第98話「手紙が、増えていく」
パカラ村に帰ってきた。
丘の上。グラドルが枝を揺らして迎えてくれた。
「おかえり、宝箱。海は、どうだった」
〝塩辛かった〟
「おまえ、舌があるのか」
〝ない〟
「ないのに塩辛いとは」
〝雰囲気で〟
グラドルが枝をゆさゆさ揺らした。笑ってるのか。
グリンが見張り台から飛び降りてきた。
「タカラぁぁぁ! おかえりぃぃぃ!」
〝ただいま〟
「村、また変わったぞ!」
門をくぐった。
……変わりすぎだろ。
前回帰った時は七十軒くらいだった建物が、百軒近くに増えてる。
そして——広場に噴水ができてた。
「噴水!?」
ガルドが目を見開いた。
「おい、いつの間に噴水なんか作ったんだ」
グリンが胸を張った。
「コボルト大工たちが、水路を引いてきて噴水を作ったんだ。スライムが水の浄化をしてくれるから、きれいな水が流れてる」
スライムによる水の浄化。噴水。コボルトの建築。
転スラのテンペスト、もう完全にこの方向だ。
「人口は?」
「五百八十二。前より七十増えた」
五百八十二。もう六百に近い。
サガが出てきた。
「おかえり。海の話、聞きたいの」
〝あとでまとめて報告する〟
「ドルトンからの速報は、もう聞いたかの。マリウスの復帰」
〝聞いた〟
「厄介じゃな」
〝厄介だけど、今は塔の解放に集中する〟
「そうか。おまえが決めるなら、それでいい」
サガが杖をとんと突いた。
◇
村の集会所で、各地からの手紙を確認した。
スミが手紙を読み取って、蓋裏に転写してくれる。
ナギからの手紙。
『タカラへ
砂漠の集落、人口百五十になった。増えすぎて家が足りない。
ドレイクが設計図を描いてくれてる。堅物のくせに几帳面で助かる。
砂鬼将がついに棒切れじゃなくて木の剣を自分で削り始めた。
本人曰く「素振り用」。でかい木の剣で毎朝振ってる。
蠍道士の研究が成果を出して、砂漠の水源を見つけた。
井戸が掘れそう。でかいニュースだ。
次の旅も気をつけろ。
ナギ』
ナギ、順調だな。砂漠に井戸が掘れるなら、集落が自立できる。
メブキからの手紙。
『タカラさんへ
芽吹の里、緑がどんどん広がってます。
翠兎たちが毎日走り回って、
焦土帯の北端まで草が届きました。
新しい魔物も来ます。翠鹿と翠鷹。
仲間が増えて嬉しいです。
灰港の長老とも交易を始めました。
長老、優しいです。
メブキ』
メブキ、手紙がどんどん上手になってる。翠鹿と翠鷹。新種が来てるのか。
知の王からの伝言。博士経由。
『第八百年と二十七日目。六百五十八巻目読了。チョンが来るのを、変わらず待っている。なお、大賢者の遺産については、断片的な情報を追加で発見した。次にタカラが来訪した際に開示する。——知の王』
大賢者の遺産の情報を追加で見つけた。知の王の塔にもう一度行く必要があるかもしれない。
潮音からの手紙——は、魚人族が海路で届けてくれた。貝殻の薄片に文字が刻まれてる。
『タカラへ
海、自由です。歌が響きます。
魚人族と一緒に暮らしています。
サンゴ礁がきれいに育ってきました。
潮見の街との交易も始まりました。
ミナトさん、いい人です。
チョンにも来てほしいです。
一緒に歌いたい。
潮音』
みんな——元気にやってる。
俺が各地で蓋を開けて、仲間を増やして、集落を作って——その全部が、今も動いてる。
パカッ。
……嬉しいな。
宝箱の中身が、あちこちに広がってる。でも繋がってる。手紙で。
◇
夜。
丘の上。
チョンが来た。
「タカラ。自分もさ、手紙書いてみたんだ」
チョンが紙を差し出した。
〝タカラへ
うみにいった
しおねさんにうたをきかせた
いっしょにうたった
ふねにものった
バルトさんがやさしかった
つぎのたびもいく
ぜったいいく
もっとうまくうたえるようになる
チョンより〟
〝ありがとう〟
収納に入れた。四枚目。大切に。
「えへへ」
チョンが走っていった。
パカッ。
パカパカ。
収納の中に、手紙が四枚。
……何通まで増えるかな。全部の塔を解放するまでに。
パカパカパカパカ。
◇
翌日。
レイスが村に戻ってきた。王都から。
顔色が悪い。目の下にくまがある。
「タカラ。緊急の報告がある」
〝座れ まず飯を食え〟
「飯より先に聞いてくれ」
レイスの声が切迫してた。
集会所に集まった。俺、ガルド、レグナ、ガウル、リーリア、サガ、グリン。チョンも端っこに座ってる。
「マリウスが動いた」
〝復帰のことはドルトンから聞いた〟
「復帰だけじゃない。マリウスが——第六の塔に、自分の部隊を送った」
…………。
〝先に行ったのか〟
「三日前だ。マリウス直属の魔導士部隊、二十人。カシスが指揮を執ってる」
カシス。海で追い払ったはずなのに、もう次に動いてる。
「目的は——大賢者の遺産の確保。マリウスが〝第六の塔の封印を解く前に、遺産を回収する〟と王に上奏して、許可を取った」
〝王が許可したのか〟
「した。マリウスの弁明が通ってる。〝大賢者の遺産は王国の財産であり、蓋を開ける者が無秩序に解放する前に、安全に確保する必要がある〟と」
「無秩序に解放する」。
俺が塔を解放することを——「無秩序」と呼んでる。
ガルドが歯を食いしばった。
「あいつ、こっちが塔を解放するのを妨害する気か」
「妨害ではない。〝管理〟だ。マリウスの言い分は〝秩序ある解放〟。タカラが先に行くか、マリウスの部隊が先に遺産を確保するか。時間との勝負になってる」
時間との勝負。
またか。
博士が言った。
『第六の塔に大賢者の遺産がある。それを先にマリウスに取られると——七つの塔の封印を操る中核装置がマリウスの手に渡る。そうなれば、タカラが第七の塔を解放しても、マリウスが封印をコントロールする立場になる』
〝つまり——先に行かないとまずい〟
『急いだ方がいい』
パカッ。
〝第六の塔は、どこだ〟
蓋裏を確認した。
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第6の塔:位置情報
大陸中央部の山岳地帯
天蓋の渓谷
* パカラ村から東に十日の距離
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東に十日。
マリウスの部隊は三日前に出発してる。七日のリードがある。
でも——マリウスの部隊は王都から出発してるはずだ。王都から天蓋の渓谷まで何日かかるかによる。
〝レイス マリウスの部隊は王都からどのルートで行った〟
「王都から南東。馬で十二日と聞いてる」
十二日。三日前に出発したなら、到着まであと九日。
俺たちがパカラ村から東に十日。
一日の差。
〝……ギリギリだな〟
「ギリギリだ。急がないと、間に合わない」
パカッ。
〝明日、出発する〟
全員が頷いた。
◇
【次回】第六の塔に向けて出発。マリウスとの時間の勝負。大賢者の遺産を巡る争い。第六部、完。




