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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第三部 七つの蓋編

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第61話「蓋が剣になる日」


 戦の王の闘気が、倍になった。


 今まで部屋全体を重くしてた闘気が——倍。


 空気が、ねっとりと重い。リーリアの方を見ると、後ろで膝をついてる。アイがリーリアにくっついてるけど、リーリアの息が浅い。Cランク以下の人間には、戦の王の闘気は呼吸さえ難しいレベルなんだろう。


 ガルドがやっと立ち上がった。


「ぐっ……腹に響くなあ、あの掌底」


〝動けるか〟


「動ける。けど、次にあれを食らったら、たぶんあらゆる骨が持ってかれる」


 頼もしいんだか頼りないんだか。


 でもガルドの目は——死んでない。むしろ、楽しんでる。


「タカラ。今のおまえの戦い方、見てたぞ」


〝噛みついて、撃って、収納したやつか〟


「あれは、〝武の連携〟だ。戦の王が言った通りだ」


 戦の王が頷いた。


「分かっておるな、ホブゴブリン。武とは技を一つずつ振るうものではない。技と技を繋いだ流れこそが、武だ」


 戦の王が一歩、踏み出した。


 その一歩で、空気が震えた。


「ならば、見せよ。おまえたちの〝流れ〟を」



 ◇



 戦の王が、こっちに歩いてくる。ゆっくりと。でも、足音が重い。一歩ごとにホールの床が、わずかに沈んでる気がする。


 ガルドが俺の前に出た。


「タカラ、俺が時間を稼ぐ」


〝何する気だ〟


「闘気を全部、肉体に回す。素手で受け止める。〝覇拳(はけん)〟じゃなく、〝覇受(はじゅ)〟だ」


〝今思いついた名前だろそれ〟


「いま思いついた」


 ガルドが拳じゃなくて、両腕を構えた。受け止めの構え。闘気を腕全体に展開する。


 戦の王が——目を細めた。


「攻撃ではなく、受けに闘気を回すか。新たな試みだな」


 戦の王が——速くなった。


 一歩で、ガルドの目の前。


 戦の王の右の拳が、ガルドの腹に。


 ガルドが両腕で受け止めた。腹の前で、X字にクロスした両腕。


 ドゴォンッ!


 衝撃で、ガルドの両腕が震えた。でも——飛ばなかった。〝覇受(はじゅ)〟が成立してる。


「踏みとどまるか、ホブゴブリン。良い」


 戦の王が左の拳を続けた。連打。


 ガルドが両腕で受け流す。完全に防ぐんじゃなく、軌道をずらす。攻撃を逃がす技術。


 ドレイクと組んだとき、ドレイクの「盾技」を見て覚えたんだろう。受け流しの技術。


 ……ガルドの戦闘センスは、本当に伸びるな。さすが百五十匹のホブゴブリンを率いてた指揮官だ。


 戦の王の左拳、右拳、左拳、右拳——連続でガルドを叩く。


 ガルドが受け流す。一発、二発、三発、四発——


 五発目で、ガルドの両腕に亀裂が入った。


 「ぐっ……」


 〝覇受(はじゅ)〟も限界だ。十発も受け切れない。



 ◇



 でも、その間に——


 レグナが動いた。


「〝蒼き炎の薙ロア・フレイムスイープ〟ッ!」


 戦の王の側面から、蒼い炎の斬撃が飛ぶ。


 戦の王がガルドを殴る手を、止めた。


 左手で——蒼い炎の斬撃を、掴んだ。


 いや、掴んだんじゃない。受け止めた。掌で。


「ふむ」


 戦の王が掌を握り潰した。蒼い炎が握り潰されて、消えた。


 ……素手で炎を握り潰すなよ。


 でも、レグナが斬撃を放った瞬間に——ガウルが動いていた。


「〝銀牙疾走(シルバーファング)〟!」


 戦の王の真後ろから、ガウルが銀の牙を打ち込む。


 戦の王が——背中を反らせた。


 ガウルの牙が、戦の王の背中を掠めた。掠めただけ。鎧に薄く一筋の傷がついた。


 戦の王が振り向きざまに——右脚で、ガウルを蹴り飛ばした。


 ガウルが空中で回転して、壁に激突した。


「ガウッ……!」


 でも、そのガウルの動きの間に——ナギが動いていた。


「〝砂塵舞踏(サンドワルツ)〟!」


 戦の王の足元に、砂の渦。今度は弾かれない量——ホール全体の岩を全部砂に変えて、戦の王の足元に集中させた。


 戦の王の足が、膝まで砂に沈んだ。


「ほう」


 戦の王が——足を抜こうとして、抜けない。砂が固まって、足を拘束してる。


 その瞬間に、レグナが二発目の蒼い炎を放った。


「〝蒼き炎の薙ロア・フレイムスイープ〟ッ!」


 戦の王が、両手を交差して受けた。


 ジュウウッ!


 蒼い炎が戦の王の腕に直撃。鎧が——焼け焦げた。


「……ふむ。痛みはあるぞ、少しだが」


 戦の王が初めて、軽くダメージを受けた。


 ガルドが、レグナが、ガウルが、ナギが——四人の連携で、ようやく戦の王に一撃を入れた。


 でも——たった一撃だ。


 戦の王が両手を広げて、闘気を解放した。


 ドンッ!


 闘気の波が、放射状に広がった。


 砂の拘束が——吹き飛んだ。


「面白い連携だった。だが、まだ届かぬ」


 戦の王が——両足を地面に揃えて、立った。


「我の本気を、もう少し見せよう」


 戦の王の闘気が、また増えた。



 ──────────────────

   戦の王・状態:戦闘モード

   出力:本気の七割


   * 出力が上がりました

 ──────────────────



 ……七割。


 俺たちの全員が連携して、ようやく戦の王を「五割の状態で」かすらせた。


 七割の戦の王に——勝てるのか?



 ◇



 ガルドが俺の横に並んだ。両腕に亀裂が入ったまま、それでも拳を握ってる。


「タカラ。俺たちはあいつの『五割』を、四人がかりでようやく追い詰めた」


〝そうだな〟


「七割になったら、もう四人じゃ無理だ」


〝……だな〟


「だから——おまえの全力を借りたい」


 ガルドが俺を見た。


「おまえの蓋は、五枚ある。連続で、変則で、戦の王を翻弄できる戦い方をしてくれ」


〝もうやってる〟


「もっとだ。……おまえ、まだ何か隠してるだろ?」


 ……隠してる、ね。


 パンドラは封印した。これは戦の王の流儀に反するから、使わない。


 でも、もう一つ——使ってない技がある。


 いや、技じゃない。


 可能性。


 俺は——ミミックだ。


 ミミックの本領は、収納でも万蓋でも、解封でも査定でもない。


「擬態」だ。


 ミミックは、本来「化ける」のが仕事だ。宝箱に見せかけて、開けた者を食う。「化ける」ことが、ミミックの存在意義そのもの。


 俺は今まで、擬態を「人間に化ける」「石に化ける」のにしか使ってこなかった。


 でも——擬態の応用範囲は、もっと広いはずだ。


 無機物に化けられるなら——武器に化けられるんじゃないか?


 パカッ。


 ガルド、おまえは天才かもしれない。「もっとだ」の一言で、俺が新しい使い方を思いついた。



 ◇



 戦の王が、再び動き出す前に。


 俺は、自分の蓋の一枚に意識を集中した。


 上面の外蓋。これを——剣の刃に変える。


 擬態の感覚を呼び起こす。人間に化けるときと同じ。形を変える。素材を変える。


 ぐにゃり。


 蓋の表面が、揺らいだ。


 そして——伸びた。


 蓋の縁から、剣の刃が、生えるように現れた。


 長さ一メートル。鋭い金属の刃。蓋に、剣がついてる。


 いや——蓋そのものが、剣に変わった。


 ガルドが目を見開いた。


「タカラ、おまえ、何してんの!?」


〝擬態だ 武器に化けてみた〟


「武器!? 化けるって、武器にも化けられるのかおまえ!?」


〝今、初めて知った〟


「初めてかよ!?」


 ナギが砂の操作の合間に振り向いた。


「宝箱の蓋が剣……ミミックが武器使いって、新ジャンルすぎねえか!?」


 ジャンルとか言うなよ。新スキルなんだよ。


 俺は他の四枚の蓋にも、擬態を施した。


 上面の内蓋——盾の形に。


 左の蓋——槍の形に。


 右の蓋——斧の形に。


 背面の蓋——鎖鎌の形に。


 五枚の蓋が、五つの武器になった。


 黒と金の宝箱から、五本の武器が生えてる絵面。……うん、見た目はだいぶ怪しい宝箱になった。


 蓋裏に新スキルが表示された。



 ──────────────────

   新規スキル発現:


  〝武装擬態(アームドミミック)

    蓋を任意の武器に変形させる。

    五枚それぞれを別の武器に

    変えることが可能。


   * ミミック本来の擬態能力を

    戦闘に応用した派生技です。

    おめでとうございます。

 ──────────────────



 またおめでとう来た。蓋裏、お祝いするのが好きだな。


 戦の王が、目を見張った。


「これは……」


 戦の王の声に、初めて驚きが混じった。


「擬態か。ミミックの基本能力を、武装に応用しおったか」


〝武で語るんだろ〟


〝俺は宝箱だから、武器を持って戦えない〟


〝なら、自分が武器になればいい〟


 戦の王が——声を上げて笑った。


「ハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 今までで一番、嬉しそうな笑い方だった。


「面白い、面白いぞ宝箱! 武器を持てぬなら、武器に化けるか! その発想は——我にもなかった!」


 戦の王が拳を握った。


「来い、蓋を開ける者(オープナー)。今度こそ、武で語ろう」



 ◇



 俺はズズズで、戦の王に突っ込んだ。


 外蓋の剣を、戦の王の腹に振り下ろす。


 戦の王が、右手の闘気で受けた。


 ガキィッ!


 剣と闘気がぶつかる。剣の刃に亀裂が入った——けど、すぐに修復された。擬態だから、形を維持し続ければ蓋から再生する。


 戦の王が、左手で槍の刃の部分を掴んだ。


 俺は左の蓋ごと、戦の王の方に押した。槍の柄を引かれる感覚。


 でも俺は、内蓋の盾を、戦の王の頭に向けて振り上げた。


 戦の王が首を反らせて避けた。


 その反らせた瞬間に——背面の蓋から、鎖鎌の鎖を、戦の王の右脚に投げた。


 ジャラランッ!


 鎖が戦の王の右脚に絡まった。


 戦の王が左手で槍を引きながら、右脚を引こうとした——


 鎖が——ガッチリ絡んでる。


〝右脚は鎖、左手は槍、右手は剣〟


〝残るは——〟


 俺の右の蓋(斧)を、戦の王の——


 左肩に。


 戦の王が、空いてる左肩で受けた。


 いや、受けようとした瞬間、戦の王が——空中に飛んだ。


 鎖を引きずったまま、戦の王が垂直跳び。三メートルくらい。


 俺の斧が空振った。


 戦の王が、空中で——


「ふっ」


 息を吐いた。


 闘気の塊が、放射状に広がった。


 空気の波。


 俺の鎖が——千切れた。蓋から伸びてた鎖が、闘気で吹き飛ばされた。


 戦の王が着地した。素手で、鎖から自由になって。


「うむ。……今のはギリギリだったぞ、宝箱」


 戦の王が、汗をかいてた。


 初めて、汗を。


「我に汗をかかせるか。八百年ぶりだ」


〝……まだまだ、これから〟


 パカッ。


 俺の蓋——五枚すべて、変形を維持。


 まだ、戦える。



 ◇



 戦の王が構え直した。


 今度は、両足を肩幅に開いて。両手を、自然に下げて。


「武人の構えだ。我の正式な構えを見せる」


 戦の王の体から、闘気が——変わった。


 量じゃない。質が。


 今まではだだ漏れに広がってた闘気が、戦の王の体に、ぴったり張り付いた。


 ガルドが息を呑んだ。


「あれが……戦の王の本来の構え……」


 ナギが下半身の蛇を巻いた。


「圧が……減ったように見えるけど、これ、実は逆にやばいやつだろ……」


 ガウルが耳を伏せた。


「ガウ……。匂いはないけど、気配が——刃みたいに鋭くなった」


 戦の王が、静かに告げた。


「我の本気は——あと三段ある」


 ……あと三段。


 今が七割。あと三段ってことは、九割十割と——もう一段、上があるってことか。


 戦の王が、口角を上げた。


「だが、おまえたちはここまで来た。我の三割を超え、五割を超え、七割の構えを見させた。これは——八百年の眠りの中で、初めての体験だ」


 戦の王が、わずかに頭を下げた。


「敬意を払う。蓋を開ける者(オープナー)。そして——その仲間たちよ」


 …………。


 戦の王が、敬意を払う。


 武人としての敬意を。


 パカッ。


 俺は蓋を、頭を下げる代わりに、軽く動かした。武器を構え直す動き。応える、武人の仕草だ。


 戦の王が頷いた。


「では——」


 戦の王の闘気が、また増した。



 ──────────────────

   戦の王・状態:戦闘モード

   出力:本気の九割


   * 出力が上がりました

 ──────────────────



 九割。


 最後の段階に近づいてる。


 戦の王が、両手の指を軽く動かした。


「最後まで、語り合おうではないか」



 ◇



 俺は——蓋の武装を、握り直した。


 ガルドが横で、両腕の闘気を再構築した。


 レグナが蒼い炎を、いつもより激しく燃やした。


 ガウルが体勢を低く構えた。


 ナギが砂を、両手に展開した。


 全員が、戦の王と向かい合う。


 六対一。


 でも——なぜか、互角に見える。


 武人としての敬意の上で、互角に見えるんだ。


 戦の王が、初めて、姿勢を戦闘姿勢に変えた。


 全身に殺気が宿る。でも、汚い殺気じゃない。澄んだ殺気だ。武人の殺気。


〝行くぞ〟


 ガルドが頷いた。


「ああ!」


 六人が、戦の王に向かって同時に駆け出した。



 ◇



 【次回】戦の王、本気の九割。最後の語り合いが始まる。タカラの〝武装擬態〟と仲間の連携で、戦の王を押し込めるか。

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