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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第四部 氷壁の頂編

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第76話「蓋を開けます、マリウス殿」


 王城。


 でかい。


 白い石の城壁が空に向かって伸びてる。旗が何十本もはためいてる。王国の紋章が入った旗。門の前に、正装の兵が二列に並んでる。


 俺は擬態を解いて、宝箱の姿で入った。


 今日は隠さない。蓋を開ける者(オープナー)として、堂々と。


 ガルドが隣を歩いてる。一番きれいな服。それでもホブゴブリンだから目立つ。


 レグナがマントのフードを下ろした。蒼い炎がゆらりと灯る。骸骨の将軍が、堂々と。


 ガウルが銀色の毛をなびかせて歩いてる。犬のフリはやめた。ウォーウルフとして。


 リーリアが白い法衣を着てる。巫女の正装。サガに作ってもらった。


 チョンが——リーリアが縫い直してくれた服を着て、俺の隣にいる。緊張で手が震えてるけど、足は止まってない。


 門番の兵が、俺たちを見て——微かに動揺した顔をしたけど、止めなかった。


蓋を開ける者(オープナー)殿と随行員の方々。大広間にお進みください」


 俺たちは——王城の中に入った。



 ◇



 大広間。


 想像以上に広い。百人は入れるホール。天井にシャンデリアが三つ。壁に王国の紋章。


 左右に貴族が並んでる。正装の男女が何十人も。


 奥の壇上に——王座がある。


 王が座ってる。


 年配の男。白い髪。金の冠。威厳のある顔。


 王の右側に——セルディスが立ってる。白い軍服。銀髪。表情を変えない。


 王の左側に——


 マリウスがいた。


 宮廷魔導士の正装。紫のローブ。金の飾り紐。


 にこにこしてる。いつもの笑顔。


 俺たちが大広間に入ると、全員の視線が集まった。


 ざわっ、と声が広がった。


 そりゃそうだろう。ホブゴブリンと骸骨とウォーウルフと宝箱が、王城の大広間を歩いてるんだから。


 でも、足を止める者はいない。セルディスの手配で、事前に通告されてるから。


 俺はズズズで大広間の中央まで進んだ。


 王の前に。


 マリウスの前に。


 パカッ。



 ◇



 マリウスが、壇上から降りてきた。


「ようこそ、蓋を開ける者(オープナー)殿。お待ちしておりました」


 にこにこ。


 嫌な笑顔だ。


「本日は、三基の塔を解放した功績を称え、王国より正式な褒賞を授与する式典です」


 マリウスが俺の前に立った。


 近くで見ると——目が笑ってない。口元だけが笑ってる。


「では、さっそく——」


 マリウスが、手に持った巻物を広げた。王の署名入りの公文書。


「タカラ殿に、王国より〝王国特別顧問〟の位を授与します。これにより——」


 来た。


 顧問の肩書き。金の首輪。


 博士の助言を思い出す。『最初に告発するな。褒賞の受け取りを進めろ』。


 俺は——蓋文字を出した。穏やかに。


〝ありがたいお言葉です マリウス殿〟


 マリウスが、ほんの一瞬、目を細めた。


 予想通り。俺が受け入れる姿勢を見せたから、安心した。


「では、こちらの書状に——」


〝ところで〟


 俺が蓋文字を切り替えた。


〝褒賞の前に、一つだけ報告したいことがあります〟


 マリウスの笑顔が——微かに、固まった。


〝第三の塔の攻略中に、重大な事件が発覚しました〟


〝この場で報告することが、王国の安全保障に関わります〟


 ……安全保障。セルディスが介入するためのキーワード。


 セルディスが壇上で微かに動いた。


 マリウスが笑顔を維持したまま言った。


「報告、ですか。式典の後に、しかるべき場で——」


〝いえ 王がおられるこの場で報告すべき内容です〟


 俺はマリウスの目をまっすぐ見た。蓋文字で。


 マリウスの笑顔が——ほんの一瞬、揺れた。


 でもすぐに戻した。


「……分かりました。では、どうぞ」


 マリウスが一歩下がった。壇上の王を示す仕草。「王の前で報告しろ」という形だ。


 マリウスは自信がある。自分の策は完璧だと思ってる。


 俺はパカッと蓋を開けて、王に向かって蓋文字を出した。でかく。



 ◇



〝陛下に申し上げます〟


 王が、俺を見た。


「……ほう。宝箱が文字を出すのか。面白いな。続けよ」


 王の声は、穏やかだ。でも、重い。国を治める者の声だ。


〝第三の塔——氷壁(ひょうへき)(いただき)の攻略中に、北の街フロストで事件が起きました〟


〝街の子供が連続して攫われていました〟


 広間がざわついた。


〝犯人を追跡したところ、教会の地下に隠された施設を発見しました〟


〝そこには——知の王の意識の断片が、水晶に封じられて保管されていました〟


 ざわめきが大きくなった。「知の王」「意識の断片」「水晶に封じて」——


〝この断片は、塔の封印が弱まった隙に、何者かが引き抜いたものです〟


〝そして、子供たちは——この断片を利用するための素材として、攫われていました〟


 広間が、静まった。


 マリウスの表情は——にこにこのまま。でも、目の奥が少し動いた。


「なるほど。それは重大な事件ですね。犯人は捕まったのですか?」


 マリウスが冷静に聞いた。


〝捕まりました 犯人は——銀環(ぎんかん)と呼ばれる魔導士です〟


 広間の一部の貴族が、反応した。「銀環」の名を知ってる者がいる。


〝銀環は、自白の中でこう証言しています〟


 俺は蓋裏から、銀環の自白の記録を蓋文字で表示した。


〝「子供たちの中から、特に高い適性を持つ者を選別する。選ばれた子供は、知の王の塔に入る鍵となる。完了すれば、子供は知の王の知識を引き継ぎ、我らに教える。子供は——生きてはいないだろう」〟


 広間が——凍りついた。


 子供を殺す計画。


 貴族たちの顔色が変わった。


 マリウスが、穏やかに言った。


「恐ろしい話ですね。その銀環なる者は、誰の指示で動いていたのですか」


〝銀環は、宮廷魔導士の派閥に属していました〟


 俺は——ここで、段階的に出す。いきなりマリウスの名前は出さない。


〝施設で発見された人工魔物——静寂獣(サイレンス)の解析結果です〟


 蓋裏の査定記録を表示した。


〝「改造者:宮廷魔導士派」〟


 広間が再びざわつく。「宮廷魔導士派」の文字に、視線がマリウスの方に集まり始めた。


 マリウスが、眉をわずかに寄せた。


「宮廷魔導士派、というのは広い範囲ですね。私の知る限り、宮廷には百人以上の魔導士がおります。そのうちの誰かが——」


〝もう少し、具体的な証拠があります〟


 俺は——ここで博士を出した。


〝収納の中に、知の王の意識の断片を保護しています この断片は、引き抜かれた当事者です〟


 広間が、また静まった。


「博士」


 俺の蓋裏から、声が響いた。博士の声。


 広間の全員に聞こえるように。


『私は、知の王の意識の一部だ。数週間前に、塔の封印が弱まった隙を突かれて引き抜かれた』


 博士の声が大広間に響いた。宝箱の中から。


 貴族たちが驚愕の表情を浮かべてる。宝箱の中から声が聞こえてくるのは、確かにびっくりするだろう。


『私を引き抜いた者たちは、宮廷魔導士の一派だった。彼らの会話から、指示系統の頂点にいる人物の名を聞いている』


 マリウスの笑顔がほんの一瞬、消えた。


 一瞬。


 すぐに笑顔に戻した。


「知の王の断片が証言するとは……珍しい。ですが、魔王の意識の断片が信用に足るかどうか——」


 セルディスが動いた。


「王の許可を得て、発言する」


 セルディスが壇上から一歩前に出た。


「聖騎士団団長セルディスとして申し上げる。この件は——王国の安全保障に関わる問題だ」


 セルディスの声が、広間に響いた。冷たい声。


「魔王の意識を引き抜き、兵器として利用する計画は、王国の安全保障を脅かす行為だ。聖騎士団はこの件を、軍事案件として調査する権限を有する」


 マリウスの目が、一瞬だけセルディスに向いた。


 にこにこの笑顔のまま。でも——計算してる。


「セルディス団長、お言葉ですが、この場は褒賞の式典であり——」


「褒賞の式典で、褒賞の対象者が重大な犯罪を報告している。無視する方が不自然だ」


 セルディスの論理が通った。


 王が——口を開いた。


「続けさせよ」


 王の一言。広間が完全に静まった。


蓋を開ける者(オープナー)、続きを話せ」


〝はい〟



 ◇



 俺は——最後の証拠を出した。


〝この事件には、もう一つの側面があります〟


〝フロストの街で攫われた子供たちは、精神魔法で操られた街の住民に連れ去られていました〟


〝操っていた魔法の痕跡は、教会の施設から検出されました〟


〝そして——同じ魔法の痕跡が、マリウス殿の使者がパカラ村を訪れた際にも確認されています〟


 マリウスの笑顔がもう一度、消えた。


 今度は、一瞬じゃなかった。二秒くらい。


 戻した。


「……パカラ村に使者を送ったのは事実です。だが、精神魔法の痕跡というのは——」


〝ウォーウルフのガウルが、匂いで確認しています マリウス殿の使者と、フロストの街に残された魔法は、同じ系統です〟


「匂いが証拠になりますか? ウォーウルフの嗅覚は主観的な——」


〝じゃあ、もう一人〟


 俺は——チョンを前に出した。


「チョン」


〝話してくれ〟


 チョンが前に出た。


 ホブゴブリンの子供が、王と、貴族と、聖騎士と、宮廷魔導士の前に立った。


 足が震えてる。手も震えてる。


 でも、口を開いた。


「俺、チョンっていいます」


 小さな声。でも、広間は静かだから、全員に聞こえてる。


「フロストの街で、攫われた子供たちを助けました。タカラと一緒に」


 チョンが、まっすぐ前を見た。


「倉庫の中に、子供が四人いました。鎖で繋がれてて、声が出なくて、泣くことしかできなかった」


 チョンの声が震えてるけど、止まらない。


「俺と同じくらいの歳の子でした。俺と同じ子供でした」


「あの子たちは、怖くて、寒くて、助けが来るのをずっと待ってた」


「俺が声をかけたら——笑ってくれました。ようやく笑えた、って」


 チョンが目を上げた。


 マリウスを見た。


「あの子たちを攫った人たちは、あなたの仲間ですか?」


 広間が完全に、静まった。


 マリウスの笑顔が——


 消えた。


 にこにこが、消えた。


 初めて見た。マリウスの、笑顔じゃない顔。


「……いえ。私の弟子が、独断で行ったことです。私は——」


「じゃあ、弟子の人に、なんであんなことしたのか聞いてください。あの子たち、すごく怖がってたんです」


 チョンの目が、まっすぐマリウスを見てる。


 子供の目。嘘を知らない目。計算のない目。


 広間の貴族たちが——マリウスから視線を外し始めた。目を合わせたくない、という顔。


 マリウスが——深く、息を吐いた。


「……陛下」


 マリウスが王に向き直った。


「弟子の管理が不十分でした。責任は、私にあります」


 認めた。


 弟子の独断、と言いながらも管理責任を認めた。


 王は長い沈黙の後に言った。


「マリウス。宮廷魔導士筆頭の職を、一時停止する。調査が完了するまで、宮廷での活動は制限する」


 マリウスが頭を下げた。


「……承知いたしました」



 ◇



 褒賞の式典は、中断された。


 「顧問」の肩書きは、撤回された。


 代わりに——王が、別の褒賞を口にした。


蓋を開ける者(オープナー)よ。おまえには、褒賞を与える。だが〝顧問〟ではない」


〝何を〟


「自由だ。おまえは、王国の干渉を受けず、自由に塔を解放し続ける権利を持つ。王国は、おまえの活動を支援するが——命令はしない」


 自由。


 金の首輪ではなく、自由。


「これが、三基の塔を解放した英雄への、正しい褒賞だと——余は考える」


 王が、微かに笑った。


〝……ありがとうございます〟


 パカッ。


 パカパカパカパカ。


 俺は——全力でパカパカした。


 王の前で。


 チョンが横で笑った。ガルドが苦笑した。レグナが蒼い炎をちろちろさせた。ガウルが尻尾を振った。リーリアが微笑んだ。


 セルディスが口元を引き締めた。笑いを堪えてる顔。


 王が声を出して笑った。


「はっはっは。宝箱が蓋を鳴らすのは、喜びの表現か?」


〝そうです〟


「よい。面白い英雄だ」



 ◇



 式典が終わった。


 広間を出る。


 廊下で——マリウスが、俺の前に立ってた。


 にこにこしてる。


 また笑顔に戻ってる。


「見事でしたね、タカラ殿」


〝……〟


「私の弟子の管理が不十分だった。それは事実です。反省しております」


 にこにこ。


「ですが——」


 マリウスが、声を低くした。


「私自身は、何もしていませんよ。弟子が勝手にやったことです。調査が終われば、私は復帰します」


〝……〟


「今回は、おまえの勝ちだ。だが——」


 マリウスの笑顔が、初めて「本物」に見えた。


「次も勝てるとは、限らないよ?」


 マリウスが、背を向けて歩いていった。


 紫のローブが、廊下の奥に消えていく。


 ……こいつ、折れてない。


 筆頭の座は一時停止された。でも、復帰する気満々だ。


 博士が言った。


『完全には潰せなかったな。だが、大きな一歩だ。筆頭の座を一時でも失うのは、政治家にとって致命的な打撃だ。復帰できても、以前ほどの影響力は持てない』


〝本当か?〟


『少なくとも、しばらくは。その間に——おまえたちは次の塔を解放すればいい。実績を重ねるほど、マリウスの手は届かなくなる』


 ……なるほど。


 完全に倒すんじゃなく、実績で引き離す。


 時間をかけて。


 パカッ。


 〝分かった〟



 ◇



 王城を出た。


 夕日が差してる。王都の街並みが、オレンジ色に染まってる。


 ガルドが大きく伸びをした。


「あー、終わった。緊張したー。俺の出番なかったけど」


〝おまえ今日何してた?〟


「後ろで黙って立ってた」


「ガウ。俺もだ」


「我もだ」


 レグナまで。


〝全員立ってただけか〟


「だって、おまえとチョンが全部やったじゃん」


 チョンが、俺の隣を歩いてる。


「タカラ、俺……ちゃんと喋れた?」


〝完璧だった〟


「ほんと?」


〝マリウスの笑顔、消えただろ〟


「……うん。消えてた」


〝おまえがやったんだ〟


 チョンが——泣きそうな顔で笑った。


「やった……」


 パカッ。


〝帰ろう、パカラ村に〟


「うん!」


 俺たちは——王都の門をくぐって、帰路についた。


 マリウスの蓋は——半分だけ開いた。


 全部開けるのは、これからだ。


 でも——今日、確かに一枚、開けた。



 ◇



 【次回】パカラ村に帰る。チョンの手紙の返事を書く。そして——次の塔、南の焦土帯へ。第四部、完。

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