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常盤の山・前編

オリジナル短編小説集『また会えますか?』の一編です。


 あなたに、「また会いたい。」と思う人は、いますか?記憶の片隅にある、あの日、遊んだあの子、駅のホームで見かける人・・・「会いたい」。そんな気持ちを綴る短編集。


古都へ修学旅行に行った少年達。紅葉広がる寺社・・・吸い込まれるように進んでいくと・・・そこは、色付かない山だった・・・。




 〝ボーン″




耳に響く、普段聞くことの少ない音。



どこぞの王の歌と違い、年末ぐらいしか聞くことが無くなった現代では、古都の街の音は新鮮に感じられる。


だが、聴覚と視覚は別物だ。


寺ばかりだと言うイメージが強い京の都も、駅の大きさから見ても分かるように、近代化しているのは言うまでもない。


120年前程前に、主が東の都に旅立たれたこの場所は、水による外との交易によって、新たな生き方を見出したのだ。生きていくために。生き残るために。

コンクリートの箱に囲まれたお寺の瓦を見ると、どこか虚しさも覚えるかもしれないが、



 〝ボーン″



音だけは、何百年経っても変わらず響いているのだ。

そんな古都は、学生達の修学旅行先として選ばれることが多い。

さらに、衣替えの時期と重なる為、黒や紺、緑、白の制服が行きかう。


さて、そんな古都の神社にも修学旅行生達が・・・。


「やった~大吉っ!」


「良かったな、透。」


「うん!しかも、近々、良縁に恵まれるってっ!伊織は?」


「どこを読んでるんだよ・・・オレ達が見るところは、『学業』の欄だろ。」


「だって・・・そういう伊織は、何だったの?」


「オレは、中吉・・・思わぬで出会いが有るってさ。」


「良かったじゃないっ!きっと、運命の人に会えるんじゃないかな?さっきも、伊織、目を瞑ったまま石の所まで歩けてたし。」



「運命ねぇ・・・石の間を歩いただけで、想いが叶うなら、とっくに叶ってもいいはずなんだけどな・・・。」


「えっ?何?」


「いや・・・おっ、女子達、お守り買い終わったみたいだな。行くぞ。」


「あっ、伊織、待ってっ!」


二人を含む男子メンバーは、お守りを吟味する女子達を待っていたのだ。




「皆、大丈夫?」


「生きてるか?」


二人の視線の先には、座ったまま動かない班のメンバー達。


修学旅行において『座禅を体験し、感想文を提出すること。また、体験した証明として、担当のお坊さんから、署名を貰うこと。』という課題を出されていた為だ。


しかし、現代の子は椅子の暮らしに慣れてしまっている。


短い時間とはいえ、畳の上での正座は、苦行というものだろう。


「な、なんとかぁ・・・っ。」


生まれたての小鹿の如く、両足がプルプルと震わせながら立とうとするが、力が入らず、再び寺の廊下に逆戻りだ。



「伊織、僕、トイレ行ってくるね。」


「あぁ、オレは、飲み物を買ってくる。どうせ、まだ全員立てないだろうしな。」


「うん、そうだね。」


二人は、班のメンバーを残し、反対方向に歩き出した。







「ふぅ~間に合った・・・。」



透は、寺の裏手にあるトイレまで来ていた。


一番近いトイレは、清掃中、次の場所は、オールドマン&ミスの皆さんを乗せた観光バスが止まったので、遠慮した。

その為、一番遠い場所まで来てしまったのだ。


「わぁ~キレイな紅葉・・・。」


燃えるような紅。


そんな言葉が表す世界が、透の目の前に広がっている。


土や木々の色を隠してしまう、紅葉は、


「・・・炎・・・。」


世間を騒がせる、土の中から顔出す木の子どものような、おどろおどろしい姿では無い。

それどころか、見上げれば装飾された額縁のように、空の一部を切り取ってくれている。



「キレイ・・・。」


透は、炎に吸い込まれるように、紅葉の中に入って行った。







「・・・あれ?ここ、どこ・・・?」



紅葉に魅せられた透は、無心に紅葉だけを瞳に映すために歩いていたのだ。

しかし、いつまにか紅葉どころか、黄色い葉もない。

それどころか、頭上には鮮やかな緑色が広がっていた。


「どうしよう・・・伊織、絶体心配する・・・あっ、スマホっ!」


ポケットの中のスマホを取り出す。だが、


「えっ?圏外?どうして?」


いつもなら、階段のようなポールが立っている場所には、『圏外』と表示されていた。


「えぇ~連絡も出来ないよ・・・とりあえず、お寺に戻ろう・・・。」


透は、戻る為に歩き出した。しかし、


「・・・何で・・・?全然、お寺が見えてこない・・・反対だったのかな・・・?」


寺どころか、見えてくるのは、この時期には珍しい緑色の葉っぱ達。

鐘の音も鳥の音も聞こえない。聞こえるのは、風によって擦れる葉っぱの音のみ。



「・・・うぅ・・・どうしよう・・・迷子になっちゃった・・・このまま帰れなかったら・・・僕・・・伊織・・・。」



太めの木に背を預け、友の名を呼ぶ・・・しかし、震える声は、心を暗くし、視界を狭める。



 〝ズルッ″



「うわぁっ!?」



 〝ザザァッドンッ″



力の入らない身体はバランスを崩し、木の根元に足を取られ、透の身体は近くの草むらに飛び込んだ。


視界が、緑色から黒、茶色へと変化する。


「イッタァ~!・・・うぅ・・・ん?」


視界の一部が黒に変わった。


「・・・えっ?」


顔を上げると、翡翠色の袴を身にまとった青年が立っていた。



「・・・あ、あの・・・。」


「何をしている?」


透の声を遮った青年の声は、どこか揺れる葉の音に似ていた。


「聞こえないのか?ここで何をしている?」


「あっ、えっと、ぼ、僕、道に迷って・・・。」


再び放たれた言葉に、透は、立ち上がり、髪の毛や制服についた葉っぱや草を取り払いながら返した。


「迷い子か・・・ん?」


青年が、足を進めようとするが、足元に何かが落ちているのことに気付き、拾い上げた。


「あっ!それ、僕の生徒手帳・・・。」


それは、透の生徒手帳だった。

ポケットに入れていたが、転んだ時に落ちてしまったらしい。


「せい、と、てっちょう・・・?」


青年は、首を傾げながら一ページ目を開いた。


「・・・ふや、とおる・・・?」


最初のページに貼ってある写真と透の顔を見比べ、名前を読む。


「あっ、ハスヤです。僕、芙家透ハスヤトオルって言います。」


「ハスヤ・・・なるほど。芙蓉の子か。」


「不要?何で、僕がいらない子なんですか?」


「いらない子?何を言っている?」


青年は、透が言ったことの意味が分からず聞き返す。


「今、言ったじゃないですかっ!『不要の子』ってっ!」


青年の態度に、透は頬を膨らませ、両手を強く握って、青年の胸に飛び込むよな勢いで叫んだ。


「・・・その『不要』では無い。『芙蓉』という植物のことだ。」


透の勢いに圧倒されつつ、青年は透が何を言っているのか理解したように返した。



「しょ、植物・・・?」



「・・・・・・。」



青年は懐から巻物を取り出し、首を傾げる透に差し出す。


「えっ?」


「開けて見ろ。」


「は、はい・・・。」


透は、恐る恐る結ばれた紐を解いた。



「わぁっ~!」


開かれた巻物の中に描かれていたのは、五枚の花弁の先が、ドレスの裾のようになった、桃花色や白色の花だった。

その花の横には『芙蓉』の二文字が書かれている。


「これが、芙蓉・・・綺麗・・・。」


初めて見る花の絵に、透は目を輝かせた。


「・・・・・・。」


青年は、そんな透を黙って見ていた。


「『芙蓉』って、僕の名字が『芙家』で、同じ字が入ってるからなんですね。」


「そうだ。」


「ご、ごめんなさい・・・僕、勝手に怒って・・・。」


「かまわぬ。それよりも、どうやって、ここに入ったのだ?」


「えっと、紅葉が、とっても綺麗で見てたら・・・いつの間にか、緑がいっぱいのここに・・・ここは、どこですか?お寺の裏の山じゃないんですか?」


「・・・早くここから去れ。」


青年は、透の手から巻物を取り、慣れた手つきで巻き上げると、質問には答えず突き放すように言うと踵を返し歩き出した。


「まっ、待ってっ!」


透は、青年の後を追った。







その頃、伊織は飲み物を買い終え戻って来ていた。

何名かは、復活したようだが、若干一名、手すりに捕まりながら、まだ、足を震わせていた。


「あれ?透は?」


「芙家君?まだ、だけど・・・。」


「えっ?まだ?トイレ、すぐそこなのに・・・。」


「そこのトイレ、清掃中だったって、入ろうとした子が言ってたよ。」


「じゃぁ、社務所の裏手の所か。」


「あぁ、それはないぜ。俺達、足を引きずりながら行ったら、じいちゃんとばあちゃんばっかりで、結局入れなかったし。」


「まぁ、たまたま戻ったら、そこのトイレの清掃が丁度終わったところで、何とかセーフだった。」


メンバーの話を聞きながら、伊織は言いようのない不安に襲われていた。

体温が一気に下がったような、足下が崩れそうな感じだ。

伊織は、ポケットに入れてあったスマホを取り出し、押しなれたボタンを押す。

数回のコールのうち、流れてきたのは、女性の機械音だった。


「・・・透・・・。」


機械音の流れるスマホを握る手を力なく下ろし、友の名を呼んだ。

その声は、秋の風の中に溶け込んでいった。



読んでいただきありがとうございます。

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