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主観的な

 ・杏華の解釈

 彼女の朝は早い。決して朝型人間というわけではないのだが、気が付いたときには大体、一階のリビングで朝食を取っている最中だ。


 ただ今の時刻は、朝の5時。

 これで朝方人間ではないと頑なに言い張るのだから、誠に困ったものである。

 堕落した毎日を過ごす、自由人たる私とは比べるべくもない。


 朝ご飯をものの10分で食べ終えた彼女は、これまた10分で着替えやら歯磨きやらを終え、バタバタと住まいのアパートを後にした。


 最寄駅までの道すがら、通りがかる人には目もくれず、彼女は歩みを進める。

 ちなみに今現在の私といえば、この猛暑の中、ぎらついた黒のサングラスをかけ、年齢の割に小柄な体型に合っていないのか妙にぶかぶかのレーザーコートを羽織った格好である。



 こそこそ隠れている時ほど、自分の存在に気付いてほしいと、心持ち、シグナルを発している。

  このシグナルというものは、何処の誰とも知らない人間にさえも受信される場合も稀にある。


  実を云うと、この私も、『受信』したことがある。


 そのように脳が『認識』している。


  受信した内容によると、彼女は東北の蔵王地方出身で、地域では有名な名家の出だそうだ。

  厳格な両親に心身ともに磨かれた彼女は、俗にいう幼いころからの生粋の淑女であり、才女である彼女の羞恥心はいつしか、愚昧な笑みを讃えた女たちの非難の目にさらされては消えていった。


 それも今は昔なのか。今の彼女は表向き、ただの庶民にしか私には見えない。私みたいな平凡人間にとっては、そんな庶民さえも羨ま……、いや、何でもない。


  少しうがった見方をすれば。


 平均的で無機質で、そのくせ打てども響かなそうであり。


 リアルというものはつくづく皮肉で理不尽で、エキセントリックな出来事の応酬が繰り返されるだけの唯々諾々といった日々が目につき。

それでいても、視界に飛び込んでくる現実という名の無生物はまるで己の化身のようでいて、その実、細工が施されていて。


 郷愁を孕む道化の権化。自然の摂理に従うために生まれた、やるせなさとあどけなさを一緒くたにした猜疑心の鉛。ゆらゆらゆれる二カラットのオパール。

蠱惑的なその眼は何を映し、捉え、捕縛するのだろうか。



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