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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第四部 氷壁の頂編

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第72話「三つの扉」


 翌日の午後。


 山の中腹に——塔が見えた。


 白い石の塔。第一、第二の塔と同じ白い石だけど、形が違う。


 第一の塔は丸みのある柱型だった。第二の塔は細い尖塔型だった。


 第三の塔は——四角い。


 直方体。白い石の直方体が、雪山の岩場にどんと立ってる。窓が一つもない。装飾もない。ただの白い箱。


「……箱だ」


 ガルドが言った。


〝箱だな〟


「おまえと同じだ」


〝俺の方がかっこいい〟


「自分で言うか」


 チョンが目を瞬いた。


「あの白い箱が、塔なの?」


〝塔っていうか……でかい箱だな〟


 博士が解説した。


『知の王の趣味だ。無駄を省いた、最も合理的な形状が直方体だ、と言っていた。機能に不要な装飾は知的ではない、と』


〝俺もかなり合理的な見た目だけどな〟


『あなたは宝箱だ。宝箱には蓋と紋様がある。知の王の塔には何もない。その差は大きい』


 宝箱の方が飾りがあるのか。


 ……宝箱に装飾で負ける塔って。



 ◇



 塔の前に立った。


 扉がある。白い石の扉。紋様は——ない。ただの白い石の板。


 〝査定〟を向けた。


 ……何も出ない。


 いや、出てない。査定が反応してない。


『知の王の塔には、査定が効かない』


 博士が言った。


「は?」


『知の王は、自分の情報を他者に読まれることを最も嫌う。この塔は、あらゆる情報探知魔法を無効化する。査定も含めて』


〝査定が使えない!?〟


 これは——でかいハンデだ。


 今まで、俺は〝査定〟で敵の情報を全部見て、それを元に戦略を立ててきた。それがゼロ。


 ガルドが苦笑した。


「事前に敵の手札が見えない戦い、ってことか」


〝そういうことだ〟


「タカラの〝査定〟って、ある意味ズルだったもんな。ズルが潰されたか」


〝ズルじゃなくて、俺のスキルだろ〟


「でも、ズルだっただろ」


 ……まあ、そうかもしれない。


 査定がない塔に入る。自分の目と耳と頭だけで判断するしかない。


 ……まあ、博士がいる。ヒントは出してくれるはずだ。


『ヒントは出せるが、直接の答えは教えられない。試練は、あなたたちの知性で解くべきだ』


〝了解〟


 扉に蓋を当てた。


 蓋裏が反応した。



 ──────────────────

  第三の塔の封印術式を検出


  通常解錠:塔守の資格+巫女の魔力

  代替解錠:第一・第二の塔を解放した者


  * 代替条件を満たしています

   解錠を実行しますか?

 ──────────────────



 実行。


 ゴゴゴゴ……。


 扉が開いた。


 中から——風は来なかった。空気が完全に静止してる。


 温度も変わらない。外は極寒だけど、塔の中は——博士が言った通り、魔力で温度が安定してる。暖かくはないけど、凍えるほどでもない。


「おお、中は寒くないぞ」


 ガルドが安心した顔をした。


「ガウ。匂いは……何もしない。塔の中は無臭だ」


 無臭。ガウルの鼻も効かないのか。


 レグナが蒼い炎を灯した。


「……湿度は、外より低い。蒼炎の出力が、少し戻った。七割くらいだ」


 レグナの蒼炎が回復気味。七割なら、まあ戦える。


 チョンが俺の横を歩いてる。緊張してる顔。


「タカラ……中、暗いね」


〝大丈夫だ 俺たちがいる〟


「うん」



 ◇



 塔の中は——白い石の通路だった。


 天井が高い。幅は四メートルくらい。白い壁、白い床、白い天井。照明は——壁に埋め込まれた魔法のランプ。淡い白い光。


 ものすごく、殺風景だ。


「飾りがない」


 ガルドが呟いた。


「ベイルのギルドの方がまだ飾ってあるぞ」


『知の王は装飾を知的でないと考えている。必要な情報だけが存在する空間が、最も美しいと』


「変なやつだな」


『変人だ。それは認める』


 博士が自分の本体を変人と言った。


 通路を進む。まっすぐ。分岐はない。


 五十メートルくらい進んだところで——通路が開けた。


 広いホール。第二の塔の階層と同じくらいの広さ。


 ホールの正面に——三つの扉がある。


 左、中央、右。三つとも同じ白い石の扉。


 三つの扉の上に、それぞれ文字が刻まれてる。



 ──────────────────

  左の扉:「知る者」

  中央の扉:「知らぬ者」

  右の扉:「知りたき者」

 ──────────────────



 そして、ホールの天井に、金色の文字が浮かんだ。



 ──────────────────

  第一の問い


  三つの扉のうち、正しい道は一つ。

  残り二つは、罠の道へと続く。


  おまえは、どの扉を選ぶか。

 ──────────────────



 三つの扉。正解は一つ。


「知る者」「知らぬ者」「知りたき者」。


 全員が考え込んだ。


 ガルドが頭を掻いた。


「知る者……って、知識がある奴が通っていいってことか?」


「ガウ。それだと、知識がない俺は通れないぞ」


「俺も通れねえよ」


 レグナが腕を組んだ。


「普通に考えれば、〝知る者〟が正解に思える。知の王の塔だ。知識がある者を通す」


〝……普通に考えると、そうなる〟


 でも——博士が言ってた。「知ったかぶりが一番の不正解」。


〝知る者〟は罠かもしれない。


〝知らぬ者〟は? 知らないことを認める者? チョンが「知らないって正直に言えばいい」って言ってたな。


 でも——「知らない」まま通っても、塔の試練は解けない気がする。


 残りは〝知りたき者〟。


 知りたい者。知ろうとする者。


 ……前にチョンに言ったな。「知らないことを知ろうとするのが、旅だ」。


 パカッ。


 俺が黙って考えてる間に——チョンが前に出た。


「タカラ」


〝なんだ〟


「俺、わかった気がする」


〝え〟


「だって、タカラが言ってたよ。旅は、知らないことを知ろうとすることだって」


 チョンが〝知りたき者〟の扉を指差した。


「知ってる人は、もう知ってるから、新しいこと学ばないでしょ。知らない人は、知ろうともしない。でも〝知りたい〟人は、これから学ぶ人だ。成長する人だ」


 チョンが振り返った。


「知の王って、賢い人が好きなんでしょ? でも賢い人って、〝全部知ってる人〟じゃなくて、〝知ろうとし続ける人〟だと思う」


 …………。


 十歳のホブゴブリンが、この答えを出した。


 ガルドが目を見開いた。


「チョン、おまえ……」


 レグナが微かに笑った。


「……子供の知性、か。確かに、大人には出せぬ柔軟さだな」


 収納の中で、博士が小さく笑った。


『ヒントを出すまでもなかった。正解だ』


〝マジで?〟


『マジだ。知の王は、〝知る者〟を最も嫌い、〝知らぬ者〟を哀れみ、〝知りたき者〟を最も愛する。知識は、完成した時に死ぬ。学び続ける限り、知性は生きている——それが知の王の信条だ』


 チョンが——ぱっと笑った。


「やった! 俺、当たった!」


〝よくやった〟


 パカッ。


 チョンの頭を、蓋でぽんと撫でた。


「えへへ」


 ガルドが首を振った。


「俺、〝知る者〟を選ぼうとしてた。チョンがいなかったら間違えてたな」


「ガウ。俺もだ」


 Aランクの戦士たちが、Dランクの子供に救われた。


 こういうのが、知の塔なんだろう。力じゃ解けない。



 ◇



〝知りたき者〟の扉を開いた。


 ゴゴゴ……。


 扉の先に——また通路が続いてる。白い壁、白い床。


 足を踏み入れた瞬間——天井から金色の文字が降ってきた。



 ──────────────────

  正解


  学び続ける者よ。

  知の王は、おまえたちを歓迎する。

  先へ進め。

 ──────────────────



 知の王が、歓迎してる。


 塔そのものが、知の王の意志で動いてる。


 進む。


 通路が少し広くなって——また分岐。


 今度は五本の通路が扇状に伸びてる。


 天井に文字。



 ──────────────────

  第二の問い


  五人の旅人がいる。


  一人目は「東に宝がある」と言った。

  二人目は「東には何もない」と言った。

  三人目は「一人目は嘘つきだ」と言った。

  四人目は「三人目は正直者だ」と言った。

  五人目は何も言わなかった。


  誰を信じて道を選ぶか。

  五本の道は、五人の旅人に対応する。

 ──────────────────



 論理パズルだ。


 嘘つきと正直者の組み合わせ問題。


 ガルドが頭を抱えた。


「うわ、苦手なやつだ。タカラ、おまえ考えてくれ」


 レグナが顎に手を当てた。


「一人目と二人目は矛盾している。どちらかが嘘つき。三人目は一人目を嘘つきと言い、四人目は三人目を正直と言っている。つまり三人目と四人目は一人目が嘘つきだという立場で一致している」


 なるほど。


 でも——三人目と四人目がグルで、二人とも嘘つき、って可能性もある。


〝博士 ヒントは〟


『直接の答えは教えられない。だが一つだけ。知の王は〝黙っている者〟を高く評価する傾向がある』


 黙っている者。


 五人目——何も言わなかった。


 さっきの第一の問いを思い出す。戦の王の塔でも、「何もしなかった三人目の戦士」が正解だった。


 何もしない者、何も言わない者。


 知の王も同じ構造か?


 でも——理由が必要だ。「黙ってるから正解」じゃ、ただの消去法になる。


 五人目は、なぜ黙っていたのか。


 チョンがまた口を開いた。


「タカラ。俺、五人目のこと、ちょっと分かるかも」


〝お?〟


「だって、嘘つきか正直者かって話してるけど、五人目は何も言ってない。嘘もついてないし、正直なことも言ってない。つまり——〝間違える可能性がゼロ〟だよ」


 ……間違える可能性がゼロ。


「一人目から四人目は、何か言ってるから、嘘か本当かわからない。でも五人目は何も言ってないから、嘘もついてない。だから信じられる……っていうか、信じるとか信じないとかの対象じゃない。〝判断を保留してる〟だけ」


 判断を保留。


「俺もさ、知らないことがいっぱいあるから、無理に答えを出さないようにしてるんだ。レグナに教わった。〝分からないことを分からないと言うのは、恥ずかしいことではない〟って」


 レグナが、小さく笑った。


「我が教えたことを、よく覚えているな」


「うん!」


 博士が言った。


『正解だ。五人目の道が、正しい道だ』


 俺はため息をついた。


〝チョン、おまえ、二問連続で正解だぞ〟


「え、すごくない? 俺すごくない?」


「ガウ。すごいぞチョン」


「えへへへへ」


 チョンが照れて笑ってる。


 ガルドが真顔で俺に言った。


「タカラ。……この塔、俺いらなくね?」


〝いらなくはないだろ〟


「チョンが全部解いてるんだけど」


〝でも護衛は要るだろ〟


「護衛な。うん、護衛だけな、俺」


 ガルド、ちょっと拗ねてる。



 ◇



 五人目の通路を進んだ。


 天井に、また金色の文字。



 ──────────────────

  正解


  判断を急がぬ者は、最も確かな道を歩く。

 ──────────────────



 いい言葉だな。


 通路が、少し狭くなった。


 そして——急に暗くなった。


 壁のランプが消えた。


 真っ暗。


「うわっ!」


 チョンが声を上げた。


 ガウルが耳を立てた。


「ガウ。光がなくなった。匂いは……やっぱり何もない。方向感覚がなくなる」


 レグナが蒼い炎を灯した。暗闇に蒼い光が広がる。


 でも——壁がない。


「……壁が、消えたぞ」


 レグナが周囲を照らした。白い石の壁がなくなってる。


 俺たちは——広い暗闘の中に、立ってた。


 足元だけ白い石の床がある。それ以外は——闇。


 天井に文字が浮かんだ。



 ──────────────────

  第三の問い


  知とは何か。


  答えよ。

 ──────────────────



 ……。


 知とは何か。


 哲学的な問い来た。


 ガルドが顔をしかめた。


「哲学は俺の管轄外だ」


「ガウ。匂いでは答えられない」


 レグナが腕を組んだ。


「知とは……知識の集積であろうか。いや、それでは表層的すぎる」


 リーリアが考え込んだ。


「知るということは……世界を理解しようとすること……?」


 チョンが首を傾げた。


「知って……なんだろう。俺、知ってることって、あんまりないんだけど」


 俺は——考えた。


 知とは何か。


 博士に聞いてみた。


〝博士、ヒントは〟


『ヒントか。……一つだけ。知の王は〝知とは何か〟を八百年考え続けた。そして、一つの答えにたどり着いた。だが、その答えは——万人に当てはまるものではない。この問いには、正解がない』


〝正解がない?〟


『正解がない問いだ。知の王は〝あなたにとっての知とは何か〟を聞いている。自分自身の答えを、正直に出すことが——唯一の合格条件だ』


 自分にとっての答えを出す。


 俺にとって——知とは何か。


 冒険者時代に学んだこと。ミミックとしてのスキル。仲間と出会ったこと。塔の魔王を浄化したこと。敵のスキルをコピーしたこと。戦い方を覚えたこと。旅の経験。


 全部、「知った」ことだ。


 でも——一番大事な「知」って、何だ?


 考えて、考えて——


 パカッ。


 俺は蓋文字を出した。でかく、闇の中に浮かぶように。



〝知とは、蓋を開けることだ〟


〝中に何があるかは、開けるまでわからない〟

〝怖いこともある 嬉しいこともある〟

〝でも蓋を開けなければ、何も始まらない〟


〝俺は宝箱だ〟

〝蓋を開ける者だ〟

〝だから俺にとって、知とは——蓋を開けること〟

〝未知のものに、蓋を開けて、中を見ること〟



 闇の中に、金色の蓋文字が光ってる。


 しばらく、静寂。


 そして——天井から、声が降ってきた。


 今までの文字じゃない。声だ。


 知の王の——本体の声。


『……面白い答えだ、宝箱よ』


 声が笑ってる。穏やかで、深い笑い声。


『知とは蓋を開けること、か。私は八百年考えて、〝知とは問い続けること〟だと結論づけた。だが——蓋を開けること、というのも、よく似た答えだ』


 暗闇が——晴れた。


 壁が戻った。白い石の壁。ランプが灯った。


 目の前に——一本の通路が伸びてる。


 金色の文字が、壁に浮かんだ。



 ──────────────────

  合格


  蓋を開ける者よ。

  おまえの答えを、私は気に入った。

  奥で待っている。

 ──────────────────



 知の王が——直接語りかけてきた。


 気に入られた。


 パカッ。


〝行くぞ〟


「おう!」

「ガウ!」

「うむ」

「はい!」

「うん!」


 全員が頷いた。


 通路の奥に——知の王の本体が待ってる。



 ◇



 【次回】知の王の本体と対面する。八百年の孤独を超えて、語り合いが始まる。

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