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転生したら劉禅だったので、諸葛亮に有給休暇を取らせます~MBA持ちの阿斗、関羽の孤立・張飛のパワハラ・孔明の過労死を組織改革で止める~  作者: 東雲 諒杏
第四部 関羽を死なせるな

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第58話 糜芳は、裏切る前に辞表を書いた


糜芳は、劉備の古参だった。


徐州時代から仕えている。


姉は劉備の妻、糜夫人。


糜一族は劉備が最も苦しかった時期に、資金と人材を提供した。


劉備軍が会社なら、初期投資家であり、共同創業者に近い。


その糜芳が、なぜ関羽を裏切ったのか。


後世から見れば簡単である。


卑怯だった。


忠義がなかった。


呉に降った。


だから裏切り者。


だが、裏切りは一日では作られない。


俺は南郡へ向かった。


趙雲と馬良が同行する。


関羽も来ると言った。


断った。


「なぜだ」


「叔父上がいると、糜芳殿は本音を言いません」


「私に隠し事があるのか」


「その反応をするからです」


関羽は不満そうだった。


糜芳は、俺を役所の奥で迎えた。


顔色は悪い。


身体の病ではない。


心が疲れている。


【糜芳 字・子方】


統率 68

武力 53

知略 70

政務 82

魅力 73


兵站管理  86

商業人脈  92

危機耐性  39

対立処理  24

面子    91

古参意識  96


固有特性


【創業期の功労者】

苦境時の貢献が大きく、組織への権利意識も強い。


【武将になりきれない商人】

兵站や交渉に優れるが、軍事指揮官としての自信が低い。


【怒られる前に隠す】

失敗を報告すると強く処罰される環境で、情報を隠す。


【行き場を失う】

元の組織に戻れず、上司からも認められない場合、敵対勢力へ逃れる。


劉備への忠誠 89

関羽への信頼 7

関羽への恐怖 83

荊州への責任感 62

離反危険度 31%


劉備への忠誠は高い。


関羽への信頼が低い。


つまり糜芳は、蜀そのものを裏切りたいわけではない。


関羽の下から逃げたいのだ。


「病気と聞きました」


俺が言うと、糜芳は目を伏せた。


「少し、体調が」


「身体は健康です」


糜芳が顔を上げる。


俺は能力画面が見えるとは言わない。


「本当に病気なら、医師を呼びます」


「そこまででは」


「では、なぜ訓練へ来なかったのです」


沈黙。


趙雲は何も言わず、入口に立っている。


馬良は筆を取らず、糜芳の言葉を待っていた。


「関将軍は、私を信用しておられません」


糜芳がようやく言った。


「それが理由ですか」


「何を報告しても、遅いと言われます」


声が少しずつ強くなる。


「兵糧が足りぬと申せば、集めよと言われる。船が遅れたと申せば、間に合わせよと言われる。嵐で道が崩れても、言い訳をするなと」


「叔父上は、何と言いました」


「次に兵糧を遅らせれば、軍法で処罰すると」


歴史でも、関羽は糜芳や士仁へ厳しい処罰を示唆したとされる。


その恐怖が、二人を呉への降伏へ向かわせた。


「兵糧の遅れは、糜芳殿の責任ではないのですか」


俺はあえて尋ねた。


糜芳の顔が強張る。


「私の責任もあります」


逃げずに答えた。


「倉庫の火災を、すぐに報告しませんでした」


「なぜ」


「関将軍へ知られれば、処罰されると思った」


隠したことで、さらに対応が遅れた。


関羽は余計に怒った。


糜芳はさらに報告しなくなった。


典型的な悪循環である。


「糜芳殿は、どうしたいのです」


「どう、とは」


「荊州を離れたいですか」


糜芳の目が動く。


「成都へ戻りたいですか」


「それを申せば、関将軍は私を臆病者と呼ぶでしょう」


「叔父上の評価ではなく、糜芳殿の希望です」


糜芳は長く黙った。


やがて言った。


「私は、関将軍の下では働けません」


はっきりした言葉だった。


「しかし、玄徳様を裏切るつもりもありません」


「では、辞表を書いてください」


糜芳が目を見開いた。


「辞表?」


「職務を辞めたいと、正式に報告してください」


「そのようなものを出せば、処罰されます」


「私が受け取ります」


「殿下に、その権限が」


「最終的には父上が決めます」


今の不満を隠し、呉軍が来た日に突然降伏する。


それより、辞めたいと事前に伝える方がよい。


組織は、辞めたい人間を無理に重要拠点へ置くべきではない。


糜芳は竹簡を見つめた。


「何を書けばよいのです」


「事実を書いてください」


一、なぜ辞めたいか。


二、どの仕事なら続けられるか。


三、引き継ぎに必要な期間。


四、未報告の問題。


最後の項目で、糜芳の顔色が変わった。


「未報告の問題も?」


「辞めるなら、全て残してください」


糜芳は筆を取った。


長い時間をかけて書いた。


《関羽将軍の下で、南郡太守および兵站責任者を続けることは困難》


《軍事上の要求と、現実の輸送能力に差がある》


《報告時の叱責を恐れ、倉庫火災と不足量の報告を遅らせた》


《責任は受ける》


《商業交渉と物資調達であれば、今後も劉備様へ仕えたい》


最後に。


《敵へ降る意思はない》


書き終えた糜芳は、力が抜けたように座った。


視界の数字が変わる。


糜芳


辞職意思 68% → 91%

離反危険度 31% → 17%


辞職意思は上がった。


離反危険度は下がった。


辞めたいと言える人間は、裏切らなくて済む。


問題は、関羽だった。


関羽は辞表を読むと、顔を赤くした。


元から赤いので、どこまで怒っているか分かりにくい。


「職務を放り出すというのか」


「放り出す前に、報告しています」


俺が答える。


「戦の前に職を辞めるなど、敵前逃亡と同じだ」


「まだ戦は始まっていません」


「魏も呉も、常に隙を狙っている」


「だからこそ、辞めたい人を責任者に置けません」


関羽が糜芳を見る。


「子方」


糜芳の肩が震える。


「お前は、兄者への恩を忘れたのか」


「忘れておりません」


「ならば、なぜ」


「玄徳様への恩と、将軍の下で働けないことは別です」


糜芳が初めて、関羽を見返した。


「私は将軍が怖い」


部屋が静まる。


「失敗すれば斬られると思っている」


関羽の目が鋭くなる。


「軍法を守れば、斬られぬ」


「何が軍法違反になるか、私には分からない」


「命令を果たせばよい」


「果たせない命令もあります!」


糜芳の声が響いた。


「船が一日に進める距離は、将軍の命令で増えません!」


関羽が立ち上がる。


趙雲が一歩前へ出た。


俺は二人の間へ立った。


「叔父上」


「退け、殿下」


「退きません」


「これは私と子方の問題だ」


「荊州全体の問題です」


兵站責任者と最高指揮官が、互いを信用していない。


個人的な喧嘩ではない。


「叔父上は、できない報告を聞くと怒ります」


「できぬ理由を並べる者が多い」


「理由の中には、本当にできないものもあります」


「ならば代案を出せばよい」


「怒鳴られながらですか」


関羽が黙った。


「叔父上にとっては、少し声を強くしただけです」


張飛と同じである。


本人は普通に話しているつもりでも、部下には処刑宣告に聞こえる。


「糜芳殿にも責任があります」


俺は続けた。


「報告を隠した。火災への対応が遅れた。古参であることに甘えた部分もあります」


糜芳が頭を下げる。


「はい」


「だから処分します」


減俸。


未報告事項の公開。


引き継ぎ完了まで、兵站責任者を続ける。


その後は、成都の商業・物資調達部門へ異動する。


「異動?」


関羽が尋ねる。


「逃げるのではありません」


「同じではないか」


「糜芳殿ができる仕事へ移します」


商業人脈九十二。


兵站管理八十六。


戦時の前線責任者には向かない。


だが、商人との交渉や広域調達には使える。


後任は一人にしない。


輸送。


倉庫。


現地徴発。


三部門へ分ける。


馬良が報告を統合する。


数字に異常が出た場合、関羽だけでなく成都へも同時に送る。


「私を通さず、成都へ報告するのか」


「叔父上にも同時に届きます」


「私が信用されていない」


またその言葉。


「信用と確認は別です」


俺と馬良と趙雲の声が重なった。


関羽が俺たちを睨んだ。


だが、最後には同意した。


糜芳の後任が決まるまで、三か月。


引き継ぎを行う。


その間、関羽は糜芳を公の場で侮辱しない。


糜芳は問題を隠さない。


違反した場合、第三者である馬良が記録する。


【糜芳離反予防措置】


辞表受理

条件付き


配置転換

南郡太守・兵站責任者

成都商業調達部門


引き継ぎ期間

三か月


離反危険度

17% → 9%


関羽との信頼

7 → 12


関羽の機嫌

17 → 6


関羽の機嫌が、危険領域へ入った。


「叔父上」


俺は心配になった。


「怒っていますか」


「怒っておらぬ」


明らかに怒っている。


「髭が震えています」


「風だ」


室内である。


その日の夕刻。


士仁が自ら面会を求めてきた。


「殿下」


顔は青かった。


「糜芳殿の辞表が認められるなら、私にも書かせてください」


一人を救うと、次の問題が出てくる。


だが、それでよい。


突然敵へ降るより、今、言葉にしてもらう方がよい。


士仁の能力画面を開く。


【士仁】


統率 73

武力 67

知略 65

防衛 81


危機耐性 28

関羽への恐怖 91

劉備への忠誠 76

離反危険度 38%


希望職務

前線ではない守備任務


士仁も、単純な裏切り者ではなかった。


恐怖に耐えられず、逃げ道を探している。


俺は新しい竹簡を差し出した。


「書いてください」


関羽救出プロジェクトは、関羽本人だけを助けるものではない。


関羽の周囲で、壊れかけている人間を救う必要がある。


裏切り者が生まれる前に。


裏切らなくてもよい道を作る。


その夜。


馬良が一本の竹簡を持ってきた。


「殿下」


古い。


端が擦り切れている。


「これは」


潘濬(はんしゅん)どのが、保管しておられました」


——潘濬。


荊州の治中従事である。


喋らない。代わりに、全部書く。


そして、書いたものを誰も読まない人。


「何ですか」


馬良は、答えた。


魯粛(ろしゅく)どのが、二年前に置いていかれたものにございます」


——


俺の手が、止まった。


……


魯粛(ろしゅく)


——二年前の冬に、死んだ。


四十六である。


俺は、その竹簡を受け取った。


そして、開く前に、潘濬(はんしゅん)を呼んだ。


承明(しょうめい)どの」


「……はい」


「これを、誰かに見せましたか」


潘濬は、答えた。


「いいえ」


「なぜですか」


「……」


「なぜですか」


この人は、しばらく黙っていた。


そして、小さな声で言った。


「聞かれませなんだので」


——


……


劉巴(りゅうは)と、同じ答えだった。


三年前、市の税を二年分数えていた男も、同じことを言った。


《聞かれませなんだので》


——


俺は、その竹簡を、灯火のそばへ持っていった。


そして、二年前の館を、思い出していた。


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