動きが静止する。
たかが一瞬。だが、その一瞬で――
「重力拘束!」
「うっ…」
「ぐっ…」
青年と少女は蹲る。
青年は胴を地面に叩きつけられ、少女は――
「氷…槍…」
絞り出すように放った槍は、僕の首を掠る。
首から血が滴る。
危ない。もう少しで喉に…
「これだけ動きを封じられて、よく動けるね…」
少女は喉を震わせながら、絶望なんて知らなそうな声を漏らす。
「フッ」
セリアさんは、諦めの見えない眼差しで答える。
「まだ、やることがあるから。ゼイルと、本音で…話してない」
「本音…」
鼓動がざわめいていた。
本音で話すセリアさん。
繕いのない、本当の…セリアさん。
その姿を想像するだけで、どうしてこうも落ち着くのだろう。
どうして、こうも苦しくなるのだろう。
「ゼイル、まだ…スキル使ってないでしょ?」
「…」
「本気で来てって言ったよね?…手加減しないで」
「…分かった」
セリアさんには隠せない。
なら、出し惜しみはなしだ。
これで、終わらせる――
「位相観測!」
「それが、ゼイルの本気――」
僕のスキルに目を奪われた彼女の視野が、僕一辺倒に限定される。
ここが好機とばかりに、
「よそ見してたら、足元すくわれますよ?」
「…!あなたは…!」
アサーシがセリアさんの腕を拘束する。
「ありがとう、アサーシ」
無意識に、彼女の額に手が伸びる。
――途切れなく繰り出す。
「干渉」
互いの魔力が交錯する。脳内に痺れが生き渡った。
「…!何を――」
瞬間、記憶が流れ込む。
それは在りし日の――
「――ねぇ、ゼイル。ポテト食べないの?食べないなら食べちゃうよ?」
目の前には僕の好物が待ち構えていた。
ここは…食堂だ。僕はセリアさんと戦っていたはず。どうして…
「うん、いいよ」
記憶の中の僕は勝手に喋り出す。
――おい、待て待て。僕の意志は関係ないってか!?
ゼイル君の言葉を聞き、セリアさんは塩抜きポテトに伸びる手を止めてしまった。そのまま、彼女は呆けた顔で固まってしまう。
「え?」
『記憶ゼイル』は、心底驚いた様子だ。セリアさんの反応は、意想外だったのだろう。
僕ですら『馬鹿っぽいなぁ…』と思ってしまう程に、その声調は上ずっている。
「なんだよ、そんな驚いて…」
「だって、ゼイルポテト大好きじゃん!私もだけど」
普段の彼女より、もう少し柔らかい口調に聞こえた。
…それはそうだ。好物には、嘘はつけまい。
I love 塩抜けポテト――
「今日はそんな気分じゃない」
ところがどっこい。ゼイル君はぶっきらぼうに返しやがった。
もう少し愛想よくできないものか…と、僕は自分に叱咤する。…改めて、傍から見れば奇妙な光景だ。
「え〜〜
…分かった!寂しいんでしょ!
も〜しょうがないな〜。ほら、膝枕してあげるから!」
「いやいや!そういうのいいって!人前でそんなこと…」
体の動きと心が、初めて連動した。
お、やっと僕らしいこと言い出したぞ、こいつ。
さっきまで『ほんとにこいつゼイルか?』と思うくらい、ありえん冷たかったからな。
「でも、ゼイルに元気出してほしいもん。だめ?」
上目遣いで首を傾げながらお願いされる。
…ずるいな。破壊力抜群だ。
「…あ〜もう、分かったよ。…セリア」
一度もしたことのない呼び方に、この記憶の時間軸が心底気になってきた。
セリア?僕は名前を呼ぶとき、絶対に“さん”を付ける。どうして…
というか、これはいつの記憶だ?
次の瞬間、また別の記憶が流れ込む。
それは在りし日の街並みで――
「ねぇねぇ、ゼイル。あそこにいるの
Valorvexさんじゃない?話しかけに行こうよ!」
ここは…商店街――というか、出店通りって感じだ。この美味しそうな匂いが、祭りを連想させる。
「え?いや、忙しそうだし迷惑だろ」
「え〜そうかな〜?…ま、ゼイルが嫌なら、私だけ話しかけに行こっと!」
「あ!ちょっと待ってよ!」
彼女は僕の言葉に聞く耳を持たず、一目散に駆け出してしまった。
「Valorvexさ〜ん!久しぶり!」
走りながらぴょんぴょんと縄を飛び越えるが如く跳ねる彼女。薄目で見れば、スキップ――に見えないこともない。
あのひ――ん?人か?
あれは…なんだ?
遠くにいるためはっきりとは分からない。
近づいてみる。焼きそばを焼いているようだ。ソースの焦げるいい匂いが食欲を掻き立てる。
美味そう…よだれが止まらない。
「Val orn!元気してたか?」
え?今魔人語を…
彼の顔を凝視する。
見た目も人間とは違うし、さっきの襲撃者と似てる…
「も〜セリア、行くよ!うちの彼女がすみません、Valorvexさん」
ゼイル君は目の前の怪物に目もくれず、まるで彼が『人間』であるかのように平然と対応した。
――今、間違いなく、僕らの関係性を表す、有り得ない言葉が聞こえてきた。
は?セリアさんが…彼女?
何を言って――
瞬間、別の記憶が流れ込む。
「――うぅぅぅぅ…痛い…」
僕の視界は血なまぐさかった。僕の体はうつ伏せになっている。必死に藻掻いているが、あと少しで命が零れそうだ。
「セ…リア!…大丈夫か?」
僕の体は、吸い寄せられるように――セリアさんに近寄って行く。
「ゼイル…逃げて。早く行かないと、死んじゃう。ゼイルには生きて欲しい…から!早く!」
彼女は額に重傷を負っていた。足にも怪我を負っているのか、匍匐前進で僕ににじり寄っている。
「やるしかないのか。クソッッ…
なんで…」
馴染みのある魔力の流れを感じ取る。
…それをして何になるんだ?
「位相観測――
俺の全てを懸けて――君が笑顔になれる世界を作る」
覚悟を決めたように体が立ちがった。全身の魔力が右手に集中している。
待て、何を――
「ゼイル、待って!私、まだゼイルと――」
セリアさんの悲痛な叫びを最後に、魔力が弾けだす。記憶はそこで途切れた。
脳裏に電流が走る。
一気に現実へと引き戻される――
「ゼイル、泣いてるの…?」
「え…」
目から悔しさと虚しさが溢れ出す。
…胸が苦しい。
あの記憶はなんだ?
あんなの知らない…
見たことも、聞いたことも。
でも、どこか懐かしい。
「何があったの?」
セリアさんは優しく問いかけてくれる。その声色は記憶の中の声とそっくりで、思わず目を背けてしまう。
「…なんでもない。…心配かけたね」
セリアさんに向き直る。
…あの記憶のことは、一旦横に置いておこう。
今、目の前のセリアさんに向き合わないと、失礼に当たるというもの。
「…そう。なら、これで本気でやれるね」
瞬時に現れたセリアさんの分身が、アサーシの体を抑えつける。
「氷結…」
その冷気で僕の涙も焼けてしまった。
「くっ…ゼイルさん!
必ず――必ず、勝ってください!」
アサーシは悔しさを吐露し、僕に託してくれた。
彼の悔しさは、彼が発した声が地面の草を大きく揺らしたことで確認できた。
「うん。アサーシも後は頼んだよ」
アサーシと別れ、セリアさんと対峙する。…これが、本当に最後だ。
「結界」
周囲を結界が遮る。魔力の息吹が結界内を反射する。
実力で言えばセリアさんの方が上だろう。けど、それは諦める理由にはならない。これは――実力がどうとか、そういう話じゃない。
「…わざわざ二人きりにしてくれたの?…ありがと」
普段通りの安心する声で――表情で、感謝を告げられた。
「気にしないで。僕が勝手にやったことだから」
この戦いは、二人きりであることに意味がある。
「そう…」
――数刻、時が遅れる。
両者間に集中が研ぎ澄まされる。
…途切れさせるなよ。
「氷枝分身…」
空気が断ち切られた。
「位相観測…」
――僕も後に続く。魔力を目に込め、周囲の解像度を上げた。
「凍える冷気の衣よ、集い、敵を――」
「氷槍!」
一方のセリアさんは詠唱を…
もう一方のセリアさんは魔法を放っている。
これを僕一人で…
骨が折れる。
――大丈夫。さっきみたいにやればいい。
「断――」
「同じ手が通じると思う?」
その瞬間、槍が手に突き刺さった。
「痛っ…!」
掌から生暖かい汁が零れると同時に、氷槍は粉々に砕け散った。
詠唱を中断して魔法を…!
やられた…
「手が分かれば、対処もしやすいね」
クソッ…もうほとんど手は明かした。
このままじゃ、じりじりと追い詰められてしまう。
せめて抵抗を…
「魔力遮断…」
「…それを使うってことは、もうギリギリなんでしょ?それに――」
セリアさんは僕に迫り手刀で盾を破壊する。
「…まだ――」
「――やれる?ふらついてるけど」
え?
視界が揺らめいて、呼吸が浅くなる。
意識が、落ちる…
瞼は重力に逆らえなかった。
「…結局、不完全燃焼か」
その声を最後に体の力が抜ける――
暗闇を彷徨った。
記憶の中の会話を思い返す。今の彼女にはあの記憶はあるのだろうか?それともあの記憶自体が偽物…とか?
――記憶の中の懐かしい声が木霊する。
その声を噛みしめるように反芻する。
「――ル
――――イル
―――――ゼイル!」
柔らかな感触が…って、これ――
「うおっ!?」
「おはよ」
セリアさんが笑顔で迎えてくれる。
ひ、膝枕…
嬉しさと恥ずかしさが込み上げる。
…そう言えば記憶の中でもしてくれてたっけ?
「あの後…どうなった?」
結果が知りたくてうずうずする僕は、子供のように結果を催促した。
「カイラス君が圧倒して、すぐB組の負けになっちゃった。…一瞬だったよ」
「…そうなんだ」
残念そうに息を吐く彼女は、私情を挟まず、素直で客観的な事実を伝えてくれた。
流石はカイラス君だ。英才教育を受けてきただけある。…僕とは違うな。才能も、境遇も…何もかも。
「アサーシはどうなった?」
僕に最後を託してくれた彼の容体が気になる。あの後、ちゃんと戦えただろうか。
「あ〜あの白髪の人?あの人は気配を隠すのが上手すぎて、全然追えなかったよ。…不気味だった」
敵わない到達点を悟ったように、天高く空を見上げる彼女。
僕もアサーシは不気味だと思う。
あの好青年ぶりからは想像できないほど、苦い裏がありそうだ。
「ねぇ、ゼイル」
「ん?」
セリアさんは勇気を振り絞るように話し出す。
その顔から、なんとなく…何を言うのか分かる気がする。
「私、まだ話したいことがあるの。だから明日、また食堂に来て。…本音で話すから」
「…うん。分かった」
きっとセリアさんにとって、重い決断なのだろう。
明日…か。
僕とセリアさんの関係はどうなるのだろう。
期待と不安を抱えながら、僕は教室へと戻った。
「――ゼイル…か。あれだけセリアさんが気にかけているのはなぜなんだ?…明日、食堂行ってみるか」
金髪の青年は呟く。
〜翌日の昼にて〜
昼の鐘が重々しく轟いた。
よ〜し、やっとお昼だ。
ご飯食べよ――っとその前に、セリアさんに連絡しないと。
セリアさん〇
〇どうしたの?
一緒に食堂に行きたいなって思って〇
〇ほんと?私もちょうど誘おうと
思ってたんだ!一緒に行きたい!
じゃあ、廊下で待ってるね〇
セリアさんは、相変わらずメッセージでのテンションが高い。
確か、記憶での彼女もテンションが高かった気がする。…これが素なのか?
戸を引き、廊下に出た。
「き、昨日ぶり。セリアさん」
未だに張り詰めている空気をなんとか和ませようと、僕から話しかけてみる。
「あ、ゼイル。…行こっか」
僕らは並んで歩き出す。白石床の冷たさは、僕らの空気を一層強固にするようである。
…何やら視線を感じるが、気のせいだと思いたい。
「(ゼイルとセリアさんが恐らく食堂に向かっている。…ついて行こう)」
一人の青年が、僕らの後ろを尾行する。
その行動に懐かしさを感じると共に、視界が濡れる。
「――わ〜美味しそうだね〜!」
「美味そう…」
僕たちは、食堂という空間に目を輝かせていた。
「あ、ゼイル。ちょっとお花摘みに行ってきていい?ほんとごめんね。先に食べてていいから」
「分かった」
上から俯瞰で見た時、平面図でいうところの一階の北西部に位置する厠に侵入して行ったセリアさん。別にやましいことはしてないが。
――大丈夫かな?お腹でも痛めてるのか?
鈍感ボーイであることを自ら主張するが如く、キョロキョロと周りを見渡す銀髪青年。
ゼイル…なんか蛙化されそうな奴だな。
――まぁ、仕方ない。
今日も言うとしよう――
「ハンバーガーセット一つ!ポテト塩抜きで!」
注文を終えた僕は、トイレの近くにある席で――かつ、自然が観望出来る絶好スポットを探し出した。
それじゃあ、先に席取って待つか。
席は…空いてるな。
まぁ昨日と同じでいっか。
「自然を観ながら…」
そのとき、見覚えのある青年が注文しているのが目に入る。
「(ゼイルは確か…)ハンバーガーセット一つ!ポテト塩抜きで!」
な!?セリアさん以来の食の好みが同じ人…あいつ、何者だ?
金髪青年が自信満々に、咆哮とも言える馬鹿でか声量で話し出した。
ん?なんか、見覚えがある気がする…
「注文番号3番でお待ちの方、カウンターまでお越しくださいませ〜」
「よし、来た」
カウンターまで歩いた。
…なんかめっちゃ見てくるんだけど。僕、何か気に障ることしたっけ?
金髪の青年が、僕を凝視していた。
「とりあえず座ろ…」
僕は自然のよく見える席に着く。
「注文番号4番でお待ちの方、カウンターまでお越しくださいませ〜」
「は〜い。ありがとうございます!」
金髪の青年は、元気よく感謝を伝える。
「さて、ゼイルはどこだ…っといた!」
…なんかそんな気はした。ずっと、僕に用がありそうだったからな。
予感が的中した僕は、少し機嫌が良くなる。
だが、そうは言っても、これから来るであろう刺客に対応するための、心の準備をする必要がある。
そっと、呼吸で酸素を細胞に移す――
「君、ゼイルっていうよね?
俺は、リオン=アルヴァ。セリアさんと仲良さそうだったから、セリアさんのこと色々聞きたいんだ!いいかな?」
彼の目的が顕となり、第一印象の最悪さに嫌気がさした。
なるほど…セリアさん目当てか。
それなら僕らを尾行していたのにも合点がいく。まぁ、尾行は良くないが。
「…分かった。僕が教えられることなら、教えてあげるよ」
本音を隠し、取り敢えず話を合わせておく。
「ほんとに!?ありがとう!
(恋敵として張り合うためにも、情報は大事だからな。これは大きいぞ…)」
僕の許諾声を聞き、なるとも似合う悪巧み顔をしてみせた彼。
なんか恋敵って聞こえた気がするんだけど、気のせいか?
「――早く、ゼイルのところに行かないと」
私はトイレを済ませ、急いで注文口まで向かう。
「ハンバーガーセット一つお願いします。あと、ポテト塩抜きでお願いします」
早口で捲し立てたせいか、店員さんに「…はい?」と聞かれ、私の精神に痛恨の痛手を負いながらも、何とか平常心を保った。
早くできるといいな――仲直り。
ゼイルとは気が合うから、気まずいままなのは、正直精神に来る。
なまじ、昔から友達が少ない方だから、余計に。
人間以外の友達なら居るんだけどな…
早く帰って、あのもふもふを味わいたい…
「注文番号7番でお待ちの方、カウンターまでお越しくださいませ~」
「ありがとうございます」
私は受け取り口でハンバーガーセットを受け取り、ゼイルを探す。
ゼイルなら、きっと昨日の端の席に――
え?あの金髪…まさか…
「あ、セリアさん!お邪魔してます!」
「リオン、なんで平然とここにいるの?ここの席じゃないと駄目なの?」
私は怒気で彼を殴りつけた。
メリケンサックでもあったら――こんな奴、一発なのに。
「まあまあ、そんな怒らないでよ。ゼイルも良いって言ってくれてるからさ」
私は、金髪輩に飼い慣らされた青年に視線を落とし、『マジで?』と不思議顔を浮かべた。
ゼイルが?このチャラ男を?
「なんか楽しそうだね」
ゼイルがぽつりと呟く。
「なに、なに?嫉妬してるの?いや〜参っちゃうな〜」
今すぐこの疫病神を消したくなる気持ちをぐっと堪え、席に着く。
「…で?何を話してたの?」
不貞腐れながら肘をテーブルに立て、握り拳を頬に当てる。
「え?ま、まぁ男同士の秘密の会話ってやつだよ。な?」
わざとらしい…だいたいそんな仲良くないでしょ。まだ学校始まって三日目だし、なにしろ隣のクラスなんだから。
リオンの言葉に、私の苛立ちが限界に達しそうになる。
「え?ああ、そうだね」
ゼイルが素っ頓狂な声を漏らす。彼は嘘をつき慣れてないのかも知れない。
怪しい…
「僕――」
「え?」
ゼイルが話を切り出す。
「――セリアさんと、もっと仲良くなりたい。気兼ねなく、本音で話せる仲になりたい。
セリアさんは…どうかな?」
俯き顔が標準装備な彼は、時々チラリとこちらの様子を視線で伺って、最大限の勇気を放ち出す。
ゼイル…そんな風に思ってくれてたんだ。
「私も、もちろんゼイルともっと仲良くなりたいと思ってるよ」
「俺はどう?」
私とゼイルの会話に、いい加減ぶん殴りそうになる金髪青年のしつこさが乱入する。
こいつはまた…
「リオン君は…悪い人じゃなさそうだし、リオン君とも仲良くできたら嬉しい…かな?」
ゼイルはリオンの調子に圧倒されながらも、少し嬉しそうだった。人差し指で頬をぽりぽりと掻いている。
「まじ?やった〜じゃあさ、連絡先交換しようぜ!」
ゼイルが、そんな気軽に受け入れるわけ――
「うん、いいよ」
「――え!?」
私はつい大声を出してしまう。
「セリアさん…そんな声出せたんだ」
ゼイルは目をまん丸にする。
「ねぇ、セリアさん。もしかして、ゼイルが取られるかも…って思った?」
リオンがニヤニヤしながら言いやがる。
この野郎…
まぁ、否定はしないが。
「セリアさんって独占欲強いの?」
リオンが、私の私事に土足でずかずかと上がり込んでくる。
「いや、別にそういうわけではないけど」
愛想なく返してやる。こいつには、これくらいがお似合いだ。
「…そうか」
ゼイルが俯きながら言う。
どうしたんだろ?今度は何を話してくれるかな。
彼の声に、段々と安心感が芽生え始めた私は、気付かぬうちに心に新たな感情が動き出す――
「僕、まだ全然セリアさんのこと、全然知らないんだ…」
ゼイルは残念そうに呟いた。
「そんなことは――」
「だからこそ、もっと知っていきたい。…なので、これからも仲良くしてください!」
銀髪青年が、両手を握手の形にして、その手を前に差し出してきた。
「…!もちろん!仲良くしよ!」
ゼイルがそう思ってくれているのが、何より嬉しい。
私がゼイルの手を取ろうとしたとき、
「俺も混ざっていい?」
「はぁ!?ちょっと…」
タイミング悪く、三人の手が重なって、握手をする形となってしまった。
しかし、三人同時に握手は出来ない。妥協案として、三人の握り拳をコツンッ――とぶつけ合うことに決めた。
…最悪だ。
「どうせなら、三人のグループチャット作ろうぜ!」
リオンが張り切り出した。
「グループチャット…楽しそう!」
ゼイルが目をキラキラとさせている。
まるで、子供のようだ。…ちょっと可愛い。いつだったか、こんな目を見た気がする。
「…まぁ、いっか」
私は観念したように声を吐いた。
どうせ、このまま静止させようと格闘しても、リオンはしつこく抗うだろう。
…無駄な体力は、使わないに越したことはない。
「決まりね!じゃあグループ名は――」
リオンは意味深に間を空ける。
…なんだか嫌な予感がする。
「――三角関係!」
ふざけてんのか?
人差し指から踝に至るまで、一直線に棒となった彼には、今から演目でも始めるかのような、人間的魅力が溢れていた。
――ムカつく。正直、一発ぶん殴ってやりたい。
「いや、僕…セリアさんのことを、恋愛的に好きではないんだけど」
ゼイルの一言で、リオンが銅像化したように微動だにしなくなる。
ざまぁみろ、この疫病神め。




