第58話「千の鎧、宝箱の蓋」
千の鎧が——廊下を埋め尽くしながら突進してくる。
赤い光を灯した鎧が、武器を構えて、こっちに突っ込んでくる。
通路が一直線だ。横幅は十メートルくらい。両側の壁から鎧が出てくる。
数で押し潰す気か。
ガルドが叫んだ。
「全員、後ろに下がれ! 俺が前で受ける!」
〝待て〟
俺が前に出た。
〝この通路の幅なら、俺の万蓋でほぼ塞げる〟
蓋を全方位に開けば、通路の幅の半分は俺の射程だ。
〝ガルドとレグナは俺の左右に立て 俺が抜けた敵を頼む〟
〝ガウルとナギは天井と壁を使って後方撹乱〟
〝リーリアとアイは最後尾で待機〟
全員が配置についた。
千の鎧が——五十メートル先まで迫った。
万蓋——全開。
五枚の蓋が、通路に向かって開く。
〝五連星〟、ただし——全力バージョン。
◇
上面の外蓋——〝ファイアランス〟、連射!
パンドラの魔力で強化された火の槍が、五本同時に放たれる。さらに追加で五本、五本、五本。
通路の前方が——炎の壁になった。突進してきた鎧の先頭部分が炎に飲まれる。鎧が真っ赤に焼ける。
でも、止まらない。
鎧は中身が魔力体だから、痛みを感じない。火に焼かれても突っ込んでくる。
じゃあ——上面の内蓋、〝フロストエッジ〟!
炎で熱した鎧に、氷の刃が直撃。
ピシィッ!
急激な温度差で——鎧がひび割れた。熱と冷の温度差で金属が砕ける。
ガルドが横で叫んだ。
「タカラ、おまえの戦法、ほんとにえげつねえな!」
冒険者時代の知識だよ。火と氷を交互に当てると、金属がもろくなる。鎧の弱点を突く戦術だ。
ピシピシピシッ!
前列の鎧が三十体くらい、ヒビが入って倒れた。
でもまだ九百以上いる。
左の蓋——蔦射出。十本の蔦を通路の床から壁、天井に張り巡らせる。鎧の進路を絡め取る罠。
右の蓋——〝尾撃砲〟、連射!
砂帝蠍からコピーした砲撃。砂の弾丸が鎧を吹き飛ばす。蔦に絡まった鎧を、砲撃で粉砕していく。
背面の蓋——白い光弾、全方位連射!
俺の周囲に来ようとする鎧を、光弾で弾き飛ばす。
五枚の蓋全部が、フル稼働してる。
でも——魔力消費がやばい。
残り60%。20秒で半分減った。
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警告:高速魔力消費
現在の消費ペース:約3%/秒
維持可能時間:約20秒
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……このペースじゃ、千を倒しきる前に魔力が尽きる。
ガウルが声を上げた。
「ガウ! 後方が来るぞ、五体!」
ガウルが——壁を駆け上がった。〝銀牙疾走〟最高速。銀の牙の衝撃波を、後方から忍び寄った鎧五体に放つ。
砕ける。
ナギが反対側の壁を這いながら、鎧の表面の鉄を砂に変えて操作する。鎧の関節を狙って砂を流し込む。
「関節決め!」
鎧が膝から崩れる。これで五体。
ガルドが俺の左側で受け止めてる。前面を突破した鎧を片っ端から〝覇拳〟で粉砕してる。
「うおおおッ!」
鎧が三体、四体、五体。連続で。でもガルドの息が荒い。闘気の消耗が早い。
レグナが右で〝蒼き炎の薙〟。三体まとめて斬る。蒼い炎の鎧を纏って、一度に多くを焼く。
でも——数字としての千は、想像以上だ。倒しても、倒しても、まるで減らない。
◇
ガルドが叫んだ。
「タカラ、このままじゃジリ貧だ! 一発でかいの撃てねえか!」
でかい一発——禁忌の宝箱か。
でもパンドラは半径十五メートル。通路の縦幅を全部覆えるか?
いや、できる。問題は、味方を巻き込む可能性だ。
パンドラの中は俺の支配領域。味方も「中身」になるけど、俺が「味方は格納しない」と意志を持てば守れる。
〝全員、俺の周りに集まれ〟
ガルドが目を見開いた。
「パンドラを使うのか?」
〝使う 俺の半径五メートル以内に集まれ 範囲内の味方は守る〟
「守れるのか、本当に?」
〝やったことないけど、理屈ではいけるはずだ〟
「……了解」
全員が俺の周りに集まった。前線で戦ってたガルドとレグナが下がる。ガウルとナギが壁から降りてくる。リーリアとアイが既に後方にいる。
千の鎧が、迫る。前列が二十メートルまで来てる。
パカッ。
〝固有スキル——禁忌の宝箱〟!
五枚の蓋が、全開放。
金色の光が——通路に広がった。
◇
通路が——白い空間になった。
俺の周辺五メートル以内は、味方が立ったまま。鎧は——白い空間の中に取り込まれた。
千の鎧が、白い空間の中に入った。
通路の先まで広がるパンドラの空間。今までで一番広い展開——半径ではなく、通路の前方に向けて細長く展開した。形を変えられるのか、このスキル。
俺の意志で形が変わる。
千の鎧が、白い空間で——立ち止まった。
目標を見失ってる。空間に方向感覚がない。鎧の中の魔力体が混乱してる。
〝俺がいらないと思ったものは消える〟
千の鎧——いらない。
次々に消える。
千体が同時に。一秒で。光の粒になって消えていく。
空っぽの空間だけが残った。
パンドラを解除。
通路に戻る。
通路は——空っぽだった。さっきまで千いた鎧が、消えてる。床に少しだけ赤い粒子が漂ってる。
ガルドが目を瞬かせた。
「……消えた」
〝全部消したぞ〟
「あー……なんか、もう驚かないわ俺。おまえのパンドラ、ほんとに反則だな」
〝そうでもないぞ。燃費は悪いしな〟
俺の魔力残量を見る。
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魔力残量:12%
禁忌の宝箱使用記録:
範囲:通路全域
維持時間:約4秒
消費魔力:48%
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12%か。やばい。
リーリアが寄ってきた。
「タカラ、また……あんまり魔力使いすぎないでね」
リーリアの手が蓋に触れて、巫女の魔力が流れ込む。30%まで戻った。
ありがたい。本当にありがたい。リーリアがいなかったら俺、何回死んでた——魔力枯渇してた。
◇
空中に文字が降ってきた。
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第六階層の試練——達成
千の戦士をも超えるか、蓋を開ける者。
これより最終階層に進むがよい。
戦の王が、待っている。
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最終階層——七階。
ついに、戦の王のところに辿り着く。
螺旋階段の先が、強く光った。今までで一番明るい光。塔の頂点に向かう。
◇
全員が階段の前で一息ついた。
ガルドが汗を拭いた。
「ここまで五階分。けっこう疲れた」
〝魔力ペースは大丈夫か〟
「闘気は——半分くらい。二、三発ならまだ覇拳撃てる」
ドレイクと組んだときに使い切るほどじゃないか。十分だ。
レグナが——蒼い炎を確認してる。
「我は……塔に入ってから、不思議と力が増している。階層を進むごとに、何かが我に流れ込んでくる」
〝魂の欠片か〟
「おそらく。先ほどの炎心蛇だけではなかった。各階層に、我の魂の一部が眠っているらしい」
四階で40%まで戻った。今は——
「……50%は超えたな。Sランクの感覚に近づいている」
Sランクのレグナ。それだけで戦力が跳ね上がる。
ガウルが耳を立てた。
「ガウ。次は……戦の王か」
〝ああ〟
「七人の魔王の一人。戦いの王。匂いはまだ嗅げないけど、体が震える。すごい気配が上から降りてきてる」
既に、こっちが戦の王の存在を感じてる。距離があるのに、その重さが伝わってくる。
戦の王。
戦をやめたいと悟って、その瞬間に封じられた魔王。
俺たちは——戦って、認めさせる。
戦の王に、俺たちが対等だと示す。
そして——「もう戦わなくていい」と伝える。
パカッ。
〝行こう〟
全員が頷いた。
階段を上る。最終階層へ。
◇
【次回】第七階層。塔の頂点。そこに——戦の王が立っていた。




