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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第四部 氷壁の頂編

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第66話「氷の山が、待ってる」


 パカラ村に帰ってから、十日が過ぎた。


 あっという間だった。村の運営の打ち合わせ、ガルドの治療、装備の整備、ガウルの新入りウォーウルフへの挨拶ツアー、レグナとチョンの稽古、リーリアと俺で薬の備蓄、リーリアの母サガに次の旅の話、グラドルへの森の管理依頼——


 やることが多すぎた。


 俺、宝箱なのに、村の事務員みたいな仕事が増えてる気がする。


「タカラ、これ仕入れた魔石の在庫表だけど、サインしてくれ」


 ガルドが書類を持ってきた。


〝サインって、俺、字を書く手がないんだけど〟


「蓋文字でいいよ。こうやって、書類の上に蓋裏を当てて」


 ガルドが俺の蓋を書類に押し付けた。蓋文字でサインを浮かび上がらせる。


 ……印鑑みたいな扱いだぞ、俺。


「ありがとな。次、税関係の書類だ」


〝税まで!?〟


「ベイルとの交易が始まったから、関税の処理が要るんだよ」


 Sランクの宝箱が事務処理してる。我ながらシュールだ。


 でも——これも村のためだ。やるしかない。



 ◇



 チョンが、村の広場で稽古してた。


 レグナが向かい合って棒を構えてる。


 チョンも棒を構えてる。背がちょっと伸びて、構えも様になってきた。


「行くぞ」


 レグナが踏み込んだ。


 チョンが受けた。一回、二回、三回——四回目で、棒を弾かれた。


「うわっ!」


 チョンが地面に転がった。


 レグナが棒を引いた。


「うむ。前より受けが続いた。三回までしか続かなかったのが、四回まで持つようになった」


 チョンが立ち上がった。


「うん! まだやる!」


 レグナが頷いた。


「だが、まずは構えからだ。基本を一つずつ」


 チョンが構え直した。レグナがゆっくり動きを見せる。チョンが真似する。


 ……うん、いい師匠と弟子だな。


 レグナの稽古は厳しいけど、丁寧だ。骨の体だから疲れない。何時間でも付き合える。チョンも音を上げない。


 俺の蓋裏で、〝査定〟が反応した。


 〝査定〟をチョンに向けてみる。



 ──────────────────

 〝査定〟


   対象:チョン(ホブゴブリン子供種)


   総合戦力:D

    (一年前:F)


   特記:成長中

    武術スキルの萌芽あり

    〝棒術・初級〟(学習中)

 ──────────────────



 DランクからFランク。


 元々のチョンはF以下だった。Eにすらなれてなかった。


 それが、十日でDまで上がってる。レグナの稽古の効果だな。


 戦闘力で言えばまだ低いけど、子供のホブゴブリンとしては、けっこうな成長だ。


 パカッ。


 〝チョン、見てたぞ〟


「タカラ! 見てた!? 俺、四回受けられた!」


〝知ってる Dランクになった〟


「ディー!? 俺、Dランクになったの!?」


〝査定で出てる〟


 チョンが目を輝かせた。


「やった! 俺、ランク上がった!」


 ホブゴブリンの子供がDランクって、平均より少し上くらいだ。Aランクのガルドからすると赤ちゃんレベルだけど、本人にとってはとんでもない進歩だ。


 レグナが頷いた。


「タカラ。チョンを連れて行くなら、戦力としてではなく——〝守られる側〟として連れて行くべきだ。Dランクでは、氷壁の頂の魔物には対応できぬ」


〝わかってる〟


〝でもこの子は、行きたがってる〟

〝置いていく方が傷つく〟


 レグナが少し笑った。


「そうだな。我もそう思う」


 チョンが二人を見て、首を傾げた。


「なに話してんの?」


〝おまえを連れていく話だ〟


「ほんと!? 行ってもいい!?」


〝条件は守れよ 弱音吐くな 俺たちの言うこと聞け むちゃするな〟


「守る! 絶対守る!」


 パカッ。


 ……まあ、約束は守ってもらおう。氷山は、本当に厳しい。



 ◇



 装備の話だ。


 俺たちは雪山経験がない。砂漠は経験した。でも、雪山は——


 ガルドが防寒具を見ながら唸った。


「タカラ。俺たちホブゴブリン、寒さに弱いんだよな」


〝そうなのか〟


「肌が緑だから、目立つのもある。雪の中だと、目立ちまくる」


 雪に緑色のホブゴブリン。確かに目立つ。


 ガウルが横で耳を立てた。


「ガウ。俺は寒さに強い。毛皮があるから」


〝ウォーウルフは雪山仕様か〟


「ガウ。砂漠で活躍できなかった分、雪山では俺の番だな」


 ガウル、リベンジに燃えてる。


 レグナは——


「我は寒さは感じぬが、湿度には弱い。雪が溶けて水になると、蒼い炎の制御が落ちる」


 雪山では蒼い炎が出力低下。砂漠の乾燥が逆に良かったのか。


 リーリアは——普通の人間。寒さには普通に弱い。厚着が必要だ。


 俺は——宝箱だから関係ない。


 でも仲間が全員寒さで動きが鈍るなら、対策が要る。


 ベイルの街で、雪山用の装備を仕入れた。毛皮のコート、防寒の魔石、雪用のブーツ、テント、寝袋、追加の食料。


 ドルトンが手配してくれた。「お得意様割引で」とか言って。冒険者ギルドが俺たちをお得意様扱いしてる。


 パンドラボックスの収納に、装備を詰めていく。


 ガルド「これ全部、おまえの中に入るのか」


〝入る 空間収納(くうかんしゅうのう)のおかげで、容量はかなり広い〟


 チョンの寝袋も、子供用を一つ追加。


「俺の寝袋もあるの!? ありがとう!」


〝寒い時は俺の中で寝てもいい〟


「ほんと!? タカラの中、暖かい!?」


〝あったかいぞ〟


 チョンの目がきらきらした。


 ……この子の目、本当にずるい。何でも輝いて見える。



 ◇



 マリウスのことを、村の幹部で相談した。


 俺、ガルド、レグナ、サガ、レイス、グリンの六匹で集まる。


 〝マリウスの動きをどう見るか〟


 俺が話を切り出した。


 ガルドが頭を掻いた。


「あの男、気持ち悪いんだよな。にこにこしてるけど、何考えてるかわからない」


 レイスが頷いた。


「上官として三年仕えたが、本当の顔は見たことがない。常に何かを計算しているような目をしている」


 サガが杖を撫でた。


「ワシは会ったことはないが、グリンの判断を信じる。村に来た使者を脅しと感じたなら、警戒すべきじゃ」


 レグナが言った。


「我の経験では、知略を主武器とする者には、力で対抗するよりも〝情報〟で対抗するのが良い。マリウスの目的を、こちらが先に把握すべきだ」


〝目的の把握 どうする〟


 レイスが手を上げた。


「俺が王都に潜伏する。聖騎士の身分を使えば、宮廷の動きが見える。マリウスの周辺を探れる」


〝危険じゃないか〟


「危険だが、必要だ。タカラが氷山に向かう間、王都の動きはこちらが見ておく」


 レイス、頼もしい。塔守の任務もあるけど、村の外交担当もこなしてる。


〝任せていいか?〟


「任せろ」


 サガが付け加えた。


「ワシは、村の中で情報を整理する。砂漠から来た手紙、ナギからの報告、ベイルからの噂——それらを集めて、マリウスの動きと突き合わせる」


 パカラ村の情報部隊が完成した。レイスが現場、サガが分析、グリンが村の警備、グラドルが森の防衛。


 俺たちが氷山にいる間、留守は安心して任せられる。


 パカッ。



 ◇



 出発の前夜。


 チョンが、俺のところに来た。


「タカラ……寝れない」


〝緊張してるのか〟


「うん……。明日から、初めて、村の外に出るんだよね」


 チョンが、丘の上で空を見てた。


「俺、ずっとパカラ村にいたから……外がどんな感じか、わかんない」


〝広いぞ〟


「広い?」


〝めちゃくちゃ広い 俺もこの旅で初めて見る場所がいっぱいあった 砂漠とか、見たことない景色だった〟


「砂漠、行ってみたかったな」


〝今度、ナギに会いに行こう〟


「うん!」


 チョンが、空を見上げた。


「タカラ。怖くない? 外、知らないことばっかり」


〝怖いよ〟


「タカラでも怖いの!?」


〝怖いよ 知らないことは怖い でも——〟


〝知らないことを知ろうとするのが、旅だ〟


 チョンがしばらく黙った。


「……うん」


 チョンが頷いた。


「俺、知ろうとする。怖いけど、知ろうとする」


〝それでいい〟


 パカッ。


 チョンが俺に寄りかかった。


「タカラ……あったかい」


〝中に入って寝るか?〟


「うん」


 チョンを収納に入れた。すぽん。


 ……ホブゴブリンの子供を寝かせる宝箱。本来のミミックの仕事と、用途が真逆になってる。


 まあ、いいか。


 収納の中で、チョンがすぐに寝息を立て始めた。


 パタン。


 俺も、蓋を閉じた。



 ◇



 翌朝。


 出発の朝が来た。


 パカラ村の広場に、村の住人全員が集まってる。


 ホブゴブリン三百匹、ウォーウルフ二十五匹、新入りのコボルト八匹、トレント二本、岩トカゲ五匹、新入りの正体不明の魔物何匹か。


 みんなが見送りに来てる。


 グリンが胸を叩いた。


「タカラ! 村は俺たちが守る!」


〝頼んだ〟


 サガが杖を地面にとんと当てた。


「行ってこい。氷の山も、蓋を開けて来い」


〝行ってくる〟


 グラドルが枝を揺らした。


「我の根は、地下で繋がっておる。何かあれば、震動で伝えろ」


〝心強いな〟


 レイスが敬礼した。


「俺は王都に向かう。氷山に着いたら、また連絡を取る」


〝頼む〟


 チョンが、村のみんなに手を振った。


「行ってきまーす!」


 子供のチョンの声が、村中に響く。


 ホブゴブリンの子供たちが、チョンの周りに集まってきた。チョンの友達だ。


「チョン、気をつけてな!」

「強くなって帰ってきてくれよ!」

「俺たちも稽古続けて待ってるぞ!」


 チョンが頷いた。


「待っててくれ! 絶対、もっと強くなって帰ってくる!」


 ……うん、いい仲間だな、こいつら。


 パカラ村のホブゴブリンの世代が、ちゃんと育ってる。


 俺がパンドラボックスになって、各地に拠点が広がって、王国にも認められて。


 でも、村の根っこは——一年前のあの日、ダンジョンで出会ったゴブリンの群れだ。


 あの頃のサガと、グリンと、チョンと、ガルドが、今もここにいる。


 パカッ。



 ◇



 ズズズで丘を下りる。


 ガルドがホブゴブリンの脚で走ってくる。


 ガウルが銀色の毛を風に揺らして駆けてくる。


 レグナが大股で歩いてる。


 リーリアが俺の隣を歩いてる。


 チョンが俺と並んで、必死に走ってる。子供の脚だから、頑張らないとついていけない。


〝チョン 遅れたら収納に入れるぞ〟


「が、頑張る! 走れる!」


〝意地張るな〟


「張る!」


 ……まあ、好きにさせよう。


 パカラ村が遠ざかっていく。


 丘の上の村。グラドルの巨体。


 次の旅。次の塔。次の蓋。


 北へ。氷の山へ。


 パカッ。



 ◇



 北を目指して五日が経った。


 道中、特に大きな事件はなかった。封印解放の余波で、街道沿いの魔物が強くなってる場所はあるけど、俺たちの戦力を見るとほとんどの魔物が逃げる。


 Sランクの宝箱、Sランク上位の骸骨、A以上のホブゴブリンとウォーウルフ、巫女の人間。それと——子供のホブゴブリン一匹。


 ……うん、最後の一人だけ場違いだな。


 でもチョンは頑張ってる。長距離を歩く体力が、徐々についてきてる。


「タカラ、見て! あの花、白い! 俺、初めて見た!」


 チョンが街道の脇の花を指差した。


〝あれは普通の花だ〟


「普通でも、俺は初めてだから新鮮なんだ!」


〝……そうだな〟


 チョンの目には、何でも新しい。風景一つ一つが宝物だ。


 俺もミミックになった頃、世界が新鮮だった。冒険者だった頃の俺が見てた世界とは、全然違う風景に見えた。


 チョンの興奮が、俺にも伝わってくる。


 ……旅って、こうやって楽しむもんだったな。次々進化してきた中で、忘れかけてた感覚だ。



 ◇



 北に進むほど、空気が冷たくなる。


 森の植生が変わる。広葉樹から針葉樹へ。緑が深く、暗くなる。


 六日目。山岳地帯に入った。


 空気がさらに冷える。リーリアが厚いコートを着始める。ガルドも防寒着を着る。チョンも子供用のコートを羽織る。


 俺は——宝箱だから関係ない。


 でも、表面に霜が降り始めた。


 パカッ。霜が砕けて、ぱらぱら落ちた。


「タカラ、宝箱に霜降りる体質だったんだ」


 ガルドが感心した顔をした。


〝俺の表面は冷えると霜になるな〟


「シュールだ」


 シュールって言うな。物理現象だよ。


 ガウルが匂いを嗅いだ。


「ガウ。北の街が近い。人の匂いがする。それと——」


 ガウルが眉を寄せた。


「魔物の匂い、何種類か。雪山で見たことない種類だ」


 雪山の魔物。新しい種族。


〝査定〟は使えない。距離が遠すぎる。近づいてからだ。


 パカッ。


〝先に街で情報を集めよう〟


 ガルドが頷いた。


「氷山の前に、街で休憩。装備の最終確認だな」


〝そうしよう〟


 北の街——名前は「フロスト」って聞いてる。氷山の麓にある街だ。


 道がひらけて、街が見えてきた。


 白い屋根。煙突から白い煙。


 チョンが声を上げた。


「うわぁ、雪が降ってるよ! タカラ、雪!」


 空から、白いものが舞い降りてきてる。


 雪。


 チョンが両手を広げて、雪を受け止めようとしてる。


 ガウルが尻尾を振った。


「ガウ。これだ。これが俺の活躍する場面だ」


 雪山に来た。


 ここから——氷壁の頂への、本当の旅が始まる。


 パカッ。



 ◇



 【次回】フロストの街に到着。北の街で起きてる事件、氷山に出る魔物の情報、そして——チョンが街で見つけた、ある物。

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