↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拒めない結婚のはずが、兄の仇に何故か大切にされています  作者: あとりえむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/13

第三話 顔合わせ

約束の時間ぴったりに、カインはヴァンス家を訪れた。


応接間に通されたその姿を見て、リディアは思わず身構えた。


騎士服ではなく、簡素な平服姿。長身の体躯に纏う空気は、思っていたより硬い。


(愛想笑いの一つもできないタイプか。まあ、そのほうが分かりやすくていいけど)


「──カイン・レイヴンズウッドだ。此度は、よろしく頼む」


「リディア・ヴァンスです」


向かい合って座る間、沈黙が流れた。気まずさに耐えかねたのか、父ヴィクターが咳払いをして席を外す。


(お父様、逃げるの早すぎでは)


二人きりになった部屋で、カインはしばらく視線を彷徨わせていた。何か言おうとしては、口を噤む。その繰り返しだった。


「……その」


「はい」


「茶が、冷めている……済まない。長く黙り込んでいた」


ぎこちなく謝る彼を見て、控えていたマリエルが察したように、新しい茶を淹れ直しに下がっていった。


(別に謝ることでもないでしょ。何、この空気)


リディアは拍子抜けした。もっと何か──言い訳めいた言葉や、優越感に満ちた態度を想定していた。だが返ってきたのは、あまりにぶっきらぼうな気遣いだった。


ほどなくして、マリエルが淹れ直した茶を運んでくる。カインは落ち着かない様子で一口だけ口をつけると、リディアの分の茶器を、不器用な手つきでそっと彼女の手元へ押しやった。


「……お前は」


「はい?」


「兄君のことを、恨んでいるだろう」


不意打ちの言葉に、リディアは息を呑んだ。


「当然です。目の前で連れて行かれたんですから」


声が震えないよう、必死に抑えた。


カインは、しばらく黙り込んでから、静かに言葉を継いだ。


「……あの日のことは、いずれ、話す。今は、まだ言えることが少ない」


「意味が分かりません」


「分かるように、いずれする」


歯切れの悪い言葉だった。誠実なのか、はぐらかしているだけなのか、判断がつかない。


(何なのよ、その中途半端な言い方は)


苛立ちを覚えながらも、リディアはふと、彼の手元に視線を落とした。


指先に、古い傷跡がいくつも刻まれている。剣を握り続けた者の手だった。


「……ヴァンス家への支援は、あなたが?」


思い切って尋ねると、カインの肩がわずかに強張った。


「……知っていたのか」


「帳簿を見ました」


沈黙が落ちる。


やがて彼は、視線を逸らしたまま、ぼそりと呟いた。


「せめてもの、償いだと思ってくれればいい」


その一言に、リディアの胸の奥が、妙にざわついた。


(償い、って──)


問い返そうとした瞬間、扉が開き、父が戻ってきた。話はそこで途切れてしまう。


帰り際、玄関先でカインはふと足を止め、振り返った。


「次に来る時までに、同居の日取りを決めておいてほしい」


「同居する、ということですか」


「儀の成立後、半年以内が慣例だ。……嫌か」


「──」


嫌だと即答できなかった自分に、リディアは戸惑った。


馬車に乗り込む彼の背中を見送りながら、リディアは小さく息を吐く。


(償い、って何。あの人、本当に兄を売ったの? それとも──)


考えるほどに、分からなくなっていく。


ただ一つ確かなのは、あの不器用な手が、想像していたよりずっと──優しいということだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

t_title_novel.png
t_novel_ainado.png t_novel_ws t_novel_saihate.png t_novel_at.png
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。