表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第四部 氷壁の頂編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/117

第73話「蓋を開けて、中に残る」


 通路の奥に——部屋があった。


 白い石の部屋。でも、今までの殺風景な迷路とは全然違う。


 壁一面に——本棚がある。


 白い石の壁に、木の本棚が設置されてて、そこにぎっしりと本が詰まってる。革装丁の古い本。巻物。石板。木簡。ありとあらゆる形態の記録物が、この部屋に収められてる。


 天井が高い。三階分くらいの高さの壁を、本棚が埋め尽くしてる。


「すげえ……。図書館だ、これ」


 ガルドが呟いた。


「ガウ。本の匂い。古い紙の匂い。八百年分の」


 部屋の中央に——机と椅子がある。


 椅子に——座ってる人がいた。


 本を読んでた。


 俺たちが入ってきたのに気づいて、顔を上げた。


 ……若い。


 見た目は二十代半ばくらいの男性。銀色の長い髪。眼鏡をかけてる。白いローブ。


 でも——体が半透明だ。向こう側の本棚が透けて見える。


 知の王。


 実体がない。魂だけの存在。八百年の封印の間に、体は消えたんだろう。知性だけが残った。


 知の王が、本を閉じた。


「ようこそ、蓋を開ける者(オープナー)


 穏やかな声。博士の声に似てるけど、もう少し若い。


「試練を突破したか。三問とも、見事だった。特に二問目と三問目は——」


 知の王がチョンを見た。


「この子供が答えたのだろう?」


 チョンがびくっとした。


「は、はい」


「素晴らしい知性だ。まだ磨かれていないが、原石の輝きがある」


 知の王が微笑んだ。


「名前は?」


「チョンです」


「チョン。覚えておこう」


 知の王が、俺を見た。


「そして、おまえが宝箱か」


〝そうだ〟


「蓋文字で喋るのか。面白いな」


〝声がないんでな〟


「だが、文字で語るのは——文字で考えているということだ。声で語るよりも、深い思考を経ている」


〝そんな大層なもんじゃない〟


「謙遜か。知性ある者の美徳だ」


 知の王が椅子から立ち上がった。


 半透明の体がゆらゆら揺れてる。風が吹いてるみたいに。


「さて——用件は聞いている」


〝博士から聞いたか〟


「私の断片を、おまえの収納に入れているだろう。断片の意識は、薄いが繋がっている。おまえたちのことは、ほぼ全て把握している」


 全部筒抜けか。


「マリウス派が私の断片を引き抜いたこと、おまえがそれを取り返してくれたこと、フロストの街の子供たちを救ったこと——すべて知っている」


〝じゃあ話が早い〟


 俺は、まず一つ目の用事を済ませた。


〝返す〟


 収納から——水晶柱を出した。


 知の王の意識の断片が封じられた水晶柱。


 部屋の床に、どすん、と置いた。


 知の王が——水晶を見た。


 半透明の手を、水晶に触れた。


 水晶が光った。


 中から、金色の光が流れ出て——知の王の体に吸い込まれていく。


 断片が、本体に戻っていく。


「ああ……」


 知の王の声が、変わった。深みが増した。


「戻ってきた。私の一部が」


 知の王の半透明の体が、少しだけ、濃くなった。


 向こう側の本棚が、少し見えにくくなった。


 知の王が目を閉じて、深く息を——吸うフリをした。実体がないから、実際には吸ってない。


「……ありがとう。これで、思考力が元に戻った。断片がない間、三割ほど処理能力が落ちていた」


〝三割で困る知性ってどんだけだ〟


「私の三割は、人間の賢者数十人分に相当する。それが欠けると、不便だ」


 ……規模がおかしいよ。


『ただいま、本体』


 収納の中から——博士の声。


 あ、まだいる。


〝博士、本体に戻らないのか〟


『いや、本体が望めば戻れるが——』


 知の王が首を振った。


「戻さない」


〝え〟


「断片は、おまえの中にいた方が良い」


〝どういうことだ〟


 知の王が、微笑んだ。


「私は、この塔から出る気がない」



 ◇



 全員が目を見開いた。


「出ない……?」


 ガルドが聞き返した。


「ああ、出ない。ここは、私にとって最高の空間だ。八百年分の書物がある。思考に最適な温度と湿度がある。邪魔するものがない。完璧な書斎だ」


 知の王が両手を広げた。図書館全体を示す仕草。


「封印は解いてくれて構わない。この地域の魔物の力を、元に戻してやりたい。だが——私自身は、ここにいる」


〝……いいのか、それで〟


「良い。むしろ、外に出る理由がない」


 知の王が、チョンを見た。


「この子のように、知りたがる者がたまに訪ねてきてくれれば——それだけで十分だ」


 チョンがきょとんとしてる。


「俺?」


「おまえの知性は磨けば光る。時間ができたら、また来るといい。教えたいことが山ほどある」


 チョンの目がきらきらした。


「来ていいの!? またこの塔に!?」


「歓迎する。私は暇だからな」


 八百年の暇を持て余してる魔王が、ホブゴブリンの子供に授業をしたがってる。


 ……シュールだけど、微笑ましいな。


「それと——」


 知の王が俺を見た。


「断片——おまえたちが〝博士〟と呼んでいるあれは、おまえの収納に残す」


〝マジで?〟


「マジだ。おまえたちの旅に、知識の支援が必要だろう。博士は私の知識の三割を持っている。旅の道中で、いつでも質問できる。辞書代わりだと思ってくれ」


〝辞書……〟


『辞書は少し格が低いが、まあ、概ねそうだな。何でも聞いてくれ』


 博士がタカラの収納に常駐する。


 これは——めちゃくちゃ便利だ。


 移動する図書館。知識の宝箱。


 ……宝箱の中に図書館が入ってる。


 俺って何でも入る箱だな。


「ただし——」


 知の王が人差し指を立てた。


「博士の知識は、私の三割だ。残りの七割は、ここにしかない。だから——本当に難しい問題に直面した時は、ここに来い」


〝了解〟


「私は逃げない。ここから動かない。いつでも待っている」


 知の王の顔が——穏やかに笑った。


 八百年孤独だった魔王が、初めて「来てくれ」と言ってる。


 パカッ。


〝来るよ 約束する〟


「ああ。楽しみにしている」



 ◇



 封印の解除。


 知の王が、塔の中央の床に手を当てた。


「封印を解く。私の意志で」


 床に光が走った。白い光が塔全体に広がっていく。


「封印の解除は、蓋を開ける者(オープナー)の権限ではなく、私自身の権限で行う。封印の構造が他の塔と異なるからだ」


〝他の塔と違うのか〟


「第一、第二の塔は、大賢者が外から封じた。第三の塔は——私が自分で閉じた」


〝自分で?〟


「八百年前、大賢者が来た時——私は自分から封印に応じた。外に出る必要がなくなったからだ。大賢者に〝力で封じてくれ〟と頼んだのは、私の方だ」


 ……自分から封印された魔王。


 対話の王は暴走して封印された。戦の王は戦をやめたら封印された。知の王は自分から封印を望んだ。


 七人の魔王が、みんな違う理由で封印されてる。


「封印を解除する。ただし、私はここに残る。封印の枠組みだけを外して、この地域の魔物の力を元に戻す」


 知の王が——両手を広げた。


 塔全体が白い光に包まれた。


 蓋裏に通知が来た。



 ──────────────────

  第三の塔の封印——解除

  氷山地帯の魔物の本来の力、解放


  * 知の王は塔に残留

  * 博士(知の王の断片)は

    収納に常駐

 ──────────────────



 封印解除。


 三基目だ。


 残り四基。



 ◇



 あと一つ。


〝知の王、レグナの魂の欠片が、この塔にもあるらしい〟


「ああ、ある。この塔の通路の一つに封じてある。回収してやろう」


 知の王が手を振った。


 空中に——蒼い光の球体が現れた。レグナの魂の欠片。


 球体がレグナの方に飛んでいった。


 レグナの胸に吸い込まれた。


「……っ」


 レグナが一瞬、体を強張らせた。そして——蒼い炎がぶわっと燃え上がった。


 今までで一番大きい炎。


「……戻ってきた。さらに、戻ってきた」


〝今何割だ〟


「……九割五分。ほぼ完全体だ」


 九割五分。


 レグナの蒼い炎が、氷山の湿度を物ともしない密度で燃えてる。さっきまで七割だったのが、九割五分。圧が全然違う。


「残りの五パーセントは——おそらく、残りの塔のどこかに」


〝他の塔を回れば、完全体に戻れる〟


「うむ」


 レグナの蒼烈将軍(そうれつしょうぐん)の名は伊達じゃない。ほぼ完全体の蒼い炎は、もう湿度のハンデを受けてないみたいだ。


 知の王がレグナを見て、微笑んだ。


「蒼の炎の将軍か。対話の王の側の者だな。完全体に近い蒼炎は美しいな」


「……感謝する、知の王よ」


「礼には及ばぬ。私が勝手に封じていただけだ」



 ◇



 知の王が、最後に俺を見た。


蓋を開ける者(オープナー)。最後に一つ、贈り物をしよう」


〝贈り物?〟


「私の知識の一部を、おまえの蓋裏に刻む。これから先の旅で役立つ知識だ」


 知の王が、半透明の指を俺の蓋裏に触れた。


 じわっと、何かが流れ込んでくる。


 情報。大量の情報。


 蓋裏に新しい表示が現れた。



 ──────────────────

  知の王からの贈り物


  新規能力:〝蓋裏辞典(リッドライブラリ)


  * 蓋裏に知の王の知識の一部を刻印

  * 未知の魔物・魔法・地形に遭遇した際

    蓋裏に自動で解説が表示される

  * 査定が使えない環境でも機能する

 ──────────────────



蓋裏辞典(リッドライブラリ)〟。


 蓋裏が——図鑑になった。


 未知のものに出くわしたとき、自動で解説が表示される。査定とは別系統。査定が使えない環境(知の王の塔のように情報探知が封じられた場所)でも動く。


 これは——すごいぞ。


 今までの〝査定〟は「相手のステータスを数値化する」能力だった。この〝蓋裏辞典(リッドライブラリ)〟は「相手の背景・生態・弱点・歴史を解説する」能力。数値じゃなく知識。


 査定と辞典の二刀流。


「この先の旅で——知識が命を救う場面がある。備えておけ」


〝ありがとう、知の王〟


「ふふ。礼を言われるのは慣れていないが——悪くない気分だ」


 知の王が、椅子に座り直した。


「さて、私は読書に戻る。八百年目の、続きの章を読まねば」


 ……八百年目の続き。あんた、ずっと同じ本を読んでるのか。


「千二百巻ある本でな。まだ半分も終わっていない」


 千二百巻。八百年で半分。


 ……規格外だな、知の王の読書量。


「チョン」


 知の王がチョンを見た。


「また来い。おまえに教えたいことがある。文字の読み方から始めよう」


「文字? 蓋文字は読めるよ! タカラに教わった!」


「蓋文字ではない。人間の文字だ。古代文字も。魔法文字も。全部教えてやる」


 チョンの目がまた輝いた。


「やった! 先生!」


「先生、か。博士よりは良い呼び名だ」


『本体、私にだけ格の低い呼び名をつけるのはやめてくれ』


「格の問題ではない。愛称だ」


『愛称……まあ、いいか』


 知の王と博士が、本体と断片で会話してる。


 ……仲が良いんだか悪いんだか。



 ◇



 塔を出た。


 外は——雪が止んでた。


 空が青い。雲が切れて、日差しが差してる。


 氷山の雪が、きらきら光ってる。


「きれいー!」


 チョンが両手を広げた。


 俺は——底面の氷の板を展開して、雪の上を滑走。もう沈まない。


 パカッ。


 三基目の塔。知の王。


 戦わず、語り合って、封印を解いた。知の王は消えなかった。塔に残った。博士が俺の中に残った。


 三回とも、違う浄化だった。


 第一の塔:対話して、許して、送り出した。


 第二の塔:武で語って、認めてもらって、消えた。


 第三の塔:知で語って、蓋を開けて、中に残った。


 七人の魔王が、七通りの結末を迎える。


 あと四基。


 蓋裏を見た。



 ──────────────────

  解放済みの塔:3基

  残り:4基


  * 第四の塔の位置情報が

    解放されました


    第4の塔:南の焦土帯

    ──情報取得中──

 ──────────────────



 南の焦土帯。


 八百年前の大戦で焼かれた、不毛の大地。


 ……次は、そこか。


 パカッ。


〝帰ろう〟


「おう」


「ガウ」


「うむ」


「はい」


「うん!」


 全員が頷いた。


 まずはパカラ村に帰る。


 報告して、休んで、準備して——


 次の蓋を開けに行く。



 ◇



 【次回】パカラ村への帰路。レイスからの急報が届く。王都で何かが動いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ