第86話「にこにこの裏側」
灰港を出て、北東に向かう草原。
歩きながら、博士とマリウスの動きを分析してる。
〝博士 カシスの行動パターンを整理してくれ〟
『まとめよう。カシスの確認された行動は三つ。一つ目、焦土帯への道中でタカラたちと遭遇。〝全面支援〟の手紙を渡した。二つ目、灰港に先回りして、〝交易路の管理権〟を取ろうとした。三つ目、潮騒の岬について〝近づくな〟と住民に忠告した』
〝時系列は〟
『灰港が先だ。カシスが灰港に来たのは、タカラたちが焦土帯にいた頃。つまり——カシスは、タカラたちに手紙を渡す前に、先に灰港を押さえようとしていた』
先に灰港を押さえてから、俺たちに接触しに来た。
〝順序が大事だな〟
『大事だ。手紙を渡したのは〝友好的な接触〟に見せかけるため。本命は灰港の管理権だった。タカラが塔を解放して焦土帯が回復する——その恩恵を、先に確保しに行ったということだ』
マリウスは、俺の行動を予測してる。塔を解放すれば周辺が回復する。回復した地域の経済利権を先に押さえる。
政治家の動きだ。
「ガウ。あいつの匂い、灰港の道沿いにずっと残ってた。かなり歩き回ってる。街だけじゃなく、周辺の港や海岸線も調べてた」
〝海岸線も?〟
「うん。特に西の海岸を重点的に嗅ぎ回ってた匂いがする」
西の海岸。潮騒の岬の方角だ。
〝博士 マリウスが潮騒の岬で何かをしようとしてる、って考えていいか〟
『十中八九、そうだ。フロストの街では知の王の断片を引き抜いた。同じことを、海の王にもやろうとしている可能性がある』
海の王の断片も引き抜く。
フロストの二の舞。
『ただし——マリウスは筆頭を一時停止されている。以前ほどの人員と予算は使えない。銀環も捕まっている。実行力が落ちているはずだ』
〝じゃあ、カシス一人で動いてるのか〟
『カシスと、おそらく数人の弟子。大規模な部隊は編成できないだろう。だが——少人数でも、魔王の意識を引き抜く技術を持っていれば、脅威だ』
少人数で、技術だけで動く。ゲリラ的な動きか。
〝対策は〟
『三つ提案する』
博士が講義モードに入った。
『一つ目。先に潮騒の岬に到達すること。マリウス派が海の王に接触する前に、タカラが到達すれば、引き抜きを防げる』
〝時間の勝負だな〟
『二つ目。灰港の三者連携を使って、海の情報を集めること。灰港は海沿いの街だ。潮騒の岬の近くの海域について、漁師が情報を持っているかもしれない』
〝灰港の長老に頼んでおけばよかったな〟
『まだ間に合う。手紙を送ればいい。スミがいる』
スミ。墨液種スライム。手紙を書ける。
〝スミ、手紙を書いてくれ〟
「ぷるん」(了解)
スミが俺の蓋裏から出てきて、ガルドが持ってた紙の上に——するする文字を書いた。黒いインクが綺麗に流れていく。
灰港の長老宛ての手紙。潮騒の岬の情報を集めてほしい、という依頼。
「スミ、字、綺麗だな」
ガルドが感心した。
「ぷるん」(得意だよ)
次の宿場で、この手紙を灰港に届けてもらおう。
『三つ目の対策。セルディスに連絡して、マリウス派の海方面の動きを監視してもらうこと。レイスが王都にいるなら、レイス経由で頼める』
〝了解〟
三つの対策。速度、情報、監視。
全部同時に動かす。
「タカラ、俺たちって、いつから戦略会議みたいなことするようになったんだ」
ガルドが苦笑した。
「前は、ダンジョンで魔物と殴り合ってただけだったのにな」
〝仲間が増えると、やることも増えるんだよ〟
「管理職の悩みだな」
〝管理職って言うな〟
「でも実際そうだろ。おまえ、サインもしてるし」
〝ぐぬぬ……否定できない〟
パカッ。
まあ、いいか。宝箱の仕事は——中身を守ることだ。仲間を守るために管理するなら、それも仕事のうちだ。
◇
道中、チョンが隣を歩きながら質問してきた。
「タカラ、マリウスって人、なんであんなに色々やるの?」
〝権力がほしいんだろう〟
「権力って、何に使うの?」
〝……人を動かすのに使う〟
「人を動かす? タカラも人を動かしてるよ。ナギを砂漠のリーダーにしたり、メブキを芽吹の里のリーダーにしたり」
〝……まあ、そうだな〟
「マリウスとタカラの違いは何なの?」
チョンの質問が鋭い。
〝…………〟
何が違う。
俺もマリウスも、人を動かしてる。拠点を作り、リーダーを選び、連携を組んでる。
やってることは似てる。
でも——目的が違う。
〝俺は、仲間を守るために動いてる〟
〝マリウスは、自分の力を増やすために動いてる〟
〝やることが似てても、動機が違う〟
「動機、か」
チョンが少し考えた。
「じゃあ、動機が変わったら、タカラもマリウスみたいになっちゃう?」
〝……〟
鋭いな、この子。
〝ならないようにする〟
「どうやって?」
〝仲間に見ててもらう〟
〝俺がおかしくなったら、ガルドが殴ってくれる〟
「殴るのかよ。痛そう」
〝宝箱だから痛くない〟
「あ、そっか」
チョンが笑った。
ガルドが後ろから叫んだ。
「おい、俺の名前出すな。殴る役にされてるぞ」
〝適任だろ〟
全員が笑った。
パカパカ。
◇
ベイルの街が見えてきた。
もうすぐ帰れる。パカラ村に。
マリウスは動いてる。カシスは動いてる。潮騒の岬で何かが起きようとしてる。
でも——俺たちも動いてる。灰港と連携した。博士が分析してる。スミが手紙を書ける。レイスが王都を見てる。セルディスが支えてくれてる。
一人じゃない。
宝箱の中身が——でかくなってる。
パカッ。
◇
【次回】ベイルの街でドルトンに報告。そして、パカラ村へ。村が——また変わってる。




