↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良い旅を、旅人さん  作者: 江戸前餡子
秋の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/59

32話目 あったかもしれない、ノヴァラの姿

 そういうことで、世にも奇妙な自分とのプチ旅行が始まった。

 他人と話すのも苦手なのに、自分と話すのは、なお難しいものがある。

 長い独り言を言っているようで、恥ずかしいものもあった。


「他人から見たら、姉妹か友人なんだろうなぁ」


 困り果てた私に、"私"は「ん?何か言った?」なんて聞き返した。


「別に……武器すらないって。無防備すぎ。リュックぐらいは背負いなさい」

「武器を持ったら、この子が暴れちゃうから駄目なの」


 彼女はそう言って「だから今日は守ってね、勇者様」なんて悪戯な笑みを見せた。

 その表情は、私の心を複雑にさせた。


 そうするしか笑顔が作れない彼女に、私は胸を締め付けられたのだ。

 表向きは楽しそうにしていたが、私の手を握る右手は小さく震えていた。

 それとは対照的に、空いた左手は、誰かと手をつないでいるように、無邪気に揺れていた。

 なるほど。彼女には、そこに「あの子」がいるのか。


「村長はどんな旅をしてきたの?それとも、はじめからクリャトナ族の村長?」

「違うよ、1000年に精霊族に集落が襲われた時に、私はルナとノヴァラを引き連れて逃げたの」


 そう、この世界線では、ティアが産まれて旅立つまで。

 巻き戻すことなく、時間の流れに沿うことにした。


「それで、姉妹が大人になるまで守った。

  集落を逃れて千年後の2000年、ノヴァラは復讐心に魔力が乗っ取られて、

 精霊族と親密だった人族の貴族に仕えることにした」

「護衛?」

「そう、残されたルナも。追いかけようとしたけれど、私は止めて一緒に旅を続けた。

 そこからさらに1010年が経った頃に、ガーンバ村の近くの山のなかで、

 たまたま泊まった宿屋をルナは気に入ったみたいで、

 そこで私は、護身用に杖と魔導書を渡して別れた」


 その時、彼女は何かに感づいたのか、握る手がピクリと動く。

 けど、何も言わずに「そこからナタ派の人たちと合流したの?」と静かに聞いた。


 私は、その時、何故かガッカリというか、寂しい気持ちになった。

 気づいてほしかったのだろうか。こんな私が居た事を。


 長生きをしてきた私だが、未だに自分の事が分からない。


「そう、ガーナ派に襲われながら、皆で移動してきた」

「リックさんと出会ったのもそこからなの?」

「いや、リックとは1000年の戦闘中で、私が助けたのが始まり」

「じゃあそこから別れたんだ」

「だね。でも、再会した時は嬉しかった」


 への字に曲がった口が少しだけ上がるのを、"私"は「好きだったんだ」そうクスリと笑った。

 その言葉に、私は青々とした空を見て目を細めた。


「そうだね」


 今でも思う、言葉さえ違っていたら、隣にまだいてくれたんじゃないかと。

 そんなあったかもしれない未来を、想像の中で広げていた時だった――


「よそ見しちゃ駄目」


 "私"は私の手を引いて後ろにやると、左手を前に伸ばし指を鳴らした。

 その刹那。何もない道の空中から大量の血が噴き出る。


 姿を消す魔物だ。だが、それよりも私が驚いたのは。


「ティア、あなた無属性魔法を使えるの?」


 胃がキュッと縮んだ。

 それは、魔王も、ノヴァラですら、届かなかった領域。


 その驚きは、喜びなんか可愛いものではない――恐怖だ。

 どうして、過去の記憶もないのに、たった半年の旅でそこまでたどり着けた。


「無属性魔法?なるほど、確かに属性は無いからそうなるか」

「どうやってそれを」

「簡単じゃない、だって魔力を圧縮させて密度を上げるだけなんだから、

 ほら、サラサラな砂をぎゅってする感覚だよ」


 彼女の感覚についていけなかった。

 私は、自分と話しているはずなのに、

 全く知らない。本物の魔王と対峙している気分になった。


「魔法を出したけど大丈夫なの?」


 大丈夫じゃないだろう。

 その証拠に、握る右手は力がこもり、汗でぐっしょりと濡れている。

 それに、彼女の呼吸は酷く乱れて、深呼吸を何回もしていた。


「ヒッ、ふふ……大丈夫、少しすれば。ね」


 苦しそうだが、口元は歪んでいた。

 もっと血を欲しているのだろう。ギラつく瞳に私は息を呑んだ。


 そんな私達に、助けを求める声が聞こえ振り返る。


「さっきの魔物に倒された馬車だね」

「だね、助けてあげようティア」


 彼女は乗り気じゃなさそうだったけれど、コクリと頷いた。

 きっと、あの子が興味を持つもの以外には、心が揺れなくなってしまったのだろう——

 私は魔法で横倒しの馬車を起こし、散らばった荷物を荷台へ戻した。


「ありがとうね、お嬢ちゃんたち。さっきの魔物にやられてしまってこのざまさ」

「そうですか」

「お気をつけて、ここら辺は、ガーナ派に鍛えられた魔物がうろついているので」

「ありがとう、お嬢さんたちは何処へ?」


 "私"の瞳がこちらを見る。

 場所を教えるのに抵抗あるというよりかは、この人を巻き込むかもしれないという恐怖だろう。


 場所を教えたら、きっとそこまで送ってくれる流れになるから。


「大丈夫、ティア」


 彼女は小さく頷き「ケロリン町へ向かってます」と答えた。

 お爺さんはにこりと笑い、思った通り「なら、お礼として、その付近の村までお送りします」と、馬を撫でて手綱を握る。


「ありがとうございます、ほら、ティア行こう」

「……うん」


 荷車に乗り込み、揺られるなか、

 過ぎ去る風景を眺めながらお爺さんの話を聞いていた。

 

「お嬢さん達は双子かい?姉妹で魔法が使えるのは、お父さんとお母さん鼻が高いでしょ」

「私とこの子は姉妹じゃないんです。

 私はここから近くのナタ村というナタ派のクリャトナ族の村で村長をしています、

 この子は、東のエスト大陸の人族です。ガーンバ村から来たそうで」


 お爺さんは肩越しに私を見て「お嬢さんは上手だね」と、見透かしたような口ぶりをし、

 隣に座り背中を丸める"私"に目を細めた。


「ガーンバ村のお嬢さん、さっきの魔法凄かったね。驚いたよ」

「ありがとうございます」

「でも、エストからなんでこんなところまで来たんだい?」


 "私"はその問いに、直ぐ答えられなかった。

 ぼんやりと、遠くを眺めたまま「お父さんに会うため……いや。それもなんで会いに行こうとしてたんだろう」と、自問自答するように呟く。

 そんな彼女に、お爺さんは「お嬢さん、今の君は、休憩をした方が良い」と優しく忠告した。


 そんな忠告も、彼女は一つの溜息で片付けるのだった。

 どんな言葉も届かない。今の"私"には。


「もうそろそろで着くよ」


 荷車の窓から私達はその村を見た。

 広さは町並みだが、やはりここも魔物に襲われたのだろう。

 ほとんどの建物は、瓦礫の山となっていた。


「国から復興の支援とかないのですか?」

「あぁ、ノルドはそれが常さ。キリがないからね、

 しかもこの辺りは、村長さんの言う通りガーナ派の魔物が多い。なおさら国はしたがらない」

「そう……ですか」


 会話を聞いていた"私"は、「ガーナ派」そう眉間に怒りの色を浮かばせた。

 

 馬車はやがて止まり、私達は降りる。


「疲れたでしょう、私は家族と喫茶店を営んでいるから、お茶を出すよ」


 お爺さんは、馬を戻しておくよう息子に頼んでから、私達を自分の店へ案内してくれた。


 イベントまではまだ時間はあるから問題ないが、

 隣の彼女は、少し乗り気ではなかったのは確かだ。


「静かで良い所。ですね」


 村の喫茶店にしては珍しく、満席だ。

 本を読むものも居れば、地図を広げて旅の経路を考えるものも。と、思いきや依頼の紙を見ながら地図に書き込んでいる客も居て、席ごとに世界が広がっていた。


「村長、わたし苦いのは飲めないよ」

「大丈夫、ジュースを持ってきてくれるよ。きっと」

「ジュースは栄えた所でしか見た事ないけどね」


 "私"の言葉に、困った表情で「ごめんね、コーヒーしか出せなくて」なんて実に申し訳なさそうに、

 湯気の立つコーヒーカップを出してくれた。


「いえいえ、この子が子供なだけです」

「自分だって子供じゃんか」

「ハッハッハ!仲がいいんだね、ホント姉妹みたいだ。残してもいいから」


 そう言って、お爺さんは変わった形の弦楽器を構えて、

 それに気づいたお婆さん・息子とその奥さんやお客さん達は笑顔で立ち上がった。


「これは君達の旅が良いものになるよう捧ぐ、この村伝統の祈りの歌です」


 一人がカウントダウンをして、始まったその歌に、

 初めは机のシミばかり眺めていた"私"は、視線を徐々に上げた。


 静かでありながら、緩やかに、激しくなってゆく曲調。

 旅の綺麗な部分だけでなく、危険さも表して、一人の人生を歌で見ているようだった。


「――良い歌」


 “私”の表情は動かない。けれど、私には分かる。

 静かな水面を微風が撫でるような、心のかすかな揺れが。


「そうだね」


 苦かったコーヒーがすっかり冷めた頃には演奏は終わり、

 家族は私達に「本当にありがとうございました」なんて深く頭を下げた。


「大したことはしてません」


 そう言う彼女だが、声色はどこか嬉しそうだった。

 私はそれに微笑んで「素直になりなさい」と背中を軽く叩いた。


 店を出る。と、その時だった――


「あれ!?ティア!」


 声の方を振り向くと、その人物に私は驚いた。


「ティア!久し振りじゃなーい!」


 ミアは駆け寄るなり、“私”を抱きしめた。

 戸惑う彼女の顔をのぞき込み、「あれ?私の事忘れたの?」なんて頰を膨らませる。


「お久しぶりです。ミアさん、あとリーフさん達も

 しっかり覚えてますよ、助けた時に私の全財産を使われた事も全て」


 ニコリと微笑む"私"の目元を見て、

 ミアは少し心配そうな表情をするも、「それは忘れなさい」なんて笑った。


「なんでウッドグレイン一家とミアさんが知り合いなんですか?」


 それにリーフさんは「それは踊り仲間だからだよ!」なんて軽く踊ってみせる。


「ティアちゃんがナンヌさんを探してくれたお陰で、

 ワシらはミアとイベントに出ることが出来た、ありがとう」


 精霊との契約で、朝は寝ているはずのグランが起きている事に、

 「あれ?起きてる」とポカンと口が開いた。


「アハハ、そうじゃよ。」

「グラン爺ちゃん……ティアちゃんに……勇気を貰った」


 ペブルにそう言われ、グランは照れくさそうに後頭部に手をやった。


「辛い過去から逃げるのが恥ずかしくなっての。

 もう一度旅がしたいって、精霊に話したんじゃ。

 朝も起きていられるようになったのは、それでじゃよ」


 そう言って、グランは“私”に手を差した。


「勇気をもらったよ。ありがとう、ティアちゃん」

「私は何もしてませんよ。いつも必死なだけなので――」


 手を握る彼女は「グランさんが強いんです」と寂し気な色を眼に浮かばせる。

 ミアは「ティア……」そう胸の所で手を握った。

 何故そうなってしまったのかを、どう聞こうか分からず、

 言葉に迷っているのは、彼女だけでない、一家もそうで、沈黙が降りる。


 だから、私は、話を逸らす為に口を開いた。


「バンスキーさん達もケロリン町へ行かれるんですよね?一緒に行きませんか?」

「え?あぁ。うん、もちろん」


 ミアは私の顔をジッと見て、「ティアに似てるわね」なんてフッと笑う。


「良く言われます」

「どうして私の名前を知っているのよ。ノルドじゃ知られていないと思っていたわ」

「有名ですよ。喋れば狂犬、踊れば妖精っていうフレーズで」

「それを考えたやつ、ぶん殴りたいわね」


 すみません、考えたの私です。


 そんなこんなで、更に思いがけないパーティーと合流し、

 私達はイベント会場へ向かう事にしたのだった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。