第88話「宝箱の中身」
パカラ村に帰ってきて、三日が経った。
忙しかった。
村の運営報告、新入り魔物の紹介、各拠点への連絡、マリウスの動きへの対策会議、次の旅の準備——
俺は宝箱のくせに事務仕事が多すぎる。
「タカラ、食料の仕入れ表にサインお願い」
〝はいはい〟
ぺたり。蓋を書類に押し付ける。蓋文字の印鑑。もう慣れた。
「あと、砂漠の集落から手紙が来てるぞ」
〝ナギか〟
「ナギだ。スミに読ませてる」
スミ(墨液種スライム)が手紙の文字を読み取って、俺の蓋裏に転写してくれた。便利な子だ。
『タカラへ
元気か? こっちは元気だ。
砂漠の集落、順調だぞ。人口が百二十になった。
砂鬼将が毎朝素振りしてる。
剣がないから棒切れで。笑える。
蠍道士は地下にこもって研究してる。
何研究してるか聞いたら「砂漠の生態系」だって。
ドレイクは相変わらず堅い。でもいい奴。
次の旅、気をつけろよ。
ナギ』
ナギ、元気そうだな。砂鬼将が棒切れで素振りしてる、って面白いな。武器を預けたままなのか。
メブキからも手紙が来てた。
『タカラさんへ
芽吹の里、少しずつ緑が増えてます。
翠兎たちが毎日走り回ってて、
草が広がるのが早いです。
焦土帯の南端まで、もう少しで草が届きそうです。
メブキ』
メブキ、手紙書けるようになったのか。解封してからまだ数日なのに。
博士が補足した。
『翠樹人は知性が高い。解封すれば、すぐに言語を習得する。根のネットワークで情報を吸収しているのだろう』
根から情報を吸収する木。チートみたいな学習方法だな。
知の王からも——メッセージが来てた。
塔に常駐してる知の王が、博士を通じて。
『第八百年と三日目。引き続き読書中。千二百巻の本のうち、六百四十一巻目を読了。なお、あの子供——チョンが約束通り来てくれたら、大歓迎する。待っている。——知の王』
知の王、読書の進捗を報告してきた。律儀だな。
◇
事務仕事の合間に、俺は自分の収納の中身を確認した。
旅が長くなって、中身がだいぶ増えた。整理しよう。
蓋裏にリストを表示する。
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タカラ(パンドラボックス)の収納
【常駐者】
・博士(知の王の断片)
・アイ(スライム)
・スミ(墨液種スライム)※新入り
・シロ(翠兎)※新入り・蓋の上
【装備・物資】
・食料備蓄(約十日分)
・水備蓄(約三百リットル)
・防寒具一式
・テント・寝袋
・魔石備蓄
【大切なもの】
・チョンの手紙(三通)
・エルナの手紙(村の跡地に埋葬済み)
→記憶として保持
・亡霊公の骨
(埋葬場所未定)
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常駐者が四人に増えた。博士、アイ、スミ、シロ。
……宝箱に住んでる者が多すぎないか。
『快適だからな。あなたの収納は』
博士がいつもの声で言った。
「ぷるん」(居心地いい)
アイも同意。
「ぷるん」(仲間ふえた)
スミも嬉しそう。
シロは蓋の上だから収納の中にはいないけど、蓋を開けるたびに覗き込んでくる。
〝おまえらが快適でよかったよ〟
宝箱が居住空間になってる。
パカッ。
次にスキルを確認した。
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タカラ(パンドラボックス)
ランク:S+
基本スキル:
〝収納〟〝擬態〟〝蓋文字〟
〝解封〟〝査定〟
〝万蓋〟〝空間収納〟
戦闘スキル:
〝五連星〟
〝武装擬態〟
〝闘気纏〟
固有スキル:
〝禁忌の宝箱〟
知識スキル:
〝蓋裏辞典〟
収納コピー済み:
ファイアランス、フロストエッジ、
蔦操作、白い光弾、アローレイン、
暗殺者の刃、
ダークバインド、
尾撃砲、
砂獄牢
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第四の塔では新しいスキルは獲得しなかった。
でも——記憶を差し出して、塔の扉を開けた。それは、スキル以上の「成長」だ。
人間だった記憶を手放して、宝箱としての自分を完全に受け入れた。
俺は、タカラだ。
それで十分だろ。
パカッ。
◇
仲間の状況も確認する。
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仲間の戦力
ガルド(ホブゴブリン):A上位
〝覇拳〟〝真覇拳〟
〝覇受〟
レグナ(死霊将軍):S上位(魂98%)
〝蒼き炎の剣〟
〝蒼き炎の薙〟
〝蒼き炎の壁〟
〝蒼き炎の鎧〟
ガウル(ウォーウルフ):A中位
〝銀牙疾走〟
リーリア(巫女):支援
〝巫女の祈り〟
チョン(ホブゴブリン子供種):D+
棒術・初級(学習中)
「心の素質」
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チョンがD+に上がってる。出発前はDだった。
旅を通じて、半ランク成長した。戦闘力じゃなく「心の素質」で。灰の人型と対話し、知の王の試練を解き、灰守に言葉を届けた。
この子は——いつか、俺たちの中核になるかもしれない。
◇
そして——拠点の整理。
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タカラの勢力圏
西:パカラ村(人口512)
リーダー:ガルド
留守番:サガ、グリン、レイス
守護者:グラドル(大樹海)
東:砂漠の自治集落(人口120)
リーダー:ナギ
守護者:砂帝蠍
協力者:ドレイク、砂鬼将、
蠍道士
北:知の王の塔
常駐:知の王(本体)
役割:知識支援、チョンの師匠
南:芽吹の里(人口128+)
リーダー:メブキ(翠樹人)
守護者:翠兎群
回復中(緑化進行中)
王都:
協力者:セルディス(聖騎士団団長)
敵対者:マリウス(共存政策推進室長)
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四方に拠点がある。西、東、北、南。
王都に協力者と敵対者。
でかくなったな。
ミミックに食われて、ただの宝箱として目覚めた日から——ここまで来た。
パカッ。
◇
夜。
丘の上で、ガルドと並んでる。
「タカラ」
〝なんだ〟
「次の塔、海だってな」
〝海だ〟
「俺、泳げないんだけど」
〝俺も沈む〟
「ガウルは犬かき」
〝犬かきで海は渡れない〟
「レグナは骨だから浮くかもな」
〝骨は沈むだろ〟
「え、浮かないの?」
〝……知らん 博士〟
『骨の比重は水より大きい。沈む』
「沈むのかよ」
全員沈む。
「船がいるな」
〝船か〟
「ベイルのドルトンに手配してもらうか」
〝そうしよう〟
次の旅は——船で海に出る。
宝箱が船に乗る。
……ダンジョンの海底洞窟にいるミミックの気分がわかるかもしれない。海の底の宝箱。
ガルドが星を見上げた。
「タカラ。おまえ、旅の始めの頃と比べて、変わったな」
〝変わったか?〟
「ああ。前は、もっと……なんていうか、一人で抱え込んでた。全部自分でやろうとしてた。仲間に頼るのが、あんまり上手くなかった」
〝……そうかもな〟
「今は、博士に聞いて、チョンに任せて、ナギに託して、メブキを信じて、レイスに頼んで——色んな奴に頼れるようになった」
〝宝箱だから 中身が増えた分、頼れる先も増えた〟
「はは。うまいこと言うな」
〝うまくないよ ただの事実だ〟
ガルドが笑った。
「まあ、いいや。おまえがおまえでいてくれたら、俺はついていく」
〝ありがとう〟
「照れるな、宝箱が」
〝照れてない〟
「パカパカ速くなってるぞ」
〝うるさい〟
パカパカパカパカ。
星が、きれいだ。
グラドルの葉っぱの隙間から、いくつもの星が見える。
◇
翌朝。
村の広場で、みんなに報告した。
〝次の旅は、西の海へ行く〟
〝第五の塔が、潮騒の岬にある〟
〝海の王を、浄化しに行く〟
村の住人たちが、わいわい騒いでる。
「海! タカラ、海に行くのか!」
「宝箱が海に行くのかよ! 沈むぞ!」
「船がいるだろ、船!」
住人たちが心配してくれてる。ありがたいけど、ちょっとうるさい。
チョンが前に出た。
「俺も行くからね! 約束だし!」
村の子供たちが「いいなー」って声を上げてる。
サガが杖を振った。
「行ってこい。全部の蓋を開けてこい」
グラドルが枝を揺らした。
「帰ってこなかったら、根で引きずり戻すぞ。……西の海までは、根が届かないが」
〝気持ちだけ受け取る〟
グリンが叫んだ。
「タカラ! 村は俺たちが守る! 何があっても!」
レイスが敬礼した。
「王都の動きは、俺が見ておく」
パカッ。
〝行ってくる〟
蓋文字を、でかく出した。
〝全部の蓋を、開けるまで〟
——パカッ。
◇
第五部「焦土の果て編」——完。
◇
【次回・第六部】西の海へ。船に乗る宝箱。潮騒の岬と、海の王。そして——マリウスの計画が、いよいよ動き出す。




