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良い旅を、旅人さん  作者: 江戸前餡子
夏の章

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9話目 妹みたいな弟子

「もう勉強なんてやだー!分からない!つまらない!」

(バルドさん、何処がお淑やかなのですか?

 可愛いのは分かりますが……)

「まあまあ、リコさん。確かに素質はあるので、今が踏ん張りどころですよ!」

「本当かぁ?」

「えぇ、魔法は感覚なんです」

(そう、感覚だから。教えるのは難しいのです)


 学校の先生でも、そればかりはサジを投げる程だ。


 リコ•ローハート、本名は別にあり、

 バルドさんの本当の子供ではないらしい。

 彼女は魔力はあるが、扱い方が分からず、

 弓を使っているのだとか……


「そうそう、魔法を出す時は、

 その素材を想像するのが良いって。お母さんが言ってました」

「想像か!なら得意だ!なんせ弓ってのは相手になりきって一歩先の行動が必要だからな」

(てっきり敵に突っ込むタイプかと思ってました……)

「なら、身近な水を出してみましょう」

「おう!水なら直ぐ想像できるぞ!」


 リコさんは手のひらを上に向ける。

 ムムム〜と、目を瞑り眉間に皺を寄せた。


「想像できました?」

「シッ!」

「すみません」


 しばらくして、二人のお腹の音が鳴り響く。

 流石にもう無理かと、思い口を開こうとした時だった。


「嘘……」


 手のひらから小さな水の玉を出した。


 無詠唱だ。


 リコさんもそれを見た時、驚きのあまり声が出ず、目を見開いた。


「おい。これ……スゲエ!

 詠唱もせずに魔法って出せるものなんだな!」


 消えないように、大切に両手で包み込み、頭上に掲げて目を輝かせる。

 その様子に、“私”も「できましたね!」と嬉しくなり微笑んだ。


「リコさんには水の精霊が着いているのかもしれませんね」

「せいれい?」

「ですです!無詠唱は、その人についてる精霊に出してもらうのです!」


 そこで、リコさんは「詠唱をする魔法使いも居るけど何が違うんだ?」と首をかしげる。


「良い所に気が付きましたね。

 詠唱型と無詠唱型でメリットとデメリットがあるのですよ?

 詠唱型は、

 魔力を自分で調整して、自力で出す方法

 このメリットは、いろんな種類の魔法が出せる事。

 デメリットは、無詠唱よりも長く、近接武器の相手に弱い所です」


 “私”は調整が苦手で、極端になるのだ。


「逆に無詠唱型は、

 想像した魔法を、好かれてる精霊に魔力を渡して、

 代わりに出してもらうっていう方法です」

「ワタシのだな!」

「ですです、

 無詠唱型のデメリットは、精霊に出してもらうので、

 精霊が得意とする属性しか出せない事です、基本的に一つしかありません。

 でもメリットもあり、詠唱型よりも短いスパンで魔法を出せるのです!」

「なら、私は水属性が得意ってことか?

 でも精霊と話したことなんてないぜ?

 いつ仲良くなったのだか……」

「精霊は、勝手についてくるんですよ。

 だから興味持ったり、気に入ったりした相手には、ずっとついてるのです」


 怖いのが、精霊は一途だから死ぬまで離れない所だった。


「精霊は人の心が読めるので、

 精霊に対して変なこと思ってなければ、ついてくるものなのですよ」

「ふーん、アンタは?」

「私は、勝手についてくるとか、

 一生付き纏うってストーカーさんみたいで、

 恐ろしいと思っているせいか、着いていません」

(そう言えば、スピちゃんに精霊の加護を貰った今なら使えるのかな?)

「これからは、水属性の魔法を練習しましょう」

「分かったぜ師匠」

「師匠だなんて、私はお母さんの教え方を真似てるだけですよ」


 すると、リコさんは不思議な顔をして首を傾げた。


「誰の真似かとか、そういうの関係ないんじゃね?

 上手く伝われば、それで良いと思うけど。

 師匠は難しく考えるな」


 “私”の背中をバシッ!と叩くなり、

 「そんなんじゃ人生楽しくないだろ」だなんて大声で笑った。


(人生を語るには、リコさんは若すぎるのではないんでしょうか……

 って、そう思うのが駄目なのでしょうね。

 彼女みたいに、単純に考えたほうが、

 いい時もあるのかもしれない)

「私も、リコさんに色々学ぶことが多いのかもしれませんね」

「さんをつけなくて良いよ、敬語もなし!

 リコって呼び捨てにしてくれ、家族なんだからさ」


 お淑やかはともかく、バルドさんの言う通り、

 リコは可愛く理解が早かった。


 出来の良い妹を持っているようで、

 素直に喜べない自分もいて複雑な気分になり、

 そんな自分が嫌いになる。


「師匠のお陰だよ!」


 そうは言ってくれるが、“私”のやる事は、魔法の本を渡しているだけで、

 後は教えなくても直ぐに習得して、嬉しそうに披露してくれた。


(師匠ってなんでしょうね……)


 アエリロマ島に着いた頃には、腰に片手用の杖をぶら下げていた。


「ここで何をするのです?」


 久しぶりの陸に、船員達が我先にと船から降りていく中、

 私とヨーンさんとリコは、三人で皆が降りるのを待った。


「ここで今回挑む古代遺跡ダンジョンの地図を買う、あと食料の確保」

「食料ですか?こっから近いのでは?」

「師匠はダンジョン攻略の基礎が分かってねえな」

(基礎……ですか)


 その時、埃をかぶった学生時代の記憶が蘇る。


「そっか、未開拓のダンジョンは、無理なく何日もかけて進める必要があるから。

 ダンジョンの近くにテントを張って、終わるまでそこで暮らすんですね」


 リコは「そういう事」と頷いた。

 

「地図っていうのは、ダンジョン近くに売られている物なのですか?」

「たまたまだよ。普通は売られてないけど、この島は情報屋が多いだけ」

「情報屋?」

「師匠それすら知らないのか!?

 ダンジョンの地図とかは普通開示されないから、情報屋があえて売ってるの」

「でも、嘘の情報も平気で売るから、気を付けた方が良いよ」

「何も知らなかったら騙されちゃいそうですね……」

「だから船長は、ありとあらゆる情報屋を回ったんだ」

(そんなにも、マリアさんとお付き合いしたいんですね)


 私は、誰かをそこまで熱く好きだと思えるバルドさんを、羨ましいと思った。


 海に囲まれた島と言えば、

 海賊や荒っぽい人達の怒声と酒瓶が飛び交っているイメージがあったけど、

 皆静かで、のんびりとした田舎の風が吹いていた。


 服屋に魚屋に武器屋、

 私の居た始まりの村の海バージョンって感じで、

 なんか落ち着いた。


「今は自由行動なんですか?」

「今と言うか、突入の日まで。つまり二日間は常に、ね」 

 

 ヨーンさんは「船長は信じているのさ」と肩をすくめる。


(家族だからこそ。ですか……)

「やることはやるからな!皆」

「私達はどうしましょうか」

「僕の仕事は地図を買う事だから、リコとティアも一緒に来るかい?」

「サンセー!」

「わ、私も賛成です!情報屋さんも気になるので」

「なら決まりだね」


 リコは手を挙げて「その前にナイフが欲しい!寄っていいか?」と、

 向かいにある店を指さした。


 武器屋では珍しく、ナイフしか売られてなくて、“私”も少し興味が湧いた。

 “私”の輝かせる瞳を見たヨーンさんは、「良いよ」と頷いた。


「リコ、ナイフって何に使うの?」


 店内には、装飾の施されたファッション用から、

 実戦用のものまで幅広くあり、どれも値段が高かった。


 戦いには向かなそうなうえに、

 そこまで使い勝手もよくなさそうなのに、

 片手剣と同じ値段で、“私”は買おうとは思えなかった。

 

「ナイフは、床や壁を突っついて罠を見つけたり、

 調理道具として使ったり、投げて使うんだよ師匠」

「へ~」

「リコは剣術の次にナイフ術が得意なんですよ」

「剣も!?弓も出来て魔法も使えて……

 もしかして、バトルマスターになれるんじゃないの?」


 リコは後頭部を掻きながら、

 「師匠にいわれると照れるじゃねえか」なんて照れ笑いを見せる。


「外の世界に行けば、

 自分の実力が試せて、もっといろんな体験ができるのかもしれないけど、

 私はとーちゃんの船で旅するのが一番好きなんだ」


 昔の“私”とは、発言が真逆だけれど。

 何故か“私”には、リコが昔の自分に見えた。

 「今のままで良いんだ」と呟く、

 リコの寂しそうな横顔がそう思わせたのだろう。

 

(誰かに背中を押してほしいのかなぁ。

 イーサンさんならどうするんだろう……)

「このナイフは良いな」

「そうだね」


 視線が落ちる“私”に、

 彼女は一本差し出す。


「師匠も一本持っといた方が良い、手の大きさとか、私と同じだし、お揃いにしようぜ!」

「ありがとう。リコとお揃いなら、私も買おうかな」


 誰かと装備をお揃いにするのは、学生時代からの憧れだったから、“私”の口元が思わず緩む。


 それにヨーンさんは、「二人とも姉妹みたいだね」なんてクスリと笑った。

 ナイフを買った“私”達は、次に情報屋へ向かおうとした時だった——


「あれ?とーちゃん?」

「おっ!リコじゃねえか!

 しかもヨーンにティアも。

 ダ―ハッハッハ!こんな偶然もあるんだな!」

「これから情報屋を回ろうと思いまして」

「安心しな、俺がここ以外回った」

「どうでした?」


 バルドは顔の前で手のひらを左右に振り、

 「嘘の情報が多すぎてひでえひでえ!」なんて豪快に笑う。


「一緒に行こうぜ!」

「そうしましょうか」

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