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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第六部 潮騒の岬編

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第95話「歌が、海に還る」


 塔の中に戻った。


 ホールの水盤。潮音(しおね)が待ってた。


「おかえり。海の上、大変だったみたいね」


〝見えてたのか〟


「歌で感じてた。海の水が騒いでたから」


 歌で海の状態がわかるのか。


「あの男たち——鎖をつけた連中の仲間?」


〝そうだ マリウス派〟


「追い払ってくれたのね」


〝ガウルが蹴っ飛ばした〟


「ふふ。犬って強いのね」


 入り口のところでガウルが尻尾を振った。褒められて嬉しそうだ。


 リーリアが水盤の横で座ってる。アイの回復で、少しだけ魔力が戻ったらしい。チョンが隣にいる。レグナが蒼い炎をちろちろさせて立ってる。


「タカラ。封印を解いてくれるって、言ったわね」


〝言った〟


「お願い。解いて。私——海に帰りたい」


〝その前に〟


「何?」


〝一つだけ確認したい おまえは、封印が解けたらどうする〟


「海に帰る。魚人族と一緒に暮らす。歌を歌う。自由に」


〝消えるのか〟


「消えない。私はまだ生きてる。八百年、水の中で生きてた。封印が解けても、体は残る。私は——海で生きる」


 消えない。


 知の王と同じだ。消えずに残る。


 でも、知の王は塔に残った。潮音(しおね)は海に帰る。


 五人の魔王、五通りの結末。全員違う。



 ◇



 封印を解く。


 俺は水盤の縁に立った。蓋を潮音(しおね)に向けた。


〝解封〟。


 金色の光が——水盤に広がった。


 蓋裏が反応する。



 ──────────────────

〝解封〟──▶ 封印解除


  対象:第五の塔の封印

  状態:封印弱体化中(マリウス派の介入

     により構造が不安定)


  * 通常の解封では不安定な封印が

    崩壊する可能性があります

  * 安全に解除するには、

    封印の安定化が必要です

  * 安定化の方法:

    歌の魔力で封印構造を

    整えてから解除する

 ──────────────────



 ……歌の魔力で安定化させてから解除する。


 マリウス派が鎖で封印をいじったせいで、封印の構造が不安定になってる。このまま解封すると、封印が崩壊して、塔ごと壊れるかもしれない。


潮音(しおね) 封印が不安定だ 安定化するのに、歌の魔力が要る〟


「私の歌で安定化すればいいの?」


〝それだけじゃ足りないかもしれない おまえの歌だけだと、鎖の跡が残ってて、共鳴が乱れる〟


 博士が補足した。


『封印の安定化には、海の王の歌と、別の歌を合わせる必要がある。二つの歌が共鳴して、封印の構造を整える。鎖を外した時のチョンの歌と同じ原理だ』


 チョンの歌。


〝チョン〟


「うん」


〝また歌ってくれるか〟


「うん。歌う」


 チョンが水盤の縁に座った。足をぶらぶらさせて。


潮音(しおね)さん。一緒に歌おう」


「一緒に?」


「うん。俺が子守唄歌って、潮音(しおね)さんが海の歌を歌えば——一緒に響くでしょ?」


 潮音(しおね)が——くすっと笑った。


「チョン、あなた——歌の才能があるのかもしれないわね」


「才能? 俺が?」


「歌の本質は、一人で歌うことじゃない。誰かと一緒に歌うこと。あなたはそれを、最初から理解してる」


 チョンが照れた。


「えへへ……じゃあ、歌おう!」



 ◇



 チョンが歌い始めた。


 パカラ村の子守唄。三番まである。


 潮音(しおね)が——それに合わせて、海の歌を歌い始めた。


 二つの歌が重なった。


 子守唄のメロディに、海の歌のメロディが重なる。調性が違う。テンポも違う。


 でも——共鳴してる。


 二つの歌が、水盤の水を揺らす。波紋が広がる。波紋が壁に触れて、サンゴが光る。


 塔全体が歌ってるみたいだ。


「おい、タカラ」


 ガルドが横で俺を見た。


「俺も歌った方がいいか?」


〝おまえ、歌えるのか〟


「音痴だけど、声はでかい」


〝……声がでかいのは、たぶん役に立つ〟


 ガルドが——歌い始めた。


 ……うん、音痴だ。めちゃくちゃ音痴。


 でも、声はでかい。ホール全体に響くくらい。


 チョンが笑った。歌いながら。


 潮音(しおね)も笑った。歌いながら。


「ガウ! 俺もやる!」


 ガウルが——遠吠えした。


「アオーーーーン!」


 歌じゃない。遠吠え。でも、遠吠えにもメロディがある。犬のメロディ。


 レグナが蒼い炎を揺らした。


「我は声がないが——蒼炎に音をつけることはできる」


 蒼い炎が——歌い始めた。炎が揺れるたびに、低い音が出る。ぶうん、ぶうん、って。


 リーリアが手を合わせた。


「〝巫女の祈り(プレイヤー)〟——祈りの歌」


 リーリアの声が——澄んだ祈りの歌になった。巫女の祈りは、歌にもなるのか。


 アイがぷるんぷるん震えた。スライムの振動音。リズムを刻んでる。


 スミが——墨で床に音符を書き始めた。歌えないから、音符を書いて参加してる。


 シロ(仮)が蓋の上で耳をぱたぱたさせてる。リズムに合わせて。


 俺は——


 声がない。


 蓋文字しか出せない。歌えない。


 でも——


 パカッ。


 パカッ。パカッ。パカッ。


 蓋を、リズムに合わせて鳴らした。


 パカパカパカパカ。


 打楽器だ。


 俺の蓋がドラムになった。


 パカパカパカパカパカパカパカパカ。


 テンポを刻む。チョンの子守唄に合わせて。潮音(しおね)の海の歌に合わせて。ガルドの音痴に合わせて。ガウルの遠吠えに合わせて。レグナの蒼炎に合わせて。リーリアの祈りに合わせて。アイの振動に合わせて。


 全員の歌が一つになった。


 ホール全体が震えてる。水盤の水が波打ってる。サンゴが光ってる。貝殻の照明が明滅してる。


 塔が——歌ってる。



 ◇



 蓋裏に表示が出た。



 ──────────────────

  封印構造——安定化完了


  歌の共鳴により、封印構造が

  修復されました。


  解封を実行しますか?

 ──────────────────



 実行。


〝解封——実行!〟


 金色の光が——爆発的に広がった。


 水盤の水が光に包まれた。潮音(しおね)の体が光に包まれた。


 封印が——解けていく。


 八百年の封印が、ゆっくりと、ほどけていく。


 潮音(しおね)の体が——変わった。


 半透明だった体が、実体を取り戻していく。色が戻る。肌の色。銀色の髪の輝き。尾ヒレの青い鱗。


 完全な体。八百年ぶりの。


「あ……」


 潮音(しおね)が自分の手を見た。


「体が……戻ってる。私の体が」


 潮音(しおね)が——水盤から飛び出した。


 ホールの床に着地。尾ヒレがぴちぴち跳ねる。


「あ、地上だと歩けない……」


 人魚だから脚がない。ホールの床でぱたぱたしてる。


「ぷっ……」


 チョンが吹き出した。


潮音(しおね)さん、ぱたぱたしてる」


「笑わないで! 八百年ぶりに地上に出たの! 加減がわからないの!」


 魔王がぱたぱたしてる。


 ガルドが笑った。


「はは、魚だな」


「魚じゃないわ! 人魚よ!」


「あ、すんません」


 パカッ。


 ……シリアスな場面だったのに、一気にコミカルになったぞ。



 ◇



 塔の結界が——解けた。


 海水が、ゆっくりと、塔の中に入ってきた。足元からひたひたと。


「塔の結界が消えたか。海水が戻ってくるな」


 レグナが足元を見た。


「急ごう。塔が海に沈む前に出ないと」


潮音(しおね) 外に出よう〟


「うん。私も海に帰りたい」


 魚人族が塔の入り口に待ってた。泡を作ってくれた。


 全員が泡に入って——塔の外へ。


 海中に出た。


 潮音(しおね)が——泡に入らず、そのまま海に飛び出した。


 海の中で——人魚が泳いでる。


 銀色の髪がなびいてる。尾ヒレが光ってる。青い鱗がきらきらしてる。


 潮音(しおね)が——歌った。


 海の中で。


 自由に。


 歌が——海に響いた。


 サンゴが光った。魚が集まってきた。海流が穏やかになった。海全体が——潮音(しおね)の歌に包まれた。


 魚人族が、泣いてた。


「……海の王の歌が……戻った……」


「八百年……待ってた……」


「海が……歌ってる……」


 魚人族全員が、泣いてる。


 潮音(しおね)が泳ぎながら、俺の泡の前に来た。


 泡の外から、にこっと笑った。


 口が動いた。水の中だから声は聞こえない——けど、読み取れた。


 「ありがとう」。


 パカッ。


 泡の中でパカパカした。泡がびりびり震えた。


 潮音(しおね)が笑った。


 蓋裏に通知が来た。



 ──────────────────

  第五の塔の封印——解除

  潮音(しおね)(海の王)、解放完了


  * 潮音(しおね)は海に帰りました

  * 海の魔物の本来の力、解放

  * 海域の生態系が回復を開始します


  * 第六の塔の位置情報が

    解放されました

 ──────────────────



 五基目の塔。解放完了。


 残り二基。



 ◇



 海面に浮上した。


 泡が弾けて、船の甲板に上がった。バルトが持ち上げてくれた。三回目。もう慣れた。


「おう、終わったか。海がえらく穏やかになったな」


〝海の王が歌ってる〟


「海の王が——歌?」


「ガウ。聞こえる。海の底から。きれいな歌だ」


 バルトが海に耳を傾けた。


「……ああ。聞こえるな。昔、じいさんが言ってた。〝海が歌う日は、大漁の日だ〟って」


〝大漁か〟


「ああ。今日は——いい日だ」


 バルトが笑った。


 チョンが甲板に座って、海を見てる。


潮音(しおね)さん、嬉しそうだったね」


〝ああ〟


「ぱたぱたしてた時は面白かったけど」


〝あれは言うな 魔王の尊厳に関わる〟


「えへへ」


 ガルドが伸びをした。


「五基目かー。あと二基。もう少しだな」


〝もう少しだ〟


「でも——カシスが言ってたな。七つ全部解放したら何かが起きるって」


〝|魔王の王の封印が解ける、って博士が言ってた〟


「|魔王の王……。七人の上に立つ存在か」


〝伝承に過ぎないらしいけど〟


「マリウスがそれを知ってるなら、伝承じゃすまないかもな」


 ガルドの勘が当たる時は、だいたい嫌な予感が的中する。


 パカッ。


 ……まあ、それは後で考えよう。


 今は——五基目を解放した。


 五人の魔王を——それぞれ違う形で、救った。


 対話して。武で語って。知で語って。名前を入れて。歌を返して。


 残り二基。


 六番目と七番目の蓋を開ければ——全部終わる。


 ……全部終わった先に、何が待ってるかは、まだわからないけど。



 ◇



 【次回】海の自治集落の設立。潮見の街との連携。そして——パカラ村へ帰る。

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