第111話「帰ってきた場所」
パカラ村のダンジョン。入り口。
洞窟の口が、暗く口を開けてる。
ここから入る。最後の塔へ。
メンバーは十三人と一箱と二匹と一羽。
俺。ガルド。レグナ。ガウル。リーリア。アイ。チョン。セルディス。聖騎士団五人。収納に博士、スミ。蓋の上にシロ。
村の住人が見送りに来てた。
グリンが叫んだ。
「タカラ! 絶対帰ってこいよ!」
〝帰る〟
サガが杖を突いた。
「チョン。しっかりな」
「うん、おばあちゃん」
グラドルが枝を揺らした。
「宝箱。ダンジョンの中は、我の根が届く。何かあれば、振動を送れ」
〝ありがとう〟
パカッ。
俺は——洞窟に入った。
全員が続いた。
◇
一層目。
見慣れた通路。パカラ村の住人が毎日使ってる場所。壁にランプが並んでて明るい。食料の貯蔵室や鍛錬場がある。
セルディスが周囲を見回した。
「整備されてるな。ダンジョンとは思えない」
〝住人が管理してる〟
「ふむ。立派だ」
二層目。鍛錬場が広がってる。ホブゴブリンたちが普段から使ってる場所。
三層目。
ここで——足が止まった。
三層目の奥に、小さな部屋がある。
石の壁に囲まれた、狭い部屋。
ここだ。
俺がミミックとして目覚めた場所。
部屋の中央に——何もない。空っぽ。前はここに宝箱が置いてあった。俺が。冒険者に開けられるのを待ってた宝箱が。
今はもう何もない。俺が目覚めて動き出したから。
〝…………〟
「タカラ?」
ガルドが声をかけた。
〝ここが、俺が目覚めた場所だ〟
「……ここか」
〝ミミックとして目覚めて、最初にパカパカした場所〟
パカッ。
感慨がある——けど、何の感慨か分からない。人間だった頃の記憶を差し出したから。ここに来たときの記憶も、もう曖昧だ。
ただ——体が覚えてる。ミミックの体が。ここで目覚めた、っていう感覚だけが。
「タカラ」
チョンが俺の蓋に触れた。
「ここがタカラの始まりの場所だね」
〝ああ〟
「じゃあ、ここが——旅の終わりの場所でもあるんだね」
〝……そうだな〟
チョンが笑った。
「行こう。最後の蓋、開けに」
〝ああ〟
◇
四層目に入った。
ここから先は未探索——いや、先日の調査で一通り歩いた。
暗い。壁のランプがない。レグナの蒼炎で照らす。完全体の蒼炎は、二十メートル先まで青白く照らせる。
通路が狭くなった。大人二人が並んで歩けるくらい。
セルディスの聖騎士団が、前衛と後衛に分かれた。
「前衛二名、後衛三名。タカラたちは中央で」
さすが軍人。隊列の判断が速い。
ガウルが匂いを嗅いだ。
「ガウ。魔物の匂いはない。でも——魔力の匂いが濃くなってきてる。下に行くほど」
下に行くほど魔力が濃い。第七の塔が近い証拠。
四層目を進む。石の通路。天然の洞窟と、人工的に掘られた部分が混在してる。大賢者の時代に拡張されたんだろう。
通路の壁に——文字があった。
大賢者の文字。第六の塔で見たのと同じ字体。
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ここより先に、最後の封印がある。
七つの鍵を持つ者だけが進める。
——大賢者
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七つの鍵を持つ者。六基の塔を解放した俺。
俺の蓋裏が反応した。
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大賢者の遺産が反応しています
第七の塔への通行権:
六基の塔を解放済み ✓
大賢者の遺産を所持 ✓
* 通行を許可します
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通行許可。
壁の文字が光って、通路の奥にあった石の扉が——開いた。
五層目への入り口。
「ここから先が最深部か」
セルディスが剣の柄に手を置いた。
「何があるか分からん。全員、警戒を怠るな」
全員が頷いた。
俺は——扉をくぐった。
◇
五層目。
広い。
四層目までの狭い通路とは全然違う。天井が十メートル以上ある。壁が遠い。
巨大な地下空間。
そして——中央に、塔があった。
白い石の塔。高さは——五メートルくらい。小さい。今までの塔と比べると、ずっと小さい。
でも——存在感がある。
塔の表面から、微かな光が漏れてる。金色の光。封印の光。
「あれが……第七の塔か」
ガルドが息を呑んだ。
「小さいな。でも——圧が、やばい」
圧。
塔の周囲に、見えない力が渦巻いてる。近づくだけで体が重くなる。
チョンが足を止めた。
「タカラ……重い。体が」
チョンにはきつい。Dランクの体では、この圧に耐えるのが精一杯だ。
〝チョン ここで待ってろ〟
「え、でも——」
〝無理するな 後で呼ぶから〟
「……わかった」
チョンがリーリアの横に退いた。リーリアがチョンの肩に手を置いた。
「大丈夫。タカラが呼んだら行こうね」
「うん」
聖騎士団も、圧で動きが鈍ってる。Bランクの騎士では、この領域はきつい。
セルディスだけが平然としてる。
「俺は大丈夫だ。行けるところまで行く」
俺、ガルド、レグナ、ガウル、セルディス。五人で塔に近づく。
塔の表面に——扉がある。
最後の扉。
俺は蓋を当てた。
蓋裏が反応。
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第七の塔の封印術式を検出
通常解錠:全塔の解放+大賢者の遺産
* 条件を満たしています
* 解錠を実行しますか?
** 警告 **
この封印を解くと、
魔王の王の封印解除が開始されます。
大賢者の遺産で制御できますが、
完全な安全は保証できません。
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完全な安全は保証できない。
……当たり前だ。完全な安全なんて、最初からない。
どの塔を開ける時も、何が起きるか分からなかった。
対話の王の時も。戦の王の時も。知の王の時も。灰守の時も。潮音の時も。
毎回——蓋を開けてみるまで、中身は分からなかった。
でも——開けてきた。全部。
パカッ。
〝実行〟
◇
扉が——開いた。
金色の光が溢れた。
塔の中から——風が吹いた。
暖かい風。懐かしい風。
何の匂いだ。分からないけど——懐かしい。
塔の中に——光がある。
金色の光の中に——影がある。
大きな影。
人の形じゃない。もっと大きい。もっと曖昧。形が定まらない。
光と影が混ざった存在。
魔王の王。
声はない。動かない。
ただ——そこにいる。
八百年間。ずっと。
知の王が言ってた。「魔王の王は意志を持つ。だが言葉を持たない。声がない」。
俺と同じだ。
声がない者同士。
パカッ。
〝……会いに来たよ〟
蓋文字が、金色の光の中に浮かんだ。
魔王の王は——動かない。
でも——光が、ほんの少しだけ、揺れた気がした。
◇
【次回】魔王の王と対面する。声がない者同士の対話。七人の魔王の物語を、親に伝える。




