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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第四部 氷壁の頂編

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第70話「知の王はおしゃべりだった」


 教会から宿に戻ってきた。


 深夜だ。雪は止んでない。窓の外で、ちらちら降り続けてる。


 ガルドが伸びをした。


「やー、疲れた。久々の戦闘だった」


〝ガルドは収納に入ってる時間が長いだけで、戦闘自体は短かったぞ〟


「箱の中、暇なんだよ。動いてないから疲れる」


〝矛盾してないか〟


「してねえよ。動かないと体力使うんだよ」


 言い分のあるホブゴブリンだ。


 チョンがベッドにぼふんと座った。


「タカラ、あの女の子たち、家に帰れるって!」


〝そうか よかったな〟


「うん! 俺、もしまた攫われたら、また助けに行く!」


 チョンの目がきらきらしてる。


 ……この子、正義感が育ってるな。レグナの稽古は、技術だけじゃなくて心も育ててるのかもしれない。


 リーリアがアイをぷるんと撫でた。


「タカラ。収納の中の意識体、これからどうします?」


〝そこなんだよな〟


 俺の中に、知の王の意識の断片が入ってる。


 マリウス派から取り戻したけど、これをどうするか。


 破壊する? いや、本体に返したい。


 でも、塔に到達するまでは、この欠片はどう扱う?


「タカラ、収納の中で、その意識と話せるって書いてあったよね」


〝書いてた〟


「話してみる?」


 ……話す。


 知の王と。


 いや、その断片と。


 パカッ。


〝試してみるか〟



 ◇



 ベッドに置かれた俺の蓋裏に集中する。


 収納の中の意識の断片に、こっちから語りかける。


〝聞こえるか?〟


 しばらく、無音。


 返事がないか——


『……返事は、できる』


 声がした。頭の中に直接、響いた。


 冷静な男の声。深い。年齢を感じさせる落ち着き。


『私は、()(おう)の意識の一部だ。あの男たちに切り離されて、この水晶——いや、今は宝箱の中、か。状況は把握している』


〝……話せるんだな〟


『話すことしかできない、この姿では。体はないからな』


 知の王の意識の断片。


 声に、不思議な余裕がある。マリウス派に切り離されて閉じ込められてたはずなのに——いや、こいつにとってはどこにいようと変わらないのかもしれない。


〝俺はタカラ 蓋を開ける者(オープナー)って呼ばれてる〟


『ああ、知っている。私もすぐに気づいた。あなたは、世界の塔を一基ずつ解いている宝箱だ』


〝知ってたのか〟


『マリウス派の会話を、ずっと聞いていたからな。あの男たちは、あなたのことをよく話していた。〝厄介な宝箱〟、〝計画の障害〟、と』


 知の王、もう俺たちの情報を持ってる。


『なお、私は知の王の意識の一部だが、本体ではない。本体は、まだ氷壁(ひょうへき)(いただき)にいる』


〝本体と繋がってるのか〟


『繋がりは——薄い。マリウス派が私を引き抜く際に、ほぼ切断した。だが完全には切れていない。本体は、私が引き抜かれたことを認識していると思う』


〝じゃあ本体は怒ってるかもな〟


『私が引き抜かれた状況によるな。私が苦しんでいるなら、本体は怒るだろう』


〝苦しんでるのか〟


『今は、苦しんでいない。あなたの収納は……静かで、暖かい』


 …………。


 なんか、こいつ素直だな。


 戦の王みたいな武人の雰囲気じゃなく、もっと——学者みたいな、穏やかな感じ。



 ◇



『質問があれば、答えよう』


 知の王の断片が言った。


『私は知の王の意識の一部だ。知の王が知り得たことの——三割程度は、私にもある』


〝三割か〟


『七割は本体にある。だが、三割でも、人間の賢者数十人分の知識量だ』


 ……バケモノみたいな知性体だな、そっち。


 俺は質問することにした。


〝氷山の塔について教えてくれ〟


『塔の構造は、第一、第二の塔と異なる。第二の塔は闘技場型——〝武〟の試練を七階層に並べた構造だった』


〝そうだったな〟


『第三の塔——氷壁の塔は、〝迷路型〟だ。建物そのものが迷路になっている。塔の中に、無数の通路が張り巡らされ、複数の選択肢が用意されている』


 迷路。


『そして、各分岐点で、〝問い〟が出される。問いに正しく答えれば、正しい通路に進める。間違えば、行き止まりか、罠の道へ』


〝知の試練か〟


『そう。塔そのものが、巨大な試験会場と思えばいい』


 ……それは厄介だ。


 頭脳戦の連続。戦闘で突破はできない。


〝マリウス派が子供を欲しがってた理由は〟


『子供の方が、私の問いに答える適性が高いからだ』


〝なんで〟


『〝純粋な知性〟。先入観や固定観念がない。私の問いは、論理だけでなく、想像力や柔軟性も問う。大人の魔導士は、知識はあっても、柔らかさを失っている』


〝なるほど〟


『マリウス派は、適性の高い子供を選別して、塔の試練を解かせ、知の王の本体に到達させる計画だった』


〝そして本体と融合させて、知識を盗む〟


『そうだ』


 子供の犠牲を前提とした計画。


〝なんでこんな話を、おまえは普通に教えてくれるんだ〟


『私はマリウス派ではない。数週間前に、塔の封印の隙を突かれて引き抜かれた被害者だ。あなたが救出してくれた以上、あなたに敵意を持つ理由はない』


〝敵意を持たないだけか〟


『……それと』


 断片が、少し声を緩めた。


『あなたは、私を破壊することもできたはずだ。だが、収納で保護した。それは——本体に返すつもりだと推測する』


〝そのつもりだ〟


『ならば、私はあなたに協力する。本体に再会したい、と私が望むなら』


〝望むのか〟


『……望む』


 断片の声に、初めて感情らしきものが混じった。


『私は知の王の一部だ。本体に戻ることが、私の本来の姿だ』



 ◇



『さて。氷壁の塔への道について、より詳しく話そう』


 断片が、講義モードに入った。


『塔の入り口は、氷壁(ひょうへき)(いただき)の、ちょうど中腹にある』


〝山の頂上じゃないのか〟


『〝頂〟というのは山の名前だ。塔そのものは、山の中腹に建っている。麓から登れば、三日で到達できる』


〝魔物は〟


『山の麓から塔までの間に、複数の魔物が棲息している。氷狼、氷牙熊、雪の魔人——どれも、本来は山の上部にしかいない。だが封印が弱まり、麓まで下りてきている』


 ギルド支部長が言ってた通りだ。


〝対策は〟


『氷狼は群れで動く。リーダーを倒せば散る。氷牙熊は単独行動だが、雪の中での隠密能力が高い。雪の魔人は——』


 断片が、少し言葉を選んだ。


『雪の魔人は、注意が必要だ。元は人間の魂が、雪山で凍り付いて魔物化したものだ。知性は失っているが、生前の戦闘技術は残っている。Aランク以上の冒険者の魂が魔人化したものは——強い』


 ……雪山の魔物、けっこう厄介だな。


〝塔そのものの守りは〟


『塔は、知の王本体の意志で動いている。だが、知の王本体は……すでに、ある程度、達観している』


〝達観?〟


『八百年の眠りの中で、私の本体は——〝もう、外に出る必要はない〟と結論づけた』


 …………。


〝出る必要がない、ってどういうことだ〟


『八百年前、知の王は知識を蓄積するために動いた。様々な国を訪れ、書物を読み、賢者と語り、知識を集めた。だが封印された後——書物も賢者も国もない、知の王の脳内だけで、知識は無限に展開した』


『閉じた空間で、知の王の知性は、自己内で完結した。もう、外界の情報を必要としていない』


 ……それは。


 知の王にとって、塔は牢獄じゃなくなった。むしろ、最高の書斎になった。


〝じゃあ、塔から出たがってないのか〟


『出たがってはいない。だが、〝挑戦者と語り合うこと〟には興味がある』


〝挑戦者〟


『塔の試練を突破した者と、対話したいと思っている。知の王にとって、対話は最高の楽しみだ。八百年で、対等に語り合える相手は——一人もいなかった』


 ……。


 戦の王と、ある意味、似てる。


 戦の王は「強き者と語り合いたい」と願って、誰も理解しなかった。


 知の王は「知性ある者と語り合いたい」と思っているが、対等な相手がいない。


 みんな、孤独な魔王だな。


〝じゃあ、俺たちが行ったら、知の王は喜ぶのか〟


『喜ぶだろう。マリウス派のような〝盗む〟者ではなく、純粋に〝語り合う〟ために来た者なら』


『ただし——』


 断片が、声を低くした。


『知の王本体は、私が引き抜かれたことに、不快感を持っているはずだ。あなたが私を本体に返せば、知の王の機嫌は良くなる。逆に、私の解放が失敗すれば、知の王は塔の試練を厳しくするかもしれない』


〝持ち帰ろうとは思ってるよ〟


『助かる』


 断片が、少し笑った気がした。声しかないけど、温度で分かった。



 ◇



 外がだいぶ明るくなってきた。夜明けだ。


 俺は——一晩中、知の王の断片と話してた。


 ガルドが目を覚ました。


「あー、もう朝か。タカラ、起きてた?」


〝寝てない〟


「は?」


〝知の王の断片と話してた〟


「マジか」


 ガルドが起き上がった。


「で、どんな奴だった、その断片」


〝おしゃべりだった〟


「……えっ」


〝めちゃくちゃ博識で、めちゃくちゃおしゃべりだった 質問したら全部答えてくれた〟


「魔王の意識の断片が? おしゃべり?」


〝そう〟


 ガルドが頭をかいた。


「魔王のイメージが崩れていく……」


 ……まあ、戦の王の時から、魔王のイメージは崩れてた気もする。あいつも、最後は笑顔だった。


 チョンが起き上がった。寝ぼけ眼。


「タカラ……話、終わった?」


〝終わった〟


「知の王、どんな人だった?」


〝学者みたいな人だった〟


「学者? 大学の先生みたいな?」


〝俺たちに大学はないけど、たぶんそういう感じだ〟


「タカラ、博士って呼んでもいい?」


〝俺じゃなくて、収納の中の人だぞ〟


「あ、そっか」


 チョンが目を擦った。


「博士、よろしくお願いします」


 収納の中で、断片が小さく笑った気がした。


『……博士、か。悪くない呼び名だな』


 ……知の王の断片、博士って呼ばれて嬉しそうにしてる。


 マジで学者気質だな、こいつ。



 ◇



 その日の昼。


 ギルド支部長に、報告に行った。


 マリウス派の本拠地を制圧したこと、銀環の魔導士を捕えたこと、知の王の意識の断片を保護したこと——一部だけ伝えた。


「タカラさん、見事だな」


 支部長が、目を見開いた。


「マリウス派の実働部隊を捕えるなど、王国の聖騎士団でもできなかった偉業だ」


〝聖騎士団は、マリウス派と内部対立してるから動けないだけだ〟


「……それもそうだな。セルディス団長の名で報告書を上げよう。マリウス本人への追及材料になる」


 そして、子供たちは——


「皆、家に帰った。両親と再会した時、泣いて喜んでいた」


〝それは何より〟


「タカラさん、あんたは——本当に、街を救った」


〝礼はいい〟


 パカッ。


 俺がやることをやっただけだ。


 でも——子供たちが家に帰れて、両親が泣いて喜んだ。それは、いいことだ。



 ◇



 夜。


 明日、ついに氷壁の山に出発する。


 装備の最終確認をしながら、知の王の断片と、また話してた。


『あなたの仲間について、一つ気になっていることがある』


〝なんだ〟


『骸骨——蒼炎の将軍と呼んでいたな。彼の魂は、いくつかの欠片に分かれている』


〝ああ〟


『私の認識では、彼の魂の欠片の一つが、氷壁(ひょうへき)(いただき)にもある』


〝マジか〟


『マジだ。塔の中の、ある階層に封じられている』


 ……マジだったか。


 第二の塔と同じだ。レグナの魂の欠片が、第三の塔にも分散してる。


〝なら、塔に入る時に、回収する〟


『そうした方がいい。彼が完全な蒼炎将軍に戻れば、雪山でのハンデも軽減できる』


 知の王の断片、レグナの蒼炎が雪山で弱体化するのも、把握してるな。


 博学なやつだ。本当に。


〝助かるよ、博士〟


『…………』


 断片が、しばらく沈黙した。


『私を、博士と呼ぶか』


〝チョンが言ってたろ〟


『あの子供の言葉だが、悪くない呼び方だ。……気に入った』


 知の王の断片、博士になった。


 パカッ。



 ◇



 明日、雪山に向かう。


 収納の中の博士と、麓の魔物と、塔の迷路と、知の王本体と。


 いろんな知性が待ち受けてる。


 武の戦いの後は、知の戦いだ。


 ……俺、頭よかったかな。冒険者時代、戦術眼はあったけど、純粋な頭脳戦って、得意分野じゃない。


『心配するな』


 博士が言った。


『私が、収納の中からヒントを出せる。完全には介入できないが、ヒントなら』


〝助かる〟


『協力する。あなたが私を本体に返してくれるなら——私もあなたを助ける』


 パカッ。


 知の王の断片を、味方につけた。


 知性体の魔王と、対話で渡り合う旅。


 ……第二の塔とは、まるで違う旅になるな。



 ◇



 【次回】出発の朝、フロストの街を出る。氷壁(ひょうへき)(いただき)、山の麓へ。雪山の魔物が、迎えに来る。

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