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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第三部 七つの蓋編

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第65話「次の蓋へ」


 砂漠を抜けた。


 風の匂いが変わる。乾いた砂の匂いから、土と草の匂いへ。ガウルの鼻が機嫌を取り戻していく。


「ガウ……。匂いが戻ってきた。やっと俺の鼻が役に立つ」


〝砂漠の間、不機嫌だったもんな〟


「うるせえ」


 うるせえって言うなよ。


 街道に出た。ベイルの街までもう少し。


 ガルドが両腕の包帯を撫でた。戦の王戦で入った亀裂は、リーリアとアイの治療でだいぶ塞がった。でもまだ完全じゃない。


「タカラ、ベイルで一泊するか? 体、まだ重い」


〝そうしよう ドルトンにも報告しないとだしな〟


 ベイルの街で、ドルトンに報告。それから一晩休んで、パカラ村へ。



 ◇



 ベイルの街の門。


 仲間たちも、もう隠す必要があんまりない。パカラ村が公式に認められて、王国もパカラ村の魔物に手を出さない方針になってるから。


 ガルドが堂々と歩いてる。ガウルも紐なしで横にいる。レグナはマントで顔は隠してるけど、骨が見えても問題ない時代になりつつある。


 門番が、俺たちを見て——驚いた顔をしたけど、すぐに道を開けた。


「あ、あの……パカラ村の使節殿、で間違いないですよね?」


〝ああ〟


「お通りください。ドルトン支部長から〝来たら通せ〟と申し付けられております」


 ドルトンの根回しか。さすがだ。


 ガルドが感心した顔をした。


「俺たちって、もう要人扱いなのか」


〝そうみたいだな〟


「身分が上がりすぎて怖いわ」


 怖がるなよ。ホブゴブリンの軍団長で、自治集落の幹部だぞ、おまえ。



 ◇



 ギルド支部でドルトンに報告した。


 戦の王の浄化、戦王軍(せんおうぐん)の解体、砂漠の自治集落、ドレイクの新任務、砂帝蠍(サンドエンペラー)の同盟。


 ドルトンが書類を見ながら頷いた。


「順調すぎるな。一年前のおまえらは、ベイルの街の壁の前で立ち往生してたのに」


〝今もしてる〟


「いや今はしてないぞ、堂々と入ってきただろ」


〝言葉のあやだよ〟


 ドルトンが書類をまとめた。


「セルディス団長への報告書を作る。マリウス殿への通信も。それと——」


 ドルトンが顔を上げた。


「タカラ。気をつけろ」


〝何にだ〟


「王宮内で動いてる派閥のことだ。マリウスから手紙を受け取ったか?」


〝受け取った 〝魔物を武器として使う〟派閥のことだろ〟


 ドルトンが頷いた。


「俺の方にも情報が入ってる。あの派閥の中心は、若い宮廷魔導士たちだ。マリウスの弟子筋が多いと聞いてる」


 ……マリウスの弟子筋。


 じゃあマリウスは、その派閥の——元締めなのか? それとも、弟子が勝手に動いてるのか?


 ドルトンが続けた。


「マリウス自身がどっち側かは、俺にも分からん。あの男は何を考えてるか分からんからな。だが——彼の影響圏で、おまえらを利用しようとする動きがあるのは確かだ」


〝注意しておく〟


「第三の塔に向かうなら、なおさら気をつけろ。〝知の王〟が相手なら、知略の戦いになる。情報戦、政治戦、心理戦——マリウス自身が動いてくる可能性もある」


 マリウス。にこにこした宮廷魔導士。


 頭の中で、戦の王の戦闘とは違う種類の緊張感が、じわっと立ち上がった。


 武で語る相手は、わかりやすかった。剣を交わせば通じた。


 知で語る相手は——そうはいかない。



 ◇



 翌日、パカラ村に向かう。


 街道を進んでると、ガウルの耳がぴくっと立った。


「ガウ。タカラ、誰か走ってくる。前から、すごい速さで。すごく小さい」


 すごく小さい?


 ガルドが目を凝らした。


「あ、チョンだ」


 砂埃を上げながら、こっちに向かって走ってくる影。


 ホブゴブリンの子供が——全力疾走で街道を駆けてくる。


「タカラぁぁぁ!!」


 チョンの叫び声が遠くから聞こえる。


「みんなぁぁぁ!! おかえりぃぃぃ!!」


 近づいてきたチョンが……速い。


 俺たちの目の前で急停止して、ぜいぜい息を切らした。


「はあっ……はあっ……。間に合った……」


〝何が間に合ったんだ〟


「お、おかえりの挨拶……走って迎えに行くって、決めてた……」


 ……ベイルの街からパカラ村まで歩いて半日。チョンが走ってきたなら、それなりの距離だ。


 ガルドがチョンの頭を撫でた。


「すげえ走力じゃねえか、おまえ」


 チョンがにかっと笑った。


「レグナにいっぱい教えてもらったんだ! 体の動かし方!」


 チョンの体が、出発前と少し違う。背がちょっと伸びてる。腕の筋肉が前より引き締まってる。


 武術の鍛錬の跡だ。


 レグナが頷いた。


「うむ。我のいない間も、自主練を続けていたか」


「うん! 次タカラたちが旅に出る時は、俺もついてけるように——って、毎日練習してた!」


〝チョン……〟


「タカラ、約束したよね? 次は連れてくって」


 …………。


 うん、した。レグナが「次は連れていく。約束する」って言ってた。


 でも次の塔は氷の山だ。雪山。チョンを連れて行くには——危険が多い。


 でも、断ったらこの子の積み重ねた努力が無駄になる。


 ガルドが俺の隣でうなずいた。


「タカラ。連れて行こうぜ」


〝危険だぞ〟


「危険だけどな。本人が成長してるなら、行かせるのが筋だ。俺たちが守ればいい」


 レグナも頷いた。


「我も同意だ。チョンの成長は、確かに見るべきものがある」


〝……わかった〟


 チョンの目がぱっと輝いた。


「行ってもいいの!?」


〝条件付きだ〟


〝レグナの稽古を、もっと続けろ 俺たちが第3の塔に出発するまでの期間、毎日だ〟


「やる! 絶対やる!」


〝弱音を吐いたら、置いていく〟


「吐かない! 絶対吐かない!」


 パカッ。


 ……まあ、こいつは口だけは達者だな。実際に行く時には、もう少しこの子の覚悟を見てから決めよう。



 ◇



 パカラ村に着いた。


 丘の上の村。グラドルの巨体が遠くから見える。出発した時より、グラドルの枝が広がって、村全体を覆うように緑が茂ってる。


 なんか村が——大きくなってる。


 建物が増えてる。前は二十軒くらいだった木の家が、五十軒近くある。


 ホブゴブリンが何体か、村の畑で働いてる。


 ホブゴブリン三百匹は前からいたけど、それ以上に——見たことのない魔物がいる。


 ウォーウルフが、十匹以上。前は十八匹だったのが、二十五匹くらいに増えてる。コボルトの群れが、新しく加わってる感じだ。


〝……増えた?〟


 ガルドが目を見張った。


「俺たちが留守の間に、新しい仲間が来たな」


 ガウルが匂いを嗅いだ。


「ガウ。コボルトが八匹、トレントが二本、岩トカゲが五匹……知らない種族の魔物が、何種類か」


 封印が解けた地域の魔物が、パカラ村に流れ込んできてる。出発前に予想してた通りだ。


 グリンが村の門の見張り台から駆け下りてきた。


「タカラ! 帰ってきたかぁ!」


〝ただいま〟


「お疲れ! 砂漠どうだった!?」


〝あとで全員集めて報告する その前に——〟


〝あの新しい連中はなんだ〟


 グリンが頭を掻いた。


「あー、あれな。封印が解けて進化した魔物が、最近、毎週何匹か来るんだよ。〝パカラ村に入れてくれ〟って」


〝で、入れてるのか〟


「俺の判断で、危険じゃないと思った奴は入れてる。サガと相談して」


 グリン、判断力を身につけてるな。第4話の頃のビクビクしたゴブリンの面影、どこにもない。


 パカッ。


〝よくやった〟


「えへへ」


 グリンが照れた。



 ◇



 サガが杖をついて出てきた。


「タカラ。無事じゃったな」


〝ただいま〟


「砂漠の話、ゆっくり聞きたいの。だがその前に——」


 サガが眉を寄せた。


「数日前、宮廷からの使者が来た」


〝使者?〟


 「マリウス殿の代理を名乗る男じゃった。〝タカラ殿が戻ったら、王都に来てほしい〟との伝言を残していった」


 マリウスの代理。手紙だけじゃなく、使者まで送ってきたのか。


 サガが、ちょっと困った顔をした。


「使者の様子が、どうも妙でな。〝協力しなければ、パカラ村の立場が危うくなる〟みたいな含みのある言い方をしておった」


 ……脅し、だな。


 マリウス自身は手紙でにこにこ書いてくるけど、その代理は脅しをかけてくる。本人は表で柔らかく、裏で別の動きをする男なのか。


〝どうした その使者〟


「グラドルが追い払った」


 ……グラドルが?


 サガが苦笑した。


「グラドルが、根を一本だけ動かしてな。使者の足元の地面を一瞬持ち上げただけじゃ。じゃが——使者は腰を抜かして、逃げ帰った」


 ……グラドル、平和的な脅し方を覚えたな。


 遠くで巨大な大樹海(エルダーフォレスト)が、枝を揺らしてる。挨拶してくれてる。


〝ただいま、グラドル〟


「うむ。よく戻ったな、宝箱」


〝森を守ってくれてありがとう〟


「……まあ、我の仕事だ」


 グラドルが、ちょっと照れた感じで枝を揺らした。三十メートルの大樹海が照れる絵面、けっこう癒される。



 ◇



 その夜。


 村の広場で、宴会になった。


 帰還祝い。砂漠から持ち帰った食材も振る舞った。サソリの焼きものが大好評で、チョンが五匹くらい食べてた。


「うまっ! なにこれ! タカラ、また砂漠行く時、これ買ってきて!」


〝買うんじゃなくて狩るんだよ〟


「狩ってきて!」


 パカパカパカパカ。


 俺は楽しい時用のパカパカ。村中のみんなが笑ってる。


 ガルドが酒を片手に俺の隣に座った。


「タカラ。次の塔、どうする?」


〝氷の山だな〟


「いつ出発する?」


〝休みを十日くらい取って、それから〟


 ガルドが頷いた。


「了解。装備整えとくわ」


 ガルドの方を見ると、両腕の亀裂はだいぶ薄くなってる。リーリアの治療と、休息の効果。


 次の旅まで、十日。それで完全に治る。


「タカラ」


 ガルドが酒を飲み干した。


「次の旅も、よろしくな」


〝ああ〟


 パカッ。


 遠くで、レグナがチョンに棒術を教えてる。チョンが真剣な顔で構えてる。


 ガウルがウォーウルフの新入りたちと挨拶してる。「俺がリーダーだ」って顔で。


 ナギは砂漠に残ったから、ここにはいない。でも、手紙を送ると言ってくれた。


 砂帝蠍(サンドエンペラー)も砂漠の守護者として残った。


 ドレイクが砂漠を管理してる。


 砂鬼将(さきしょう)蠍道士(さそりどうし)も、砂漠の自治集落の住人になった。


 パカラ村と、砂漠の集落と、ベイルの街と、王都の聖騎士団。


 俺の周りに、いっぱい繋がりができてる。



 ◇



 夜が更けて、宴会が落ち着いた頃。


 俺は丘の上に出て、星を見てた。


 パカラ村の灯りが下に広がってる。グラドルの巨体が黒い影で立ってる。


 チョンの蓋文字の手紙を、収納から取り出した。


 ぐにゃぐにゃの、下手くそな字で書かれた手紙。


 〝タカラへ

  ぜったいかえってきてね

  レグナもガルドもガウルもリーリアも

  ぜんいんかえってきてね

  まってる

  チョンより〟


 帰ってきた。約束通り。


 チョンの強くなった姿も、グリンが村を守れるようになった姿も、グラドルが平和的に脅せるようになった姿も——全部見れた。


 ……いい帰還だ。


 パカッ。


 収納から、もう一通の手紙を取り出した。マリウスからの手紙。


 追伸の部分を読み返した。


『追伸:第三の塔について、興味深い情報を得ました。「知の王」と呼ばれる魔王が封じられているそうです。戦闘では倒せない相手とのこと』


 知の王。戦闘では倒せない。


 ……どうやって浄化するんだろうな、こいつ。


 武で語る、はもう使った。次は——知で語る、か。


 知略の戦い。心理戦。情報戦。


 マリウスとの絡みも増えそうだ。あの男が、味方なのか敵なのか、それを見極めながら進む必要がある。


 ……忙しくなるな、ほんと。


 でも——


 パカッ。


 パカパカパカパカパカパカ。


 パカパカが俺のリズム。これは変わらない。


 パンドラボックスになっても、武装擬態(アームドミミック)を覚えても、闘気纏(とうきてん)を継承しても——俺は宝箱だ。中身を大事にする宝箱。蓋を開ける宝箱。


 次の塔も、解きに行く。


 北の山脈、氷壁の頂(ひょうへきのいただき)


 待っててくれ、知の王。


 俺が——蓋を開けに行く。


 パカッ。




 ◇



 【次回・第四部】十日後、旅立ちの朝が来る。氷の山に向かう。チョンが「俺も行く!」って胸を張って言ってる。雪山仕様の装備を整えて、出発の準備。北の街で起きてる事件、マリウスの動き、知の王の正体。新しい旅が始まる。

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