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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第二部 太陽の下の宝箱編

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第38話「おまえの夢は、俺が継ぐ」



 封じの間。


 暗い、何も見えないほどに。


 でも、その奥に——赤黒い光がある。


 脈打ってる。部屋全体が鼓動してる。壁が、床が、天井が、光に合わせて震えてる。


 でかい。


 残響の核は、人間の大人くらいのサイズだった。


 いや……こいつは、部屋そのものだ。


 赤黒い光が壁を這ってる。天井を覆ってる。床に根を張ってる。


 部屋全体が、魔王の魂でできてる。


「……王よ」


 レグナがつぶやいた。


「何百年ぶりだ……あなたが、こんな姿に……」


 魔王の魂は、もう人の形をしていない。


 部屋に溶けてる。壁と一体化してる。何百年も封じられて、自分の形すら保てなくなったのか。


「ガウ……。この匂い、残響の百倍だ。怒りと、悲しみと……疲れの匂い。全部混ざってる」


 ガルドが拳を握ってる。


「……タカラ。やれるか」


 パカッ(やる)。


 やるしかない。


 蓋文字をリーリアに見せた。


〝一緒に入るぞ〟


 リーリアが頷いた。「うん」


 レグナに。


〝おまえも来い〟


 蒼い炎が大きく燃えた。


「……ああ」




 ◇




 蓋を全開にした。


 壁に這ってる赤黒い光に——蓋を押し当てる。


〝収納〟。


 ずるっ。


 魔王の魂が——俺の中に流れ込み始めた。


 重い……。


 残響とは比べものにならない。


 赤黒い光が全て、蓋の中に吸い込まれていく。


 部屋中の光が——俺の中に集まってくる。


 蓋裏がバチバチ光ってる。



 ──────────────────

  〝収納〟──▶ 特殊格納


   対象:魔王の魂(本体)

   状態:極度の疲弊

   封印年数:推定800年以上


   魔力消費:極大

   魔力残量:89% → 71% → 54%……


   * 外部魔力供給を推奨します

 ──────────────────



 リーリアが蓋に手を置いた。


 とてつもない量の魔力が流れ込んでくる。


 残量が下げ止まった。リーリアが魔力を注いでくれてる。


 ずるずるずるずるっ——


 全部飲み込んだ。


 部屋から、あの不気味な光が消えた。


 真っ暗になった。


 リーリアとレグナが——蓋の中に飛び込んだ。


 すぽん。すぽん。


 パタン。


 閉じた。


 外でガルドの声が聞こえた。


「行ってこい、タカラ」


 ああ。行ってくる。




 ◇




 収納の中。


 前に残響と対話したときは、暗くて冷たかった。


 今回は——違う。


 赤い。


 どこを見ても赤い。空も、地面も、赤い光で満ちてる。


 熱くはない。冷たくもない。ただ……重い。


 八百年分の魔王の感情が、空気になって漂ってるみたいだ。


 リーリアが横にいる。アイが足元にいる。レグナが後ろにいる。


 正面に——何かがいる。


 赤い光の中に、影がある。


 残響と似てる。でも、ずっと大きい。


 五メートルくらいの人の形。ぼんやりしてる。輪郭がにじんでる。


 顔があるはずの場所に——目がない。口がない。


 でも——声が出た。



『…………また、来たのか』



 また?


 塔守や巫女と間違えてるのか。



〝これまでのやつとは違う、俺は別のやつだ〟


『……別の? 誰だ。おまえは誰だ』


〝タカラ。パカラ村の代表だ〟


『パカラ……? 村……? 何の話だ。ここは……ここは、どこだ……。何も見えない。何百年も……何も……』



 声がかすれてる。残響の時の声より弱い。


 あの時の魔王の残響には『怒り』があった。


 だから、本体はきっと、もっと大きな怒りを溜め込んでるだろって思ってたけど……。



 ちがった。


 本体は……もっと薄くて、もっとぼんやりしてる。


 もう、怒る力すら残ってないんだ。


 リーリアが一歩前に出た。




「私を……覚えてますか」



 影が——ゆらりと動いた。



『……この魔力。知っている。おまえは……巫女……我に、魔力を送り続けていた者……』


「はい、リーリアです」


『……リーリア。おまえは……逃げたのか。よかった、あの場所に縛られ続けなくて……よかった……』


 よかった、って。


 自分を封じてた装置の一部だった巫女に、「逃げてよかった」って言うのか。


 リーリアの目から涙がこぼれた。


「あなたの声、ずっと聞こえてました。十年間、毎日苦しんで……それが私には、助けてって……言ってるみたいに聞こえて……」


『……聞こえていたのか。すまなかった。おまえを苦しめるつもりは……なかった……』



 また謝ってる。


 レグナの最後の言葉も「すまなかった」だった。この魔王は、ずっと謝ってるんだ。


 レグナが、前に出た。


 影がレグナを見た——見てるのかわからないけど、そっちを向いた。


『…………その炎。蒼い炎。まさか……レグナ……?』


「王よ。お久しぶりです」


『レグナ……。生きて……いたのか……。おまえも、封じられたはずでは……』


「封じられておりました。何百年もスケルトンとして、同じ場所を歩き続けておりました」


『すまなかった……おまえまで、巻き込んで……』


「謝らないでいただきたい。王よ。我は——王をお守りできなかった。謝るべきは、我のほうです」


『いや……レグナ。おまえは何も悪くない。悪いのは全て我だ。暴走して、仲間を巻き込んで、世界を傷つけた。全てが……我の……』


「王よ」


 レグナが膝をついた。


 蒼い炎がまっすぐ燃えてる。


「どうか、もう——ご自分を責めないでください」




 ◇




 俺は黙って見てた。


 レグナと魔王の、八百年越しの再会だ。


 これは俺が口を挟む場面じゃない。


 二人の——いや、一人と一つの魂の、最後の対話だ。



「王よ……この者を見てください」


 って、思ったけど……えっ?


 俺?


「この宝箱が——王の夢を継いでおります」


 魔王が、俺を見た。


『宝、箱……?』


 なんだか場違いな気もするけど……ええい、ままよ!


 呼ばれたからには、俺も魔王さまと話してみよう。


 俺は俺で、魔王に伝えたいこともあるからな。



〝ああ、宝箱だ〟


『教えてくれ、宝箱よ。ミミックのお前が……いったい、何を継ぐと……?』


 俺は、レイスたちと約束したその言葉を口にする。


〝おまえの夢だ。人間と魔物が対等に暮らせる世界〟


『なに…………対等に……だと?』


〝今、それをやってるんだ。ゴブリンとコボルトと竜と虫とスライムと人間と骸骨が、一つの村で暮らしてる〟


『……嘘だ。そんなことは……不可能だ。我は……それを目指して、失敗した。力に頼って、暴走して、全てを壊した……不可能なんだ……』


〝不可能じゃない。現にやれてる〟


『どうやって……力で示すしかないと……我は……』


〝力じゃない〟


 蓋文字を——もっと大きく、もっとはっきり浮かべた。


〝話したんだ〟

〝蓋を開けて、中を見せて、話した〟

〝最初に会ったゴブリンには、パカパカで〟

〝次に会ったコボルトには、蓋文字で〟

〝人間には、蓋の縁で握手して〟



 魔王が、じっと聞いてる。



〝力で示さなくても伝わる 時間はかかるけど〟

〝おまえは一人でやろうとした だから壊れた〟

〝俺は一人じゃない 中にみんながいる〟



 宝箱だから。


 中に、みんながいる。



『…………』



 魔王の影の輪郭が——変わり始めた。


 ぼんやりしてた形が、少しずつはっきりしてくる。


 顔が見えてきた。


 若い男の顔。二十代くらい。穏やかな目。


 怒ってない。悲しんでない。


 ただ——泣いていた。



『……そうか。できたのか。おまえが……やれたのか……』


 パカッ(やれた)。


『パカパカで……か。ふふっ……宝箱が……パカパカで……世界を変えるのか』


 ふふっと、笑い声が聞こえた。


 魔王が笑った。


 きっと、八百年ぶりかもしれない。


『……疲れた。もう十分だ。おまえに託す……我の夢を』


 魔王の体が光り始めた。


 赤黒い色が消えていく。淡い金色に変わっていく。残響のときと同じだ。


 でも——光の量が全然違う。部屋全体が金色に染まっていく。



『レグナ』


 レグナが顔を上げた。


『……長い間、すまなかった。おまえは……最高の将軍だった』


 レグナの蒼い炎が、ぐわっと揺れた。


「王、よ……」


『もう休む。だが……心配はしていない。あの宝箱がいるなら、おまえも大丈夫だろう』



 そして、魔王はリーリアを見た。



『巫女よ。十年間……ありがとう。おまえの魔力は……あたたかかった。この冷たい場所で、唯一のぬくもりだった』


 最後に、魔王が俺を見た。


『蓋を開ける者……ミミック、タカラ。——おまえに預ける。我の夢を、我の仲間を、我の……未来を』


 光が——弾けた。


 金色の粒が、四方八方に散っていく。


 魔王の魂が——解放された。


 怒りから。悲しみから。孤独から。八百年の封印から。


 粒が消えていく。一つ、また一つ。


 最後の一粒が消える直前——声が聞こえた。


 『——ありがとう』




 ◇




 収納の中が、静かになった。


 赤い光が消えて、いつものあたたかい空間に戻ってる。


 リーリアが泣いてる。アイがぷるんとくっついて、回復の光を出してる。


 レグナが立ち尽くしてる。



 「……行かれたか。王よ」


 小さな声だった。


 「……安らかに」


 それだけ言って——空を見上げた。収納の中に空はないけど、見上げてた。




 ◇




 蓋を開けた。


 外の光が目に入った。……目はないけど。


 封じの間が、明るくなってた。


 壁に染みこんでた赤黒い光が全部消えて、ただの白い石の部屋に戻ってる。


 八百年分の封印が——解けた。


 ガルドが駆け寄ってきた。


「タカラ! 大丈夫か!?」


 パカッ(大丈夫だ)。


「終わったのか?」


〝終わった〟


 ガルドがほっとした顔をした。


 リーリアが中から出てきた。目が真っ赤。


 レグナが出てきた。蒼い炎がいつもより穏やかに燃えてる。


 ガウルが尻尾を振った。


「ガウ。……タカラの中の匂い、全然違う。あの重い匂いが消えてる。……代わりに、すごくいい匂いがする」


 いい匂い?


「なんていうか……金色の匂い」


 金色に匂いがあるのか。犬の感覚はわからん。


 蓋裏を確認した。



 ──────────────────

  〝収納〟── 特殊格納


   対象:魔王の魂(本体)

   状態:浄化完了


   * 魂は解放されました

   * 浄化により大量の魔力が

    外殻に還元されました

   * 外殻の変質を検知……

   * 新たな進化条件を判定中……

 ──────────────────



 外殻の変質。


 新たな進化条件。


 ——また、来るのか。


 箱が——熱い。


 グレーターミミックになったときと同じだ。


 いや——もっと熱い。もっと深い。


 蓋裏の文字がばちばちしてる。


 来る。


 何かが来る——



 ◇



 【次回】パンドラボックス。

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