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転生したら劉禅だったので、諸葛亮に有給休暇を取らせます~MBAホルダーの阿斗、関羽の孤立・張飛のパワハラ・孔明の過労死を組織改革で止める~  作者: 東雲 諒杏
第四部 関羽を死なせるな

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第70話 軍神、旗を降ろす


関羽軍は、麦城へ入った。


兵は疲れ切っていた。


徐晃軍の追撃を受け。


洪水で道を失い。


負傷者を担ぎ。


呉が占領した土地を避けながら進んだ。


出発時、二万を超えていた兵は。


麦城へ着いた時点で、一万を下回っていた。


戦死者だけではない。


負傷して動けない者。


捕虜。


故郷へ戻った者。


家族が呉に保護されていると知り、軍を離れた者。


関羽の軍旗を見て集まった人々が。


敗北の気配を感じると、少しずつ去っていった。


【関羽軍】


現在兵力

九千三百


重傷者

千八百


戦闘可能

六千四百


士気

不安定


関羽


身体疲労 93

精神疲労 88

自尊心損傷 最大

帰還意思 91

軍旗降下受容度 0


ゼロ。


予想どおりだった。


俺からの書状が、趙雲を通じて関羽へ届いた。


《叔父上へ》


《呂蒙殿との一時停戦が成立しました》


《三十八時間、退路が開きます》


《条件として、麦城で軍旗を下ろしてください》


関羽は書状を読み終えると。


破らなかった。


燃やさなかった。


ただ、長い間、手に持っていた。


「父上」


関平が呼んだ。


「旗を下ろしましょう」


「お前は」


関羽の声が低い。


「我が旗を、呉の前で降ろせというのか」


「生きて帰るためです」


「関羽の旗が下がれば、兵の心も折れる」


周倉が言った。


「既に、多くの兵が疲れております」


「だからこそ、旗が必要だ」


旗は、布ではない。


関羽という存在そのものだ。


軍神。


美髯公。


曹操軍を震えさせた名。


于禁七軍を降伏させた勝利。


それを下ろす。


関羽にとって、首を差し出すより苦しいかもしれない。


趙雲が麦城へ入った。


白馬から降り、関羽の前へ進む。


二人は長坂坡以来、何度も共に戦った。


「雲長殿」


「子龍」


「お迎えに参りました」


関羽の眉が動く。


「私を救出しに来たか」


「違います」


趙雲は答えた。


「帰還する軍を、受け取りに参りました」


救われる。


助けられる。


関羽は、その言葉を嫌う。


だから趙雲は使わなかった。


「私は、まだ戦える」


「存じております」


「麦城も守れる」


「守れるでしょう」


「ならば」


「守って、その後は?」


関羽が黙る。


麦城を守る。


呉軍を退ける。


一度は勝てるかもしれない。


二度も。


しかし、食料は減る。


魏軍も呉軍も増える。


救援は遠い。


最後には、兵が尽きる。


「殿下は」


趙雲が続けた。


「城を守ってほしいのではありません」


「分かっている」


「旗を守ってほしいのでもありません」


関羽の目が鋭くなる。


「では、何を守れと」


趙雲は麦城の中を見た。


負傷兵。


関平。


周倉。


若い兵士。


年老いた兵士。


水を配る者。


家族の名を書いた木札を握る者。


「ここにいる者たちです」


関羽は何も言わない。


周倉が前へ出た。


「将軍」


「何だ」


「私が旗を持ち、城へ残ります」


「何を言う」


「呉軍は、旗がある限り将軍が城にいると思うでしょう」


囮。


関羽を逃がすため、自分が残るつもりだ。


「ならぬ」


関羽は即答した。


「しかし」


「お前を置いていかぬ」


「将軍」


「全員で帰ると、殿下へ約束した」


関羽が、その言葉を覚えている。


一歳の頃から。


俺が何度も言った言葉。


みんなで生きる。


完全には実現できない。


既に多くの兵が死んだ。


龐徳も。


無名の兵士も。


それでも、今いる者を意図的に死へ置いていかない。


周倉の目に涙が浮かんだ。


「では、どうされます」


関羽は城壁へ上がった。


風が吹いている。


軍旗が大きく揺れる。


赤い旗。


《関》


その一字。


兵士たちが見上げている。


呉軍も、遠くから見ている。


関羽は旗竿へ手をかけた。


動かない。


関平が横へ立つ。


「父上」


「私は」


関羽の声が掠れる。


「兄者より、荊州を任された」


「はい」


「守れなかった」


「はい」


関平は否定しなかった。


「多くの兵を失った」


「はい」


「城を捨てる」


「はい」


「それでも、生きて帰れというのか」


関平は父を見る。


「私には、生きていてほしいです」


関羽の手が震えた。


息子からの言葉。


武将ではない。


部下でもない。


家族としての願い。


「父上がいなくなれば」


関平は続けた。


「私が困ります」


単純な言葉だった。


関羽は目を閉じた。


そして。


軍旗の縄を解いた。


旗が、ゆっくりと下りる。


城壁の上から。


兵士たちの前へ。


地面へは落とさない。


関羽自身の腕で受け止める。


旗を畳む。


丁寧に。


誰も声を出さなかった。


遠くの呉軍陣地で、太鼓が一度鳴った。


合図。


停戦の開始。


【重要歴史改変】


関羽


軍旗降下

実行


荊州軍事行動

終了


呉軍追撃

停止


帰還経路

三十八時間開放


関羽生還予測

74% → 89%


新規特性


【旗より人を選ぶ】


八十九パーセント。


まだ百ではない。


魏軍は協定へ参加していない。


徐晃の部隊が北から近づいている。


関羽軍は、麦城を出た。


旗は掲げない。


小さく畳み、関平が持つ。


先頭は趙雲。


山道を確認しながら進む。


中央に負傷者。


後方に関羽と周倉。


呉軍は、遠くから見ている。


追わない。


呂蒙は約束を守った。


しかし、呉の若い武将の一人が。


命令を無視した。


「関羽を討てば、大功だ!」


騎兵二百を率い、関羽軍へ近づく。


呉軍陣地から制止の鐘。


止まらない。


趙雲が馬を返す。


「殿下との約束がある」


槍を構える。


「ここから先へは、通さぬ」


呉騎兵と趙雲隊が衝突する。


長い戦にはならなかった。


趙雲は敵将の武器を弾き、馬から落とした。


殺さない。


呉の追撃部隊を押し返す。


その直後。


呂蒙の本隊が現れた。


「命令違反者を捕らえよ!」


呉軍が自軍の騎兵を拘束する。


呂蒙は、離れた場所から関羽へ礼をした。


関羽も馬上で礼を返した。


言葉はない。


敵である。


土地を奪った者と、奪われた者。


それでも、決めた約束は守る。


関羽軍は西へ進んだ。


一刻。


二刻。


三刻。


呉軍の追撃はない。


士仁の部隊と合流。


次に糜芳の輸送隊。


船。


食料。


医官。


負傷者を乗せる。


関羽は糜芳を見た。


糜芳の身体が硬くなる。


「子方」


「はっ」


「南郡を捨てたか」


「はい」


糜芳の声が震える。


「民と物資を移し、呉軍との戦闘を避けました」


「私の命令を待たずに」


「緊急撤退権限に従いました」


関羽は長く糜芳を見る。


以前なら、軍法違反として怒ったかもしれない。


今は、自分も軍旗を下ろした後だった。


「正しい」


糜芳が顔を上げる。


関羽は続けた。


「私より早く、退くべき時を知った」


それは謝罪ではない。


だが、関羽が糜芳の判断を認めた。


関羽から糜芳への信頼

12 → 31


糜芳から関羽への恐怖

83 → 57


完全な修復には遠い。


それでも、ゼロではない。


関羽軍は川を渡った。


最後の船へ、関羽、関平、周倉、趙雲が乗る。


対岸に着く。


三十八時間の期限まで。


残り一刻。


全員が渡り切った。


麦城から持ち出した最後の報告書を、関羽が俺へ送った。


表紙。


《荊州、異常あり》


その下に。


《されど、兵はまだ立っている》


俺は、その文字を見たまま泣いた。


軍神は旗を降ろした。


だが。


兵も。


息子も。


本人も。


生きて帰ってきた。


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