第113話「パカパカ」
パカパカが続いてる。
俺と白い宝箱——魔王の王が、蓋を鳴らし合ってる。
パカッ、パカッ。パカパカ。パカッ。
言葉はない。意味もない——と思ってた。
でも、パカパカしてるうちに——なんとなく、分かってきた。
白い宝箱のパカパカのリズムに、感情が乗ってる。
速いパカパカは——嬉しい。
遅いパカパカは——寂しい。
一回だけのパカッは——「うん」。
二回連続は——「もっと」。
宝箱の言語。蓋の開閉だけで構成された、原始的な対話。
俺はこのリズムを——体で知ってた。ミミックとして目覚めた最初の日から。パカパカは俺の生命線だった。それが——こいつから来てたのか。
〝……おまえの名前は〟
蓋文字は消えるけど、パカパカのリズムに意味を乗せて聞いてみた。
白い宝箱が——ゆっくりパカパカした。
パカッ……パカッ……パカッ……。
名前がない。
七人の魔王に名前を分けた。対話、戦、知——全部、魔王の王の中にあった性質が分かれていった。名前も一緒に。
残った魔王の王には——何も残らなかった。
〝俺と同じだな 空っぽの箱〟
パカッ。
〝じゃあ——名前をつけてやる〟
パカパカ!パカパカ!
白い宝箱が速いパカパカをした。嬉しい、の意味。
〝おまえの名前は——〟
考える。
白い宝箱。七人の魔王の親。全てを分けて、自分は空っぽになった。
空っぽだけど——蓋がある。
蓋がある限り、中身は入れられる。
俺がやってきたことと同じだ。蓋を開けて、大事なものを入れる。
〝——始蓋〟
〝始まりの蓋 全ての宝箱の、最初の蓋〟
白い宝箱——始蓋が、パカパカパカパカした。
速い。めちゃくちゃ速い。嬉しいの最上級。
「タカラ、あいつ喜んでるぞ」
ガルドが苦笑した。
「パカパカで会話してるの、傍から見るとすげえシュールだけど」
〝シュールとか言うな 宝箱語だ〟
「宝箱語て」
◇
大賢者の遺産——封印解除、続行。
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進行率:50% → 80%
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始蓋の蓋が、もっと開いた。
中から——七色の光が漏れた。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。七つの色。七人の魔王の色。
対話の王の緑。戦の王の赤。知の王の青。灰守の灰色。潮音の銀。第六の魔王の金。
そして——第七の色。まだ見たことのない色。淡い白。
第七の魔王。まだ封印されてる。
『第七の魔王の封印も、この中にある。始蓋の中に、最後の一人が眠っている』
博士が言った。
〝第七の魔王は——始蓋の中にいたのか〟
『そうだ。第七の塔は始蓋そのもの。塔と魔王の王は、一体だった』
第七の塔=始蓋。最後の魔王は、始蓋の中に。
〝解放する〟
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進行率:80% → 95%
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始蓋の中から——白い光の球体が浮かび上がった。
小さな光。手のひらサイズ。
第七の魔王の魂。
光が——形を変えた。
人型。小さい。子供くらいの大きさ。
白い髪。白い目。白い服。
子供だ。
五歳くらいの子供。男の子か女の子か分からない。中性的。
目を閉じてる。眠ってる。
「子供……?」
チョンが目を見開いた。
「第七の魔王って、子供なの?」
『始蓋から最後に分かれた存在。まだ成長していない。眠ったまま封印された。名前もない、性質もない——〝これから〟の存在だ』
これから。
対話の王は「対話」、戦の王は「戦」、知の王は「知」、灰守は「後悔」、潮音は「歌」、第六の魔王は「研究」——
第七の魔王は「これから」。
まだ何者でもない。何にでもなれる。
子供の魔王が——目を開けた。
白い目が、俺を見た。
「…………」
何も言わない。
ただ——手を伸ばした。俺の方に。
俺は蓋を開けた。
子供の手が、蓋に触れた。
温かい。
子供が——くすっと笑った。
「パカ」
…………。
パカ。
この子も——パカパカが分かるのか。
「パカパカ」
小さな声で、パカパカと言ってる。
チョンが近づいた。
「こんにちは。俺、チョン」
子供がチョンを見た。
「……ちょん」
「うん、チョン。よろしくね」
子供が——チョンの手を握った。
「ちょん、あったかい」
「えへへ。タカラもあったかいよ」
「たから?」
〝俺だ〟
「たから……パカパカ」
〝パカパカ〟
パカパカで笑ってる。子供の魔王が、パカパカで笑ってる。
ガルドが頭を抱えた。
「魔王が全員個性的すぎるだろ……」
◇
第七の魔王の名前。
子供。「これから」の存在。
〝おまえの名前は——〟
チョンが言った。
「タカラ、俺がつけていい?」
〝え?〟
「俺、ずっとタカラに名前つけてもらう側だった。今度は——俺がつけたい」
……チョンが。名前を。
〝いいよ〟
「じゃあ——」
チョンが子供の魔王の前にしゃがんだ。
「おまえの名前は——芽」
「め?」
「芽。芽が出る、の芽。まだ何も咲いてないけど、これから咲く。何にでもなれる。だから——芽」
子供の魔王——芽が、にこっと笑った。
「め。めめめ」
「そう、芽。よろしくね」
「よろしく、ちょん」
チョンが名前をつけた。
俺じゃなく、チョンが。
宝箱の仕事を——チョンが引き継いだ。
パカッ。
◇
封印解除——最終段階。
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進行率:95% → 100%
* 全封印解除完了
* 魔王の王(始蓋)解放
* 第七の魔王(芽)解放
* 七つの鍵、全て解除
* 大賢者の遺産により
安全に制御中
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全封印解除。
七つの蓋が——全て開いた。
始蓋の蓋が完全に開いた。白い宝箱の中が——空っぽになった。中にいた七人の魔王が、全員解放された。
始蓋が——ゆっくりと、蓋を閉じた。
パタン。
そして——光り始めた。
白い宝箱が、穏やかな光を放ってる。
パカッ。
一回だけ。静かなパカッ。
「ありがとう」の意味だと、俺には分かった。
「タカラ、始蓋は——」
〝大丈夫だ 暴走してない 安全に解放できた〟
大賢者の遺産のおかげだ。制御しながら解放したから、暴走しなかった。
大賢者がやりたくてもできなかったこと——七つの鍵を全て外しつつ、魔王の王を安全に解放する。それが、遺産によって実現した。
パカッ。
——その時。
地面が揺れた。
ドォンッ、と衝撃。上から。
ガウルが叫んだ。
「ガウ! 上だ! ダンジョンの上層から——爆発の匂い! それと——マリウスの匂い!」
マリウス。
牢にいるはずの。
「脱走したのか!?」
セルディスが剣を抜いた。
また爆発。ドォン。天井から石が落ちてきた。
「ダンジョンの入り口を——壊してる!」
マリウスがダンジョンの入り口を破壊してる。力ずくで。
最後の言葉。「まだ」。「これで終わりだと思うな」。
マリウスが——来た。
パカッ。
◇
【次回】マリウス、最後の介入。ダンジョンの中での最終決戦。全員で迎え撃つ。




