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転生したら劉禅だったので、諸葛亮に有給休暇を取らせます~MBAホルダーの阿斗、関羽の孤立・張飛のパワハラ・孔明の過労死を組織改革で止める~  作者: 東雲 諒杏
第四部 関羽を死なせるな

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第57話 関羽は、救出されたくない


建安(けんあん)二十四年の冬。


三峡(さんきょう)を、三十日かけて(さかのぼ)った。


十二歳である。


七歳の頃と比べれば、身体はかなり自由に動くようになった。


馬にも乗れる。


長い文章も書ける。


軍議で発言しても、「子供の戯言」と笑われることは少なくなった。


代わりに、


「殿下が、また妙な制度を始めるらしい」


と警戒されるようになった。


成長した結果がこれである。


——そして、去年の秋、俺はこの土地へ監査(かんさ)の人を送った。


馬良(ばりょう)陳紀(ちんき)である。


倉を数えさせた。


そして、関羽(かんう)から諱で書かれた抗議状が来た。


《劉禅さまへ》


《人を寄越すのは、数えるためではございませぬ》


《見に来たのでございましょう。私が、嘘を書いていないかを》


——信頼度は、七十一から三十四へ落ちた。


一年、戻っていない。


……


——だから、今度は、俺が行く。


関羽救出プロジェクト。


最初に作った計画書には、六つの項目があった。


一、荊州と成都の情報共有。


二、呉との同盟維持。


三、兵站責任者との関係改善。


四、樊城攻略の範囲制限。


五、撤退条件と退路の確保。


六、関羽本人の説得。


最も難しいのは、六番だった。


視界にも、はっきり表示されている。


【関羽救出プロジェクト】


総合難度

SS


最大障害

対象本人が救出の必要性を認めていません。


本人が救われたがっていない。


救出計画としては致命的である。


書状だけでは関羽を説得できない。


俺は自ら荊州へ行くことにした。


父は、既に許していた。


《行け》


《ただし、三つ守れ》


《一つ。子龍を連れよ》


《二つ。戦場へは出るな》


《三つ。毎月、私へ書け》


《雲長を、頼む》


——四百里の彼方から、六日で届いた書状である。


馬を、代えたのだろう。


……


それでも、成都では三日、揉めた。


「なりませぬ」


諸葛亮(しょかつりょう)は、そう言った。


二度目である。


去年、俺が「荊州へ人を出したい」と言ったときも、この人は同じことを言った。


「殿下が行かれれば、護衛の兵が要ります」


「子龍叔父上と行きます」


趙雲は隣で頭を下げた。


「殿下は、必ずお守りいたします」


「子龍どのまで成都を離れることになります」


「先生」


「はい」


「関羽叔父上を失った場合と、私が数か月成都を離れる場合。どちらが危険ですか」


諸葛亮は黙った。


答えは明らかだった。


関羽は荊州の軍事、行政、外交を一人で背負っている。


関羽を失えば、土地だけでなく、兵、人材、呉との関係まで崩れる。


「雲長どのは、失いませぬ」


諸葛亮は低い声で言った。


信じているのではない。


信じたいのだ。


——この人でさえ、そうなのだ。


桃園の誓いを交わした弟。


何度敗れても戻ってきた男。


曹操の厚遇を捨て、自分を選んだ男。


そんな関羽が死ぬ未来を、この国の誰も想像できない。


「だから、失う前に行きます」


諸葛亮は長く考えた。


最後には、羽扇を膝に置いた。


ただし、条件が加わった。


趙雲が同行する。


馬良も同行する。


荊州以外の土地へ勝手に行かない。


戦場へ出ない。


毎月、成都へ報告する。


「先生」


俺は最後の条件を指した。


「私にも週報が必要ですか」


「当然でございます」


関羽へ報告を求め続けた結果、自分にも返ってきた。


制度とは公平なものである。


荊州へ到着した俺を、関羽は城門の外まで迎えに来た。


赤い顔。


長い髭。


堂々とした姿。


以前より威厳が増している。


同時に、少し疲れていた。


【関羽 字・雲長】


統率 96

武力 100

知略 82

政務 69

魅力 94


報告能力 28

外交   38

組織適応 14

権限委譲 19

自己判断信頼 100


身体疲労 48

精神疲労 37


現在の危険


・魏軍の増強

・呉との相互不信

・糜芳との対立

・士仁との対立

・代理指揮官不在

・本人の危機認識不足


孤立危険度

43%


組織適応が十二から十四へ上がっている。


馬良の努力だろう。


それでも低い。


「殿下」


関羽は俺の前へ膝をついた。


「遠路、ご無事で何よりです」


「叔父上も、お元気そうで」


「荊州に異常はありません」


到着して最初の言葉がそれか。


「週報には、異常ありと書いてありました」


「問題はあります」


関羽は平然と答える。


「しかし、私が対処しております」


それを異常というのだ。


城内へ入る。


兵士たちは整然としていた。


武器は手入れされている。


城壁の修繕も進んでいる。


民衆から関羽への信頼も高い。


市場では秩序が守られ、略奪もない。


関羽の統治は、失敗していなかった。


むしろ優秀だった。


だからこそ危険なのである。


関羽が何でも処理できる。


皆が関羽へ判断を求める。


関羽も自分が決めた方が早いと考える。


結果として、組織全体が関羽一人の頭の中で動いている。


俺は三日間、荊州の仕事を観察した。


朝。


兵士の配置を関羽が決める。


昼。


食料輸送の遅れを関羽が処理する。


午後。


呉から届いた書状へ関羽が返事をする。


夕方。


魏軍の斥候情報を関羽が確認する。


夜。


部下同士の争いを関羽が裁く。


寝る前。


翌日の訓練内容を関羽が決める。


「叔父上」


「何でしょう」


「いつ寝ていますか」


「必要なだけ寝ております」


状態を見る。


直近七日間の平均睡眠

三刻未満


諸葛亮と同じである。


英雄は、睡眠を仕事の邪魔だと考える病気にかかっている。


「三日間、仕事を休んでください」


俺が言うと、関羽は髭を撫でた。


「なぜです」


「叔父上がいなくても、荊州が動くか確認します」


「私がいるのに、なぜ不在を想定する」


「病気になるかもしれません」


「ならぬ」


「怪我をするかもしれません」


「戦場ならあり得ます」


「では、戦場へ行ったとき、城内の判断は誰がしますか」


「糜芳だ」


「叔父上は、糜芳殿を信用していますか」


関羽が黙った。


その沈黙が答えだった。


「士仁殿は」


「軍務の一部は任せられる」


「撤退の判断も?」


「それは私が行う」


「叔父上が連絡できなければ?」


「そのような状況を作らぬ」


完璧な危機管理。


危機を起こさない。


前世の経営者も、よく言った。


事故を起こすな。


問題を起こすな。


失敗するな。


それができれば、危機管理制度など必要ない。


しかし、事故は起きる。


予想外だから事故なのだ。


「試します」


俺は宣言した。


翌朝。


関羽が病気になったという想定で、緊急訓練を始めた。


関羽本人には、執務室から出ないよう依頼した。


「病人が立っているのはおかしいです」


俺が言うと、関羽は寝台へ座った。


不満が全身から出ている。


最初の報告。


魏軍の斥候が国境を越えた。


兵士が関羽の執務室へ来る。


「将軍」


馬良が止めた。


「本日の将軍は病床にあります」


兵士は困った。


「では、誰へ」


糜芳の名が出た。


しかし糜芳は、食料輸送の確認で南郡にいる。


士仁へ伝えようとする。


士仁は公安の守備を担当しており、権限範囲外だと答える。


二つ目の報告。


呉の船が境界へ接近。


外交問題である。


馬良へ回される。


しかし、軍を動かす権限はない。


三つ目。


食料船が一隻、座礁。


兵站担当者は、予備倉庫を開く許可を求める。


許可できる者がいない。


四つ目。


兵士同士の争い。


誰が裁くか決まらない。


一刻もしないうちに、関羽の執務室の前へ人が並んだ。


関羽は中で、腕を組んでいる。


「もうよいか」


「まだです」


「私が出れば、すべて決まる」


「それが問題です」


関羽の眉が動く。


「私が決められることが問題だと?」


「叔父上しか決められないことが問題です」


部屋が静かになった。


俺は関羽の前へ、四つの竹簡を置いた。


四つとも、関羽なら数分で判断できる。


だが、関羽がいないだけで組織は止まった。


「叔父上が強すぎます」


俺は言った。


関羽の表情がわずかに変わる。


「褒めているのか」


「困っています」


「なぜだ」


「皆が、叔父上ほど強くないからです」


関羽は黙った。


「叔父上が一人で百の仕事をするより、十人が十ずつできるようにしてください」


「十人に任せれば、誤りが増える」


「叔父上がいなくなれば、百の仕事が全部止まります」


関羽の視線が鋭くなる。


「私を死なせたいのか」


「逆です」


俺は正面から見返した。


「死んでほしくないから来ました」


関羽は、初めて言葉を失った。


俺は続けた。


「叔父上は、自分が死ぬと思っていません」


「戦場へ出る者は、常に死を覚悟している」


「覚悟しているだけです」


「何が違う」


「死んだ後の準備をしていません」


覚悟する。


勇敢に戦う。


命を惜しまない。


それは本人の生き方だ。


しかし、将が死んだ後も兵と民は残る。


部下へ何を任せるか。


撤退を誰が決めるか。


食料庫を誰が開くか。


同盟国へ誰が連絡するか。


何も決まっていない。


「叔父上が死ぬことは、叔父上だけの問題ではありません」


関羽の手が、わずかに震えた。


怒りかもしれない。


「殿下」


声は低かった。


「私を救うために来たと、聞きました」


「はい」


「私は、救われるほど弱くない」


予想していた言葉だった。


「弱いから助けるのではありません」


「では」


「大切だからです」


関羽の目が動いた。


「叔父上は、父上の弟です」


桃園の義弟。


俺にとっても、幼い頃から知る叔父である。


「蜀の将だからではありません」


「武力百だからでもありません」


関羽には百という意味は分からない。


それでも、言葉は止まらなかった。


「死んだ後に困るからでもありません」


俺は関羽の衣を掴んだ。


幼い頃、趙雲の衣を掴んだときのように。


「いなくなってほしくないのです」


長い沈黙。


関羽は目を逸らした。


「殿下は、ずるい」


「何がです」


「そのような言い方をされれば、断れぬ」


関羽は大きく息を吐いた。


「代理の権限を決めよう」


最初の突破だった。


軍務。


士仁。


兵站。


糜芳。


外交文書。


馬良。


城内行政。


潘濬。


複数の分野へ権限を分ける。


緊急時には、三人のうち二人の同意で関羽の命令を待たずに動ける。


関羽は最後まで不満そうだった。


それでも署名した。


【荊州代理指揮制度が成立しました】


関羽不在時


軍務   士仁

兵站   糜芳

外交   馬良

行政   潘濬


緊急決定

三名中二名の同意


関羽孤立危険度

43% → 36%


大きく下がった。


だが、表示の下に新しい警告が現れた。


制度上の問題


関羽と糜芳の信頼関係

危険水準


関羽と士仁の信頼関係

危険水準


代理指揮制度が機能するには、関係修復が必要です。


人を配置しただけでは、組織は動かない。


互いに信用していなければ、権限を与えても使えない。


その日の代理訓練。


兵站担当の糜芳は、最後まで姿を見せなかった。


使者が言う。


「糜芳様は、ご病気とのことです」


能力画面の遠隔表示を開く。


【糜芳】


身体状態

健康


心理状態

出席拒否


関羽への信頼

7


辞職意思

68%


離反危険度

31%


病気ではない。


辞めようとしている。


歴史では、糜芳は関羽を裏切り、呉へ降る。


その裏切りは、二年後に突然始まるのではない。


既に始まっていた。


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