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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第三部 七つの蓋編

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第63話「武で、開けた蓋」


 戦の王が、ホールの中央で膝をついた。


 両手を膝に置いて、静かに座ってる。鎧は焦げ、頬には傷、息は荒い。それでも背筋がぴんと伸びてる。武人の座り方だ。


 俺は、武装擬態を解除した蓋のまま、戦の王の前に進んだ。


 ズズズズ。


 ……うん、こういう時の効果音、もうちょっとカッコよくしたいけど、宝箱の移動音はズズズしかない。仕方ない。


 戦の王が顔を上げた。


「で——どうする」


〝何を〟


「我を、消すのだろう? 約束だ」


 約束。武で語ってから、浄化する。


 俺は蓋文字を出した。



〝消す前に、伝えたいことがある〟



 戦の王が、ふっと笑った。


「ほう。武人の語らいの後で、まだ言葉があるか」


〝武人にも、言葉は必要だろ〟


「そうだな。我もそう思っていた」


 戦の王が、軽く頭を下げた。聞く姿勢だ。



 ◇



 俺は、最初に砂鬼将(さきしょう)の話をした。


〝おまえの部下に、砂鬼将(さきしょう)って奴がいた〟


〝鬼人族の戦士だ。戦王軍(せんおうぐん)の首領をやってた〟


〝塔の前で、俺たちと戦った〟


 戦の王が、目を見開いた。


砂鬼将(さきしょう)……。あいつ、生きておるのか」


〝生きてる 俺たちが倒したけど、殺してない〟


〝今は聖騎士団に拘束されてる〟


「……あいつめ。八百年生き残ったか」


 戦の王の声に、笑みが混じった。


「あいつは我の三将軍の筆頭だった。武で言えば、我に次ぐ力を持っていた」


〝そうか〟


「我が封じられた後、おまえたちに敗れたか。年月は人を作るのだな……我の知る奴より、強くなっていたのだろう」


〝けっこう手強かった〟


〝で、あいつが俺たちに伝言を残した〟


 戦の王が、わずかに身を乗り出した。


〝〝あの方を、力で負かしてやれ〟だってさ〟


 戦の王が、息を止めた。


 長い沈黙だった。


 ゆっくりと、戦の王が手を顎に当てた。


「……あいつ、そんなことを」


 戦の王の声が、震えた。


「我の願いを、知っておったのか。八百年前から、知っておったのか」


〝知ってたみたいだな〟


「我は、あいつにすら、はっきり言ったことはなかった。戦をやめたいなどと——口にした記憶もない。だが、あいつは……察していたのか」


 戦の王が顔を上げた。目が潤んでる。


 武人の魔王が、八百年前の部下の伝言で、泣きそうになってる。


 次に、亡霊公(ぼうれいこう)の話をした。


亡霊公(ぼうれいこう)って奴もいた〟


〝もう死んでたけど、死霊術で動き続けてた〟



「……亡霊公(ぼうれいこう)。あいつも、まだ動いていたか。死んだ後も、術が解けるまで」


〝あいつとは、戦わなかった〟


〝俺の中——禁忌の宝箱(パンドラ)の中で、対話して、消えた〟


「対話して、消えた、か」


〝最後にあいつが伝言を残した〟


〝〝我らは十分に戦った。もう眠っていい〟だってさ〟


 戦の王が、目を閉じた。


「……そうか」


 長い吐息。


「あいつもまた、知っておったのか。我が——もう、戦に辟易していたことを」


 戦の王が、口元だけで笑った。


「我は、伝えなかった。配下に、戦をやめたいなどと言えるわけがなかった。武人の王が、武をやめると——許されるはずがないと思っていた」


〝でも、配下は察してた〟


「察してくれていた。八百年前、我が誰にも言えなかった願いを」


 戦の王が、両手を膝に戻した。


「許せ。我は……愚か者だな。配下を信じきれなかった愚か者だ」


〝愚か者じゃない〟


〝武人の王として、誇り高すぎただけだ〟


 戦の王が、少しだけ、唇を曲げた。笑顔のような、苦笑のような。


「優しいことを言うではないか、宝箱」


〝宝箱は優しい〟


〝中身を大事にするからな〟


「ふっ……。これは、新たな格言だな」


 戦の王が、ようやく心から笑った。



 ◇



 戦の王が、立ち上がった。


 もう、闘気は出してない。鎧の擦り傷を払って、姿勢を正した。


「では、最後の話をしよう。我の——本当の話を」


 ガルド、レグナ、ガウル、ナギ、リーリア、アイ、全員が聞く姿勢になった。


 戦の王が、ホールの天井を見上げた。


「我は、生まれた時から戦士だった。鬼人族の里で、剣を握って育った。最初に殺したのは……五歳の時だ。我の里を襲った、人間の盗賊だった」


 五歳で人を殺してる……。


「以来、戦に明け暮れた。強き者と戦い、勝ち、また強き者を求めた。十代で戦士団を率い、二十代で軍を率い、三十代で——魔王と呼ばれるようになった」


 戦の王が、自分の手のひらを見た。


「強くなれば、対等な相手が消えていく。我に勝てる者がいなくなった。武で語り合いたかったのに、語る相手がいなくなった」


〝孤独だったのか〟


「孤独……ではない。もっと、虚しい感覚だった。武の頂点に立った時、その先には何もなかった」


 戦の王が、目を閉じた。


「ある日、悟ったのだ。我が求めていたのは戦そのものではない。〝対等な存在と語り合う場〟だった。それが、たまたま戦という形になっただけだった」


 戦の王は、目を開いた。


「だから、戦をやめると言った。これからは、戦以外の形で語り合いたい——と。だが、それを聞いた者たちは——驚き、混乱し、そして恐れた」


〝大賢者たちか〟


「大賢者たちは、我の言葉を信じきれなかった。あるいは、信じたが恐れた。〝戦をやめた魔王〟が、何を始めるのか分からなかったのだ」


 戦の王が、苦笑した。


「分からぬから、封じる。それが彼らの結論だった。我は——戦をやめると宣言したまま、封じられた」


 …………。


 俺は黙って聞いてた。


 戦の王が、ふと、俺を見た。


「だが、八百年経って。おまえが来た」


〝俺が〟


「宝箱が、武で語りかけてきた。我の願いを、八百年越しに叶えてくれた」


 戦の王が、深く頭を下げた。


「礼を言う、蓋を開ける者(オープナー)。我の蓋を、ようやく開けてくれた」


 パカッ。


 …………。


 なんか、こう、ぐっと来るやつだ。


 俺の役目はただの「蓋を開ける者」だ。封印の蓋を開けて、心の蓋を開けて、それで皆が前に進めるなら、それでいい。


 でも、八百年眠ってた魔王から「ようやく蓋を開けてくれた」って言われると——うん、悪くない気持ちだ。


 パカッ。


〝礼はいらない〟


〝俺は、俺の仕事をしただけだ〟


 戦の王が、頷いた。



 ◇



 戦の王が、両手を広げた。


「では——もう、行こう」


〝行く?〟


「眠る、ということだ。八百年、足りなかった。最後にもう少しだけ、眠らせてくれ」


 戦の王の体が、淡く光り始めた。


 赤い光じゃない。淡い金色。対話の王が消えた時と同じ色だ。


〝待ってくれ〟


 俺は蓋文字を出した。


〝普通なら、俺の収納に入れて浄化するんだ〟


〝それが、俺の浄化のやり方だ〟


「うむ」


〝でも、おまえは——〟


「我は、おまえの中に入りたくはない。……武人の最後だ。我は我の力で、消えたい。おまえの中に納まって浄化されるのは、武人らしくないのでな」


〝……いいのか〟


「良い。我は満たされた。武で語った。配下の言葉を聞いた。蓋を開けてもらった。十分すぎる」


 戦の王の体が、半分透けてきた。


「魂は、自然に消えていく。八百年保ってきた我の体は、もう限界だ。最後の一押しを、おまえの——」


 戦の王が、自分の胸を指差した。


「——一撃で、終わらせてくれ」


 …………。


 最後の一撃を、俺に頼んでる。


 武人の作法か。武人として、最後を任せられる相手と認めた、ってことか。


 俺は、外蓋を開けた。


〝ファイアランス〟。


 いや、違う。これは普通の魔法だ。武人の最後にふさわしくない。



尾撃砲(テイルキャノン)〟。


 これも違う。砲撃は遠距離戦の技だ。


 なら——


武装擬態(アームドミミック)〟。


 俺は外蓋を、剣の形に変えた。


 ただの剣じゃない。蓋の魔力を最大限注いだ、〝俺自身の刃〟。


 戦の王が、頷いた。


「それで良い。武人らしい一撃だ」


 戦の王が、両手を広げて、構えた。受ける構えじゃない。受け入れる構えだ。


 俺はズズズで戦の王の前に進んだ。剣の形になった蓋を、戦の王の胸に。


 戦の王が、目を閉じた。


〝……お疲れさん〟


 俺は、剣を振り下ろした。


 戦の王の胸に、蓋の刃が触れた。


 ふっ——と。


 戦の王の体が、光の粒になった。


 爆発じゃない。崩壊じゃない。


 ただ、解けるように。


 粒が舞い上がっていく。ホールの中を漂って、天井の窓から、外の砂漠の空に。


 最後に、戦の王の声が、ホールに響いた。


『……宝箱よ』


〝なんだ〟


『おまえの仲間に、伝えてくれ。武の語らい、楽しかった、と』


〝伝えるよ〟


『そして……我の力の一部を、おまえに残す』


 戦の王の体から、最後の光が——俺の蓋に流れ込んできた。


 ぐわっ、と熱が、俺の収納の奥に染み込む。


 戦の王の闘気の一部。


『闘気を、贈る。おまえの蓋は、これからもっと頑丈になるだろう』


〝……ありがとう〟


『ふふ……。最後まで、武人らしくない言葉だな、宝箱は』


〝宝箱だからな〟


 戦の王の声が、最後に笑って——


 消えた。



 ◇



 ホールが、静かになった。


 ガルドが、ぽつりと言った。


「……行ったか」


〝行った〟


「あんな魔王、八百年もよく我慢してたな」


〝そうだな〟


 戦の王の最後の言葉を思い出してる。「武の語らい、楽しかった」。


 ……あの王、楽しかったって最後に言ったんだ。


 ガルドが拳を握って開いた。


「タカラ。あいつ、いいやつだったな」


〝魔王だぞ〟


「魔王だけど、いいやつだった」


〝そうだな〟


 俺の蓋裏に、新しい表示が出てた。



 ──────────────────

   戦の王の魂、浄化完了


   第二の塔の封印——解除

   砂漠地帯の魔物の本来の力、解放


   * 戦の王から闘気の一部を継承

    新規スキル:〝闘気纏(とうきてん)


   * パンドラボックスの外殻強度

    ── 大幅上昇

 ──────────────────



闘気纏(とうきてん)〟。


 戦の王の闘気の一部を、俺が受け継いだ。


 外殻が頑丈になった。これからの戦いで、Sランク以上の攻撃にも耐えやすくなる。



 ◇



 レグナが、自分の手を見ていた。


 骸骨の手のひらが——以前より、はっきりしてる。


「タカラ……。我の魂が、ほぼ全て戻ってきた」


〝戦の王の塔から〟


「うむ。各階層の試練の中に、我の魂の欠片が分散していた。それが、戦の王の浄化と同時に解放された」


 レグナの蒼い炎が、ぐっと大きく燃えた。


 今までの蒼い炎とは、明らかに密度が違う。


「八割。……いや、九割は戻ったな」


〝完全体に近いってことか〟


「Sランク上位、になった感覚だ」


 ナギが目を見開いた。


「Sランク上位の骸骨か……。やべえな」


 ガウルが尻尾を振った。


「ガウ。レグナ強くなった、感じるな」


 強くなった——


 全員が強くなった。


 戦の王との戦いを通じて、ガルドは覇受(はじゅ)を覚え、レグナは魂を取り戻し、ガウルは九割の戦の王を傷つけ、ナギは砂槍突という新技を発現させた。


 そして俺は——武装擬態(アームドミミック)と〝闘気纏(とうきてん)〟を得た。


 パカッ。


〝降りるか〟


 螺旋階段の方を見た。下りるのも一苦労だな、これ。


 ガルドが立ち上がった。両腕にまだ亀裂が入ってるけど、歩ける。


「下りて、ドレイクに報告だ。聖騎士団に戦王軍(せんおうぐん)の首領も預けてる」


 ナギが頷いた。


「砂蛇族にも報告しないとな。封印が解けたなら、砂漠が変わるかもしれない」


 砂漠が変わる。


 戦の王が暴れて、森が砂漠になった。八百年経って、ようやく封印が解けた。


 砂漠が森に戻るかは——分からない。


 でも、可能性は、生まれた。



 ◇



 階段を下りる前に、俺は、戦の王が消えた場所を見た。


 もう何もない。ただの赤い岩の床。


 でも、そこに——闘気の名残みたいな、温かい感触がまだあった。


 パカッ。


〝ありがとな、戦の王〟


〝武で、語ってくれて〟


 返事は、ない。


 でも——どこかで、戦の王が笑ってる気がした。あの豪快な笑い方で。


 武人の魔王。最後まで武人だった魔王。


 悪くない人生だったろう、八百年。


 ……いや、八百年は、ちょっと長すぎたかもな。


 ズズズ。


 俺は階段を下り始めた。


 仲間たちが続く。


 第二の塔の蓋が、開いた。



 ◇



 【次回】塔を出ると、ドレイクが待っていた。報告と、これからの話。砂漠に新しい拠点を作る相談が始まる。

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