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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第五部 焦土の果て編

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第78話「知らない場所へ」


 出発の朝。


 パカラ村の広場に、また全員が集まった。


 もう何度目だろう、この光景。みんなが見送ってくれて、俺たちが丘を下りていく。


 グリンが叫んだ。


「タカラ! また留守中に新入りが増えてたら、俺の判断で入れるからなー!」


〝任せた〟


 サガが杖を振った。


「帰ってきたら、チョンに文字の稽古をつける。知の王殿から教わった古代文字、ワシにも教えてくれ」


「うん! 先生に教わったこと、全部伝えるよ!」


 チョンが張り切ってる。


 グラドルが枝を揺らした。


「南か。遠いな」


〝遠い〟


「気をつけろ。南の焦土帯は、グラドルの根が届かない距離だ。何かあっても、振動では伝えられぬ」


〝了解〟


 レイスが敬礼した。


「俺は村で待機する。マリウスが動き出したら、すぐに連絡する」


〝頼む〟



 ◇



 南へ向かう。


 メンバーはいつもの六人と一箱と一匹と一声。


 俺、ガルド、レグナ、ガウル、リーリア、アイ、チョン。そして博士。


 街道を南に。


 ベイルの街を通り過ぎた。ドルトンに挨拶だけして、すぐに出発。ドルトンが「南の焦土帯には、ギルドの支部がない。気をつけろ」と言ってた。


 ギルド支部がない。つまり、冒険者の情報網がない。宿もない。街もない。


 ベイルから南に三日ほど歩くと——風景が変わり始めた。


 草原が枯れてきた。緑が茶色に変わる。土が乾いてる。空気が乾燥してる。


 砂漠の乾燥とは違う。砂漠は「砂」だったけど、ここは「焼けた土」だ。


 赤黒い地面。ところどころに、黒い岩が転がってる。焦げた岩。


「なんだ、ここ……」


 ガルドが顔をしかめた。


「草も木もない。風が熱い。砂漠とは違う暑さだ」


 砂漠は太陽の熱だった。ここは——地面そのものが熱い。


 ガウルが鼻をひくひくさせた。


「ガウ。匂いが……焦げてる。地面から、焦げた匂いがする。八百年経っても、まだ焦げてる」


 八百年前の戦いの痕跡。大戦で焼かれた大地が、まだ冷めきっていない。


 チョンが黙って歩いてる。はしゃがない。


「タカラ、ここ……怖い」


〝怖いか〟


「うん。雪山は怖くなかった。きれいだったから。でもここは……なんか、悲しい感じがする」


 悲しい。


 子供の感覚って、鋭いな。八百年前に焼かれた大地の悲しさを、チョンが肌で感じてる。


 博士が言った。


『南の焦土帯について、私の知識はほとんどない。知の王の記録には〝八百年前の大戦で最も激しく焼かれた地域〟とだけある。第四の魔王についての情報は——名前すら記録されていない』


〝名前もないのか〟


『名前がない、のではなく——名前が消されている、と言うべきか。知の王の記録から、意図的に削除されている痕跡がある』


〝誰が消した〟


『わからない。知の王自身が消したのか、大賢者が消したのか。あるいは——第四の魔王自身が、自分の情報を消したのか』


 自分の情報を消す魔王。


 知の王が「情報を拒絶する存在」と言ってた意味が、少しわかってきた。


 情報がない、のではなく——情報を自ら消している。


 俺の〝査定〟も〝蓋裏辞典(リッドライブラリ)〟も、使える情報がないかもしれない。


 ……これは、今までで一番難しい旅になるかもしれないな。


 パカッ。



 ◇



 南に進むほど、地面が熱くなる。


 ガルドが靴底を気にしてる。


「おい、靴の底が溶けかけてるんだが」


〝マジか〟


「マジだ。この地面、まだ熱いんだよ。砂漠は太陽で熱かったけど、ここは地面そのものが……」


 リーリアも足が辛そうだ。


「タカラ、この熱、魔力を感じる。ただの熱じゃない。何か、魔力で維持された熱だ」


 魔力で維持された熱。


『おそらく、八百年前の大戦で使われた魔法の残滓だ。地面に染み込んだ魔力が、今でも熱を発し続けている。この残滓が尽きるまで——あと数百年はかかるだろう』


 数百年。


 八百年前の魔法が、まだ地面を焼き続けてる。どれだけの魔力を使ったんだ、大戦の時。


「ガウ。匂いがどんどんおかしくなってる。焦げの匂いと——何か別の匂いがある。苦い。鉄みたいな」


〝鉄?〟


「血の匂いに似てる。でも、もっと古い。何百年も前の血の匂いが、まだ残ってるみたいな」


 ……八百年前の血が、まだ匂いとして残ってる土地。


 この場所で、どれだけの命が失われたんだろう。


 チョンが俺の横を歩きながら、黙って地面を見てる。


「タカラ。ここで、いっぱい死んだんだね」


〝ああ〟


「魔物も? 人間も?」


〝たぶん、両方〟


「…………」


 チョンが、ぎゅっと俺の蓋を握った。


「俺、ここの魔王も助けたい。怖いけど」


〝……ああ、助けよう〟



 ◇



 さらに南へ進むと——地形が変わった。


 平らだった焦土が、凹凸のある荒野に変わった。


 巨大なクレーター。直径百メートルくらいの、ぼこっと凹んだ地面が、いくつも並んでる。


 大戦での爆撃の跡だ。


「なんだこれ、月面みたいだな」


 ガルドが唸った。


「この穴、全部魔法の着弾跡か?」


『おそらく。大戦では、Sランク以上の魔導士が何十人も動員されたと聞く。この規模の破壊は、それに相当する』


 博士の知識が「聞く」レベル……か。確実な情報がないなんて、珍しいな。


 クレーターの一つに降りてみた。


 底に——何かがある。


 黒い石碑。高さ二メートルくらい。


 石碑に文字が刻まれてる。


 ……読めない。


 俺の蓋文字でも、リーリアの巫女の知識でも、レグナの八百年分の経験でも——読めない文字だ。


「レグナ、この文字知ってるか」


「……知らぬ。我が生きた時代には存在しなかった文字だ」


 博士は?


『私にも読めない。知の王の知識に、この文字は含まれていない』


 知の王が知らない文字。


蓋裏辞典(リッドライブラリ)〟は?


 蓋裏を確認——


 表示なし。


 蓋裏辞典も反応しない。


 ……マジで情報がない。


 査定も、博士も、辞典も、全部効かない。


 今まで俺を支えてきた情報系スキルが——全滅してる。


 この土地そのものが、情報を拒絶してる。


 チョンが石碑に近づいた。


「これ、何の文字だろう」


 チョンが石碑の表面に手を触れた。


 ——瞬間。


 石碑が——光った。


 赤い光。薄い、血のような赤。


 チョンが驚いて手を引っ込めた。


「わっ!」


 石碑の文字が——動き始めた。


 読めない文字が、ゆっくりと、形を変えていく。


 知らない文字から——蓋文字に。


 俺の蓋文字と同じ形の文字に変わっていく。


 全員が石碑を見つめた。


 文字が、完全に変換された。



 ──────────────────

  ここに眠る者、名はなし。

  名を棄てた者。

  全てを焼いた者。

  全てを悔いた者。


  蓋を開ける者よ。

  おまえが来たなら、問う。

  知ることも、戦うことも、

  語ることも——ここでは意味をなさない。


  おまえは、何を捨てられるか。

 ──────────────────



 ……名を棄てた者。


 名前がない魔王。名前を自分で消した。


 そして——問い。


 「おまえは、何を捨てられるか」。


 対話の王は「許して送り出す」だった。


 戦の王は「武で語って認められる」だった。


 知の王は「知で語って蓋を開ける」だった。


 第四の魔王は——「何かを捨てる」?


 捨てるって、何を?


 ガルドが腕を組んだ。


「……何を捨てられるか、って聞かれてもな。捨てたくないもんばっかだけど」


「ガウ。スキルを捨てろってことか? それは困る」


 レグナが目を閉じた。


「……おそらく、物理的なものではない。もっと抽象的な——価値観や、信念の話だ」


 チョンが首を傾げた。


「捨てる……。知らないことを知ろうとするのが旅だ、ってタカラが言ってた。でも、〝捨てる〟は〝知る〟の反対だよね」


 反対。


 知ることの反対が、捨てること。


 ……深いな。


 今までの三つの塔は、何かを「得る」旅だった。対話の力、武の力、知の力。


 第四の塔は——「捨てる」旅?


 何を捨てるのか。


 まだ分からない。


 パカッ。


〝行こう 答えは、蓋を開けた先にある〟



 ◇



 【次回】焦土の奥へ進む。石碑が示した方向に、第四の塔がある。情報がない旅。何かを捨てる旅。タカラにとって最も難しい試練が、始まろうとしている。

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