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転生したら劉禅だったので、諸葛亮に有給休暇を取らせます~MBAホルダーの阿斗、関羽の孤立・張飛のパワハラ・孔明の過労死を組織改革で止める~  作者: 東雲 諒杏
第四部 関羽を死なせるな

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第69話 呂蒙との取引


俺は呂蒙と会うことにした。


趙雲は反対した。


「危険です」


「呂蒙殿は、私を殺しません」


「なぜ言い切れるのです」


「今、私を殺せば、呉は劉備軍と全面戦争になります」


「人は、常に合理的に動くとは限りません」


正しい。


「では、子龍叔父上も来てください」


「当然です」


「前線へ行く必要があります」


「殿下」


趙雲の声が低くなる。


「戦場へ出ないという、主公との約束は」


「交渉場所は、呉軍と蜀軍の中間です」


「戦場です」


「会議場です」


「戦場です」


言葉を変えても駄目だった。


最終的に。


俺は呂蒙の占領した南郡へは入らない。


長江の中州にある小さな亭で会う。


双方の兵は、一定距離より近づかない。


趙雲と馬良が同行する。


呂蒙側には陸遜と少数の護衛。


条件が決まった。


呂蒙は、以前より顔色が悪かった。


病は本物である。


それでも目は鋭い。


「殿下」


「子明殿」


「私の白衣を見破られましたな」


「商人の名簿に、死者がいました」


呂蒙が少し笑った。


「次は気を付けます」


次があっては困る。


「烽火台も、よい仕組みでした」


「ありがとうございます」


「褒めておりません」


「私も喜んでおりません」


互いに笑わなかった。


呂蒙は荊州の地図を広げた。


南郡。


公安。


東側の諸郡。


既に呉の勢力下にある。


「殿下」


「はい」


「呉は、荊州を取ります」


宣言だった。


「全てですか」


「少なくとも、長江沿いの主要拠点は」


「関羽叔父上を殺す必要はありません」


呂蒙の表情がわずかに変わる。


「雲長殿が、城を捨てて退くと?」


「既に退いています」


「荊州へ戻れば、奪還しようとするでしょう」


「益州まで帰します」


「雲長殿が従いますか」


「従わせます」


自信はない。


だが、従ってもらわなければならない。


呂蒙は陸遜を見る。


陸遜が静かに言った。


「関羽殿を捕らえれば、呉は名声を得ます」


「同時に、父上の怒りを得ます」


「既に荊州を奪っております」


「土地は交渉できます」


俺は呂蒙を見る。


「弟の命は、交渉できません」


劉備にとって、関羽は領土ではない。


桃園の弟。


家族である。


関羽が死ねば。


父は理性を失う。


呉を攻める。


法正や諸葛亮が止めても、止まらないかもしれない。


歴史どおり夷陵へ向かう。


陸遜が父を破る。


魏だけが利益を得る。


「関羽殿を生かせば、劉備殿は荊州を諦めますか」


陸遜が尋ねる。


「諦めるとは約束できません」


嘘はつけない。


「ですが、直ちに戦争を始める理由を減らせます」


「関羽殿自身が、呉への戦を望むかもしれません」


「叔父上から、権限を外します」


呂蒙が目を細める。


「軍神から?」


「荊州を失った責任を取っていただきます」


処刑ではない。


官職と指揮権。


少なくとも一定期間、軍を率いる職務から外す。


「殿下は、雲長殿を処罰できるのですか」


「父上が決めます」


「劉備殿は弟に甘い」


「知っています」


「では、約束にならない」


そのとおりだった。


俺には王の権限がない。


父の判断を完全には保証できない。


馬良が口を開いた。


「呉側も、孫権殿の最終判断を保証できないのではありませんか」


呂蒙が馬良を見る。


「我らは互いに、主君の全てを約束できません」


「ならば」


「現場で実行できることだけを決めるべきです」


馬良は竹簡を置いた。


第一。


呉軍は関羽軍の西方退路を、四十八時間だけ開ける。


第二。


関羽軍は、南郡、公安、江陵への反撃を行わない。


第三。


関羽軍は、呉軍が保護した兵士家族と民間人へ危害を加えない。


第四。


呉軍は、撤退する関羽軍を追撃しない。


ただし、関羽軍が呉の拠点へ攻撃した場合は除く。


第五。


関羽軍は、荊州の城に残る軍用倉庫、船、兵器を破壊しない。


第六。


呉は、蜀へ移住を希望する民の通行を一定期間認める。


第七。


捕虜交換と今後の領土協議を、後日行う。


「呉が得るものは?」


呂蒙が尋ねる。


「無傷の荊州です」


攻城戦をすれば、城壁が壊れる。


市場が焼ける。


兵も死ぬ。


関羽を追えば、蜀軍が死に物狂いで抵抗する。


無傷で土地を得る方が、呉には得だ。


「関羽殿が、本当に城を諦めるなら」


陸遜が言った。


「条件には価値があります」


呂蒙は黙って地図を見る。


「もう一つ」


俺は言った。


「呂蒙殿の病を治療する医師と薬を、成都から送ります」


呂蒙の目が動く。


「敵将へ薬を?」


「今は交渉相手です」


「私を生かせば、また荊州を狙います」


「既に取っています」


「さらに西へ進むかもしれない」


「そのときは止めます」


呂蒙は初めて、声を上げて笑った。


咳き込む。


布へ血が付く。


「殿下は、敵へ妙な親切をなされる」


「子敬殿に、子明殿を最初から敵と決めるなと言われました」


魯粛の名に、呂蒙の笑みが消えた。


「子敬殿らしい」


「子明殿が死ねば、次の人とまた交渉しなければなりません」


陸遜が俺を見る。


「次は私かもしれません」


「伯言殿は、もっと扱いにくそうです」


陸遜は穏やかに笑った。


否定しなかった。


呂蒙は長く考えた。


「四十八時間は長い」


「関羽軍には負傷者がいます」


「三十六時間」


「四十二時間」


「殿下」


「四十時間」


「三十六」


「三十八」


呂蒙がため息をつく。


「三十八時間」


交渉成立。


ただし、最後の条件が付いた。


「関羽殿本人が、撤退を命じた証拠が必要です」


「署名した竹簡を送ります」


「それだけでは、後で偽造だと言われる」


呂蒙は地図の麦城を指した。


関羽軍が退却途中に立ち寄れる小城。


「麦城で、関羽殿の軍旗を下ろしてください」


趙雲の目が鋭くなる。


馬良も顔を上げる。


軍旗を下ろす。


降伏を意味すると受け取られかねない。


軍神・関羽の旗。


敵も味方も、その旗を見て戦う。


「呉へ降伏するという意味ですか」


俺が尋ねる。


「違います」


呂蒙は答えた。


「荊州での軍事行動を終えたという証明です」


「叔父上は受けません」


「ならば、呉軍は追います」


最も難しい条件だった。


関羽本人が、自分の敗北を認めなければならない。


土地を失った。


城を失った。


旗を下ろす。


死ぬより難しいと感じるかもしれない。


「分かりました」


俺は答えた。


趙雲が俺を見る。


「殿下」


「説得します」


呂蒙との合意が成立した。


【呉との一時停戦協定】


安全通行時間

三十八時間


呉軍追撃

条件付き停止


条件


・関羽軍による反撃禁止

・荊州主要拠点の破壊禁止

・麦城で関羽軍旗を下ろす

・民間人保護


関羽生還予測

63% → 74%


最大障害


関羽が旗を下ろすことを受け入れるか。


また、本人である。


関羽救出プロジェクトでは。


最後まで、関羽自身が最大の障害だった。


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