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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第四部 氷壁の頂編

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第75話「宝箱、政治をする」


 王都に着いた。二度目の訪問。


 前回は擬態でこっそり潜入した。今回は——正式に招待された形だ。


 門番が俺たちを見て、すぐに通してくれた。


蓋を開ける者(オープナー)殿ですね。セルディス団長からお話を伺っております。お通りください」


 殿って。


 前回は怪しまれたのに、今回は「殿」呼びだ。三基の塔を解放した功績が、王都にも伝わってるんだろう。


 でも油断はできない。マリウスの罠がある。


 俺は擬態でカイルの姿。ガルドとチョンは収納の中。レグナはマントで全身を覆ってる。リーリアはそのまま。ガウルは犬のふり。


「ガウ。この街の匂い、前と変わってる。ピリピリしてる」


〝ピリピリ?〟


「人間の緊張の匂いだ。街全体がなんか……そわそわしてる」


 褒賞の式典が近いから、街全体が浮き足立ってるのかもしれない。


 それとも——何か別の理由か。



 ◇



 レイスとの合流場所は、王都の東区にある安宿。冒険者向けの目立たない宿だ。


 二階の一室に入った。扉を閉めて、鍵をかけた。


 扉をノックする音。二回、間を空けて三回。事前に決めてた合図。


 扉を開けると——レイスがいた。


 塔守の白い外套じゃなく、茶色い旅装を着てる。目の下にくまがある。


「タカラ……来たか」


〝来た〟


「座ってくれ。話すことが山ほどある」


 全員を収納から出した。ガルドがすぽんと出てきて、チョンがすぽんと出てきた。


 レイスがチョンを見て、目を瞬いた。


「チョン? なんで子供がここに?」


「証人なんだよ、俺!」


 チョンが胸を叩いた。


 レイスが俺を見た。


「……証人?」


〝あとで説明する まず、状況を聞かせてくれ〟



 ◇



 レイスが王都の状況を説明してくれた。


 手紙に書いてあったことの補足と、最新の動き。


「マリウスが、褒賞の式典を仕切ることになった」


〝仕切る? セルディスじゃなく?〟


「セルディス団長は軍の人間だ。褒賞の式典は宮廷行事。宮廷行事を仕切るのは、宮廷魔導士の管轄になる。つまり——マリウスの領域だ」


 ……なるほど。軍と宮廷は管轄が違う。セルディスが軍のトップでも、宮廷行事には口を出しにくい。


「式典は明後日。王城の大広間で行われる。王も出席する。貴族も集まる。つまり——王都の権力者が全員集まる場だ」


〝その場でマリウスが仕切って、俺たちを管理下に置こうとしてる〟


「そういうことだ。褒賞の内容も、マリウスが決めてる。褒賞の中に〝王国顧問〟の肩書きがあるらしい」


 王国顧問。


「表向きは名誉職だが、実際は——王国の命令に従う義務が生じる。顧問になれば、王国の許可なしに塔の解放ができなくなる」


〝首輪だな〟


「その通りだ。金の首輪。名誉で包んだ鎖だ」


 ガルドが歯を食いしばった。


「むかつくな……。正面から殴りたいけど、殴ったら終わるんだろ」


「終わる。宮廷で暴力を振るえば、どんな功績も台無しだ」


 チョンが聞いてた。


「ねえ、レイス。タカラは褒賞を受けないって選択はできないの?」


「できる。だが、その場合は〝王の恩を拒んだ不敬者〟として、パカラ村の立場が危うくなる」


「じゃあ……受けても受けなくてもダメなの?」


「だから——別の手を打つ。タカラ、手紙に書いてあった〝告発〟の話、聞かせてくれ」



 ◇



 俺は、フロストの街で起きたことを全部説明した。


 マリウス派の教会地下の施設。静寂獣(サイレンス)。精神魔法で操られた住民。子供たちの誘拐と選別。知の王の意識の断片の引き抜き。銀環の魔導士。


 レイスが顔色を変えた。


「子供を……犠牲にする計画だと?」


〝そうだ 知の王の塔に入るために、適性のある子供を使って、その子供は犠牲になる計画だった〟


「証拠は?」


〝銀環の自白 静寂獣の査定記録 知の王の断片——博士の証言〟


「博士?」


〝知の王の意識の断片が、俺の収納にいる〟


 レイスがしばらく黙った。


「……おまえの収納、何でも入ってるな」


〝便利な箱だからな〟


「まあいい。その証拠を、褒賞の式典で出す、ということか」


〝そうだ 王と貴族と軍人が全員いる場で、マリウスの弟子筋の犯罪を告発する〟


 レイスが考え込んだ。


「リスクが大きい。失敗すれば、おまえたちが冤罪をかけた者として処罰される」


〝だから、セルディスの支援が要る〟


「セルディス団長は……おそらく協力する。だが、団長にも限界がある。宮廷での政治力は、マリウスが上だ」


〝知ってる だから——証拠の説得力が全てだ〟


 ガルドが言った。


「タカラ、博士に聞いてみろよ。宮廷での立ち回り方」


 俺は収納の中の博士に聞いた。


〝博士、宮廷での告発って、どう進めるのが効果的だ〟


『ふむ。宮廷での政治闘争は、知の王の得意分野でもある。いくつか助言しよう』


 博士が「講義モード」に入った。


『第一に、最初に告発するな。褒賞の受け取りを進めろ。マリウスが油断した瞬間に、証拠を出せ。先に告発すると〝褒賞を拒否するための口実〟に見える。褒賞を受ける姿勢を見せてから告発すれば〝犯罪を見過ごせなかった〟という立場になる』


〝なるほど〟


『第二に、証拠を段階的に出せ。いきなり全部出すと、相手は混乱して一括否定する。一つずつ出せば、言い逃れが積み上がるたびに苦しくなる』


〝一つずつ〟


『第三に、子供の証言を最後にしろ。理屈で追い詰めた後に、感情で仕留める。チョンの証言が最後の一押しになる』


 チョンが目を丸くした。


「俺が最後なの?」


『最後に子供が訴える。これは効く。大人は理屈で反論できるが、子供の感情は否定しにくい』


 ……博士、宮廷政治にも詳しいな。知の王の知識は本当に幅広い。



 ◇



 夜。


 セルディスに会いに行った。


 聖騎士団本部。前回来た時と同じ、三階の応接室。


 セルディスが窓際に立ってた。銀髪。白い軍服。


 俺たちが入ると、振り返った。


「来たか」


〝来た〟


 俺は擬態を解いた。宝箱に戻る。


 セルディスが俺を見た。


「……前より大きくなっていないか、おまえ」


〝大きくはなってない 中身が増えただけだ〟


「中身?」


〝博士と、知識と、闘気と、色々〟


「……よく分からんが、まあいい」


 セルディスが椅子に座った。


「手紙は読んだ。レイスからの報告も受けた」


〝協力してくれるか〟


「俺に何ができるか、先に聞け」


 セルディスが指を立てた。


「一つ。式典の場で、俺はマリウスを直接追及はできない。管轄が違う。だが、告発された内容が〝軍事的な安全保障の問題〟に関わるなら、俺が介入する口実になる」


〝子供の誘拐は、安全保障の問題か?〟


「それだけでは弱い。だが——知の王の意識を引き抜いて兵器利用を企てた、となれば話が変わる。魔王の力の軍事利用は、王国の安全保障に直結する。俺の管轄だ」


〝じゃあ、子供の誘拐じゃなくて、魔王の意識の引き抜きを主軸にして告発するか〟


「その方がいい。子供の件は補強材料として使え」


 博士の助言と、セルディスの判断。両方を組み合わせる。


 告発の構成が見えてきた。


 ①褒賞を受ける姿勢を見せる


 ②マリウスが油断した瞬間に、魔王の意識引き抜きの証拠を出す


 ③セルディスが「安全保障の問題」として介入する


 ④段階的に証拠を出して、マリウスの言い逃れを潰す


 ⑤最後にチョンの証言で感情的に仕留める


 パカッ。


〝やれそうだ〟


 セルディスが口元を引き締めた。


「失敗すれば、おまえたちの立場は終わる。覚悟はいいか」


〝覚悟はある〟


「ならば——明後日の式典で、やるか」


〝やる〟


 セルディスがほんの一瞬、口角を上げた。


「面白い戦いになるな」


〝戦闘より緊張するけどな〟



 ◇



 式典の前夜。


 宿の部屋で、全員が最終確認してる。


 ガルドが正装——っていっても、一番きれいな服を着るだけだけど——を整えてる。


「おい、ホブゴブリンに正装って概念あるのか」


〝ないだろうけど、明日は宮廷に入るんだぞ 少しは見た目を気にしろ〟


「えー」


 チョンが自分の服を見下ろした。


「俺、これしかないよ?」


〝あー……リーリア、チョンの服、何とかならないか〟


「少し縫い直せば、きれいに見えるかも。やってみるね」


 リーリアがチョンの上着の破れを繕ってる。アイが糸を渡してる。


 レグナが——マントをきれいに整えてる。


「我は、このマントで通す。フードを取れば骸骨が見えるが……いっそ、見せるか」


〝骸骨の将軍が宮廷に?〟


「蒼炎の将軍だ。名乗れば、少しは格が出る」


 格が出るっていうか、宮廷の貴族がびびるだろ。


 ガウルが部屋の隅で丸くなってる。


「ガウ。俺は何をすればいいんだ、明日」


〝おまえは……まあ、犬のフリで横にいてくれ〟


「犬のフリはもう嫌だぞ」


〝わかった ウォーウルフとして堂々としてろ〟


「ガウ。了解」


 博士が言った。


『タカラ、明日の段取りをもう一度確認しよう』


〝ああ〟


 頭の中で、明日の流れを整理する。


 褒賞の式典に出席する。マリウスが仕切ってる。王が見てる。貴族が見てる。聖騎士が見てる。


 褒賞を受ける姿勢を見せる。マリウスが「顧問」の肩書きを渡そうとする。


 そのタイミングで——蓋を開ける。


 マリウスの蓋を。


 パカッ。


 明日だ。



 ◇



 深夜。


 みんなが寝た後、チョンが起きてた。


「タカラ……起きてる?」


〝起きてる〟


「明日……怖い」


〝怖いか〟


「うん。王様の前で喋るんでしょ? 俺、王様なんて見たことないし、大人のお偉いさんの前で喋ったこともないし」


〝俺も怖いよ〟


「タカラでも?」


〝こういう場面は、いつだって怖い 知らないことだから〟


 チョンがくすっと笑った。


「知らないことは怖い。でも、知ろうとするのが旅だって、タカラが言ってた」


〝そうだ〟


「じゃあ……明日は、旅の続きだね」


〝そうだな 旅の続きだ〟


 チョンが俺の蓋に額をくっつけた。


「タカラ、明日も一緒だよね」


〝当たり前だ〟


「じゃあ、大丈夫」


 チョンが目を閉じた。


 すぐに寝息を立て始めた。


 ……明日。


 俺は蓋を開ける。


 今までで一番、難しい蓋を。



 ◇



 【次回】褒賞の式典。王城の大広間。王と、貴族と、聖騎士と、宮廷魔導士。その中央に——黒と金の宝箱が立つ。マリウスがにこにこしながら褒賞を差し出す。そして——タカラが蓋を開ける。

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