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良い旅を、旅人さん  作者: 江戸前餡子
冬の章

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39/59

38話目 いつもの私なら

「時間が、巻き戻ってる」


 ショックで、窓際から一歩後ずさったその刹那——


「ヴッ!」


 鉄の棒で殴られたような、視界が歪むほどの激痛が脳の芯まで走り、思わず崩れ落ちた。

 何で?なんて考えることをせずとも、これがループを繰り返す代償なのだと気づく。


 カイはそんな私に、駆け寄って心配そうに「立てるか?」と肩を抱いてくれたが、

 肩につくその手を見た瞬間に、彼の死体がフラッシュバックして、肩が跳ね上がる。


 心身共に、蝕む。

 が、良くも悪くも、このループのお陰で、

 彼の命を救えたのだ。


「だっ、大丈夫」


 動かなきゃ。

 またノヴァラが来る。


「カイ、カイはガラスの球が床に落っこちてるはずだからそれを拾って」

「お、おう」


 彼から不安なまなざしは消えないが、

 血相変えて急いでいる私に、それ以上聞くことなく、

 ただ一言、「余裕が出来たら、話してくれよな」と言ってくれた。


《みんなと乗り越えるんじゃないの?》


 あざ笑うように、影の声が私の耳元で囁く。

 その声に、胃に違和感を感じグッと奥歯を噛む。


《あはは、結局あなた一人でしかこの問題を解決できないの

 別の世界線の私みたいにさ、どんなに時間を繰り返そうが、

 神ではない以上運命は変えられない》

「うるさい!そんなの分かってるよ!」


 カイは突然声を張り上げた私に背筋を伸ばした。


「ごめんなさい」

「あ、あぁ……無理だけはするなよ」


 その瞬間、気のせいか彼との距離を感じた。

 

 余裕があるようにふるまいたかった。

 彼の好きなティアを演じたかった。

 けれど、これが私なのだ。

 

 限界なんて既に知っているし、皆で出来るなんて思ってない。

 記憶が残るのが私しかいない時点で、期待なんてしていない。


「大杖と、不思議な図面は回収、カイの方は?」

「あったぜ!」

「良かった、これ読める?」


 家が崩壊する寸前に見た巻物が、ループの鍵になっているのかと思ったが、

 見たことのない文字で分からないのだ。


「こりゃまだ精霊族とクリャトナ族が、

 はっきりと分かれていない時代の文字だな。

 この文字だけは分かる。"モーヴ"だ」

「モーヴって、沈んだパコ島の宝玉?」


 カイは「たぶんな」と肩をすくめた。


 モーヴが何と関係あるのか、私にはもちろん分かるはずもなく、

 今はそれよりも、遠くへ逃げる事を優先にした。


「ラザルさんに会いに行こう、

 シャルム村へ行って魔王城に行くまでの方法を考えよ」

「分かった」


 私の言葉を疑うことなく信じてくれる彼に、胸は痛んだ。

 私も彼を信じたい、信じて力になってほしい。

 けれど、失いたくないという気持ちが、その言葉を隠した。


「カイ!」

「ん?」

「私は貴方が大事なの。

 だから、今だけは……隠し事をしてるのを許して」


 彼は「ちゃんと後で話せよ」と照れ臭そうに笑い、

 私の額にデコピンをする。


 先を歩く彼の背中を見て、私は影の声に目を細めた。


 ループは何回できるのか——


《もし回数がないとしても、"私"の精神は有限、

 ふふっ……一回目のループでこんな感じじゃぁ、

 二回目はどうなるんだろうね~?》


 キュッと手を胸の前で握り、頼りない足取りで歩き出した。

 


「ラザルさん、今からシャルムに向かいますか?」


 ラザルさんは抱えていた木箱を、馬車に居るおばさんに渡して、

 「丁度行くところですよ」と首をかしげる。

 馬車から降りてきたおばさんも「シャルム村は何もないよ?」なんて、

 ラザルさんと同じ反応を見せた。


「ちょっと用事がありまして、

 乗せてもらえませんか?」


 遠くまで逃げたいなんて言えないが故に、

 苦し紛れに言う私に、隣に立っていたカイは「ティアがノルド大陸の魔道具を見たいらしいんですよ」とそれっぽい事を言ってくれた。


「魔道具なんて変わらないけれど、まあいいよ。ねえラザル」

「うん、ちょうど護衛も欲しい所だったし。

 アイロラさんなら歓迎ですよ」


 とりあえず村から出ることが出来て、

 蜘蛛の糸を掴んだようで一安心した。

 

 馬車の中で私と一緒に揺られる大量の木箱に「これは何ですか?」と聞くと、おばさんは「私も見たけど分からないんだよ」と肩をすくめた。


「シャルム村のある杖専門店は、“魔法の歴史に刻まれる世紀の大発明品”とかって言ってたけど、一部の部品じゃ何が何だかって感じ」

「へ〜」

「見てみるかい?」


 そう言って、木箱から一つの輪っかを渡してくれた。

 指輪にしては大きく、ブレスレットにしては小さい、何とも言えない大きさの鉄製の輪っかだ。


 文字が彫られているから、魔道具なのは分かるけれど……


 隣にいたカイも「これが歴史に残るものか」なんて鼻で笑った。


「本当に分かりませんね」

「でしょ?天才の考える事は理解できないよ」


 平然な表情を見せながらも心はかなり焦っていた。

 このまま順調に——

 その願いだけが胸の内にあったが、

 馬車はそれを無視して緩やかにスピードを落とし、やがて止まった。

 

 私は、ノヴァラがもう現れたのではないかと、

 リュックからゴーストイーターさんを抜き取り、急いで馬車を降りた。


《戦いにはならないと思うから安心しな》


 彼の言う通り、馬車が止まったのは、道が二手に分かれていたからだった。

 血相を変えて走って来た私を見て、ラザルさんは「安心してください、魔物は出てませんから」と微笑んだ。


「良かった……」


 冬だというのに、異常なまでの汗の量に、

 「大丈夫ですか?アイロラさん」と心配そうな面持ちで聞く。


「何かこの先で、強い魔力を感じたとかですか?」

「あ、いえ。私の早とちりです。

 ごめんなさい、でもどっち進みますか?」


 もしかしたら、左右の道が運命を大きく変えるかもしれない。

 私は真剣なまなざしでラザルさんを見た。


「そういえばガーナ派の魔物達の足跡で道が凸凹になったから、

 新しく道を作り直すとか聞きましたね。

 左側の新しい道から行きましょう」

「左ですね、分かりました」


 馬車に戻ろうとしたその時、大きな影が通り過ぎ私は空を見上げた。

 はっきりとは見えなかったけれど、翼のある陰で、微かながら魔力を感じたあたり、嫌な予感がする。


「ラザルさん、ドラゴンが現れるかもしれないので、気を付けてください」

「分かりました」


 ドラゴンはこっちから刺激を与えない限り襲ってはこない、

 まだただの魔物よりかは安心はできる。が、念のためだ。


 馬車に戻り私は、対ノヴァラ用の大杖を握りしめて出入り口に座った。


「どうかしたのかい?」

「ドラゴンの気配がしたんです」

「それは危険だね、私も警戒しとくよ」


 そう言ってカイに目配せをして各々武器を構えた。

 

 進むにつれて森は深くなり、

 それと共に、さっきの魔力が近づいてきている気配に、杖を握る手に力が入る。

 

 魔力探知にも、魔力を使うのか……

 

 右上の数字が、2000から1995になっていて、油断ならない状況に息を吐いた。

 それを考慮して、魔法を出さなければならない。


 おおよそ、一回の探知に2かそこら辺と考えた方が良いだろう。



「こりゃ凄い洞窟だね、本当にシャルム村に着くのかい?ラザル」

「道の方向からして着くとは思う」


 洞窟は暗く、馬車のランタンの灯りだけが頼りだった。

 ガラガラと車輪の音だけが私達を包みこむ、洞窟を進む。


 警戒心が無くなったおばさんとカイは武器を下ろし、目を瞑っていた。

 が、私は生きた心地がしなかった。

 

 洞窟は決して広くなく、細い一本道になっている。

 その状況ってだけで、密閉された空間に閉じ込められた息苦しさを感じた。


 と——その刹那。


「後ろから炎のようなものを確認!

 ラザルさんスピードを上げてください!」


 赤い点は徐々に大きくなってきていて、そのスピードは馬車を越えていた。

 

 私の掛け声に、うつらうつらしていた二人も飛び起きて武器を持つ。

 まだ距離はあり、余裕はある。

 すぐさま杖を構えて魔法を唱えた。


「囲め。

 重ね、閉じ込めろ。

 鋼の壁となりて守れ——」


 ——スティールドミニオン!


 鋼の分厚い壁が地面や壁から現れて三重で道を塞ぎ、炎の行き先を阻む。


 スティール・ドミニオンは一回で150か、三回は出した。残りは1545だ。

 轟音を立てて炎は進み、壁を呑み込んでいくのを見て、その火力に息を呑む。


「ティア、私に任せな」

「おばさん魔法使えたんですね」


 雑貨屋のおばさんは私と入れ替わり、詠唱をして大きな波を生み出す。


「押し流しな、ヴェレ・キューマ!」


 炎と波がぶつかり合い、蒸気が狭い通路を一瞬にして飲み込んだ。

 視界は白く染め上げられるが、炎は確かに消える。


「炎は消えたから一安心か?」

「いや、まだです!」


 その時だった、輓馬(ばんば)の大きな鳴き声と共に、

 馬車は急に止まり、立っていた私はしりもちをつく。


 確認しなくても分かり、「急いで出て馬車の護衛をしましょう」と二人を出させる。

 

「誰が何をしたっていうの!」


 前方からは既に炎が迫ってきていた。

 ラザルが私達の後ろに隠れる中、おばさんは再びヴェレ・キューマを唱えようとする——が。


「認めたくないものだね、老いというのは」


 すでに魔法が出せなくなっていた。

 無理もない、あれは上級魔法で、並みの魔法使いはそうポンポン出せるわけがない。


「任せてください、カイは私のリュックからポーションを出して」


 リュックを投げ渡して、詠唱を始める。

 カイは投げ渡されたリュックを開くが、整理されていないパンパンな中身に一瞬手が止まる。


「まったく整理しろよ~」


 リュックをひっくり返して、

 あれでもないこれでもないと必死に探した。


「っく……ちょっと!まだなの?」

「今探してる!」


 魔法を出し続けているお陰で、右上の数字がみるみる減っていくのに、

 焦りを隠せない私は舌打ちをする。


 ぶつかり合う火炎と火炎はどちらも一歩も譲らず押し合っていたが、

 徐々に、こちらに迫って来る。


 数字が減るごとに無意識に弱めていた。


 1000を切り900も切ろうとしていた時、

 ようやくカイが「三本見つけた」と一本手渡してくれた。

 

「ありがとう」


 苦くて、顔をクシャクシャにしながらも飲み干してもう一本貰う。

 魔力量を表示しているなら、ポーションで数字も増えると思ったが、

 数字はスピードが落ちるだけで、減っていっていた。


「まあ体感でもゆっくりと疲労が取れて行っていたし、

 急に数字も増えたりしないか」


 数字はとうとう700を切ろうとしていた。


「皆地面に伏せて!」

「でも荷物が!」

「そんなこと言ってる場合かい!馬鹿ラザル」


 おばさんは、ラザルを無理やり地面に押し付けて、私の方にグッドサインをする。

 

「絶対に頭を上げないでくださいね」


 魔法を解いた刹那、ドラゴンの炎は威力を増して、

 瞬きをした時には私の手を伸ばせば届く距離まで縮まった。

 伏せるスピードよりも速く、カイが私の背中を引っ張ってくれなかったら今頃頭は灰になっていただろう。


 炎は馬を一瞬に炭と変え、木製の馬車をも跡形もなく消した。


 仰向けに倒れる私は、真上のその光景に、息を呑み、旅の恐ろしさを改めて実感した。

 もしごく普通の魔力しかなかったら、こんな困難が沢山あったのだろう。と。


「たはは、私って異常だったのですね」

「ティア、これからどうする?

 この火炎はなくならないだろ」

「匍匐(ほふく)で進もう、出口はすぐだから」


 そう言って、地面に転がるリュックを掴んでそのまま進んだ。

 酸素が薄れてきて、めまいがするが、歯を食いしばる。

 

 炎は避けれても、そこから発せられる熱で、呼吸が苦しくなり、水分と酸素が奪われて行く。

 

「あと1メートルで出口だ!」

 

 それと共に、見えるドラゴンの足。

 カイは眉を動かした。


 見覚えがあったからだ。


「あの足、イーサンと捕獲しようとしたドラゴンか」

「襲ってくるわけだ」


 私と別れた後、そんなことしてたんですか。

 ドラゴンは頭が良い分、敵の顔と魔力の臭いを覚えているのだ。 

 きっとたまたまカイを見つけたから復讐しに来たのだろう。


「カイ、背負ってる大剣は使えるの?」

「あぁ、一応使える」

「なら私が洞窟を出たら蔓で拘束するから、

 大剣で仕留めて、出来る?」


 不安な色が揺れる瞳に、カイはニッと白い歯を見せる。


「余裕!」

「頼んだよ」


 酸素不足で、身体は鉛のように重くなりやっと洞窟から出れた時には、フラフラだった。

 でもドラゴンと目が合った瞬間に、足は自然と動いた、朦朧(もうろう)とする意識の中で、

 作戦のことだけを考えて歯を食いしばった。


「スプリング・バーストヴァイン!」


 無数の蔓は、大木の様な2本の脚と翼を掴み地面に縛り付ける。

 それにカイは声を上げて大剣を振り上げ飛び上がった——


「下がって!カイ!!」


 私の全細胞が反応した時には、空が白く鋭い光が支配する。

 魔力が無くても、その圧力は容易に感じるだろう、

 おばさんもラザルさんもカイも、

 皆が視線を弾かれて、それでいてスローに見えた。


 天から伸びる光線はドラゴンを穿つ。

 カイは身体を捻り、腰にぶら下げた鞭を掴む否や、

 木に向かって伸ばし、何とか間一髪回避した。


「カイ、大丈夫?」

「あぁ、なんとかな。イテテ……足をやっちまったな」


 ドラゴンが倒されたのは良いが、

 それよりも勝ち目のない厄介な敵が現れた。


 無属性魔法が使えない今、

 少し回復したとはいえ、900の魔力量でノヴァラに勝てる訳がない。

 

「逃げるか?」


 逃げられるはずがない。

 

「ッツ——」


 ラザルさんとおばさんは、腰が抜けたのか、動けなくなっていて、

 戦うのを放棄して頭の上で両手を組み、神に祈っていた。


 神なんていう都合のいい存在が居るのなら、

 私だってずっと昔から祈ってる。

 

「ティア!しっかりしろ!」


 ガチガチと歯を鳴らし、手足が震えて、

 ただただ真上に上っていた太陽ばかり眺めていた。


「駄目だ……終わりだ……」

「駄目じゃねえ!頼む!生き延びるにはティアしか頼れないんだ!」


 もうカイの死ぬ姿なんて見たくない。


《でもどーするの?私》


 影の声に息を呑んだ。

 

《もう一度魔力を全て使っちゃいなよ》

「駄目だ、そんな事をしたら——」


 影はニッと不敵な笑みをこぼし、

 《精神が持たなくなる?けれど、確実に逃げる方法はループしかない》そう囁く。


 私だって分かっている。でも、他に、何か——その刹那、

 ノヴァラがゆっくりと地面に舞い降りて、私に闊歩して距離を縮める。


「おい、腰に付けた宝玉が光ってるぞ」


 カイのその一言は、私に形勢逆転の兆しを見せた。


「そうだ、封霊の宝玉!」


 腰のポーチから宝玉を手に取る。

 確かに宝玉は緑色に発光していた。

 別の世界線の私が封じ込められた時も、こんな反応を見せていたのだ。


 これしかない!


「地は我を拒み

 空は我を選んだ

 鎖は断たれ、

 墜落は許されぬ——」


 —— 解放!リヴァイテーション!!


 力強く大地を蹴り上げた刹那、数字は一気に300まで削られる。

 距離は一瞬にして縮まる。

 ノヴァラの口角が上がり、私の握る宝玉はそれに共鳴するように眩く輝いた。

 

 何故だろうか、その瞬間のノヴァラの笑顔は、

 いつもの不気味な笑みではなく、

 やっと解放されるというような安堵を感じた。


 腹に押し付ける宝玉に緑色の炎がボッと灯り、ドサッとノヴァラは糸が切れたように崩れ落ちた。


「——良かったぁ」


 私も安心して、ヘロヘロと座り込んだ。

 

「温かい……

 思い出さないようにしてのに」


 今の私には一番残酷だった。

 宝玉の温もりは、私にもう休んでいいと、

 甘い言葉をささやくように、抗いようもなく勝手に呼び戻した。


「お母さんに会いたい」


 そう、戻りたくても戻れない、お母さんに手を引かれて歩いた、あの頃を。


 苦しくても、今は立ち止まってはいけない時だからこそ、

 それは今の私には、一番残酷で、一番美しく感じた。


「ティア」

「はは……ここに来て、思い出しちゃうなんて」


 全身が震えていた。

 無意識に、お母さんに縋るようにその宝玉を抱きしめていた。


「立てるか?」


 立たなきゃ。


「大丈夫……」


 その言葉を口にした時、胃から這い上がる物を感じて口元に手を当てる。

 

 大丈夫……私はまだ立てる。いや、立たなきゃ。

 カイを……失いたくない。


 身体を持ち上げて、進むことを拒む鉛のように重い足に鞭を打つ。


《ボロボロだね、変わった方が良いんじゃない?》

「……」

《意地っ張りだね~

 でも、その様子じゃあそう遠くない未来に、自分から交代をするね。

 これは今までの経験》

「なら、それまで待ってなさい」


 口元に抑えていた涎まみれの手の平を服で拭う、

 顔を歪める私に、ほくそ笑んで消えていった。


 そんな私に、カイは「誰と会話してるんだ?」と聞くが、

 心配させたくない気持ちが「ただの独り言」と口を動かす。


「それよりもおばさん達は?」


 すると、遠くの方から、「ここだよ」と声がした。

 駆け寄る二人は、少しケガはしていたけれど元気そうでほっとした。


「ありがとうティア、アンタのお陰だよ」

「良いですよ、それよりも荷物は?」

「それだけど、私達は洞窟に置いてきた荷物をシャルム村に運ぶために往復するから、

 ティアとカイは気にせず行っておくれ」


 おばさんは私を見て、

 何かを察しているように「急いでるんだろ?」と目を細めた。


 「でも」と手伝おうとしたカイの手を引っ張り、

 私は「ならお言葉に甘えて」と頭を下げて別れた。


「どうしてだよ、いつものお前なら助けたはずだぜ」

「い(・)つ(・)も(・)の(・)私ならね、時間がないの」


 二人から離れたところで、持っていた宝玉を地面に捨てた。

 何処か安堵の顔を見せる彼に対して、私の胸ではまだ黒い霧が立ち込めていた。

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