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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第四部 氷壁の頂編

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第67話「雪の街、騒がしい」


 フロストの街の門。


 雪が降ってる。屋根に積もってる。壁に積もってる。看板にも積もってる。


 チョンが両手を広げて雪を浴びてる。


「うわー! うわー! 冷たい! でもきれい!」


 ホブゴブリンの子供が雪山で大はしゃぎだ。鼻が赤くなってる。


 ガルドが頭をかいた。


「タカラ、入るのに俺はどうする? ホブゴブリンが街にいたら大騒ぎだろ」


〝擬態は他人にかけられない〟


「うー、また箱の中か」


〝今度はチョンも一緒に入れる〟


「狭くなるじゃねえか」


〝でも遊び相手になるだろ〟


 ガルドが渋々頷いた。


「まあ、いいか。タカラ、頼んだ」


 ガルドを収納に。すぽん。チョンを収納に。すぽん。


 収納の中から声が聞こえる。


『うわー、広い! 暖かい! ガルド、こっちこっち!』


『おい、暴れんな』


 子供がはしゃいでる。中で。


 ガウルは——雪山では普通の犬として通用しそうだ。毛皮があるから、街中でも違和感が少ない。リーリアが紐をつけずに、横を歩かせることにした。


 レグナはマントで全身を覆って、フード深く。「火傷で顔を見せられない」設定で通す。


 俺は擬態でカイルの姿。冒険者風の旅装。


 門番が俺たちを止めた。


「止まれ。冒険者か?」


「ああ、氷壁の頂に向かう途中だ」


「氷壁の頂……? なんで?」


 門番が眉をひそめた。


「あの山、最近やばいぞ。冒険者でも近寄らない」


〝やばい〟って、具体的にどういうことだ?


「魔物が出すぎてる。普段の三倍は出てる。それと——」


 門番が声を低くした。


「街の人間が、消えてる」


 ……人が、消えてる?


 ガウルの耳が立った。リーリアが俺の隣で身をこわばらせた。


「詳しい話は街中で聞いてくれ。とにかく入る前に注意しておく。氷山には、今は近づくな」


 門番が顔をしかめた。


「ま、おまえらが行くって言うなら止めないけどな。死ぬなよ」


 通された。


 ……人が、消えてる、か。



 ◇



 街の中を歩く。


 雪が積もった石畳。家の屋根にも雪。煙突から白い煙。


 人通りは——少ない。


 冬の北の街にしては、少なすぎる気がする。


 ガウルが小声で言った。


「ガウ。匂いが少ない。人の匂いはあるけど、薄い。みんな家にこもってる感じ」


 通りを歩く人の表情も、明るくない。下を向いて、急ぎ足で行き来してる。


 チョンが収納の中から尋ねてきた。


『タカラ、外、どんな感じ?』


〝雪が降ってる でも、街の人が少ない〟


『なんで?』


〝あとで説明する 今は外に出ないでくれ〟


『はーい』


 ガルドの声も聞こえた。


『タカラ、これチョン用の遊び道具とかないのか? 暇だぞ』


〝俺の中で、おまえらは何ができるんだよ〟


『そりゃそうだけど』


 仲間内のおしゃべりで、収納がにぎやかだ。


 ……シェルター付きの宝箱だな、俺。



 ◇



 ギルド支部に向かう。


 北の街のギルドは、ベイルの街のそれより小さい。木造の二階建て。看板に「フロスト冒険者ギルド」と書かれてる。文字が雪で半分隠れてる。


 中に入った。


 暖炉が焚かれてて、暖かい。冒険者が三人、テーブルで酒を飲んでる。受付に女性が一人立ってる。


 受付の女性が顔を上げた。


「いらっしゃい。冒険者証は?」


 俺は冒険者証を出した。


 元カイルの冒険者証だ。冒険者を辞めた後も、死亡届を出してないから、まだ有効になってる。Bランクの冒険者カイル。


 受付の女性が証を確認した。


「カイル……。聞いたことない名前だね」


〝南の街のギルドに登録してたんだ 最近こっちに移ってきた〟


「そうかい。依頼の閲覧かい?」


〝それと、街の情報を聞きたい 氷壁の頂周辺の状況〟


 受付の女性が、一瞬、目を曇らせた。


「あの山、行くつもりかい?」


〝行くつもりだ〟


「やめときな、若いの。あんな所、行ったら帰ってこれないよ」


〝行く理由がある〟


 受付の女性がため息をついた。


「冒険者ってのは、頑固だね。……まあいい。少し待ってな」


 女性が奥に下がって、別の人を呼んできた。


 ギルドの支部長らしき、髭の男性。ドルトンと同じくらいの年齢。でもドルトンより目つきが鋭い。


「カイルさん。氷壁の頂に行きたいのかね?」


〝そうだ 目的は——〟


「目的は聞かない。冒険者の自由だ」


 支部長が手を上げた。


「だが、今の状況を伝えておく」


 支部長がテーブルに地図を広げた。氷壁の頂周辺の地図。


「最近、氷山から下りてくる魔物が増えてる。氷狼、氷牙熊、雪の魔人——どれも、以前は山の上にしかいなかった種類だ。それが、麓まで下りてきてる」


〝封印が弱まってる〟


「ああ。さらに——」


 支部長が地図の街周辺を指差した。


「街の周辺で、人が消える事件が起きてる。月に三人。子供と、若い女性が多い」


〝魔物の仕業か?〟


「最初はそう思った。だが、痕跡がない」


 支部長が眉を寄せた。


「魔物に襲われたなら、血や争いの跡が残る。だが——消えた者たちは、どこにも痕跡を残してない。まるで、忽然と消えてる」


 ……忽然と。


 魔物の襲撃なら痕跡が残る。痕跡がないなら——


 人の仕業か、それとも特殊な能力を持つ魔物の仕業か。


〝心当たりは〟


「ない。だが——」


 支部長が顎を撫でた。


「先月、街に変な男が来た。宮廷魔導士を名乗る男だ」


 ……宮廷魔導士。


 俺の中で警鐘が鳴った。


〝名前は〟


「マリウス殿の使者、と名乗った。本人ではない。代理の若い魔導士だ」


 マリウスの代理。


「街の状況を視察したいと言って、二週間ほど滞在した。その間に——人が消える事件が始まった」


 時期が一致してる。


〝偶然か?〟


「分からない。だが、その使者が街を出た後も、事件は続いてる。あの男が直接の犯人なら、出た後に事件が止まるはずだ」


〝じゃあ、無関係か〟


「無関係とは言い切れない。あの男が街にいた間、何かを残していった——という可能性もある」


 支部長が腕を組んだ。


「街の人間は、宮廷の使者を疑うのを怖がってる。だから誰も口にしない。だが——俺は、あの男を信用してない」


 パカッ。


 ……マリウスの周辺。やっぱり、何かが動いてる。



 ◇



 ギルドを出た。


 雪がさらに激しくなってる。


 ガウルが匂いを嗅いだ。


「ガウ。タカラ、街の匂いに……変なのが混ざってる」


〝変なの?〟


「人の匂いでも、魔物の匂いでもない。なんていうか……魔法の匂いだ。微かだけど、街全体に広がってる」


 魔法の匂い。


〝なんの魔法だ〟


「分からん。でも、嗅いだことがある気がする」


 ガウルが首を傾げた。


「……あ。マリウスの匂いに似てる」


 マリウスの匂い。


 あの男、何かの魔法を街に仕込んでいったのか。


 俺は収納の中のガルドに話しかけた。


〝ガルド 聞こえるか〟


『聞こえる』


〝マリウスの代理がこの街に来てた 二週間滞在して、それから人が消える事件が始まった〟


『マジか』


〝ガウルが街全体にマリウスの匂いに似た魔法を感じてる〟


『何かしてやがるな、あの宮廷魔導士』


〝対策を考えたい でもまず、もう少し情報を集める〟


『了解』


 ガルド、収納の中から冷静だ。中にいても役に立ってる。


 ……つくづく便利な宝箱だな、俺。



 ◇



 宿を取った。


 ギルド支部に紹介された、街の中心部の宿。「白熊亭」という。


 冒険者向けの宿で、部屋が広い。武器や装備を置けるスペースもある。


 部屋に入って、扉を閉めて——


 ガルドとチョンを出した。すぽん、すぽん。


 ガルドが伸びをした。


「あー、やっと出れた。ホブゴブリンの体が緑色なのが恨めしいわ」


 チョンが部屋の窓に走った。


「タカラ、雪が見える! 雪、こんな近くで見るの初めて!」


〝外に出るな 窓の外から見るだけだぞ〟


「はーい」


 チョンが窓に張り付いて、雪を見てる。


 俺は擬態を解いた。ぐにゃり。黒と金の宝箱に戻る。


 パカパカパカパカ。


 ベイルの宿の時と同じ。人間の姿のストレスを発散。


 ガルドが笑った。


「お、パカパカが復活した」


〝当然だ 俺の生命線〟


「生命線って」


 チョンが振り返った。


「タカラ、お腹空かない?」


〝俺は宝箱だから空かない でもおまえは空くか〟


「空く! すごい空いた!」


〝じゃあ食べに行くか 階下に食堂がある〟


「やった!」


 チョンが俺の隣でぱたぱた跳ねた。


 雪山に来てから、チョンのテンションがずっと高い。初めての雪、初めての街、初めての宿。新鮮さで満たされてる。


 パカッ。



 ◇



 食堂で夕食を取った。


 ガルドはまた収納の中。リーリアとチョンと俺(擬態で人間の姿)で、テーブルにつく。レグナはマントを羽織ったまま、フードを深くかぶって、隣の席で食べないけど座ってる。


 食堂は、宿の客だけが利用してて、他に冒険者風の男が二人いるだけ。


 俺たちは雪山仕様のシチューを注文した。具がでかい。肉の塊と根菜がごろごろ入ってる。


 チョンが目を輝かせた。


「うわー、うまそう!」


 チョンが食べ始めた。スプーンで肉を口に運んで——


 動きが止まった。


 チョンの視線が、店の外に向いた。


 窓の向こうの、雪の通りの方を。


「タカラ……あれ」


〝どうした〟


「あの女の人、見たことある気がする」


 女の人?


 俺もチョンの視線を追った。


 窓の外、雪の通りを、フードを深くかぶった女性が歩いてる。


 顔は見えない。普通の旅人風の姿。


 ……チョンの見覚えって、何だ? チョンは村の外を旅するの初めてだろう。


 〝知ってる人か?〟


「ううん、知らない人。でも、見たことある」


 チョンが眉を寄せた。


「あの人……パカラ村に来た使者の人と、雰囲気が似てる」


 ……マリウスの使者。


 パカラ村に来た時、グラドルが追い払ったやつ。


 チョンはその時、サガと一緒にその使者を見てたんだろう。


〝顔は見たか?〟


「ううん、フードかぶってて見えない。でも歩き方とか、雰囲気が……」


 窓の外の女性が、雪の中を歩いていく。


 俺は決断した。


〝追うぞ〟


 ガウルがテーブルの下から首を上げた。


「ガウ、了解」


 ガウルが先に出て、俺たちは食堂から急いで出た。


 女性の後を、距離を取ってつける。


 夜の雪の街。雪が降り続けてる。


 女性は、街の外れの方に向かって歩いてる。


 夜の街は人通りがほとんどない。家の灯りがぽつぽつ。雪明かりが街を白く照らしてる。


〝査定〟を女性に使ってみた。



 ──────────────────

 〝査定〟


   対象:人間(女性)


   総合戦力:A(魔導士系)

   状態:擬装中

  

   * 何らかの隠蔽魔法を使用中

   * 正体の特定は困難です

 ──────────────────



 Aランクの魔導士。それと、擬装してる。


 ただの旅人じゃない。


 俺たちは静かに後をつけ続けた。


 女性が、街の外れの古い倉庫に入った。


 俺たちは倉庫の影に隠れた。


 ガウルが匂いを嗅いだ。


「ガウ。タカラ。倉庫の中、人がいる。何人もいる。それと——」


 ガウルが眉をひそめた。


「子供の匂い。怖がってる匂いだ」


 …………。


 子供の匂い。怖がってる。


 パカッ。


〝査定〟を倉庫に向けてみる。距離がある。完全には分からない。でも——


 倉庫の中に、複数の人間の反応。そのうち何人かは、子供の反応。


 街から消えた子供たち。


〝……ここだ〟


 俺は仲間に目配せした。


 夜の雪の街で、人さらい事件の現場を、見つけてしまった。



 ◇



 【次回】倉庫の中で何が起きてるのか。なぜ子供たちは攫われたのか。マリウスとの繋がりは。

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