第九話 真相への接近
「少しずつ話す、と言っただろう」
そう言って、カインがリディアを連れて行った先は、街の外れにある、うらぶれた酒場だった。
「こんな場所に、何の用が」
「会わせたい相手がいる」
奥まった席で待っていたのは、軽薄な笑みを浮かべた、細身の男だった。
「──よぉ、カイン隊長。随分久しぶりじゃないか」
「ダレル。時間を取らせて悪いな」
「いいっていいって。それより、そちらが例の……?」
ダレルと呼ばれた男は、興味深そうにリディアを見つめた。
「リディア・ヴァンスです」
「ああ、噂の。いやぁ、隊長がまさかヴァンス家の子と番になるとはね」
「ダレル」
低い声で名を呼ばれ、ダレルは肩を竦めた。
「はいはい、本題ね」
彼は声を落とし、真剣な顔つきに変わった。
「俺は、あの日……エイデン様が捕らえられた日、隊長の下で動いてた一人だ」
「知っています。カイン様から、少しは」
「へえ、話したのか。珍しいこともあるもんだ」
ダレルは、カインを横目でちらりと見てから、話を続けた。
「あの日の逮捕、随分と急だったんだ。上からの命令が下りてから、実行まで半日もなかった」
「……それは」
「普通、貴族の逮捕にはもっと手順を踏む。なのに、あの時だけは異様に早かった」
リディアは、息を詰めて聞き入った。
「エイデン様は捕まる直前まで、何かを調べていたらしくてな。神殿の記録保管室に、何度も出入りしていたっていう話がある」
「神殿の……記録?」
「詳しいことは、俺も知らない。ただ、隊長はずっと気にしてた。命令を止めようとしたのも、そのことと無関係じゃないと思う」
カインは、黙ったまま酒杯に視線を落としていた。
「本当なんですか」
リディアは、カインに向き直った。
「お兄様が調べていたのは、神殿に関することだったんですか」
「……確証はない。だが、その可能性はあると思っている」
「なぜ、今まで黙って」
「まだ何もわかっていない。憶測の段階だからだ」
その言葉に、ダレルが横から口を挟んだ。
「隊長は昔からこうなんだ。確証がないと、何も言わない。おかげで俺は、何年も蚊帳の外に置かれてたけどな」
軽口交じりのその言葉に、張り詰めていた空気が、僅かに緩んだ。
「もし、お兄様が神殿の何かを知って、それで消されたのだとしたら」
言葉にすると、背筋が冷たくなった。
「それなら、私とあなたの"番"も──偶然ではない、ということですか」
カインの表情が、はっきりと強張った。
「……その可能性も、考えていた」
沈黙が落ちる。
酒場の喧騒だけが、やけに遠く聞こえた。
「調べます」
「お兄様が何を見つけて、何のために消されたのか。知る権利が、私にはあります」
カインは、しばらく彼女を見つめたあと、小さく頷いた。
「……わかった。だが俺と一緒にだ」
その一言に、ダレルが茶化すように口笛を吹く。
「隊長も、隅に置けないねえ」
睨まれて、彼はすぐに首を竦めたが、その目はどこか安堵しているようにも見えた。
帰りの馬車の中、リディアは静かな決意とともに、拳を握りしめていた。








