第39話「パンドラボックス」
熱い。
箱が——箱全体が、燃えるように熱い。
封じの間の白い床の上で、琥珀色の宝箱が光ってる。
「タカラ、また光ってる! これ……前のときと同じだぞ!」
ガルドが叫んでる。
同じ——じゃない。前より、ずっと強い。
蓋裏がバチバチバチバチしてる。文字が高速で書き換わっていく。
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外殻変質 ── 進行中
魔力経路 ── 全面再構築中
収納空間 ── 大幅拡張中
進化条件を判定中……
☑ 魔王級の魔力を吸収(浄化による還元)
☑ 封印術式の完全解放(実績認定)
☑ 封印動力源との完全同調(達成)
全条件達成
進化を実行します
グレーターミミック → パンドラボックス
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パンドラボックス。
また勝手に実行してる。するかどうか、本体に聞けよ。
——まあいい。
来い!
◇
箱が変わり始めた。
琥珀色が——深くなっていく。黒が混ざる。
黒と金のツートンカラー。
箱のサイズが大きくなる。七十センチだったのが——机くらいに。
表面に紋様が浮かんできた。塔の壁に刻まれてたのと同じ系統の、でもそれより複雑な格子模様。
蓋が、二重になった。
外蓋と内蓋。外蓋を開けるともう一枚ある。
そして——箱の側面にも蓋が出現した。
左右に一枚ずつ、背面にも一枚。
全部で五枚の蓋。上面(二重)、左、右、背面。
……何に使うんだ、これ。
光が収まった。
前より大きくて、前より重厚で、前より——禍々しい。
でも、きれいだ。
パカッ。
上面の外蓋を開けた。滑らか。
パカッ。
内蓋も開けた。二段パカパカ。新しい感覚。
パカッ。パカッ。
左の蓋。右の蓋。同時に開いた。
パカパカパカパカパカッ!
五枚全部同時にパカパカした。
「おい……何をしてるんだ」
ガルドが呆れてる。
パカパカを堪能してるんだよ。邪魔するな。
蓋裏に——取説の全面更新が来た。全部の蓋の裏に、同じ文字が浮かんでる。
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〝進化〟──▶ グレーターミミック
→ パンドラボックス
全ステータス ── 大幅上昇
収納対象 ── 物体・生体・空間
解封範囲 ── 接触 → 範囲
移動速度 ── さらに上昇
新規スキル取得:
〝万蓋〟
複数の蓋を同時展開する
全方位からの収納・射出が可能
種族ランク:Sランク相当
* パンドラボックスは
あらゆるものを容れ、
あらゆるものを解き放つ箱です。
蓋の先に何があるかは、
開けた者だけが知っています。
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おい、取説がポエムになったぞ。急にどうした?
そして……Sランク相当。
これでセルディスと同格。
さらに〝万蓋〟は、五枚の蓋を同時に使える。全方位射出。全方位収納。
そして——〝収納対象:空間〟。
空間を、収納できる?
〝解封範囲:接触→範囲〟。
触れなくても、解封できるのか?
……試してみたい。全部試してみたい。
でもまず——ここを出よう。
◇
塔を出た。
正面扉から、全員で外に出た。
太陽が眩しい。
黒と金の宝箱が太陽の下に出ると——紋様がきらきら光った。
「タカラ……でかくなったな。あと、ちょっと怖くなった」
ガルドが正直な感想を言ってくれた。
怖いかな。
「黒いし、紋様が光ってるし、蓋が五枚もあるし。ダンジョンの奥にいたら、絶対開けたくないタイプの宝箱だ」
……俺、開けたくない宝箱なのか。
チョンなら「かっこいい」って言ってくれるだろうな。早く帰りたい。
「タカラ、走ってみろよ」
ガルドが言った。
ズズズズズズズズズズッッッッ!!!!
速い。
前の超高速ズズズより、さらに速い。
黒と金の宝箱が地面を高速で滑走してる。砂煙が舞い上がる。地面に轍ができてる。
風を切る音がする……宝箱が、風を切ってるぞ!
ガウルが全力で追いかけてきた。
「ガウ……! 速い! 前より、全然速い!」
すげえ……並んだ。
俺、ウォーウルフと並走してる。
「ガウッ!? 追いつかれた!? 宝箱に!?」
ウォーウルフと同速。
ズズズで。
ああ……本当に笑える。パカパカは、本当に最高だ!
◇
帰り道で、新スキルを試した。
まず〝万蓋〟。
道端の岩を標的にする。
五枚の蓋を全部開けた。上面二枚、左、右、背面。
全部から同時に——射出。
パカンッ! パカンッ! パカンッ! パカンッ! パカンッ!
白い光弾が五方向から同時に飛んだ。
岩に——五発同時に着弾。
ドドドドォォォンッッ!!
岩が粉々に砕けた。粉だ。粉になった。
「…………」
全員が黙った。
「おい」
ガルドが言った。
「やりすぎだろ」
やりすぎたか。
でもこれ、戦闘で使ったら——四方八方から弾幕を張れる。
囲まれても、全方位に撃てる。
逆に、全方位から同時に収納もできる。飛んでくる攻撃を全方向から吸い込める。
攻防一体。
次——〝空間収納〟。
道端の草むらに蓋を向けた。
〝入れ〟。
ずぼっ。
草むらが——消えた。
草と、その下の土と、土の中の虫が、まるごと収納された。
地面に四角い穴が開いてる。
「……何が、起きたんだ?」
ガルドが穴を覗き込んでる。
空間ごと切り取って収納したんだ。物体じゃなくて、空間を。
出してみる。
パカッ。
ぼんっ。
草むらが空中に出現して、ぼとっと落ちた。虫がわたわたしてる。
「…………」
レイスが言った。
「それ、戦闘で使ったらどうなるんだ。敵の攻撃を、空間ごと飲み込めるのか」
たぶん。
巨大な魔法が飛んできても、空間ごと吸い込んでしまえば無効化できる。
「……反則だな」
反則って言うな。スキルだ。
最後——〝範囲解封〟。
これは帰り道じゃ試せない。解封する対象がいないから。
でも、感覚としてはわかる。前は触れないと使えなかった〝解封〟が、半径十メートルくらいの範囲に効くようになってる。
つまり——触れなくても、近くにいるだけで封印を解ける。
複数の魔物を同時に解封できる。
……これは、世界中の塔を回るときに使える。一匹ずつこつんこつんしなくていい。
パカッ。
いい進化だ。最高だ。
◇
パカラ村に帰ってきた。
黒と金の宝箱が丘の上に高速で滑り込んできた。
村のみんなが——固まった。
「な、なんだあの宝箱……」
「でかい……」
「怖い……」
「でも、匂いはタカラだ」
ガウルの仲間のウォーウルフが言った。
チョンが走ってきた。
見上げて——目をキラキラさせた。
「かっこいい!!!」
だろ? だろ?
「紋様が光ってる! 蓋がいっぱいある! 黒くて、かっこいい!!」
チョンだけは裏切らない。
ガルドがみんなに説明した。
「タカラが進化した。パンドラボックスってやつだ。しかも……強さSランク相当」
ざわっ。
「Sランク!?」
「あのセルディスと、同格ってことか!?」
「宝箱が!?」
宝箱がSランクっていうのは、確かにわけわかんないよな。
レグナが言った。
「……王の魂を浄化した報いだ。王の力の一部が、タカラの器に還元された。ふさわしい進化だ」
ふさわしいかどうかはわからないけど——ありがたい。
グラドルが丘の横から見下ろしてる。
「……おまえ、黒くなったな」
〝中身は同じだ〟
「ズズズもまだやるのか」
〝当たり前だ〟
「……変わらんな、おまえは」
変わらないよ。宝箱だからな。
◇
夜。
焚き火を囲んでる。
今日は——すごい一日だった。
塔に入って、魔王の魂を浄化して、パンドラボックスに進化した。
半年の期限のうち、一番大きな問題が解決した。
でも——終わりじゃない。
蓋裏を確認した。
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通知:第1の塔の封印が解除されました
この地域の封印は完全に消滅しました
封印されていた全ての魔物が
本来の成長力を取り戻します
* 残りの塔:6基
* 各塔にも封印が残っています
*各塔の封印対象に
個別の魔王級魔力反応を検知
第1の塔とは異なる魂の署名です
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個別の魔王級魔力反応……。
第1の塔とは異なる魂の署名。
……待て。「異なる」ってことは——他の塔に封じられてるのは、さっき浄化した魔王じゃなくて、別の存在ってことか!?
……まさか、魔王って一人じゃなかったのか?
聞きたいことが増えた。レグナに聞こう。あいつなら知ってるかもしれない。
残りの塔が六基。
この地域の封印は解けたけど、世界にはまだ六つの塔が残ってる。
他の地域の魔物は、まだ封印されたまま。
そして——他の塔にも魔王の魂がある可能性。
全部の蓋を開けないと、本当の意味では終わらない。
……でも、それは今日の話じゃない。
今日は——勝った日だ。
リーリアが来た。
「タカラ、入るね。……わ、中が広くなってる」
収納空間が拡大したからな。
「すごい。前より全然広い。お部屋みたい」
アイがぷるるん(ひろーい)。
パタン。
中が——あたたかい。
魔王の魂がいなくなって、残響もいなくなって。
ただあたたかいだけの、俺の中。
蓋裏で〝万蓋〟の文字が光ってる。
Sランクの宝箱。パンドラボックス。
パカパカは変わらない。ズズズも変わらない。
でも——できることが増えた。守れるものが増えた。
六つの塔。
全部開けに行こう。いつか。
でも今は——寝よう。
パタン。
おやすみ。
◇
【次回】封印が完全に解けたことで、この地域に異変が起き始めた。ダンジョン周辺の魔物が次々に進化してる。パカラ村の外にも〝目覚めた〟者たちがいる。そして——セルディスから手紙が届いた。〝約束通り、パカラ村を正式に認める準備を始める。ただし——条件がある〟。




