第108話「最後の壁」
査察が終わって三日後。
レイスから急報が届いた。
『タカラへ
マリウスが次の手を打った。
王に対して「パカラ村地下のダンジョン封鎖」を上奏した。
内容は——「ダンジョンの最深部に封印された存在は、
王国の安全保障上、最大の脅威である。
蓋を開ける者に自由に解放させてはならない。
聖騎士団を派遣して、ダンジョンを封鎖すべきだ」。
セルディス団長が反対意見を出した。
現在、王の裁定待ち。
急いでくれ。王の決定が出る前に、
対策を打たないとまずい。
レイス』
ダンジョン封鎖。
俺たちが第七の塔に入れないようにする。物理的に。聖騎士団でダンジョンの入り口を塞ぐ。
マリウスの狙いは明確だ。俺に遺産を取られた。正攻法では遺産を取り返せない。なら——俺が第七の塔に入れないようにして、時間を稼ぐ。その間に、マリウスが別の方法で魔王の王の封印を破壊する。
〝博士、マリウスがダンジョンを封鎖してる間に、封印を別ルートで破壊する可能性は〟
『ある。遺産がなくても、封印の構造自体を物理的に破壊する手段がある。ただし、そのためには第七の塔の場所を知っている必要がある。パカラ村の地下だという情報を、マリウスが掴んでいるかどうか——』
〝掴んでるだろ 渓谷で第六の魔王が言った時、マリウスも聞いてた可能性がある〟
『そうだな。あのホールで、第六の魔王が〝パカラ村の地下〟と言った時、マリウスはまだ塔の中にいた。聞いている可能性が高い』
マリウスは第七の塔の場所を知ってる。
ダンジョン封鎖で俺を足止めしつつ、自分は別ルートでダンジョンに入って封印を破壊する——
……いや、パカラ村のダンジョンは俺の勢力圏だ。グラドルが守ってる。マリウスが勝手に入ることはできない。
じゃあ、ダンジョン封鎖の本当の目的は——
「聖騎士団をパカラ村に駐留させる」こと。
聖騎士団がパカラ村に来たら、俺の行動が監視される。ダンジョンに入るにも聖騎士団の許可が要る。
金の首輪。褒賞の時と同じ構図だ。
〝セルディスが反対してくれてるんだな〟
「ああ。セルディス団長は——タカラの味方だ」
ガルドが言った。
「でも、王が決めたら覆せないんだろ」
〝前回は王の前で弾劾して、マリウスの筆頭を一時停止に追い込んだ 今回も——王の前に出る必要があるかもしれない〟
「また王都に行くのか?」
〝……行かなくていい方法がある〟
俺はスミを呼んだ。
「ぷるん」
〝スミ、手紙を書いてくれ セルディス宛て〟
「ぷるん」(了解)
手紙の内容を、蓋文字で指示した。
◇
『セルディス団長へ
マリウスのダンジョン封鎖の上奏について。
王に以下をお伝えいただきたい。
①大賢者の遺産は、蓋を開ける者が適切に管理している。
先日の査察でも「問題なし」と判定された。
②ダンジョンの封鎖は、魔王の王の封印を
「安全に」解除する機会を失わせる。
遺産による制御下での解除が、最も安全な方法である。
③マリウスが封鎖を求める真の目的は、
遺産を奪い返すことである。
遺産がマリウスの手に渡れば、
魔王の王を自分の支配下に置く可能性がある。
④証拠:マリウスは渓谷で「遺産を私がいただく」と
宣言し、直接戦闘を仕掛けてきた。
第六の魔王が証人として証言できる
——ただし、第六の魔王は浄化済みのため、
代わりに博士(知の王の断片)が証言可能。
⑤蓋を開ける者は、
王の前での弁明を求める。
ただし、王都に出向くのではなく、
王がパカラ村に来ていただきたい。
パカラ村を見れば、この村が
脅威でないことが分かる。
タカラ(スミ代筆)』
王をパカラ村に呼ぶ。
前回は俺が王都に行った。今回は——王に来てもらう。
パカラ村の現実を、王自身の目で見てもらう。
ガルドが目を見開いた。
「王を呼ぶのか!?」
〝呼ぶ〟
「来るか?」
〝来るかどうかはセルディス次第だ〟
「セルディスがそこまでやってくれるかな」
〝やってくれる セルディスは——俺たちの味方だ〟
◇
手紙を急使で送った。ドルトン経由。
四日待った。
返事が来た。
『タカラへ
王がパカラ村への行幸を決定した。
セルディス団長が「百聞は一見に如かず」と
王に進言した。王も「自分の目で確かめたい」と。
マリウスは反対したが、却下された。
ダンジョン封鎖の決定は、行幸の後に判断する、と。
王の行幸は五日後。護衛はセルディス団長が直接率いる。
マリウスも同行する。
レイス』
王が来る。パカラ村に。
マリウスも来る。
五日後。
「タカラ、王が来るって、受け入れ準備が必要だぞ」
ガルドが慌て始めた。
「五百八十二人のホブゴブリンが住む村に、王が来る。掃除しないとまずい」
〝掃除?〟
「掃除だ! 村を綺麗にしろ! グリン、広場の草むしり! コボルト大工、門の修繕! サガ、茶菓子の準備!」
ガルドが指揮を取り始めた。
「レグナ、蒼炎で炙るな! 煤がつく!」
「分かっておる」
「ガウル、穴掘りやめろ! 広場に穴が開くだろ!」
「ガウ。習性だ」
「習性を抑えろ!」
パカラ村全体が、王の訪問に備えて大掃除を始めた。
……戦闘準備じゃなく、掃除の指揮を取るガルド。
パカッ。
〝チョン、おまえも手伝え〟
「何するの?」
〝花を摘んできてくれ 広場に飾る〟
「花! 了解!」
チョンが走っていった。
俺は——宝箱だから掃除はできない。
〝俺は何をすればいい〟
「おまえは磨けよ。自分を」
〝宝箱を磨く?〟
「ツヤ出し。王の前に出るんだから、ピカピカにしとけ」
〝……誰が磨くんだ〟
「チョンに頼め」
チョンが花を持って戻ってきた。
「タカラ磨くの? やるやる!」
チョンが布で俺の外殻をごしごし磨き始めた。
〝くすぐったい〟
「じっとして!」
〝くすぐったいって〟
「我慢!」
宝箱を磨くホブゴブリンの子供。
……これが王を迎える準備か。
◇
五日間で、パカラ村は見違えるほど綺麗になった。
広場に花が飾られてる。門が修繕されてる。道が掃き清められてる。噴水がきらきらしてる。
そして——俺はピカピカだ。チョンが毎日磨いてくれた。
パカッ。ピカッ。
〝光ってるぞ〟
「ピカピカだね! 王様に見せても恥ずかしくないよ!」
チョンが自信満々だ。
見張り台からグリンが叫んだ。
「来たぞ! 王の行列だ!」
丘の下から——白い旗の行列が近づいてきた。
馬に乗った騎士団。先頭にセルディス。銀髪が風になびいてる。
その後ろに、王の馬車。
馬車の窓から——王が顔を出してる。
そして——馬車の後ろを歩く、紫のローブの男。
マリウス。
にこにこしてる。
パカッ。
〝来た〟
パカラ村に、王が来た。
マリウスと一緒に。
最後の壁。
これを越えれば——第七の塔への道が、開く。
◇
【次回】王がパカラ村を見る。マリウスが最後の反論をする。そして——王の決断。




