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良い旅を、旅人さん  作者: 江戸前餡子
秋の章

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22/59

21話目 思いがけない再会、初めての共闘

「店主さん、箒に使う木は、杖と変わらないんですね」


 店主さんの引く荷車には、

 人が乗れるように、あらゆる形に加工された、いろんな種類の木の棒と、

 箒の掃く部分の細い枝が束になって置かれていた。


「そうなのです。魔法の箒と言っても、

 結局魔法の杖を乗り物にしただけですからね」

「そうなんですね」

「あと、私の事はテゥリーで良いですよ」

「はい!テゥリーさん」


 やはり、革命を起こすかもしれない発明なだけあって、

 基地のある場所は深い森の中にあるのだとか。

 さっきっから歩いているのは、太い木の根がうねる獣道ばかりで、

 何度も足を取られそうになるうちに、“私”の足の裏は悲鳴を上げ始めていた。

 

「大丈夫ですか?アイロラ様」

「えへへ、足が痛いです。

 靴も新調しとけばよかった」

「それはいけない!」


 荷車を止めて、

 胸に差していた純白のハンカチを一枚、

 荷台の所に敷いて“私”を座らせた。

 

「あの、無理なさらず。

 ローファーですしテゥリーさんの方がキツイんじゃないんですか?」

「はっはっは!こう見えて、若い時は騎士をしていたのですよ?楽勝です」

(ホントに?さっきっから、眉が下がってきてますよ?)

「魔法でサポートします」

「はっはっは、お優しいんですね」


 フワリと車輪が浮く。

 それに、テゥリーさんの下がっていた眉も、元気になり始めた。


 休憩をしつつ、進んでいると、

 遠くの方に人影があり、テゥリーさんは

 「おやおや、珍しいですね」と“私”に教えてくれた。


「なんか見た事あるシルエットですね……」

「ほほっ!そうなのですか」


 二人でマジマジ見ていると、

 視線に気づいた人影は、まるで長く会っていない友人に出会った時のように手を振っていた。


「本当に、アイロラ様の知り合いじゃないですか?」

「どうでしょう……

 あんな馬鹿みたいに手を振る人は見た事が――」


 駆け寄ってきた人影の顔が見えて、ようやく誰なのか分かると、

 “私”も思わず馬鹿みたいに手を振ってしまった。


「イーサンさん!」


 イーサン・オーサス。

 “私”に地図をくれて、旅のきっかけを作ってくれた人だ。


(でも、何故ノルドに来ているんだろ)

「よっ!ティア久し振り。

 旅してんだな」

「したというか~家が消えてたというかぁ」

「ハハハ、なんだそりゃ、でも見ないうちに随分とまぁ、

 顔つきが逞しくなったな」

「大人っぽくなったでしょ?」

「……」

「いや、黙らないでくださいよ!」


 私とイーサンさんのやり取りに、

 テゥリーさんは「お二人はお友達なのですか?」なんて微笑む。


「そうです、俺がコイツに地図をあげて、

 旅をしようか迷ってる後押しをしてやったんですよ」

「はい。ホントに、あの時は助かりました」

「そうなのですね、やはり貴方もアイロラさんの魔法の技術を見込んで?」

「魔法?」


 私の背中に背負っている大杖とゴーストイーターさんを見て、

 「うわ!お前両方使うのか!器用なやっちゃの~」なんて目をまん丸くして感心する。


「てか、キモイ剣はお前が買ったのか。

 物好きだな」

「私の相棒です」

《相棒と言うか、親だよな。手がかかるぜ》

「何も言えねぇです……

 でもイーサンさんはこんな所にどうしたのですか?」

「逃げて来たんだよ」

「逃げて来た?」

「巨人とウィッチが、向こうの大通りに居たんだよ。

 ティア達も逃げて来たんじゃないのか?」

「いや、私達は――」

(そういえば、他の人に言っていいのだろうか)


 テゥリーさんに目をやると、彼は「アイロラ様のお友達なら、構いませんよ」と頷いてくれた。


「ある場所まで素材を運んでいるんです」

「そうか、でも二人でここを通るのは心配だし俺もついてくよ」

「フッフッフー、こう見えてドラゴンを倒したんですよ?私。

 それにノルドについた時は巨人も」


 イーサンさんは「そうなんだなぁ、凄い凄い」なんて、

 信じてないのか子供を相手するように暖かい目になる。


「ホントですよ!」

「分かったって。はいはい」

(ム〜、絶対嘘ついてるって思ってるよね!)


 と、その時だった――


「イーサンさん!」


 振り下ろされる巨大な棍棒に、“私”はイーサンさんを間一髪引き寄せて守る。


「テゥリーさん走りましょう!」

「いや、囲まれたな」


 今までには無かった岩壁が、

 知らない間に“私”達を囲んでいた。


「アイロラ様!空に魔物が」

「ッツ――」


 ウィッチだった。

 人型のその姿は、ノヴァラを脳裏に過らせて、考えるよりも先に身体が動き、

 手に入れたばかりの大杖を構えた。


「囲め。

 重ね、閉じろ。

 鋼の檻となりて守れ――」

「アイロラ様!」

「テゥリーさんは待っていてください。

 ――スティール・ドミニオン!」


 青ざめるテゥリーさんを、半球状の壁が覆う。

 その判断にイーサンさんは「ナイス」と背負っていた大剣を構えて“私”の隣に来る。


「俺はこの通り近接しかできない、

 だからティアは浮いてるウィッチを頼む」

「分かりました」

「魔法唱えてるけど行けるか?」

「余裕です」

「ティアからそんな言葉を聞けるなんてな」


 イーサンさんは口角を上げて、腕の装置からワイヤーを放ち、巨人の頭上へ飛び上がった。

 その動きをいち早く察知したのがウィッチだった。

 ウィッチは杖を向けて魔法を放つが、“私”の浮遊魔法で飛ばされた岩の塊で塞がれた。が――


「ティアァァァァア!」


 スリンガーで空に飛んでいたイーサンさんが、

 砕けた岩の破片に当たりそうになり、地面に降りる。

 この時、“私”は思い出した。

 自分が絶望的に、協力が苦手な事を。


「つっ、次こそ!」

(巨人とウィッチがいる以上、

 下手に攻撃すれば、私の魔法がイーサンさんに当たるかもしれない。

 視野の狭い私は、彼を守ることに徹しましょう)


 巨人が棍棒を横に振り、走るイーサンさんを狙う。


「囲め。

 重ね、閉じろ。

 鋼の檻となりて守れ!

 スティール・ドミニオン!」


 地面から鋼の壁が反りたち、迫る棍棒を防いだ――が。


「ティアァァァァァア!!」


 棍棒を跳んで避けようとしていたイーサンさんが、

 私の出した壁に激突してそのまま地面に叩きつけられた。


「もー!ティアは何もするな!お兄ちゃんが全てやるから!」

《そりゃ言われるわな》

「はあ……」


 イーサンさんは、ウィッチの攻撃をスレスレで避けて、巨人に近づく。


「初めに自分の武器を仲間に教える辺り、

 誰かとの共闘に慣れているんですね」

《それが普通なんだよ、

 独りで戦えるティアが異常なんだ。

 見てみろ、アイツは逆に一人で戦うのに慣れてねえから、二匹に苦戦してやがるぜ》


 確かに、イーサンさんは巨人に近づけたと思えば、ウィッチの攻撃で遠ざけられていた。


《てか、ウィッチでも巨人と息を合わせれてるのに、お前……》

「魔物以下だと?」

《カカッ!》

「魔物同士が力を合わすって、おかしいですね。

 ふつうそんな器用なことできないはずなのに」

《それはどうでも良いけど、アイツ死ぬぜ?》

「でも私、動いたらまたヘマをするし」

《蔓でアイツをこっちに戻して、お前がいつもみたいに戦えばいいんだよ》

(なるほど、それなら怒られなさそうだ)


 私の魔法で伸びた蔓がイーサンさんを引き戻し、テゥリーさんを覆う壁のそばに降ろした。

 腕を組んでじっとこちらを見る彼の不機嫌そうな顔に、“私”は思わず視線をそらした。


「ティアちゃ〜ん、どういうこと?」

「ヒィッ!こ、交代です!」

「危なくなったら、すぐ手を貸すからな」

《完全に信じられてないな》

「私の考えが合っていれば、直ぐ終わるんです。

 イーサンさん――」


 呼ばれたイーサンさんはこちらを見る。

 私は、人差し指を立てる。


「一分。テゥリーさんを守ってください」


 出していたテゥリーさんを守る壁を解除する。


「ゴーストイーターさん、手を貸して貰いますよ」

《勘弁してくれ~》


 片手でゴーストイーターさんを握り、大杖に魔力を込める。

 ゆっくり息を吸い、静かに詠唱を始めた。


(闘技場での戦いで、空飛ぶドラゴンの経験を経て、

 浮遊魔法は使いこなせば無敵じゃないかと思った)

「地は我を拒み、

 空は我を選んだ――」


 歩きながら、ふわりと足が浮く。


(物を飛ばす原理を、自分の身体に置き換えるだけ。

 この浮いた身体をそのまま魔法で前へ撃ち出せばいい)


 巨人は棍棒を大きく振り上げ、

 ウィッチは私の解放される魔力に、構えていた杖を下ろす。


「鎖は断たれ、

 墜落は許されぬ――」


 巨人の振り下ろされる棍棒に、

 “私”はゴーストイーターさんの刀身を肩に乗せ、姿勢を低くする。

 ウィッチは背を向けて姿を消して逃げた。が、“私”の眼は確かにとらえていた。


「――解放。

 リヴァイテーション」


 静かに唱えたその刹那。

 残像を残し。次に、二人の目の前に“私”が見えた時には、全てが終わっていた。

 棍棒も、ウィッチも、巨人も、全てが真っ二つになっていた。

 

 何が起きたのか分からないイーサンさんは、

 現実離れした戦いに、言葉を失い、ただただ“私”を見つめていた。


(これからは、ゴーストイーターさんのみの方が楽でいいかもですね……)

「えへへ。目が追い付きませんね」

「お前、あのティアだよな?

 ……戦闘狂にはなるなよ?」

《お前何でそんな強いのに、二人になるとあんな弱くなるんだ?不思議すぎる》

「コミュ障は、顔色をうかがうのは得意ですけど、

 息を合わせるのは絶望的に苦手な生き物なんです」

《分からね~》

「分からねえ」

「分からなくていいですよ。ってこれ――」

(この入れ墨の紋章、ノルド大陸に上陸した時の巨人にもありましたね。

思えば、この巨人の種族も、その時のヤツと一致する。もしこの紋章が、組織のマークだとしたら?)


 足元に倒れてる巨人の首元に彫られた入れ墨に、

 “私”は見て見ぬ振りもできず、すぐさま二人に聞いてみた。

 

 肩をすくめるイーサンさんに対して、テゥリーさんは安堵の表情が一変し、

 辺りを見渡すなり、「基地に着いたらお話しします」と急いで荷車を引き始めた。


「ここは危険かもしれません」


 テゥリーさんの一言で、戦いが終わった安堵は消え、森の静けさまで不気味に感じられた。

 荷車の軋む音ばかりが耳につき、あちこちから見られている気がして、

 “私”は荷台に上がり、両膝を抱えた。

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