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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第五部 焦土の果て編

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第84話「にこにこの使者」


 芽吹(めぶき)の里を出発して二日目。


 焦土帯を北に戻ってる。来た時より地面が冷めてて、歩きやすい。ところどころ翠兎が走った跡に、細い草が生えてる。焦土帯が、少しずつ変わっていく。


 蓋の上にシロ(仮)が乗ってる。まだ降りない。もう諦めた。


「ガウ。タカラ、前方から人が来る。馬に乗ってる。一人。人間の匂い」


 一人で馬に乗って、焦土帯に入ってくる人間。冒険者か、旅人か。


 近づいてきた。


 白い服の男。若い。二十代前半くらい。にこにこしてる。


 ……にこにこ。


 嫌な予感がする。


 男が馬を止めた。俺たちの前で。


「やあ、こんにちは。あなたが蓋を開ける者(オープナー)殿ですね?」


 丁寧な口調。綺麗な服。宮廷の人間だ。


〝誰だ〟


「失礼しました。私はカシス。マリウス様の使者として参りました」


 マリウス。


 やっぱりか。


 ガルドが一歩前に出た。拳を握りかけた——でも止まった。


「使者? あの宮廷魔導士の?」


「ええ。マリウス様から、蓋を開ける者(オープナー)殿への親書をお預かりしております」


 親書。手紙。


 カシスが懐から封書を取り出した。紫の封蝋。マリウスの印だ。


 ガルドが俺を見た。


「タカラ、どうする」


〝受け取るだけ受け取る 中身を見てから判断だ〟


 カシスが封書を差し出した。俺は蓋で挟んで受け取った。


 ……宝箱が手紙を蓋で受け取る絵面。カシスがちょっと戸惑った顔をしたけど、すぐにこにこに戻した。


 ガルドに読んでもらう。



 ◇



蓋を開ける者(オープナー)殿


 お久しぶりです。マリウスです。


 先日は、式典で不快な思いをさせてしまい、

 誠に申し訳ございませんでした。

 弟子の管理が不十分であったことを、

 深く反省しております。


 さて——良い知らせがあります。

 私は、自らの過ちを認め、

 宮廷魔導士としての職務を見直しました。

 そして王より、「魔物との共存政策の推進」を

 新たな任務として拝命いたしました。


 つまり——あなたと同じ方向を向いて

 歩むことになったのです。


 つきましては、あなたの活動への

 全面的な支援を申し出たく存じます。

 物資、情報、人員——必要なものがあれば、

 宮廷の力でお手伝いいたします。


 今後とも、よろしくお願いいたします。


 マリウス』



 …………。


 ガルドが読み終わって、眉をひそめた。


「全面支援? 急にどうした、あいつ」


〝博士〟


『聞いていた。分析する』


 博士が、収納の中から意見を出した。


『マリウスの行動パターンは〝損失の最小化〟だ。筆頭を一時停止されたことで、影響力が低下した。それを回復するために、新しい任務を王に申請した。〝魔物との共存政策の推進〟——これは、タカラの活動を自分の管轄下に置くための口実だ』


〝つまり、また首輪をかけようとしてるのか〟


『直接的な首輪ではない。〝支援〟という形で接近して、タカラの情報を吸い上げ、行動を把握しようとしている。支援者の立場を取れば、タカラの拒否は〝善意を断る非礼〟に見える』


 ……前と同じ構図か。「行っても行かなくてもマリウスの思い通り」。


 今回は「受けても断ってもマリウスの思い通り」。


 受けたら情報を吸われる。断ったら「善意を断った」と政治的に不利になる。


〝三つ目の選択肢を考えないとな〟


『うむ。提案がある』


〝聞く〟


『受けろ。ただし、条件をつけろ』


〝条件?〟


『〝支援を受けるが、報告義務は負わない〟。マリウスからの物資や情報は受け取るが、こちらの行動を報告する義務はない。一方通行の支援だ。マリウスが本当に善意なら、この条件を飲めるはずだ。飲めないなら——裏がある証拠になる』


 ……なるほど。試すのか。


 俺はカシスに蓋文字を出した。


〝マリウス殿の支援のお申し出、ありがたく思う〟


 カシスがにこにこした。


「それは素晴らしい。では——」


〝ただし、条件がある〟


 カシスのにこにこが、ほんの一瞬、固まった。すぐに戻した。


「条件、ですか。お聞かせください」


〝支援は受ける ただし、俺たちの行動について報告する義務は負わない〟


〝マリウス殿が支援してくれるのは自由だが、俺たちの活動はこちらの判断で行う〟


〝つまり、一方通行だ 物資は受け取るが、情報は出さない〟


 カシスが——にこにこのまま、少し考えた。


「……なるほど。合理的なご提案ですね」


〝マリウス殿が本当に共存政策を推進したいなら、この条件で十分なはずだ 俺たちが自由に動いて塔を解放すれば、結果的に共存政策は進む〟


「ごもっともです。では——」


 カシスが、にこにこを少しだけ引っ込めた。


「本件は、マリウス様に持ち帰って検討いたします」


〝お待ちしている〟


 カシスが馬に乗って、去っていった。


 にこにこの背中が遠ざかる。



 ◇



 カシスが消えてから、ガルドが大きく息を吐いた。


「あいつ、マリウスの弟子か?」


〝たぶんそうだろうな〟


「にこにこしてたな。師匠に似てるぜ」


「ガウ。あいつの匂い、マリウスと同じ系統だった。冷たい匂い。計算してる匂い」


 ガウルが鼻を鳴らした。


 博士が言った。


『カシスという男——おそらく、マリウスの情報収集役だ。使者という名目で、タカラの現在地や同行者の構成、保有スキルなどを視覚的に確認しに来た。手紙は口実だ』


〝もう見られたな 俺たちの構成は〟


『そうだ。だが、カシスが持ち帰れる情報は〝見た目〟だけだ。収納の中身——博士の存在、知の王の断片の保護——これらは把握できない。宝箱の中身は外からは見えない』


 宝箱の中身は外から見えない。


 これ——めちゃくちゃ重要だな。


 俺がパンドラボックスである最大の強みは、戦闘力でもスキルでもなく——「中に何が入ってるか、外からは分からない」こと。


 宝箱の本質。中身が見えない箱。


 マリウスがどれだけ情報を集めても、俺の収納の中身は把握できない。博士の存在も、知の王との繋がりも、エルナの手紙も、チョンの手紙も——全部、俺の中にある。


 パカッ。


〝宝箱でよかった〟


「何が」


〝中身が見えない箱で〟


 ガルドが笑った。


「おまえ、時々しみじみ宝箱であることを喜ぶよな」


〝宝箱が好きなんだよ 自分のこと〟


「……まあ、いいけどさ」


 チョンがカシスが去った方角を見てた。


「タカラ。あの人、笑ってたけど、目が笑ってなかった」


〝よく見てたな〟


「マリウスって人と同じだった。目が冷たい」


 チョン、観察力が鋭くなってる。


「でも、タカラなら大丈夫だよね」


〝なんで〟


「だって、タカラの中身は、あの人には見えないから」


〝……そうだな〟


 パカッ。


 マリウスとの戦いは、まだ続いてる。でも——俺には俺の武器がある。宝箱の中身。誰にも見えない、俺だけの宝物。



 ◇



 焦土帯を抜けた。


 緑のある大地に戻った。草原が広がってる。チョンが「緑って、いいなぁ」と呟いた。焦土帯を歩いた後だと、ただの草原がとんでもない贅沢に見える。


 シロ(仮)が蓋の上で耳をぴくぴくさせてる。草原の匂いが気になるらしい。


「ガウ。あの兎、草原に降りたがってないか」


〝降りたきゃ降りていいんだぞ〟


 シロ(仮)が——降りない。蓋の上で耳を寝かせた。ここがいいらしい。


「タカラ、もう家族だな、その兎」


 ガルドが笑った。


〝家族っていうか、居候だろ〟


「居候じゃなくて、中身だ。宝箱の中身」


 ガウルがまた同じことを言った。


 ……まあ、いいか。中身が増えるのは、宝箱として悪くない。


 ベイルの街に向かう。ドルトンに報告して、それからパカラ村へ。


 道中、リーリアが俺の横を歩いてた。


「タカラ」


〝なんだ〟


「記憶のこと……大丈夫?」


〝記憶?〟


「その……塔の扉を開けるときに、差し出したもの」


〝…………〟


 何を差し出したんだっけ。


 もう、思い出せない。


「……ごめん、変なこと聞いた」


〝いや、いいよ 俺は大丈夫だ 何を差し出したか覚えてないけど、今の俺は——ここにいる〟


 リーリアが小さく笑った。


「うん。タカラは、ここにいるね」


〝ここにいる〟


 パカッ。



 ◇



 【次回】焦土帯を抜ける直前、南端の街に立ち寄る。そこにも——マリウスの影が伸びていた。

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