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転生したら劉禅だったので、諸葛亮に有給休暇を取らせます~MBA持ちの阿斗、関羽の孤立・張飛のパワハラ・孔明の過労死を組織改革で止める~  作者: 東雲 諒杏
第四部 関羽を死なせるな

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第61話 軍神に撤退条件を書かせる


関羽の樊城作戦案は、優れていた。


曹仁は樊城にいる。


漢中では、劉備軍と魏軍が対峙している。


関羽が北から圧力をかければ、曹操は兵を分散しなければならない。


荊州軍の士気も高い。


水軍もある。


周辺の反曹操勢力が、関羽へ呼応する可能性もある。


関羽がただ功名を求め、無謀な戦を始めようとしているわけではない。


国家全体を考えた、合理的な提案だった。


だからこそ難しい。


「叔父上の案には賛成です」


俺が言うと、関羽は意外そうな顔をした。


「止めに来たのではないのか」


「無謀な戦なら止めます」


「これは違うと?」


「初期作戦は、合理的です」


関羽の口元に笑みが浮かぶ。


褒められることを嫌うように見えて、実は評価されることを喜ぶ人だ。


「では、許可を」


「条件があります」


笑みが消えた。


「殿下」


「はい」


「戦をしたことがあるか」


「ありません」


「ならば、戦場の判断を縛るな」


予想していた反論である。


「戦場での判断は、叔父上へ任せます」


「ならば」


「戦場へ行く前に、目的と撤退条件を決めます」


関羽の髭が揺れた。


「勝つ前から、退く話をするのか」


「はい」


「兵の士気が落ちる」


「将だけが知ればよいです」


「私は、退くために戦うのではない」


「生きて帰るために戦ってください」


関羽の目が鋭くなる。


「武人に、生を惜しめと?」


「叔父上個人の命だけではありません」


関羽が連れていく兵。


残される家族。


守備が薄くなる荊州。


呉との同盟。


全てが関わる。


「叔父上が死ぬ覚悟をするのは自由です」


俺は言った。


「ですが、兵全員の命まで、叔父上の覚悟へ巻き込まないでください」


部屋の空気が重くなった。


言いすぎたかもしれない。


関羽の誇りを傷つける言葉だ。


「殿下は」


関羽の声が低い。


「私が、兵を道具として扱うと申すか」


「そうではありません」


「ならば」


「兵を大切にするからこそ、叔父上は退けなくなると言っています」


部下が死んだ。


ここで退けば、その死が無駄になる。


もう少し進めば勝てる。


勝てば皆の犠牲が報われる。


その考えが、人を撤退できなくする。


投じた犠牲を取り戻そうとして、さらに犠牲を増やす。


前世の企業でも、失敗した事業から撤退できない経営者がいた。


既に多額の資金を使った。


ここでやめれば損が確定する。


あと少し投資すれば成功する。


結果として、損失が拡大する。


「退く条件は、負ける条件ではありません」


俺は竹簡を置いた。


「これ以上進めば、国全体が危険になる条件です」


執行評議から届いた樊城作戦の承認案。


父。


諸葛亮。


龐統。


法正。


黄権。


蔣琬。


費禕。


複数の署名がある。


法正は樊城攻撃へ賛成。


龐統も賛成。


諸葛亮は範囲制限を求めた。


父は最後に、短い言葉を書いている。


《雲長へ》


《勝て》


《そして帰れ》


関羽は、その文字を長く見つめた。


俺は撤退条件を読み上げた。


第一。


作戦目的は、曹仁軍を樊城へ拘束し、漢中方面への増援を防ぐこと。


樊城の完全攻略は、状況によって追加承認する。


第二。


荊州守備兵を、定めた人数以下へ減らさない。


国境の烽火台守備を前線へ移さない。


第三。


南郡、公安、江陵に、九十日分の食料を残す。


前線へ全て運ばない。


第四。


糜芳の後任となる兵站三部門のうち、一つでも供給不能を報告した場合、作戦規模を縮小する。


二部門が供給不能なら、撤退を開始する。


第五。


呉軍が共同監査を拒否した場合。


呉側の船が登録なしに増加した場合。


烽火台の連絡が二か所以上途絶えた場合。


いずれかが起きれば、荊州防衛を優先する。


第六。


魏軍の援軍が想定を超えた場合、包囲を解き、水軍の安全圏まで退く。


第七。


関羽との連絡が三日以上途絶えた場合、代理指揮官が撤退命令を出せる。


第八。


前線副将へ、撤退提案権を与える。


関羽は第八項で顔を上げた。


「誰に与える」


「関平殿と周倉殿です」


息子と古参の側近。


二人が同時に撤退を求めた場合、関羽は軍議を開く。


「命令ではなく、軍議か」


「最初は」


本当は撤退拒否権を持たせたい。


しかし、関羽が受け入れなければ制度は動かない。


段階的に進める。


第九。


七日に一度の定期報告。


重大変化時は即日。


表紙は《異常なし》でもよい。


中身は全て書く。


関羽が少しだけ笑った。


第十。


孫権、呂蒙、陸遜へ侮辱的な表現を使わない。


関羽の笑みが消えた。


「戦の条件に、なぜ言葉が入る」


「言葉から戦が始まるからです」


歴史では、孫権が関羽の娘と自分の息子との婚姻を求めた際、関羽は相手を侮辱して断ったとされる。


その逸話がこの世界でも起きるかは分からない。


しかし、関羽の外交能力を考えれば、似た問題は起こる。


「私は、言うべきことを言う」


「馬良殿が届く形へ直します」


「私の言葉ではなくなる」


「叔父上の真意は残ります」


関羽は十項目を読み返した。


顔には不満がある。


「条件が多すぎる」


「叔父上が強すぎるからです」


「また、それか」


「普通の将なら、途中で負けて戻ります」


関羽の眉が上がる。


「私なら勝つと?」


「勝つと思います」


俺は正直に答えた。


「だから危険です」


勝利すれば、さらに進みたくなる。


敵が崩れれば、追撃したくなる。


周囲が関羽へ呼応すれば、天下が動くように感じる。


曹操すら恐れる。


その絶頂で、後方が崩れる。


「叔父上」


俺は最後の竹簡を置いた。


白紙だった。


「何だ」


「叔父上自身の条件を書いてください」


「私の?」


「どの状態なら、助けを求めますか」


関羽は白紙を見た。


「助けは必要ない」


「では、書けませんか」


「挑発しているのか」


「はい」


関羽の目が鋭くなる。


だが、筆を取った。


一行目。


《兵糧が尽きた場合》


俺は首を横に振った。


「尽きる前です」


関羽は不満そうに修正する。


《残り二十日分を下回った場合》


「三十日」


「多すぎる」


「二十五日」


「二十日」


「二十三日」


「殿下」


「二十二日」


「分かった」


二十二日分。


妙な数字で決着した。


二行目。


《味方の城が二つ以上、連絡不能となった場合》


三行目。


《呉軍が明確に敵対行動を開始した場合》


四行目。


関羽の筆が止まる。


「ほかに何を書く」


「部下が叔父上を怖がって、本当のことを言わなくなった場合」


関羽が俺を見る。


糜芳の辞表を思い出しているのだろう。


しばらくして書いた。


《主要な将三名が、同じ危険を報告した場合》


五行目。


《関平が撤退を求めた場合、理由を聞く》


「一人だけでよいのですか」


「我が息子は、容易に退くと言わぬ」


関羽は関平を信じている。


ならば、その信頼を制度へ使う。


最後。


《劉備玄徳より帰還命令が届いた場合、従う》


関羽の筆が止まった。


墨が竹簡へ滲む。


「当然だ」


関羽は言った。


だが、歴史ではどうだっただろう。


連絡が届かなかった。


届いても遅かった。


あるいは、関羽が自分で何とかできると思った。


今回は違う。


緊急伝令経路。


複数の使者。


水路と陸路。


符号化した短文。


《帰れ》


その二文字だけなら、途中で書き換えられにくい。


関羽は全ての竹簡へ署名した。


【樊城作戦・条件付き承認】


指揮官

関羽


目的

魏軍の牽制

樊城方面の圧迫


作戦拡大

追加承認制


撤退条件

十一項目


関羽生還予測

39% → 64%


孤立危険度

34% → 25%


大きく上がった。


まだ六十四パーセント。


十分ではない。


それでも、以前より未来は変わった。


「これで満足か」


関羽が尋ねる。


「いいえ」


「まだあるのか」


「叔父上が帰ってくるまで、満足しません」


関羽は長い髭を撫でた。


「殿下」


「はい」


「私が勝つと、本当に信じているのか」


「信じています」


「ならば、なぜそれほど恐れる」


俺は答えた。


「勝った後の叔父上を、失うのが怖いからです」


関羽の表情が変わった。


勝つ前ではない。


負けたときでもない。


勝った後。


俺が何を恐れているのか、関羽には理解できないだろう。


それでも関羽は、俺の頭へ大きな手を置いた。


「帰る」


「約束です」


「約束しよう」


「父上のように、約束管理が低くありませんか」


「兄者と一緒にするな」


少し笑った。


視界に表示が現れる。


【重要な約束が成立しました】


関羽


約束

樊城作戦より生還する


本人の実行意思

100


外部要因による達成予測

64%


本人の意思は百。


それでも達成予測は六十四。


人の意志だけでは、未来は決まらない。


魏軍。


呉軍。


洪水。


兵站。


部下。


情報。


偶然。


多くのものが関羽の運命へ関わる。


数日後。


荊州軍が北へ動き始めた。


ただし、全軍ではない。


烽火台の兵は残した。


南郡の食料も残した。


代理指揮官制度も動いている。


糜芳は引き継ぎを続け、未報告事項を毎日提出した。


士仁は公安の守備を継続し、不満があれば馬良へ伝えることになった。


呂蒙との国境会合も続いている。


関羽は、出発前に俺へ言った。


「殿下」


「はい」


「荊州、異常なしだ」


「北では戦が始まります」


「まだ異常ではない」


「叔父上」


関羽は笑って馬へ乗った。


「異常があれば、今度は早く報告する」


軍神の旗が北へ進む。


俺は城壁から、その姿を見送った。


関羽は強い。


史実と同じなら、最初は勝つ。


魏軍を破る。


于禁を降伏させる。


龐徳を捕らえる。


天下が関羽の名に震える。


そして。


成功が、全ての安全条件を少しずつ壊していく。


視界に最後の警告が現れた。


【関羽救出プロジェクト】


第一段階

準備完了


第二段階

樊城作戦開始


注意


成功により、以下が上昇します。


・関羽の作戦拡大意思

・魏軍増援規模

・呉の危機感

・兵站消費

・現地勢力の呼応

・撤退困難度


最大の敵

敗北ではありません。


最大の敵

勝利です。


北の空に、軍旗が小さくなっていく。


関羽は、必ず勝つ。


だからこそ。


俺たちは、その勝利から関羽を救わなければならなかった。


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