第37話「十年ぶりの白い壁」
朝。
出発。
メンバーは六人——六人と一箱か。
俺、リーリア、レイス、レグナ、ガルド、ガウル。
ガルドが俺を抱えようとした。
〝いらない〟
ズズズズズッ!
超高速ズズズで丘を駆け下りた。
「……そういえば、速くなったんだったな」
ガルドが追いかけてくる。ホブゴブリンの脚力と、グレーターミミックのズズズ。
ははっ、ほぼ同速だ。
ガウルだけ余裕で先行してるけど。
「ガウ。遅いぞおまえら」
ウォーウルフには勝てない。
レグナは走らない、歩いてる。でも一歩がでかいから、普通についてこれてる。
リーリアは……ガルドの横を走ってる。体力はないけど、レイスが「遅れたら背負う」と言ったら「自分で走る」って断った。
強い子だ。
◇
ベイルの街を迂回して、北へ。
街の北に歩いて半日——と酒場のおっさんが言ってたけど、全員進化済みの化け物ぞろいだ。二時間で着いた。
丘の上に——白い塔が立ってた。
五階建てくらいの高さ、白い石でできてる。
陽の光を受けて、ぼんやり光ってる。
きれいだ。きれいだけど——冷たい。
リーリアが足を止めた。
塔を見上げてる。
「……変わってない。十年前と、何も」
十年間いた場所、白い壁、窓のない塔。
「でも……私は変わった」
リーリアが歩き出した、自分の足で。
塔の正面に、大きな扉がある。白い石の扉で、紋様が刻まれてる。
その前に——兵士がいた。
八人。鎧を着て、槍を持って、扉の前に並んでる。
こっちを見て——固まった。
そりゃそうだ。
ホブゴブリン。ウォーウルフ。二メートルの黒い鎧の骸骨。琥珀色の宝箱。
そして——逃げたはずの巫女。
その全員を連れて、塔守が正面から歩いてくる。
兵士の一人が叫んだ。
「レイス様……!? その後ろにいるのは……魔物……!? それに巫女様も……!?」
レイスが足を止めずに歩いていく。
「全員退け。塔守の命令だ」
「し、しかし——」
「命令だ」
レイスの声が変わった。普段の穏やかさがない、騎士の声だ。
兵士たちが——退いた。
塔守の命令は絶対だ。
でも一人の兵士が、震える声で聞いた。
「レイス様……いったい、何をなさるおつもりですか……」
「大賢者の遺志を継ぐ」
それだけ言って、レイスが扉に手を当てた。
「塔守レイス。この扉を開ける」
扉の紋様が——光った。青白い光。
ギギギ……。
何百年も開かなかった正面扉が——開いた。
中から冷たい空気が流れ出してくる。
白い壁、白い床、白い天井。
窓がないし、外の光は入らない。壁に埋め込まれた魔石が、冷たい白い光を放ってる。
リーリアが——一歩、中に入った。
「…………」
何も言わなかった。
でも拳を握ってた。
俺もズズズで中に入る。
白い床をズズズしてると、音が妙に響く。静かすぎるんだ、この塔。
ガルドが入ってきた。天井を見上げてる。
「……嫌な場所だな。空気が重い」
ガウルが鼻をひくひくさせてる。
「ガウ……。匂いが全部同じだ。白い石と、古い魔力。それしかない。生き物の匂いがほとんどしない」
生き物の匂いがない場所……か
今度はレグナが入ってきた。蒼い炎が——ゆらゆらしてる。
「……この魔力。覚えがある。何百年前に、最後に感じたのと同じだ」
封印の魔力――レグナが封じられたときの。
◇
塔の中を進む。
レイスが先導して、螺旋階段を下りていく。
上じゃなくて下。封じの間は台座のさらに下にある。
階段は狭い。ガルドは横幅ぎりぎりだ。レグナは少し屈まないと頭がぶつかる。
俺は——ズズズで階段を下りてる。
段差をがたんがたん言わせながら。
「タカラ、うるさいぞ」
ガルドが振り返った。
うるさいのは構造上の問題だ。宝箱が階段を下りたらこうなる。
「抱えるか?」
〝いらない〟
自分で行く。ここまで来て抱えられてたまるか。
がたん。がたん。がたん。
うるさいけど……自分の力で降りられてる!
パカッ。
◇
台座の部屋を通り過ぎた。
前に来たとき、俺がここで〝解封〟を覚えた場所だ。
台座の光は消えてる。紋様もほとんど見えない。封印が弱まってる証拠だ。
台座の奥に——もう一つ、扉があった。
前に来たときは気づかなかった。壁と同じ色で、紋様も消えかけてたから。
でも今は——うっすら光ってる。
近づくと、蓋裏が反応した。
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封印術式を検出
〝封じの間〟への入口
解錠条件:
☐ 塔守の認証
☐ 巫女の魔力
* 両方の条件が同時に
満たされる必要があります
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レイスが扉の左側に手を当てた。
「塔守レイス。封じの間の開錠を許可する」
左半分の紋様が——光った。
チェックが一つ入る。
リーリアが扉の右側に手を当てた。
青白い魔力が手から流れ出す。
右半分の紋様が——光った。
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解錠条件:
☑ 塔守の認証
☑ 巫女の魔力
解錠します
──────────────────
扉が——開いた。
ゆっくりと、重い石がきしみながら。
中は——暗かった。
白い塔の中なのに、ここだけ暗い。
壁の魔石が光っていない。代わりに奥から、赤黒い光が漏れてる。
脈打つように。
ドクン。ドクン。ドクン。
心臓の音。
「……王の魂だ」
レグナがつぶやいた。蒼い炎が——いつもより大きく燃えてる。
「何百年ぶりだ……王よ……」
奥に——何かがある。
暗闇の中に、赤黒い光の塊。
【残響の核】なんかより——ずっとでかい。
部屋全体を満たすほどの、巨大な光。
魔王の魂。
何百年も、ここに一人で封じられていたもの。
パカッ。
蓋を開けた。
行くぞ。
◇
【次回】魔王の魂と、向き合う。




