第45話 諸葛亮をCOOに任命する
職掌表が、できあがった。
六人分である。
——諸葛亮の欄だけが、他の五人を合わせたより長かった。
◆
建安二十年の暮れ。
父が、「職掌を紙に書け」と命じた。
三千斛を腐らせ、千人を二度徴発し、一人の役人を処罰しかけた、あの事件の後である。
起草は、諸葛亮と龐統。
そして、父はこう付け足した。
「阿斗も入れよ」
——八歳を、国家組織の設計に入れるな。
……いや。
入れてもらわなければ、困る。
この四年、俺は「分け直さなかった」責任がある。
◆
作業は、三日続いた。
方法は、単純である。
この国が今やっていることを、全部、竹簡に書き出す。
そして、一つずつ、誰の仕事かを決める。
——前世で、俺が何十回もやった作業だ。
そして、毎回、同じことが起きた。
◆
最初は、順調だった。
「銭と府庫」
——劉巴。
満場一致である。
この男以外に、できる人間がいない。
「敵国の見立てと、戦の立案」
——法正。
これも、すぐ決まった。
「新しく取った土地の統合と、新しい制度の立案」
——龐統。
四年前、俺が「つぎ」と言って渡した役目である。
「文書の処理」
——彭羕。
……これは、少し揉めた。
後で書く。
◆
問題は、そこからだった。
残ったものが、多すぎた。
龐統が、竹簡を読み上げた。
「戸籍」
——誰も、手を挙げない。
「賦税の割り当て」
——沈黙。
「郡県の官吏の任免」
——沈黙。
「律の整備」
——沈黙。
「訴えの裁き」
「糧の運搬」
「道と橋の修繕」
「工人の差配」
「兵の糧の手配」
「外の国への使者」
「南の夷との交渉」
「学問所」
「暦」
——
全部、沈黙だった。
◆
俺は、それを見ていて、思った。
——出た。
前世で、毎回これが起きた。
組織図を引くと、まず「花のある仕事」から埋まる。
新規事業。戦略。財務。
——みんな、やりたがる。
そして、残る。
総務。人事。法務。物流。品質管理。
——誰も、手を挙げない。
理由は、簡単だ。
うまくやっても褒められず、失敗すると全部の責任を取らされるからである。
◆
「では、私が」
——諸葛亮が、言った。
あっさりと。
——待っていたかのように。
「孔明どの。全部でございますか」
龐統が聞いた。
「残っておりますので」
「十二ございます」
「はい」
「私の欄は、二つでございます」
「はい」
龐統は、少し困った顔をした。
この男が、困る顔を見たのは、久しぶりである。
「……よろしいので」
諸葛亮は、答えた。
「問題ございません」
——
出た。
この国の共通言語である。
◆
三日目の夕方、職掌表が完成した。
俺は、それを広げた。
——竹簡、十一本。
そして、一目で分かった。
```
【蜀漢 職掌】
主公・劉備
人事の最終承認/恩赦/外征の可否
—— 三項
軍師将軍・諸葛亮
戸籍/賦税/官吏任免/律の整備/訴えの裁き/
糧の運搬/道橋の修繕/工人の差配/兵糧手配/
外交使者/南夷交渉/学問所/暦
—— 十三項
軍師中郎将・龐統
新領土統合/戦略立案
—— 二項
蜀郡太守・法正
敵情分析/軍事戦略/特殊交渉
—— 三項
西曹掾・劉巴
財政/貨幣/府庫
—— 三項
治中従事・彭羕
文書処理
—— 一項
```
——十三項。
残る五人を合わせて、十二項である。
——一人のほうが、多い。
◆
俺は、その表を見ながら、動けなくなった。
——正しい。
この配分は、正しいのだ。
劉巴は、財政以外できない。社交八である。
法正に律の整備を任せたら、私怨で条文を書く。
龐統に戸籍を任せたら、三日で退屈して放置する。
彭羕に官吏の任免を任せたら、自己評価九十七のまま人を選ぶ。
——できる人間が、一人しかいない。
だから、一人に集まる。
——それは、組織設計の失敗ではない。
人材の分布が、そうなっているだけである。
◆
俺は、視界を確認した。
```
【諸葛亮 字・孔明】
職掌数 13
権限委譲 3
休養意思 2
身体疲労 47
推定執務時間 日に六刻(十二時間)以上
睡眠時間 直近一月平均 一刻半
予測死亡要因 長期疲労/睡眠不足/責任集中
予測死亡時期 二三四年前後
```
——出た。
初めて、年が表示された。
二三四年。
——十九年後である。
八年前、俺が初めてこの人を見たとき、この欄は「長期疲労/睡眠不足/責任集中」までしか出ていなかった。
——年が出るようになった。
それは、確度が上がったということだ。
◆
「せんせい」
俺は、呼んだ。
「はい」
「この表を、直したいです」
「どこを、でございましょう」
俺は、諸葛亮の欄を指した。
「ここです」
「十三項が、多いと?」
「はい」
「では、どれを他の方へ」
——そこで、俺は詰まった。
移せない。
さっき、自分で確認した。
——移す先が、ない。
諸葛亮は、俺の顔を見て、静かに言った。
「若君」
「はい」
「移せませぬな」
「……はい」
「では、このままで」
——
「問題ございません」
◆
俺は、そこで、必死に考えた。
——八年である。
八年間、俺はこの人に「休め」と言ってきた。
袖を掴んだ。座り込んだ。書状を送った。
そして、休養意思は二のままだ。
——言葉では、動かない。
では、何なら動く。
……
——制度だ。
俺は、制度屋である。
言葉で人を変えられないなら、仕組みで変えるしかない。
◆
俺は、筆を取った。
そして、諸葛亮の欄の下に、一行足した。
《上限》
「上限?」
「はい」
俺は、書いた。
《軍師将軍が自ら見る案件は、月に三十件までとする》
——
広間が、静かになった。
龐統が、笑った。
「若君。それは、無理でございます」
「なぜ」
「孔明どのは、日に三十件を見ておられます」
——
日に。
月ではなく。
◆
俺は、諸葛亮を見た。
「せんせい」
「はい」
「ひに、さんじゅう?」
「……数えたことはございません」
「かぞえてください」
「若君」
「かぞえてください」
諸葛亮は、少し黙った。
そして、竹簡を一本取った。
その日、この人は、自分が見た案件を数え始めた。
◆
三日後、答えが出た。
「若君」
「はい」
「日に、四十一件でございました」
——四十一。
そして、この人は、そのあとに、こう付け足した。
「思ったより、少のうございました」
——
俺は、頭を抱えた。
◆
「せんせい」
「はい」
「四十一件を、一つずつ、どれくらい見ますか」
「短いもので、一息。長いもので、半刻」
「では、日に何刻ですか」
諸葛亮は、また少し黙った。
「……六刻ほどかと」
「それ以外に、評定と、書状と、視察があります」
「はい」
「寝る時間は」
「……」
「何刻ですか」
諸葛亮は、答えなかった。
俺は、視界に出ている数字を、口に出した。
「一刻半です」
——
広間が、しんとした。
龐統が、酒杯を置いた。
法正の目が、細くなった。
劉巴が、竹簡から顔を上げた。
——この人たちは、知らなかったのだ。
毎日一緒に働いていて、知らなかった。
理由は、簡単である。
この人が、言わないからだ。
そして、聞かれないからだ。
◆
「若君」
諸葛亮が言った。
声が、少し硬かった。
「なぜ、お分かりに」
——
俺は、答えられなかった。
視界に出ている、とは言えない。
俺は、代わりに言った。
「目の下が、黒いです」
「……」
「八年、見ています」
——
それは、嘘ではなかった。
◆
「上限を、書きます」
俺は、言った。
「月に三十件は、無理でしたので」
「はい」
「日に、三十件にします」
「……十一、減りますな」
「はい」
「残る十一件は、誰が」
——
そこである。
俺は、答えを用意していた。
三日、考えた。
俺は、言った。
「代理人を、決めてください」
——
諸葛亮の羽扇が、止まった。
◆
「代理人、でございますか」
「はい」
「どの案件の」
「全部です」
——
「若君。全部と申されますと」
「十三項、全部です」
俺は、続けた。
「一つ一つに、あなたの代わりに決める人を、書いてください」
「……」
「そして、その人が決めたことは、あなたが見なくてよいことにします」
——
長い沈黙があった。
◆
諸葛亮は、しばらく竹簡を見ていた。
そして、言った。
「若君」
「はい」
「それは、権限を分けるということでございますな」
「はい」
「そして、その者が誤れば、国が傾きます」
「はい」
「私が見れば、誤りませぬ」
——
出た。
これが、この人の全部である。
```
【諸葛亮】
固有特性【私がやった方が早い】
```
——八年前に見た特性が、そのまま生きている。
◆
俺は、聞いた。
「せんせい」
「はい」
「一つ、お尋ねしてよろしいですか」
——この言い方は、この人から習った。
諸葛亮も、それに気付いたらしい。
少し、笑った。
「どうぞ」
俺は、聞いた。
「あなたが倒れたら、誰がやりますか」
——
羽扇が、完全に止まった。
◆
長い沈黙があった。
灯火の芯が、鳴った。
龐統も、法正も、何も言わなかった。
やがて、諸葛亮は言った。
「……倒れませぬ」
「倒れたら、です」
「……」
「病でも、事故でも、いつかは倒れます」
「……」
「そのとき、この十三項は、誰がやりますか」
——
諸葛亮は、答えなかった。
◆
俺は、そこで、もう一つ聞いた。
聞くべきでは、なかったかもしれない。
「せんせい」
「はい」
「お子は、おられますか」
——
広間が、しんとした。
龐統が、俺を見た。
法正が、目を伏せた。
——この人たちは、知っていたのだ。
そして、誰も、口に出さなかった。
諸葛亮は、しばらく黙っていた。
そして、静かに答えた。
「……おりませぬ」
「……」
「兄の子を、迎えることになっております」
——兄。
諸葛瑾。
——呉の、重臣である。
「……呉から、ですか」
「はい」
「なぜ」
諸葛亮は、答えた。
「私に、跡継ぎがおりませぬゆえ」
——
俺は、そこで、動けなくなった。
——三十五である。
この人は、三十五になって、跡継ぎがいない。
そして。
——家の跡継ぎも、国の跡継ぎも、同じ理由で、いない。
……
——後回しに、してきたのだ。
家も、国も。
◆
「せんせい」
「はい」
「いつ、来られますか」
「二年か、三年のうちに」
「お名前は」
「喬と申します」
「うん」
「若君と、十ほど違いましょう」
——十七である。
呉から来る。
そして——
俺は、その少年の未来を、知らなかった。
……
知らないということは、たぶん、長く生きない。
長く生きれば、事績が残る。
残っていれば、俺は覚えている。
——覚えていないのだから、短いのだ。
俺は、その計算を、頭の中でやった。
そして、自分がやっていることに気付いて、少し吐き気がした。
——まだ会ってもいない十七歳を、俺は「覚えていない」という理由だけで、死ぬ側へ分類した。
八年前、俺は同じことをした。
——母の名を、年表に書かなかった。
「史書に大きく書かれていないから」という理由で。
……
——直っていない。
八年、直っていない。
◆
俺は、その沈黙を、記録した。
——この人は、答えを持っていない。
考えていないのではない。
——考えないようにしている。
なぜなら、考えた瞬間に、「自分が代替可能だ」と認めることになるからだ。
そして、この人にとって、それは——
……
——
俺は、そこで、あることに気付いた。
前世で、俺も同じだった。
引き継ぎ資料を作らなかった。
「作る時間がない」と言っていた。
——嘘である。
作りたくなかったのだ。
自分がいなくても回ると証明するのが、怖かった。
そして、深夜二時四十七分に、床に倒れた。
引き継ぎ資料は、一枚もなかった。
◆
「せんせい」
「はい」
俺は、言った。
「わたしも、そうでした」
「……は?」
——言ってから、しまったと思った。
八歳が言う台詞ではない。
だが、もう出てしまった。
「わたしも、人に渡すのが、こわいです」
「……」
「渡したら、いらなくなる気がします」
——
諸葛亮が、俺を見た。
この人は、たぶん、何かに気付いた。
——だが、聞かなかった。
この男は、いつも、聞くべきでないことを聞かない。
◆
やがて、諸葛亮は言った。
「若君」
「はい」
「代理人を、書きます」
「……」
「ただし、条件がございます」
「なんですか」
諸葛亮は、静かに言った。
「書いた者に、まず、失敗させてください」
——
「私が見れば、誤りませぬ」
「はい」
「ですが、誤らねば、育ちませぬ」
「……」
「ゆえに——小さく、誤らせます」
——
俺は、そこで、この人が本当に賢いことを、改めて知った。
——一気に渡せば、大きく失敗する。
渡さなければ、育たない。
だから、小さい案件から渡して、小さく失敗させる。
そして、その失敗を、この人が拾う。
——それが、育てるということだ。
……
——ただし、当面、この人の仕事は減らない。
むしろ、増える。
「渡した仕事の失敗を拾う」という仕事が、追加されるからだ。
◆
```
【職掌表が成立しました】
主公・劉備 三項
軍師将軍・諸葛亮 十三項(代理人指定を伴う)
軍師中郎将・龐統 二項
蜀郡太守・法正 三項
西曹掾・劉巴 三項
治中従事・彭羕 一項
新設
命令照合(陳紀)
代理人制度
【諸葛亮】
権限委譲 3 → 8
身体疲労 47 → 52
備考
当面、諸葛亮の業務量は増加します。
```
——
権限委譲が、五、上がった。
八年で、五である。
そして——身体疲労が、五、上がった。
——差し引き、ゼロだ。
◆
「せんせい」
「はい」
「もう一つ、要ります」
「何でございましょう」
俺は、言った。
「決める場所です」
——
「評定は、ございます」
「あれは、聞く場所です」
——
「三十人が集まって、順に話します」
「はい」
「そして、父上が『そのとおりだ』と言います」
——広間の何人かが、下を向いた。
「決まりません」
——
「少ない人数で、決める場所を作ります」
「何人でございます」
俺は、答えた。
「五人か、六人」
「多すぎませぬか」
——龐統が言った。
「三人でよろしい」
「三人だと、二対一になります」
「それが、決めるということです」
「負けた一人が、次から来なくなります」
——
龐統が、黙った。
——この男は、たぶん、自分のことを言われたと思った。
そして、たぶん、正しい。
◆
諸葛亮が、羽扇を止めた。
「若君」
「はい」
「一つ、条件を加えてよろしいか」
「なんですか」
諸葛亮は、言った。
「反対した者の名を、書き残します」
——
「なぜですか」
「反対した者は、後で『私は反対した』と申します」
「はい」
「賛成した者は、後で『私は反対だった』と申します」
——
広間が、静かになった。
「ゆえに、その場で書きます」
「……」
「そして、反対理由も書きます」
俺は、そこで、聞いた。
「せんせい」
「はい」
「それは、責めるためですか」
——
諸葛亮は、答えた。
「いいえ」
「では」
「失敗したとき」
「はい」
「反対した者の理由を、読み返すためでございます」
——
俺は、そこで、この人の凄さを、また一つ知った。
——反対意見は、記録しておかないと、消える。
そして、失敗したときに残っているのは、「誰が悪かったか」だけになる。
「何が見えていたか」は、残らない。
```
【機関が成立しました】
執行評議
構成 主公/軍師将軍/軍師中郎将/蜀郡太守/西曹掾
定足 四名以上
決議 全員の署名を要する
反対者は、反対理由を記録に残す
備考
反対した者の名も、賛成した者の名も、
同じ簿に載ります。
組織能力
意思決定 C → B-
```
——「同じ簿に載ります」。
俺は、その一行を長く見ていた。
……
——十四年後、俺は父の最後の報告書を、この簿の様式で作ることになる。
そして、そこには、こう書かれる。
《最終責任者・劉備》
——だが、このときの俺は、まだ知らない。
◆
——そして、彭羕である。
この人の欄は、一項だけになった。
文書処理。
——去年まで、治中従事として、州の実務全般を握っていた。
それが、一項である。
彭羕は、職掌表を見て、しばらく黙っていた。
そして、言った。
「……これは、降すということでございますな」
諸葛亮が、答えた。
「いいえ」
「では、何でございましょう」
「あなたの得意なことに、絞りました」
「……」
「あなたは、文書の処理において、この国で最も速うございます」
「……」
「それは、事実でございます」
——
諸葛亮は、嘘を言っていない。
彭羕の文書処理は、本当に速い。
そして——
```
【彭羕】
本人の受け取り 降格
自己評価 97 → 97
不満 31 → 68
```
——不満、六十八。
三十七、上がった。
そして、自己評価は、下がらなかった。
◆
俺は、彭羕のところへ行った。
「ほうようどの」
「……若君」
「木簡は、書いていますか」
——去年、俺が渡したものである。
「今日やったこと」と「できなかったこと」を、毎日書く木簡。
彭羕は、少し黙った。
そして、言った。
「書いております」
「見せてください」
「……」
「見せてください」
彭羕は、渋々、木簡を出した。
俺は、それを読んだ。
——「やったこと」は、びっしり書いてある。
そして。
「できなかったこと」の欄は——
一年分、白紙だった。
◆
俺は、その白紙を、長いこと見ていた。
「ほうようどの」
「はい」
「一年、何も、できなかったことがないのですか」
「ございませぬ」
「……」
「私は、頼まれたことを、すべて終えております」
——
俺は、そこで、諦めた。
——この人は、たぶん、本当にそう思っている。
そして、その「頼まれたこと」の範囲を、自分で決めている。
できないことは、最初から引き受けない。
だから、失敗がない。
——本人は、それを能力だと思っている。
俺は、木簡を返した。
そして、一つだけ言った。
「ほうようどの」
「はい」
「馬超どのとは、あまり話さないでください」
——
彭羕が、怪訝な顔をした。
「……なぜでございましょう」
俺は、答えなかった。
答えられなかった。
「五年後、あなたはあの人に言ってはならないことを言って、密告されて死ぬ」——言えるわけがない。
彭羕は、少し笑った。
「若君は、時折、妙なことを仰せになりますな」
「はい」
「承知いたしました」
——社交辞令である。
この人は、たぶん、話す。
```
【彭羕】
馬超との接触確率 71% → 64%
```
——七、下がった。
七では、足りない。
◆
その夜、俺は木簡を出した。
そして、書いた。
《職掌を、決めた》
《先生の、仕事が、増えた》
——
皮肉である。
八年かけて、俺はこの人の仕事を減らそうとしてきた。
そして今日、正式に、増やした。
——正しい設計だからだ。
この国には、他にできる人間がいない。
……
——いや。
それは、違う。
「他にできる人間がいない」のではない。
——
「他にできる人間を、育ててこなかった」のだ。
そして、育てる時間を、この八年で作れなかった。
理由は、簡単である。
この人が、全部やってしまうからだ。
——循環している。
この輪を、どこかで切らなければならない。
……
切ったら、たぶん、一度、国が傾く。
◆
俺は、最後に一行、書いた。
《いつか、失敗させる》
——
そして、その下に。
《たぶん、大きく》
——十九年ある。
二三四年まで、十九年。
それまでに、この人が倒れても回る国を作る。
——そのためには、この人がいるうちに、この人抜きで一度、失敗しておく必要がある。
……
——それは、誰かが死ぬ失敗かもしれない。
次回 第46話「法正をCSOに任命する」




