↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拒めない結婚のはずが、兄の仇に何故か大切にされています  作者: あとりえむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/13

第四話 同居開始

レイヴンズウッド邸に、リディアの荷物が運び込まれたのは、それから半月後のことだった。


「本当に、これだけの荷物で足りるのか」


玄関先で、カインが箱の数を数えながら怪訝そうに呟く。


「これ以上増やしても、置く場所に困るでしょう」


「……足りない物があれば、遠慮なく言え」


そっけない口調だが、視線はきちんとこちらを向いていた。


(意外と、細かいところ気にするタイプなのね)


案内された部屋は、思っていたよりずっと広く、日当たりも良かった。マリエルが荷解きをしながら、感心したように部屋を見回す。


「お嬢様、これは……なかなか居心地が良さそうですね」


「そう、ね」


素直に頷けない自分に、リディアは少し呆れた。



夕食の席では、早速すれ違いが起きた。


「──辛いのは、無理だ」


カインが、出された料理の中から、香辛料の効いた一皿だけを、あまりに手慣れた様子でそっと避けているのに気づいたのは、給仕が下がった後のことだった。


その動きの自然さに、リディアは逆に引っかかりを覚えた。


(何年もここに住んでるはずでしょう。それなのに、なんで避け方だけが上達してるのよ)


「……もしかして、ずっとそうやって残してきたんですか。何年もこの家にお住まいなのに」


「……好き嫌いを口にするのは、みっともない」


「みっともなくはないと思います。むしろ黙って残される方が、行儀が悪いのではないでしょうか」


思わず口をついて出た言葉に、カインが僅かに目を見開いた。


「……そうか」


短い返事だったが、その後、彼が黙って残していた皿を、少しだけ口に運んだのを見て、リディアは内心で拍子抜けした。


(素直っていうか、単純っていうか……)


翌朝は、もっと分かりやすい衝突が起きた。


「なぜ、朝食の席に来ない」


「まだ六時ですわ。普通は、まだ眠っている時間です」


「騎士団では、これが普通だった」


「ここは騎士団ではありませんわ」


言い合いながらも、どこか噛み合わない掛け合いに、マリエルが横で忍び笑いを堪えているのが分かった。


(前世で言う"生活リズムが違いすぎるカップル"ってやつじゃない、これ)


その夜、リディアはなかなか寝付けずにいた。


慣れない部屋、慣れない匂い、慣れない静けさ。


(眠れない。ああ、これも前世でよくあったやつだ。環境変わると眠れないタイプなんだった、私……)


寝返りを繰り返すうちに、喉の渇きを覚え、リディアはそっと部屋を出た。


廊下は静まり返っていて、月明かりだけが床を淡く照らしていた。


その途中、庭に面した回廊で、椅子に腰掛けたまま眠っているカインの姿を見つけた。


書類を膝に乗せたまま、規則正しい寝息を立てている。


(こんなところで寝るなんて、風邪引くわよ。子どもじゃあるまいし)


近づいて顔を覗き込むと、昼間の硬い表情が嘘のように緩んでいた。


思いのほか、幼く見える寝顔だった。


しばらく見つめていたことに気づき、リディアは慌てて視線を逸らす。


(何、じっと見てたの、私。気持ち悪……)


踵を返しかけたその時、背後で衣擦れの音がした。


振り返ると、カインが薄目を開けて、こちらを見ていた。


「……すまない、起こしたか」


「いいえ。こちらこそ、勝手に覗き込んでしまって」


気まずさに、リディアは足早にその場を離れようとした。


だが数歩も行かないうちに、肩に何かがふわりとかけられる。


振り返ると、カインが上着を脱いで、それをリディアの肩にかけたところだった。


「廊下は冷える。風邪をひく」


「……あなたの方が、寒いのではありませんか」


「俺は、慣れている」


短くそう言うと、彼はまた椅子に座り直し、目を閉じてしまった。


肩にかけられた上着から、微かに彼の匂いがする。


(──なんで、こんなことするのよ)


心臓が、また勝手に音を立て始めていた。


自室に戻ってからも、リディアはしばらく上着を抱えたまま、ベッドの端に座り込んでいた。


(仇の家に嫁いだはずなのに。なんで、こんなに──あったかいの)


ぬくもりの余韻を感じながら、リディアはようやく、深い眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

t_title_novel.png
t_novel_ainado.png t_novel_ws t_novel_saihate.png t_novel_at.png
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。