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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第三部 七つの蓋編

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第60話「宝箱、突っ込みます」



 戦の王が、素手で構えた。


 武器を地面に置いた魔王が、両手の指を軽く開いて、ゆったりと立ってる。


 でも——隙がない。


 Aランクが何人束になっても、たぶん勝てない。Sランクの俺でも、正直、勝てるかどうかわからない。


 なんで戦の王は剣を捨てたんだ? その方が強そうなのに——


 いや、違うな。


 あいつは、剣を持ってる方が「制約があった」んだ。


 二刀流ってのは、両手が剣で塞がってる。素手なら、両手が自由だ。掴むも、殴るも、投げるも、自由自在。


 武器を捨てて、強くなった。


 ……困ったな。



 ◇



 ガルドが横で唸った。


 「タカラ、これマジでやばいぞ」


〝知ってる〟


 「奥の手なしで、いけるのか?」


〝武で語るって決めただろ〟


「決めたけどさ……」


 ガルドが拳を握り直した。


「ま、いいか。やるしかねえ」


 ガルド、覚悟が早いな。さすがホブゴブリンの軍団長だ。



〝ガルドが先陣切れ〟


〝レグナがおまえの援護〟


〝ガウルとナギが側面〟


〝俺は——後方から〟


 ガルドが頷いて、地面を蹴った。


「うおおッ!」


 ガルドが正面から戦の王に突っ込む。〝覇拳(はけん)〟の闘気を込めた拳が、戦の王に向かう。


 戦の王が——避けない。


 受け止める。


 戦の王の左の手のひらが、ガルドの拳を受けた。


 ガキィッ!


 拳と手のひらがぶつかる音。普通なら、戦の王の手が砕ける——でも、戦の王は無傷。


 戦の王の手のひらに、赤い闘気が薄く纏ってる。


 ガルドの闘気を、戦の王の闘気が受け止めてる。


「……ガルドの拳が、止まった……!?」


 ナギが目を見開いた。


 今までガルドの〝覇拳(はけん)〟を素手で受け止めたやつなんて、いなかった。Aランクのワイバーンも、Sランクの砂帝蠍(サンドエンペラー)も、砂鬼将(さきしょう)ですら、ガルドの拳には何かしらダメージを受けた。


 戦の王だけが——平然と受けてる。


 戦の王が、ガルドの拳を受けたまま、にやっと笑った。


「拳に闘気を込めるのは良い。だが——闘気の量がまだまだ足りぬな」


 戦の王が右手をすっと持ち上げた。


 ガルドの腹に、軽く、添えた。


 ぽんっ。


 ただ手のひらを当てただけに見えた。


 次の瞬間——ガルドが吹き飛んだ。


 ホールの壁まで、十メートル飛んだ。背中から壁にぶつかって、ずるずると床に落ちた。


「ぐはっ……!」


〝ガルド!〟


 ガルドが咳き込んでる。鎧の上から身体に響くような音が鳴った。


 戦の王の右手——あれ、闘気を瞬間的に圧縮して放出したのか。「掌底」って格闘技の技だ。表面じゃなく、中を破壊する打撃。


 Aランク上位のガルドの体が、軽い掌底で十メートル吹っ飛ぶ。


 ……格が違う。



 ◇



 レグナが動いた。


「〝蒼き炎の剣ロア・フレイムブレード〟!」


 レグナが蒼い炎の剣を生成して、戦の王に斬りかかった。


 戦の王が——左手を、剣の刃に当てた。


 素手で。蒼い炎の剣を、素手で。


 ジュッ——という音はしたけど、戦の王の手は焼けてない。


 戦の王の手のひらに、赤い闘気が膜のように張ってる。蒼い炎を、闘気の膜が遮ってる。


「魔王軍の蒼炎か。八百年ぶりに見るな」


 戦の王が剣を素手で受けたまま、ふっと笑った。


「対話の王の側に、こういう炎を出す者がおったな。確か——蒼烈将軍(そうれつしょうぐん)と呼ばれていたか」


 レグナが目を見開いた。


「……それは、我の名だ」


「ほう。おまえが蒼烈将軍(そうれつしょうぐん)か。八百年ぶりに名を聞く相手だな」


 戦の王が左手で剣を握った——掴んだまま、ぐっと押し戻した。


 レグナの体が、剣ごと押し戻される。Sランク級のレグナが、片手で押し負けてる。


「だが——蒼烈将軍(そうれつしょうぐん)の本気はこんなものではなかった」


 戦の王が剣を放した。


「魂が不完全か。哀れな」


 レグナが——歯軋りした。骸骨だから歯軋りの音が乾いてるけど。


「……まだ、終わっておらぬ」


 レグナが蒼い炎を全開に燃やした。〝蒼き炎の鎧ロア・フレイムアーマー〟を纏う。


 でも——戦の王が、もう動いていた。


「遅い」


 戦の王が、レグナの懐に飛び込んでた。一歩で。


 戦の王の右の拳が、レグナの胸の鎧に向かう。


 レグナの鎧が砕けるかもしれない——


〝レグナ!〟


 俺が万蓋から蔦を射出した。戦の王の右腕に絡ませる——


 絡みつく前に、戦の王の闘気が膨れ上がった。蔦が燃えた。蔦が触れる前に、闘気の熱で蒸発した。


 戦の王の拳が、レグナの胸に届いた。


 レグナが——飛んだ。後ろに。蒼い炎の鎧ごと。


 壁にぶつかる前に、レグナが空中で体を捻って、なんとか着地した。


「ぐっ……鎧でなければ、肋骨が砕けていたな」


 レグナの蒼い炎が、少し弱くなった。鎧で衝撃を吸収したけど、ダメージは入った。


 戦の王が——俺を見た。


「次は、おまえか? 蓋を開ける者(オープナー)よ」


 ……うん、そうなるよな。


 でも、その前に——



 ◇



 ガウルが走り出した。


「〝銀牙疾走(シルバーファング)〟ッ!」


 銀色の残像が、ホールの床を駆ける。床の表面が削れる速度。


 戦の王の側面に回り込もうとして——


 戦の王が、ぱっと振り返った。


 ガウルの動きを、目で追ってる。


「ほう。蓋を開ける者(オープナー)の側に、ウォーウルフもいるか」


 戦の王が動いた。一歩。


 その一歩で、ガウルの進路上に立ってた。


 ガウルが急停止——できない。〝銀牙疾走(シルバーファング)〟は止まれない。止まったらスキルが切れる。


 戦の王が、走り抜けようとするガウルの首根っこを——掴んだ。


「ガウッ!?」


 Aランクのウォーウルフを、戦の王が片手で吊り上げた。子犬みたいに。


「速いな、ウォーウルフ。だが、目で追える程度だ」


 戦の王が、ガウルをぽいっと放った。


 ガウルが空中でぐるぐる回って、なんとか着地した。


「ガウ……。手加減された……」


 手加減か。


 戦の王の目には、ガウルの〝銀牙疾走(シルバーファング)〟の最高速も、追える速度なのか。


 ナギが砂を一気に展開した。


「〝砂塵舞踏(サンドワルツ)〟!」


 ホールの岩を全部砕いて砂に変えて、戦の王を包み込もうとした。砂の渦で動きを封じる戦法。


 戦の王が——息を吐いた。


「ふっ」


 ただの呼気。それだけで、戦の王の周囲の砂が——飛んだ。


 ナギの砂の渦が、戦の王の闘気で全部弾かれた。


「……まじかよ」


 ナギが愕然とした。


 戦の王が、ナギを見た。


「砂蛇族の進化体か。かつて我の領土に住んでいた一族だな。よく封印から覚醒したな」


「……あんたの領土?」


「ああ。砂蛇族は、戦に巻き込まなかった。我は弱者を巻き込まぬ主義だった」


 ナギが——複雑な顔をした。


「敵か味方かわかんねえな、あんた」


「ふふっ……武人なだけよ」



 ◇



 戦の王が、俺の方に体を向けた。


「次は、おまえだな。蓋を開ける者(オープナー)よ」


 ……順番が回ってきた。


 仲間たちは、全員ダメージを受けてる。ガルドは内臓を打たれて呼吸を整えてる。レグナは胸を打たれて鎧が薄くなってる。ガウルは戦の王に放り投げられた。ナギは砂を弾かれて動揺してる。


 俺の番だ。


〝査定〟で戦の王を見る。



 ──────────────────

 〝査定〟


   対象:戦の王


   総合戦力:SS+

   筋力:S+ 敏捷:S 耐久:S+

   魔力:A+ 闘気:SS+

   武術:SS+


   状態:戦闘モード(本気の三割)

   * まだ全力ではありません

 ──────────────────



 ……三割。


 俺たちは、戦の王の本気の三割と戦ってる。


 全力の戦の王は、たぶんSランクが何人かかっても勝てない化け物だ。


 じゃあ——あいつの全力を引き出すには、こっちが本気を出さないと。


 遠距離からの攻撃は通用しない。蔦は燃やされる。砂は弾かれる。レグナの蒼炎すら受け止められる。


〝武で語る〟。


 戦の王の流儀で——近づいて、ぶつかる。


 俺が?


 パンドラボックスの、七十センチの宝箱が?


 三メートルの武人に、近距離で?


 ……ふつうに、ありえない。


 ありえないけど。


 パカッ。


〝行くぞ〟


 戦の王が眉を上げた。


「ほう? 宝箱が、近づくか」


 俺はズズズで戦の王に向かって移動を始めた。


 超高速ズズズ。ウォーウルフ並みの速度。


 戦の王が、面白そうに俺を見てる。


「来い、蓋を開ける者(オープナー)



 ◇



 俺の戦闘スタイルは——遠距離型だ。


 収納で覚えたスキルを、蓋から射出する。万蓋で全方位から撃つ。それが俺の戦い方。


 近接戦闘は——ミミックの本能だけだ。「噛みつき」。蓋を獲物に挟みつけるだけ。


 でも今は、それを使う場面だ。


 ズズズで戦の王の目の前まで突っ込んだ。


 戦の王が、しゃがんで俺と向かい合った。


「目線を合わせよう。武人として」


 目線、合わせてくれるんだ。優しいな。


 戦の王が、俺の前で片膝をついた。それでも頭が俺より高い。三メートルだもんな。


 俺は、蓋を開けた。


 パカッ。


 全開。最大限。


 戦の王が——目を細めた。


「噛みつくか?」


〝そうだ〟


 戦の王の右腕に向かって、俺は蓋で噛みついた。


 ガパァンッ!


 戦の王の腕が、蓋に挟まる——前に。


 戦の王が腕を引いた。


 寸前で、引いた。


 俺の蓋は、空気を噛んだだけ。


 戦の王が立ち上がった。


「速い噛みつきだな。ミミックらしい一撃だ。だが——遅い」


 ……遅いか。


 でも、これだけじゃない。


 俺の蓋は——五枚ある。


 戦の王が右腕を引いた瞬間、俺は——左の蓋を、戦の王の左脚に向かって噛みついた。


 ガパァンッ!


 戦の王が——左脚も引いた。素早く。


 でも、その動きで——戦の王の体勢が、わずかに崩れた。両手両足のうち、二つが防御に回ってる。


 その隙を——


 俺の右の蓋から——不意打ちの〝尾撃砲(テイルキャノン)〟!


 至近距離で、戦の王の腹に向かって砲撃。


 戦の王が——左の手のひらで、砲撃を受けた。


 ボォンッ!


 砂の弾丸が、戦の王の手のひらで爆発した。


 戦の王の手のひらは——無傷。


 でも、砲撃の閃光と煙で、視界が一瞬遮られた。


 その瞬間に——


 俺の背面の蓋から、〝|空間収納〟!


 戦の王の腰の後ろに、空間収納の口を開けた。


 戦の王の腰のベルト——飾りで付いてる短剣を、収納で吸い込んだ。


 ずるっ。


 短剣が消えた。


 戦の王の表情が変わった。


「ほう」


 戦の王が、自分の腰に手を当てた。短剣がない。


「武器を、奪ったか」


〝奪ってない 収納しただけだ〟


「同じことだ」


 戦の王が、笑った。今までで一番、楽しそうな笑い方。


「面白い、面白いぞ。蓋で噛みつき、闘気を装った砂弾で目を眩ませ、その隙に背後の収納で武器を奪う。……これは、武の連携だな」


 戦の王が——両手を広げた。


「ようやく、興が乗ってきた」


 戦の王の体から、闘気が——倍になった。


〝査定〟が更新された。



 ──────────────────

   戦の王・状態:戦闘モード

   出力:本気の五割


   * 出力が上がりました

 ──────────────────



 三割から五割。


 戦の王が、本気を出し始めた。


 ガルドが体を起こしながら言った。


「タカラ……戦の王、ノってきたぞ」


〝知ってる〟


〝でも、これが俺たちの仕事だ〟


 戦の王の願いは「強き者と語り合うこと」。あいつの全力を引き出して、武で語り合う。


 ……次は、もう一段、深い戦いになる。


 パカッ。


 〝全員、続くぞ〟



 ◇



 【次回】戦の王、本気の五割。タカラが新たな宝箱の戦術を編み出す。武で語る——その意味が、両者に通じ始める。

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