表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら劉禅だったので、諸葛亮に有給休暇を取らせます~MBA持ちの阿斗、関羽の孤立・張飛のパワハラ・孔明の過労死を組織改革で止める~  作者: 東雲 諒杏
第三部 蜀漢役員会は今日も大炎上

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/72

第45話 諸葛亮をCOOに任命する


職掌表が、できあがった。


六人分である。


——諸葛亮(しょかつりょう)の欄だけが、他の五人を合わせたより長かった。



    ◆



建安(けんあん)二十年の暮れ。


父が、「職掌を紙に書け」と命じた。


三千斛を腐らせ、千人を二度徴発し、一人の役人を処罰しかけた、あの事件の後である。


起草は、諸葛亮(しょかつりょう)龐統(ほうとう)


そして、父はこう付け足した。


「阿斗も入れよ」


——八歳を、国家組織の設計に入れるな。


……いや。


入れてもらわなければ、困る。


この四年、俺は「分け直さなかった」責任がある。



    ◆



作業は、三日続いた。


方法は、単純である。


この国が今やっていることを、全部、竹簡に書き出す。


そして、一つずつ、誰の仕事かを決める。


——前世で、俺が何十回もやった作業だ。


そして、毎回、同じことが起きた。



    ◆



最初は、順調だった。


「銭と府庫」


——劉巴(りゅうは)


満場一致である。


この男以外に、できる人間がいない。


「敵国の見立てと、戦の立案」


——法正(ほうせい)


これも、すぐ決まった。


「新しく取った土地の統合と、新しい制度の立案」


——龐統(ほうとう)


四年前、俺が「つぎ」と言って渡した役目である。


「文書の処理」


——彭羕(ほうよう)


……これは、少し揉めた。


後で書く。



    ◆



問題は、そこからだった。


残ったものが、多すぎた。


龐統(ほうとう)が、竹簡を読み上げた。


「戸籍」


——誰も、手を挙げない。


「賦税の割り当て」


——沈黙。


「郡県の官吏の任免」


——沈黙。


(りつ)の整備」


——沈黙。


「訴えの裁き」


「糧の運搬」


「道と橋の修繕」


「工人の差配」


「兵の糧の手配」


「外の国への使者」


「南の()との交渉」


「学問所」


「暦」


——


全部、沈黙だった。



    ◆



俺は、それを見ていて、思った。


——出た。


前世で、毎回これが起きた。


組織図を引くと、まず「花のある仕事」から埋まる。


新規事業。戦略。財務。


——みんな、やりたがる。


そして、残る。


総務。人事。法務。物流。品質管理。


——誰も、手を挙げない。


理由は、簡単だ。


うまくやっても褒められず、失敗すると全部の責任を取らされるからである。



    ◆



「では、私が」


——諸葛亮(しょかつりょう)が、言った。


あっさりと。


——待っていたかのように。


「孔明どの。全部でございますか」


龐統(ほうとう)が聞いた。


「残っておりますので」


「十二ございます」


「はい」


「私の欄は、二つでございます」


「はい」


龐統は、少し困った顔をした。


この男が、困る顔を見たのは、久しぶりである。


「……よろしいので」


諸葛亮は、答えた。


「問題ございません」


——


出た。


この国の共通言語である。



    ◆



三日目の夕方、職掌表が完成した。


俺は、それを広げた。


——竹簡、十一本。


そして、一目で分かった。


```

【蜀漢 職掌】


主公・劉備

 人事の最終承認/恩赦/外征の可否

 —— 三項


軍師将軍・諸葛亮

 戸籍/賦税/官吏任免/律の整備/訴えの裁き/

 糧の運搬/道橋の修繕/工人の差配/兵糧手配/

 外交使者/南夷交渉/学問所/暦

 —— 十三項


軍師中郎将・龐統

 新領土統合/戦略立案

 —— 二項


蜀郡太守・法正

 敵情分析/軍事戦略/特殊交渉

 —— 三項


西曹掾・劉巴

 財政/貨幣/府庫

 —— 三項


治中従事・彭羕

 文書処理

 —— 一項

```


——十三項。


残る五人を合わせて、十二項である。


——一人のほうが、多い。



    ◆



俺は、その表を見ながら、動けなくなった。


——正しい。


この配分は、正しいのだ。


劉巴(りゅうは)は、財政以外できない。社交八である。


法正(ほうせい)に律の整備を任せたら、私怨で条文を書く。


龐統(ほうとう)に戸籍を任せたら、三日で退屈して放置する。


彭羕(ほうよう)に官吏の任免を任せたら、自己評価九十七のまま人を選ぶ。


——できる人間が、一人しかいない。


だから、一人に集まる。


——それは、組織設計の失敗ではない。


人材の分布が、そうなっているだけである。



    ◆



俺は、視界を確認した。


```

【諸葛亮 字・孔明】


職掌数 13

権限委譲 3

休養意思 2

身体疲労 47


推定執務時間 日に六刻(十二時間)以上

睡眠時間 直近一月平均 一刻半


予測死亡要因 長期疲労/睡眠不足/責任集中

予測死亡時期 二三四年前後

```


——出た。


初めて、年が表示された。


二三四年。


——十九年後である。


八年前、俺が初めてこの人を見たとき、この欄は「長期疲労/睡眠不足/責任集中」までしか出ていなかった。


——年が出るようになった。


それは、確度が上がったということだ。



    ◆



「せんせい」


俺は、呼んだ。


「はい」


「この表を、直したいです」


「どこを、でございましょう」


俺は、諸葛亮の欄を指した。


「ここです」


「十三項が、多いと?」


「はい」


「では、どれを他の方へ」


——そこで、俺は詰まった。


移せない。


さっき、自分で確認した。


——移す先が、ない。


諸葛亮は、俺の顔を見て、静かに言った。


「若君」


「はい」


「移せませぬな」


「……はい」


「では、このままで」


——


「問題ございません」



    ◆



俺は、そこで、必死に考えた。


——八年である。


八年間、俺はこの人に「休め」と言ってきた。


袖を掴んだ。座り込んだ。書状を送った。


そして、休養意思は二のままだ。


——言葉では、動かない。


では、何なら動く。


……


——制度だ。


俺は、制度屋である。


言葉で人を変えられないなら、仕組みで変えるしかない。



    ◆



俺は、筆を取った。


そして、諸葛亮の欄の下に、一行足した。


《上限》


「上限?」


「はい」


俺は、書いた。


《軍師将軍が自ら見る案件は、月に三十件までとする》


——


広間が、静かになった。


龐統(ほうとう)が、笑った。


「若君。それは、無理でございます」


「なぜ」


「孔明どのは、日に三十件を見ておられます」


——


日に。


月ではなく。



    ◆



俺は、諸葛亮を見た。


「せんせい」


「はい」


「ひに、さんじゅう?」


「……数えたことはございません」


「かぞえてください」


「若君」


「かぞえてください」


諸葛亮は、少し黙った。


そして、竹簡を一本取った。


その日、この人は、自分が見た案件を数え始めた。



    ◆



三日後、答えが出た。


「若君」


「はい」


「日に、四十一件でございました」


——四十一。


そして、この人は、そのあとに、こう付け足した。


「思ったより、少のうございました」


——


俺は、頭を抱えた。



    ◆



「せんせい」


「はい」


「四十一件を、一つずつ、どれくらい見ますか」


「短いもので、一息。長いもので、半刻」


「では、日に何刻ですか」


諸葛亮は、また少し黙った。


「……六刻ほどかと」


「それ以外に、評定と、書状と、視察があります」


「はい」


「寝る時間は」


「……」


「何刻ですか」


諸葛亮は、答えなかった。


俺は、視界に出ている数字を、口に出した。


「一刻半です」


——


広間が、しんとした。


龐統(ほうとう)が、酒杯を置いた。


法正(ほうせい)の目が、細くなった。


劉巴(りゅうは)が、竹簡から顔を上げた。


——この人たちは、知らなかったのだ。


毎日一緒に働いていて、知らなかった。


理由は、簡単である。


この人が、言わないからだ。


そして、聞かれないからだ。



    ◆



「若君」


諸葛亮が言った。


声が、少し硬かった。


「なぜ、お分かりに」


——


俺は、答えられなかった。


視界に出ている、とは言えない。


俺は、代わりに言った。


「目の下が、黒いです」


「……」


「八年、見ています」


——


それは、嘘ではなかった。



    ◆



「上限を、書きます」


俺は、言った。


「月に三十件は、無理でしたので」


「はい」


「日に、三十件にします」


「……十一、減りますな」


「はい」


「残る十一件は、誰が」


——


そこである。


俺は、答えを用意していた。


三日、考えた。


俺は、言った。


「代理人を、決めてください」


——


諸葛亮の羽扇が、止まった。



    ◆



「代理人、でございますか」


「はい」


「どの案件の」


「全部です」


——


「若君。全部と申されますと」


「十三項、全部です」


俺は、続けた。


「一つ一つに、あなたの代わりに決める人を、書いてください」


「……」


「そして、その人が決めたことは、あなたが見なくてよいことにします」


——


長い沈黙があった。



    ◆



諸葛亮は、しばらく竹簡を見ていた。


そして、言った。


「若君」


「はい」


「それは、権限を分けるということでございますな」


「はい」


「そして、その者が誤れば、国が傾きます」


「はい」


「私が見れば、誤りませぬ」


——


出た。


これが、この人の全部である。


```

【諸葛亮】

固有特性【私がやった方が早い】

```


——八年前に見た特性が、そのまま生きている。



    ◆



俺は、聞いた。


「せんせい」


「はい」


「一つ、お尋ねしてよろしいですか」


——この言い方は、この人から習った。


諸葛亮も、それに気付いたらしい。


少し、笑った。


「どうぞ」


俺は、聞いた。


「あなたが倒れたら、誰がやりますか」


——


羽扇が、完全に止まった。



    ◆



長い沈黙があった。


灯火の芯が、鳴った。


龐統(ほうとう)も、法正(ほうせい)も、何も言わなかった。


やがて、諸葛亮は言った。


「……倒れませぬ」


「倒れたら、です」


「……」


「病でも、事故でも、いつかは倒れます」


「……」


「そのとき、この十三項は、誰がやりますか」


——


諸葛亮は、答えなかった。



    ◆



俺は、そこで、もう一つ聞いた。


聞くべきでは、なかったかもしれない。


「せんせい」


「はい」


「お子は、おられますか」


——


広間が、しんとした。


龐統(ほうとう)が、俺を見た。


法正(ほうせい)が、目を伏せた。


——この人たちは、知っていたのだ。


そして、誰も、口に出さなかった。


諸葛亮は、しばらく黙っていた。


そして、静かに答えた。


「……おりませぬ」


「……」


「兄の子を、迎えることになっております」


——兄。


諸葛瑾(しょかつきん)


——()の、重臣である。


「……()から、ですか」


「はい」


「なぜ」


諸葛亮は、答えた。


「私に、跡継ぎがおりませぬゆえ」


——


俺は、そこで、動けなくなった。


——三十五である。


この人は、三十五になって、跡継ぎがいない。


そして。


——家の跡継ぎも、国の跡継ぎも、同じ理由で、いない。


……


——後回しに、してきたのだ。


家も、国も。



    ◆



「せんせい」


「はい」


「いつ、来られますか」


「二年か、三年のうちに」


「お名前は」


(きょう)と申します」


「うん」


「若君と、十ほど違いましょう」


——十七である。


呉から来る。


そして——


俺は、その少年の未来を、知らなかった。


……


知らないということは、たぶん、長く生きない。


長く生きれば、事績が残る。


残っていれば、俺は覚えている。


——覚えていないのだから、短いのだ。


俺は、その計算を、頭の中でやった。


そして、自分がやっていることに気付いて、少し吐き気がした。


——まだ会ってもいない十七歳を、俺は「覚えていない」という理由だけで、死ぬ側へ分類した。


八年前、俺は同じことをした。


——母の名を、年表に書かなかった。


「史書に大きく書かれていないから」という理由で。


……


——直っていない。


八年、直っていない。



    ◆



俺は、その沈黙を、記録した。


——この人は、答えを持っていない。


考えていないのではない。


——考えないようにしている。


なぜなら、考えた瞬間に、「自分が代替可能だ」と認めることになるからだ。


そして、この人にとって、それは——


……


——


俺は、そこで、あることに気付いた。


前世で、俺も同じだった。


引き継ぎ資料を作らなかった。


「作る時間がない」と言っていた。


——嘘である。


作りたくなかったのだ。


自分がいなくても回ると証明するのが、怖かった。


そして、深夜二時四十七分に、床に倒れた。


引き継ぎ資料は、一枚もなかった。



    ◆



「せんせい」


「はい」


俺は、言った。


「わたしも、そうでした」


「……は?」


——言ってから、しまったと思った。


八歳が言う台詞ではない。


だが、もう出てしまった。


「わたしも、人に渡すのが、こわいです」


「……」


「渡したら、いらなくなる気がします」


——


諸葛亮が、俺を見た。


この人は、たぶん、何かに気付いた。


——だが、聞かなかった。


この男は、いつも、聞くべきでないことを聞かない。



    ◆



やがて、諸葛亮は言った。


「若君」


「はい」


「代理人を、書きます」


「……」


「ただし、条件がございます」


「なんですか」


諸葛亮は、静かに言った。


「書いた者に、まず、失敗させてください」


——


「私が見れば、誤りませぬ」


「はい」


「ですが、誤らねば、育ちませぬ」


「……」


「ゆえに——小さく、誤らせます」


——


俺は、そこで、この人が本当に賢いことを、改めて知った。


——一気に渡せば、大きく失敗する。


渡さなければ、育たない。


だから、小さい案件から渡して、小さく失敗させる。


そして、その失敗を、この人が拾う。


——それが、育てるということだ。


……


——ただし、当面、この人の仕事は減らない。


むしろ、増える。


「渡した仕事の失敗を拾う」という仕事が、追加されるからだ。



    ◆



```

【職掌表が成立しました】


主公・劉備  三項

軍師将軍・諸葛亮 十三項(代理人指定を伴う)

軍師中郎将・龐統 二項

蜀郡太守・法正 三項

西曹掾・劉巴 三項

治中従事・彭羕 一項


新設

 命令照合(陳紀)

 代理人制度


【諸葛亮】

 権限委譲 3 → 8

 身体疲労 47 → 52


備考

 当面、諸葛亮の業務量は増加します。

```


——


権限委譲が、五、上がった。


八年で、五である。


そして——身体疲労が、五、上がった。


——差し引き、ゼロだ。



    ◆



「せんせい」


「はい」


「もう一つ、要ります」


「何でございましょう」


俺は、言った。


「決める場所です」


——


「評定は、ございます」


「あれは、聞く場所です」


——


「三十人が集まって、順に話します」


「はい」


「そして、父上が『そのとおりだ』と言います」


——広間の何人かが、下を向いた。


「決まりません」


——


「少ない人数で、決める場所を作ります」


「何人でございます」


俺は、答えた。


「五人か、六人」


「多すぎませぬか」


——龐統(ほうとう)が言った。


「三人でよろしい」


「三人だと、二対一になります」


「それが、決めるということです」


「負けた一人が、次から来なくなります」


——


龐統が、黙った。


——この男は、たぶん、自分のことを言われたと思った。


そして、たぶん、正しい。



    ◆



諸葛亮(しょかつりょう)が、羽扇を止めた。


「若君」


「はい」


「一つ、条件を加えてよろしいか」


「なんですか」


諸葛亮は、言った。


「反対した者の名を、書き残します」


——


「なぜですか」


「反対した者は、後で『私は反対した』と申します」


「はい」


「賛成した者は、後で『私は反対だった』と申します」


——


広間が、静かになった。


「ゆえに、その場で書きます」


「……」


「そして、反対理由も書きます」


俺は、そこで、聞いた。


「せんせい」


「はい」


「それは、責めるためですか」


——


諸葛亮は、答えた。


「いいえ」


「では」


「失敗したとき」


「はい」


「反対した者の理由を、読み返すためでございます」


——


俺は、そこで、この人の凄さを、また一つ知った。


——反対意見は、記録しておかないと、消える。


そして、失敗したときに残っているのは、「誰が悪かったか」だけになる。


「何が見えていたか」は、残らない。


```

【機関が成立しました】


執行評議


構成 主公/軍師将軍/軍師中郎将/蜀郡太守/西曹掾

定足 四名以上

決議 全員の署名を要する

   反対者は、反対理由を記録に残す


備考

 反対した者の名も、賛成した者の名も、

 同じ簿に載ります。


組織能力

 意思決定 C → B-

```


——「同じ簿に載ります」。


俺は、その一行を長く見ていた。


……


——十四年後、俺は父の最後の報告書を、この簿の様式で作ることになる。


そして、そこには、こう書かれる。


《最終責任者・劉備》


——だが、このときの俺は、まだ知らない。



    ◆



——そして、彭羕(ほうよう)である。


この人の欄は、一項だけになった。


文書処理。


——去年まで、治中従事として、州の実務全般を握っていた。


それが、一項である。


彭羕は、職掌表を見て、しばらく黙っていた。


そして、言った。


「……これは、(くだ)すということでございますな」


諸葛亮(しょかつりょう)が、答えた。


「いいえ」


「では、何でございましょう」


「あなたの得意なことに、絞りました」


「……」


「あなたは、文書の処理において、この国で最も速うございます」


「……」


「それは、事実でございます」


——


諸葛亮は、嘘を言っていない。


彭羕の文書処理は、本当に速い。


そして——


```

【彭羕】

本人の受け取り 降格

自己評価 97 → 97

不満   31 → 68

```


——不満、六十八。


三十七、上がった。


そして、自己評価は、下がらなかった。



    ◆



俺は、彭羕のところへ行った。


「ほうようどの」


「……若君」


「木簡は、書いていますか」


——去年、俺が渡したものである。


「今日やったこと」と「できなかったこと」を、毎日書く木簡。


彭羕は、少し黙った。


そして、言った。


「書いております」


「見せてください」


「……」


「見せてください」


彭羕は、渋々、木簡を出した。


俺は、それを読んだ。


——「やったこと」は、びっしり書いてある。


そして。


「できなかったこと」の欄は——


一年分、白紙だった。



    ◆



俺は、その白紙を、長いこと見ていた。


「ほうようどの」


「はい」


「一年、何も、できなかったことがないのですか」


「ございませぬ」


「……」


「私は、頼まれたことを、すべて終えております」


——


俺は、そこで、諦めた。


——この人は、たぶん、本当にそう思っている。


そして、その「頼まれたこと」の範囲を、自分で決めている。


できないことは、最初から引き受けない。


だから、失敗がない。


——本人は、それを能力だと思っている。


俺は、木簡を返した。


そして、一つだけ言った。


「ほうようどの」


「はい」


馬超(ばちょう)どのとは、あまり話さないでください」


——


彭羕が、怪訝な顔をした。


「……なぜでございましょう」


俺は、答えなかった。


答えられなかった。


「五年後、あなたはあの人に言ってはならないことを言って、密告されて死ぬ」——言えるわけがない。


彭羕は、少し笑った。


「若君は、時折、妙なことを仰せになりますな」


「はい」


「承知いたしました」


——社交辞令である。


この人は、たぶん、話す。


```

【彭羕】

馬超との接触確率 71% → 64%

```


——七、下がった。


七では、足りない。



    ◆



その夜、俺は木簡を出した。


そして、書いた。


《職掌を、決めた》


《先生の、仕事が、増えた》


——


皮肉である。


八年かけて、俺はこの人の仕事を減らそうとしてきた。


そして今日、正式に、増やした。


——正しい設計だからだ。


この国には、他にできる人間がいない。


……


——いや。


それは、違う。


「他にできる人間がいない」のではない。


——


「他にできる人間を、育ててこなかった」のだ。


そして、育てる時間を、この八年で作れなかった。


理由は、簡単である。


この人が、全部やってしまうからだ。


——循環している。


この輪を、どこかで切らなければならない。


……


切ったら、たぶん、一度、国が傾く。



    ◆



俺は、最後に一行、書いた。


《いつか、失敗させる》


——


そして、その下に。


《たぶん、大きく》


——十九年ある。


二三四年まで、十九年。


それまでに、この人が倒れても回る国を作る。


——そのためには、この人がいるうちに、この人抜きで一度、失敗しておく必要がある。


……


——それは、誰かが死ぬ失敗かもしれない。



次回 第46話「法正をCSOに任命する」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ