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転生したら劉禅だったので、諸葛亮に有給休暇を取らせます~MBA持ちの阿斗、関羽の孤立・張飛のパワハラ・孔明の過労死を組織改革で止める~  作者: 東雲 諒杏
第二部 英雄だらけの人事評価会議

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19/72

第18話 雛鳳、面接官を面接する

第二部 英雄だらけの人事評価会議



その男は、喪服で来た。


就職の面接に、である。


しかも、酒を飲んでいた。



    ◆



建安(けんあん)十五年。


俺は三つになった。


走れる。跳べる。三語まで話せる。文字も、少しなら書ける。


そして——この年、周瑜(しゅうゆ)が死んだ。



    ◆



知らせは、突然だった。


巴丘(はきゅう)で病を得て、そのまま。


三十六歳である。


劉備(りゅうび)は、その報せを聞いたとき、しばらく何も言わなかった。


やがて、一言だけ言った。


「……惜しいな」


それだけだった。


周瑜は、劉備にとって恩人であり、同時に最大の障害だった。


赤壁(せきへき)曹操(そうそう)を破ったのは、この男の判断である。


だが同時に、「劉備を(しょく)へ入れる前に、呉が先に取るべし」と主張し続けたのも、この男だ。


死んで喜ぶ者もいただろう。


だが劉備は、喜ばなかった。


——俺も、喜べなかった。



    ◆



その夜、俺は木簡を出した。


死亡年表。


二〇九——母。


二一九、二二一、二二三、二二九、二三四。


周瑜の名は、ない。


——知らなかったわけではない。


周瑜が若くして死ぬことは、知っていた。


だが俺は、それを書かなかった。


敵だからだ。


俺の年表は、俺が救いたい人間しか載っていない。


——母のときと、同じである。


俺は木簡を伏せた。


三十六。


前世の俺より、二つ下だ。


同じように、働きすぎて死んだ。



    ◆



その男が来たのは、それから二月ほど後のことだった。



    ◆



公安の広間に、宴の席が設けられていた。


荊南(けいなん)の郡から、新たに官吏が数名着任した。その顔合わせである。


俺は趙雲(ちょううん)の隣に座っていた。


三歳になって、ようやく大人の宴に紛れ込めるようになった。


正確には——母がいなくなって、俺を止める人間がいなくなった。


侍女は「阿斗さま、お戻りください」と言う。


だが、泣けば通る。


そして、泣いた後で「もどらない」と言えば、もっと通る。


三語文は、便利である。



    ◆



「主公。客人がお見えです」


孫乾(そんけん)が慌てた様子で入ってきた。


「取り次ぎもなく、いきなり門に立たれまして」


「誰だ」


「それが——」


そのとき、広間の入口に、男が立った。


——粗末な衣。


まとまりのない髪。


眠そうな目。


酒を飲んでいるわけでもないのに、立ち姿が少し傾いている。


そして。


衣が、白かった。


——喪服である。



    ◆



龐統(ほうとう)。字を士元(しげん)と申します」


男は、まったく緊張していない様子で名乗った。


劉皇叔(りゅうこうしゅく)に、お目にかかりたく参りました」


——俺は、動きを止めた。


龐統。


その名を、俺は知っている。


去年の秋、魯粛(ろしゅく)が言った。


> 「江東にも、置き場所を間違えられておる者がおります」

> 「周瑜の下に、龐統と申す者が。功曹をしております」

> 「あれは、百里を治める才ではございません」


——来た。


魯粛が言っていた男が、自分から来た。



    ◆



「喪服か」


劉備が尋ねた。


龐統は、自分の衣を見下ろした。


そして、なんでもないことのように言った。


「前の勤め先が、なくなりましてな」


広間が、静かになった。


「周瑜どのの(ひつぎ)を、()までお送りしてまいりました。葬儀も済ませ、そのまま西へ歩いて参りました」


「……着替えもせずにか」


「持っておりませぬ」


——転職活動の初日に、喪服で来る人間を、俺は前世でも見たことがなかった。


しかも本人は、まったく気にしていない。


張飛(ちょうひ)が、俺の耳元で囁いた。


「阿斗。あの男、大丈夫か」


声が全然小さくなっていない。


龐統が、こちらを向いた。


「聞こえております」


「聞こえるように言った!」


嘘をつけ。



    ◆



俺は、その男を見つめた。


視界に、文字が浮かんだ。


```

【龐統 字・士元】


統率 82

武力 41

知略 100

政務 91

魅力 63


戦略構想 100

革新性  100

情報統合 99

資源配分 98

実行管理 61

組織適応 9

上司配慮 4


固有特性


【雛鳳】

 複雑な状況から、常識に反する最短経路を発見する。


【三案同時提示】

 安全策・現実策・危険策を同時に提示する。危険策を最も好む。


【退屈すると働かない】

 本人が価値を感じない業務では、能力が大幅に低下する。


【凡人の説明を省略する】

 思考過程を共有せず、結論だけを述べる。


【見た目で損をする】

 初対面の評価が低下する。


総合評価 S+


重大組織リスク

 命令軽視/上司との衝突/単独行動/危険な賭け

```


——上司配慮、四。


諸葛亮(しょかつりょう)の権限委譲三と、いい勝負である。


どうして蜀に集まる天才は、社会人として重要な項目だけ一桁なのだ。


そして俺は、最後の一行に目を留めた。


【見た目で損をする】


——そうか。


この人が功曹止まりだったのは、これか。



    ◆



龐統が、俺の視線に気付いた。


「若君」


目を細める。


「私の顔に、何か付いておりますかな」


——まずい。


俺は答えようとした。


言いたかったのは、こうだ。


「あなたは、顔で損をしている」


三歳の口は、頭より速い。


そして、順番を間違える。


「かお」


「はい」


「へん」


    ◆


——広間が、凍った。


張飛が、酒を盛大に噴いた。


龐統の顔が、固まる。


```

龐統から劉禅への第一印象

   興味深い幼児 → 失礼な幼児

友好度 10 → 3

```


——三。


人材登用の第一歩で、容貌を攻撃した。


「阿斗!」


劉備が慌てる。


母がいれば、ここで俺は叱られていた。


だが、もういない。


誰も止めてくれない。


——自分で、なんとかするしかない。



    ◆



俺は、必死に言い直した。


「ちがう」


「何が違うのです」


「かおで、そんしてる」


——龐統の動きが、止まった。


さっきとは、止まり方が違った。


広間の空気も、変わった。


張飛が笑うのをやめた。


関羽(かんう)が、俺を見た。


龐統は、しばらく黙っていた。


そして、静かに言った。


「……もう一度、仰せいただけますか」


「かおで、そんしてる」


「私が、でございますか」


「うん」


「なぜ、そうお思いに」


俺は、言葉を選んだ。


三語しか並べられない。


「さいのう、みえてない」


    ◆


——広間が、しんとした。


龐統は、俺の前へ進んだ。


そして、突然、床へ座った。


目線が、俺と同じ高さになる。


「若君」


「うん」


「私の才が、見えるのですか」


——しまった。


俺は慌てて首を振った。


「みえない」


「では、なぜ」


「……こない、から」


「参らない?」


「呉から」


俺は、必死に続けた。


「呉、つよい」


「はい」


「なのに、こうそう」


——功曹。


郡の人事を扱う実務職である。


決して低い職ではない。


だが、知略百の人間が就く職ではない。


龐統の目が、細くなった。


「……若君は、私の官職をご存じで」


——やってしまった。


俺は、魯粛から聞いていた。


だが、それを言うわけにはいかない。


呉の重臣から、他国の人事について情報をもらっていたことになる。


俺は黙った。


龐統は、しばらく俺を見ていた。


そして——笑った。


```

龐統から劉禅への友好度 3 → 27

興味度 21 → 68

```


「劉皇叔」


「な、なにかな」


「若君のほうが、ここにおられる大人たちより、話が早いようですな」



    ◆



張飛が立ち上がった。


机が揺れる。


「どういう意味だ!」


「言葉どおりです」


「俺たちが阿斗より劣ると言うのか!」


「すべてとは申しません」


龐統は、張飛を上から下まで眺めた。


「腕力では、明らかに翼徳どのが上でしょう」


「当たり前だ!」


「酒量も」


「当然だ!」


「声の大きさも」


「それは褒めているのか?」


「事実を述べております」


——組織適応、九。


上司配慮、四。


数字が、正確すぎる。



    ◆



劉備が、苦笑しながら尋ねた。


「士元。私に会いたいとのことだったな」


「はい」


「何用だ」


龐統は、あっさりと答えた。


「劉皇叔が、天下を争うに足る人物かを、見に参りました」


——広間の空気が、止まった。


採用面接に来た人間が、社長を評価すると宣言した。


張飛が剣へ手をかける。


関羽の目も鋭くなる。


趙雲(ちょううん)は、俺と龐統の間へ、静かに位置を変えた。


危機管理百の行動である。


劉備だけが、笑っていた。


「面白い。私を見定めるか」


「人材を求めておられるのは、劉皇叔だけではありません」


龐統は言った。


「仕えるに値する主を、人材のほうも探しております」


——正しい。


採用は、一方的な選抜ではない。


会社が人材を評価するように、人材も会社を評価している。


特に、この男ほどの能力があれば、選択肢は多い。


前世で、俺は何度も逆を見た。


「採ってやる」という顔で面接をした会社は、いい人材を全部逃した。



    ◆



劉備は、杯を置いた。


「では、何を見たい」


「三つ、お尋ねします」


龐統は、指を一本立てた。


「一つ。劉皇叔は、漢室を再興したいのか。自らが天下を取りたいのか」


——いきなり核心である。


劉備は、少し黙った。


「漢室を、再興したい」


「では——漢室の皇帝が、劉皇叔へ『兵を置き、民へ戻れ』と命じた場合は?」


張飛が怒鳴った。


「そのような命令、曹操が皇帝に書かせるに決まっている!」


龐統は、張飛を見なかった。


劉備だけを見ている。


劉備は、答えた。


「皇帝の意思か、曹操の意思かを、確かめる」


「確かめられなければ?」


「民を守るために必要なら、命令へ背く」


龐統が、わずかに頷いた。



    ◆



二本目の指を立てる。


「二つ。長年仕えた臣と、新たに得た有能な臣が、同じ役職を求めた場合。どちらを選びます」


——劉備にとって、最も難しい質問である。


```

【劉備】

固有特性【人情経営】

 長年仕えた人物の処分を決断できない。

```


劉備は、俺を見た。


——答えを求めるな。


あなたの面接である。


「役目に、適したほうを選ぶ」


龐統は、追及した。


「長年仕えた臣が、不満を抱けば?」


「私が謝る」


「有能な臣が、謝罪ではなく古参の解任を求めれば?」


「両者の話を聞く」


「時間がなければ?」


——劉備が、詰まった。


いつもの「全員の意見を聞く」方式では、間に合わない場合がある。


長い沈黙のあと、劉備は言った。


「私が決め、恨まれる」


龐統の表情が、少し変わった。



    ◆



三本目の指を立てる。


「三つ。天下を取るために、一万人を見捨てれば十万人を救えるとします。見捨てますか」


——広間が、静まり返った。


長坂坡で、劉備は民を見捨てなかった。


その結果、軍は崩壊した。


一万人を見捨てれば、十万人を救える。


数字だけなら、答えは明らかである。


しかし、見捨てられる一万人にとって、自分たちの命は、十万人分より軽くない。


劉備は、長いあいだ答えなかった。


灯火の芯が、ぱち、と鳴った。


やがて、言った。


「分からぬ」


龐統が、眉を上げた。


「答えになっておりません」


「その場にならねば、分からぬ」


劉備は、率直に言った。


「私は、一万人を見捨てられぬかもしれない。そのために十万人を危うくするかもしれぬ」


そして、自分の手を見た。


「だが——最初から一万人を数字として切り捨てられる人間には、なりたくない」


    ◆


——俺は、息を呑んだ。


前世の俺なら、この答えを「意思決定者として不十分」と評価した。


数字に基づき、冷静に選択すべきだ、と。


だが、今は違う。


俺は、二百四十人を数字にした人間である。


そして、目の前で咳をしていた一人を、数字が黄色だからと後回しにした人間である。


——父の答えは、非効率だ。


だが、俺が失ったものを、この人はまだ失っていない。



    ◆



龐統は、劉備を見つめた。


「甘い」


「そうだろうな」


「迷いが多い」


「否定できぬ」


「天下を取るには、不向きかもしれない」


張飛が再び立ち上がりかける。


龐統は、続けた。


「しかし——」


彼は、広間を見回した。


関羽。張飛。趙雲。諸葛亮。


そして、扉の外に控えている兵たち。


「その甘さのために、集まる者がおります」


龐統は、深く頭を下げた。


「もう少し、近くで見てみたくなりました」


```

龐統

 劉備への興味度 43 → 76

 登用可能性 28% → 57%

```


——まだ、五十七パーセント。


完全には、決めていない。



    ◆



劉備が笑った。


「では、我が軍へ加わるか」


「まだです」


張飛が、机を叩いた。


——今度こそ、完全に割れた。


「まだなのか!」


龐統は、割れた机を見下ろした。


そして、静かに言った。


「……少なくとも、家具の費用が潤沢な組織ではなさそうですな」


「貴様!」


張飛が詰め寄る。


龐統は、一歩も退かない。


俺の視界に、警告が出た。


```

人材損失危険


対象 龐統

原因 採用面接中の暴力

```


——冗談ではない。


俺は叫んだ。


「よくとく!」


張飛が止まる。


「なんだ、阿斗」


「すわる」


「しかし、この男が」


「すわる!」


張飛は、渋々座った。


椅子ではない。


椅子は、先ほど机と一緒に壊れている。


龐統が、俺を見て笑った。


「若君は、既に翼徳どのを動かせるのですな」


「たいへん」


「そのようで」


```

龐統から劉禅への友好度 27 → 34

```



    ◆



俺は、龐統の袖を引いた。


「しげん」


「はい」


「なまえ、きく」


「私の名は、先ほど申し上げましたが」


「ちがう」


俺は、首を振った。


そして、扉の外を指した。


「あのひと」


——龐統と一緒に、一人の男が来ていた。


荷を背負った、痩せた男である。


道中、この人の荷物を運んできたのだろう。


誰も、その男に声をかけていない。


龐統は、少し驚いた顔をした。


そして、振り返った。


「……そういえば」


彼は、その男を呼んだ。


「そなた、名は」


——本人も、知らなかったらしい。


男は、慌てて頭を下げた。


(しゅう)の、阿六(あろく)と申します。巴丘(はきゅう)から荷を」


「あろく」


俺は繰り返した。


「おぼえた」


男は、目を丸くした。


龐統も、俺を見ていた。


さっきまでとは、違う目だった。


```

龐統から劉禅への評価

   妙に鋭い幼児 → ?


興味度 68 → 89

```


——疑問符が出た。


初めて見る表示である。



    ◆



龐統は、しばらく黙っていた。


そして、宴席の酒を一杯取り、俺へ掲げた。


「若君」


「うん」


「次は、私があなたを見定めましょう」


——また、俺が面接されるのか。


蜀漢の人材登用は、入社希望者のほうが強すぎる。



    ◆



その夜、俺は木簡を出した。


《置き場所を間違えている者》


一年前、魯粛(ろしゅく)の言葉を聞いて作った行である。


そこには龐統と書いてあり、その横に《呉》と付け足してあった。


俺は、《呉》の二文字を、削り取った。


そして、書き直した。


《ここ》


——まだ、五十七パーセントだ。


だが、来た。


俺は、もう一つの木簡を出した。


《名のない者》


阿仙(あせん)


その下に、書き足す。


阿六(あろく)


三歳の手で書いた字は、相変わらず歪んでいた。


それでも、二人になった。



次回 第19話「容貌で人材を捨てるな」


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