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良い旅を、旅人さん  作者: 江戸前餡子
秋の章

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18/59

17話目 はき違えた「強さ」

「はあ……着いた——サジィ村」


 一週間馬車を乗り継いでやっと着いた。

 はじめは意地を張り自分で金を出していたが、途中で全財産を使い果たし、

 結果ベルカにお金を借りることに。

 

(野営しながらでも歩いて行けばよかった……)

「馬車、高すぎでしょ」

「ノルドは魔物が多いから、馬車を引く業者が少ないんだよ。

 必然的に、値段もつり上がる訳よ」

「乗り心地悪いのに……詐欺だよ詐欺!」

「言うねえ」


 ノルド大陸の魔物は、基本的に巨大なせいで、

 地面はその魔物達の足跡で凸凹していて、

 馬車はガタンゴトンと揺れて、終始木の床に腰を打ち付けていた。


 腰は痛いわ、止まらないこの男の話で耳は痛くなるわで、まさに生き地獄だった。


「お金があったら宿屋で眠りたいものだね」

「金、かそっか?」

「い・ら・な・い・で・すー!」


 お金を借りてしまった以上、

 ついてくるこの男を強く追い払うことも出来なくなってしまい、

 “私”はため息しか出なかった。


「シャーマンならこっちだぜ。お嬢さん」

「ッチ」


 ホビット族が住むサジィ村は、とにかくおとぎ話に出てきそうな村だった。


 スピちゃんと“私”が出会うきっかけをくれた、グランさんの家もそうだったけれど、

 ホビット族は、やはり精霊と共存して生きていく種族だったから。

 木や切り株に、窓とドアが付いた可愛いお家しかなく、

 雪が降ったらどうするんだろうと思ったが、

 ベルカ曰く、火の精霊が溶かしてくれるのだとか。


「ここだよ」

「ドアに、黄色い大きな葉っぱが張られてるね」

「あ~こりゃ留守ってことだ。因みに赤は看病中、緑は居るって事になる」

「へ~」


 すると、「人族のお二人さん、良いところに来たよ」なんて突然背後から声がした。

 ”私”達が振り返ると、背中が丸まったお婆ちゃんが、こちらを見ていた。


 「あらあら、アイロラの子かい」


 お婆ちゃんは目を丸くした。


「誰ですか?」

 

 ポカンとする“私”を、ベルカさんは肘でついて「シャーマンの婆さんだよ」と耳打ちした。

 その時初めて“私”も目を丸くする。

 

(そうか、ザハールさんも魂を宝玉に収める為にここに訪れたって言ってたな。

 お母さんも同行してたんですね)


 “私”の顔を見て、お婆ちゃんも何か察したらしい。

 頭を少し下げて「来るのを待っていたよ。あ、ワッチはナンヌ・ヘーク」と目を細めて微笑む。


「お父さんが、私が来るって言っていたんですか?」

「そうさ、もし僕の事で訪れたら話してやってくれとね」

「そういえば手伝ってくれって、どうしたんだい?お婆ちゃん」


 ベルカさんにお婆ちゃんは手を叩いて、

 「そうだったそうだった!」なんて“私”の手を引っ張りヨチヨチと早歩きをした。


「この時期は、勇者ザハール・バローの像の掃除をしていてね。

 その娘が来てくれてよかった。二人で綺麗にしてくれないのかい?」

「はあ……」


 急いだ様子だったから、大事件なのかと思いきや、

 銅像の掃除で、“私”は少しあっけらかんとした。


 銅像も、二頭身のホビット達にとっては大きいのだろうけれど、

 “私”達にとっては、普通のサイズで、数時間でキレイに出来そうだった。


「ここの村の者たちも、みんな歳でねえ。もう大変さ」

「立派な像ですね」

「ウッドグレイン一家のおかげさ。今は何処に行ってるのやら」

「リーフさん達が作ったのですか、凄いですね。

 あの人達なら東にあるエスト大陸でお家を建てて暮らしてますよ」

「あんれまあ。そうだったのかい。あの一家とも知り合いだったなんて、

 さすが勇者の娘だね。ハッハッハ!これを綺麗にしてくれたら、

 褒美に何でも除霊とかしてあげるよ」


 と言って、“私”達の返事を聞かずにみんな家に戻ってしまった。

 ベルカは鼻で息を吐き、実にめんどくさそうに肩を落とした。


「やりますか」

「へいへい」

「魔法さえあればなあ……」


 そうぼやく“私”に、ベルカも同意するかと思いきや、

 「あのなあ。勇者様に感謝の気持ちを込めて手で掃除しろよ」なんて彼は、たわしを手に磨き始めた。


「めんどくさがり屋の貴方が、そんなこと言うなんて珍しい。

 しかも勇者様だなんて。何かしてもらったの?」

「なんだ?真面目な俺の事が好きになったのかな?」

(こういうところが、イラっとするんですよね。真面目に聞いてるのに!)


 “私”は「何でもない!」と、空のバケツを持って井戸へ行くことにした。


「もう!なんなの?ベルカって!ホント訳わからないー!」

《でも楽しそうじゃねえか。素が出てるように見えるけど?》

「はっ、はあ?な訳ないでしょ!それ以上変な事を言うと、ナンヌさんに除霊してもらいますよ」

《カッカッカ!怖いねえ~》

「まったく——って重い……」


 魔法の杖を持っていれば宙にバケツを浮かすことができるのだけれど。

 あいにくそれがなく。私は大きなため息を一つ。


「素手で魔法を出してみますか」

《怪我しても知らねえぞ?ノヴァラの手を見ただろ》

(確かにそうですけど……)


 恐る恐る詠唱してバケツを触る。その瞬間だった。

 バケツは浮くどころか、凄い勢いで空へ飛んで行ってしまった。


《あーあ》

「無重力とはいったい……って誰にも見られてませんよね?」


 見られてました。それも、一番見られたくなかった相手に。


「ダハハハ!おいおい、お嬢ちゃん。

 水の入ったバケツを曇り空に飛ばしても、青空にはならないぜ?

 それとものどの渇いたお天道様に水でもあげたのかい?」


 ケタケタと、お腹を抱えて地面に転げまわっている。

 “私”は恥ずかしさのあまり顔を赤くした。


「にゃんで居るんでしゅか!」

「ダハハハハ!恥ずかしいからって噛むなよ~

 全くかわいいやつだな。バケツ重たいだろうから手伝いに来たんだ」


 馴れ馴れしく頭を撫でるベルカさんは、

 井戸の横に置いてあったバケツに水を汲み、スタスタと歩いて行った。

 

「ふん!」

「怒んなよ、あの婆さんには言わないから」

「別に怒ってないし!」

「そうかい」


 ベルカとの会話はそこで終わり、そこからは黙々と掃除をする。

 はじめは嫌だと思っていたが、

 ベルカの事をなんとも思っていないせいか、

 今まで会った誰よりも、沈黙の時、気を使わなくて楽だったのは確かだ。


「はい、タオル洗っといた」

「おっ、サンキュー。そこの汚れとっといたから、別の場所頼む」

「ありがと、汚れ落ちづらくて大変じゃなかった?」

「まーな。こんな時ツヅカエデの葉を茹でたお湯があればな」

「取れやすいの?」

「そーよ、家庭の知恵ってやつよ」

「ふーん」


 どちらが指示するわけでもないのに、

 “私”達は同じタイミングで場所を変えて、

 バケツの位置を、お互いのいい場所に置きあっていた。


 蹲りせっせと擦る私を横目に、

 ベルカは「お嬢ちゃんって勇者様の娘だったんだな」なんて口を開いた。

 いつもの軽口かと思ったが、真面目な声色に、

 “私”は彼が今どんな表情をしているのか想像できて、手が止まる。


「そうですよ。勇者の娘がこんなんでガッカリしましたか?」

「いや。別に」


 横目でベルカの方を見る。

 像を眺める彼の横顔は、祈りとも怒りともつかない息苦しさを抱えていた。

 妙に、置いてかれた“子供”みたいに見えた。


 そんな顔を見た瞬間、初めて会った時の、

 あのふと見せた表情が脳裏を過り“私”は、聞けなかった。


「お父さんとは小さい頃の記憶がないの。

 別のお父さんの記憶はあるんだけどね」

「そう……なのか?」

「そうなの。旅してるうちに分かったんだ。私の本当のお父さんが勇者ってこと。

 勇者一行の旅が終わった時に、お母さんと勇者は別れてから、私が産まれたみたいなの」

「……」


 彼は不思議な人間だ。読めない。

 自分のことでも相手のことでも、話が深くなると、ベルカの軽口は止まる。

 踏み込み過ぎれば、あの大楯を構えるように、心を閉ざしてしまいそうだった。

 短い付き合いだけれど、それだけは分かった。


「ベルカって変な人」

「んだよ急に」

「べーつに、でもそんな貴方と一緒に居るのは楽でいいかもね」


 ベルカはフッと笑い、冗談や皮肉を言うわけでもなく、

 「嬢ちゃんも充分変わってるよ」なんて綺麗になった像を見て全身を伸ばした。


「なにそれ、あと、ティア・アイロラだから。

 嬢ちゃんじゃないからね!」

「へいへい、ア(・)イ(・)ロ(・)ラ(・)」


 馴れ馴れしく名前で呼んでくるのかと思いきや、

 苗字の方で呼ばれて、“私”は少し見直すのだった。

 そういう距離感は分かる人間なのだと。



「ありがとうねえ」

「いえいえ、お力になれて良かったです」

「まずはお茶でも飲んでゆっくりしなさんな。

 腕輪の事で来たんだろ?」

「それもお父さんですか?」


 “私”は無意識に、手首の腕輪に触れていた。

 ナンヌさんはその深い青の腕輪へ視線を向け、静かに言う。


「いいや。違うよ」


 そう言って背を向けると、「準備が出来たら、言う」と肩越しに言って、丸いガラスがはめ込まれた木のドアを開けた。


「ベルカは来る?」

「は?普通誘わないだろ。アイロラだけで行きな。

 俺はここで待ってるからさ、

 それとも寂しいのかな?ん?お兄さんが居ないとダメなのかい?」

「別に、この後も別にお兄さんが居なくても良いのだけど」


 ティーカップに口を付けるベルカは、

 「金を貸してるのを忘れるなよ」なんて私の額にデコピンをした。

 扉から香ってくるお香に、二人は目を瞑りしばしの休息をする。

 

「ティア、準備が出来たから入ってきな」


 ナンヌさんの声が扉越しに聞こえて、“私”はゆっくり瞼を開いた。

 椅子のクッションがフカフカで、それだけで少し眠りについてしまった。


「だってよ、行って来いよ」

「はいはい、アイロラさんは行ってきますよ~」

(スピちゃんとは、あれ以来会っていない。

 久々に会ったと思えば、お別れって……

 怒ってなきゃ良いんだけど)


 強張りそうになる表情だったが、

 私は口角を上げて、向かいに座るナンヌさんにならって、座布団に正座した。


「そんなに怖い顔するんじゃないよ」

「分かっています。笑顔で居なくちゃいけないっていうのは……

 でも、怖くて。勇者(おとうさん)だったら、きっと前を向くのでしょうね。こういう時でも」

「ザハールも宝玉に魂を移す時は、顔を青ざめさせて全身を震わせてたよ」

(私は怖かった。

 スピちゃんが居たから、ここまで頑張って歩いてこれた。

 けれど、居なくなったら。独りになったら——重いなあ。逃げたい)


 これからは、一人で、勇者さえも手を付けなかった種族の間の問題に足を踏み入れるのだ。

 “私”はドアの向こうに居るベルカの方を自然と向いていた。

 

(ダメダメ!もう一人で何でもできるようになったのだから。

 甘えちゃ駄目だ。

 またお母さんに怒られちゃう)


 深呼吸して。折れそうになる心を奮い立たして。腕輪を渡した。

 渡してしまった瞬間、あげる口角が崩れそうになるが、手を握りしめてこらえる。


「じゃあ、始めるよ」


 ナンヌさんは鈴の付いた大きな葉っぱを振る。


 シャンッ。シャンッ。シャンッ。


 古代の精霊族の言葉で、淡々と、抑揚なく紡がれる詠唱。

 それにこたえるように、青く透き通った腕輪は光り、そして——


「スピ……ちゃん?」


 腕輪から、小さな光が、フラフラと飛び出して、スピちゃんは姿を現した。

 文殿(ふみどの)で見たあの姿のままで立っていた。


 ”私”は思わず立ち上がり、別れたくないという気持ちからか、右手が伸びる。

 が、左手でそれを押さえた。


「やっ、やっほ……ティーちゃん」

「スピちゃん、私」


 “私”の声に、スピちゃんの笑顔が崩れて、

 彼女は“私”の胸に飛び込み、大粒の涙を流して泣き出した。

 何を言ってほしいのか、痛いほど分かる。

 その言葉が、喉元まで出かかっていた。


(でも、お互いに、別の立場から向き合わなきゃいけないのでしょう。

 今は、今だけは―― 一人で頑張らなきゃ……

 私は怖がりの卑怯者だな。

 本当は拒絶されるのが怖かったのだ。

 だから——)

「もしさ。一緒に旅に出れたら何処へ行きたかった?」


 出かけた言葉を変えた。

 臆病で卑怯だから踏み込めなかった。


 スピちゃんは“私”の胸から顔をはなして、

 涙で濡れた顔を、袖で拭いて顔を引き締める。


「旅に出られるのなら、精霊祭の花畑をティーちゃんと一緒に見たい!

 ……旅に出ようね」

「うん、絶対に!」


 「その為にも、私は玉座に戻るよ」というスピちゃんは、笑顔だったけれど、瞳には、不安の色が揺れる。


「お互いに、終わらせよう」

(本当は行ってほしくなかった。

 だって、お互いに支え合っていけばいいのだから。

 なんで別れなきゃいけないの?)


「だね!」


 その不安の無くなった笑顔は―― 眩しかった。


(私も、そんな風に笑えたら。

 どうしたらそんなにすぐ気持ちを切り替えられるの?) 

「スピちゃんの笑顔が好きだった——」

(駄目だ。言ったらきっとスピちゃんはいけなくなる。

 我慢しなきゃ……スピちゃんを前に向かせるために!)


 言葉を噛み殺し、感情を殺し。


「その笑顔でたくさん助けられたよ。ありがとう」


 笑顔を塗りたくった。

 嫌いだ。自分が。


 スピちゃんはそんな“私”に、何も言わず。

 「ティーちゃんは優しいね」そう一言だけ残し、

 集まる精霊たちと共に消えていったのだった。


 追いかけたくなる右手を、左手で押さえて、見送る。


「これで良いんだよ。そう、これで良いんだ私。こうじゃなきゃ」


 自分に言い聞かせるような言葉に、

 ナンヌさんは目を細めて「魔物達とは違って、ワッチらは知恵と言葉がある。弱さを補い合って力を合わせられるのが美徳なんだ」と静かに写真を渡す。


「お父さんの写真?」


 旅支度の仲間たちが、肩を寄せ合って写っていた。

 その真ん中で、お父さんはお母さんに肩を組まれ、少し照れたように笑っている。

 周りの人たちも、みんな楽しそうだった。


「独りで抱え込むのは立派だけどね、強さとは違うんじゃないかな?

 ティア。勇者がそうしたように、仲間を作りなさい」


 膝から崩れ落ちる“私”を後ろに、ナンヌさんは部屋を出て行った。


「なら!あの時一緒に居て欲しいって言えば良かったんですか!

 前に進もうとしていたのに、引き留めることになるのに!」


 抑え込んでた感情があふれる。

 子供の私には、大人たちのいう事の正解も間違いも分からなかった。


「しょうがないじゃんか!嫌われたくなかったんだよ!

 怖いんだもん。本当は……一緒に居たかったよ」


 写真の裏には、ただ一言。

 恐らくお父さんが書いたのだろう。


—— ごめん。 ——


 そう綴られていた。

 

 何を書こうか迷ったのだろう、

 "ごめん"の後ろには何度も消した跡があり、

 一言に多くの意味が含まれているようで。重たく感じた。



「私はただの、始まりの村の案内人をしてた少女だったのに……」


 その時、ミアさんの踊りが脳裏に浮かび、言葉が耳の奥に蘇った。


—— 旅は万華鏡のように新しい景色を見せてくれるわ! 

 えぇ。ティアの思っている通り、怖いことも悲しいこともね。

 でも、その景色があるから成長できるのよ ——


 ミアさんは、いつも逃げ道を塞ぐみたいに、

 “私”の背を押してくれて優しかった。


(立ち止まる理由なら、いくつもあった——)


 “私”は唇に触れて、ノヴァラとの激しい戦闘を思い出す。

 クリャトナ族の口づけは、好きな相手の居場所を把握するための行為。


 なら、“私”はもうすでに。必然と。やるべきことが決まっていた。


「旅を楽しむ時間も、立ち止まれる場所も、もうどこにもない——」


 膝が震えて、力が入らない。

 床に置いていた手だけは離せなかった。

 立ち上がりたくなかった。

 けれど、このまま崩れているわけにもいかなかった。

 嫌になるほど重い背中を持ち上げる。


「成長しなきゃ」


 口にした瞬間、焦りと不安に胸が痛む。

 前の“私”なら、ここで座り込んでいただろう。

 成長って何なのか分からないけれど、それでも一歩——


 止まらない涙をぬぐい。息を整えて“私”は腕輪をはめた。



 家のドアには、黄色い葉っぱが貼られていた。

 ナンヌさんとベルカは、勇者の像の下に腰を下ろして話している。

 “私”が一人になれるよう、外で待っていてくれたらしい。


「すみません」


 “私”の泣きはらして赤くはれる目に、ベルカは一瞬顔を曇らせるが、

 直ぐに笑顔で「まったくだぜ、寒いったりゃありゃしねえ」なんておどけて見せる。


「あはは、ごめんって」

「笑ってるんじゃねーよ」


 立ち上がったベルカは私の肩を軽く小突く。

 ナンヌさんは“私”の前に立ち、「時空の精霊からの贈り物だよ」と、

 金色のホイッスルを手渡した。


「さっきワッチの前に現れてね、

 "私達もクリャトナ族と仲良くしたいから、力が必要なときはそのホイッスルを吹いてください"って

 渡されたんだよ。おどおどしてて、可愛らしい精霊だった」

(夏の間、私についていてくれた精霊さんも、おどおどした声でしたね)

「そうそう、魔法の杖が壊れたんだって?

 ここからすぐ近くにある、シャルム村が杖に詳しいから、一回行ってみると良いよ」


 ナンヌさんの言葉に、ゴーストイーターさんは《これで俺様が杖代わりにならなくて済むぜ~》なんて安堵の息を漏らした。


「分かりました。そうします」

《絶対そうしろ》

「それと、クリャトナ族の事を知りたかったら、

 おすすめはしないが、さらにその先にあるガイスト町に行くと色々しれるよ」


 町の名前を聞いた瞬間、ベルカの眉が跳ねる。

 ナンヌさんもそれを見て「本当に、おすすめはしないが」と念を押すように言った。


 踏み込めていれば、その意味を知っていたのかもしれない。

 けれど、この時の"私"には、まだその度胸はなく、

 見て見ぬふりをして、いつか町へ向かう決意をするのだった。


「まずはシャルムへ行きます」


 そう言ってベルカと歩き出した。

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