第106話「遺産の中身」
山道を西に歩いてる。渓谷を離れて半日。
天気がいい。風が気持ちいい。チョンが山の花を摘みながら歩いてる。ガウルが匂いを嗅ぎながら走り回ってる。平和な帰路。
でも、俺の蓋裏では——博士と大賢者の遺産の検証をしてる。
〝博士 遺産の機能、一つずつ確認しよう〟
『了解。遺産がおまえの収納に入ったことで、蓋裏に統合された。操作はすべて蓋裏から行える』
蓋裏に新しいメニューが出てる。
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大賢者の遺産
── 封印管理システム ──
機能一覧:
① 七つの封印の状態監視
② 封印の強化/弱体化
③ 最後の封印(魔王の王)の制御
④ 緊急封印(全封印の一斉再封印)
現在の状態:
解放済み:6基
未解放:1基(第七の塔)
最後の封印:待機中
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四つの機能。
〝一つ目 封印の状態監視〟
蓋に意識を向ける。
蓋裏に七つの塔の状態が表示された。
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封印状態一覧
第1の塔(森):解放済み ✓
対話の王──浄化完了
第2の塔(砂漠):解放済み ✓
戦の王──浄化完了
第3の塔(氷山):解放済み ✓
知の王──塔に残留中
第4の塔(焦土帯):解放済み ✓
灰守──浄化完了
第5の塔(海):解放済み ✓
潮音──海に帰還
第6の塔(渓谷):解放済み ✓
第六の魔王──浄化完了
第7の塔(パカラ村地下):未解放 ✗
第七の魔王──封印中
最後の封印:6/7解放
残り1基で魔王の王の封印が解除
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一覧で見ると——六基解放。残り一基。
〝二つ目 封印の強化と弱体化〟
『これは、まだ解放されていない封印に対して使える機能だ。第七の塔の封印を、遠隔で弱めたり強めたりできる。ただし——解放はできない。解放にはタカラが現地に行く必要がある』
〝じゃあ、マリウスが第七の塔を力ずくで壊そうとしたら、俺がここから封印を強化して防げるのか〟
『そうだ。遺産を持っている限り、マリウスが封印を外から破壊するのは困難になる。これが遺産の最大の価値だ』
安全弁。マリウスの暴走を止められる。
〝三つ目 最後の封印の制御〟
『七つの封印が全て解けた時、魔王の王の封印が自動的に解除される。だが、遺産があれば——解除のタイミングと方法を制御できる。ゆっくり解除するか、安全な形で解除するか。あるいは——解除しない、という選択もできる』
〝解除しない選択〟
『七つの魔王を全て解放しても、魔王の王の封印だけは維持する。それが可能になる。大賢者が最初にやりたかったのは、おそらくこれだ。七人の魔王を解放しつつ、魔王の王だけは封じ続ける』
〝でも、それは魔王の王をずっと閉じ込めるってことだろ〟
『そうだ』
〝俺はBを選んだ 対話すると〟
『覚えている。だから——解除の方法を〝対話可能な形〟で行う選択がある。ゆっくり解除して、魔王の王が目覚めた瞬間に対話を試みる。暴走しそうになったら、緊急封印で再封印する』
〝緊急封印 それが四つ目か〟
『そうだ。全封印の一斉再封印。七つの塔の封印を一瞬で元に戻す。魔王の王が暴走した場合の最終手段だ。ただし——使うと、七人の魔王も全員再封印される』
七人全員が再封印。
対話の王、戦の王、知の王、灰守、潮音——消えた者たちは関係ないけど、知の王と潮音は生きてる。再封印されたら、またあの塔に閉じ込められる。
〝それは最後の最後の手段だな〟
『そうだ。使わずに済むのが最善だ』
◇
ガルドが横から聞いてきた。
「タカラ、ずっと蓋裏見てるけど、何か分かったか」
〝大賢者の遺産の機能が分かった 封印を監視、強化、制御、緊急再封印の四つだ〟
「へえ。で、魔王の王については?」
〝それはこれから〟
博士に聞いた。
〝博士 魔王の王について、遺産から何か分かるか〟
『遺産のデータベースに、魔王の王に関する記録が——ある。少しだけ』
〝見せてくれ〟
蓋裏に表示された。
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魔王の王
名称:不明
種族:不明
戦力:計測不能
大賢者の記録:
「この存在は、七人の魔王が
生まれる前から存在していた。
七人の魔王は、この存在から
分かれた者たちだ」
「魔王の王は、敵ではない。
だが、味方でもない。
この存在に意志があるのか、
私にも分からなかった」
「私は対話を試みたが、
声が届かなかった。
力が強すぎて、
私の言葉が消されてしまった」
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七人の魔王が「分かれた者」。
魔王の王から、七人が分離した。対話の王も、戦の王も、知の王も——全員、元は一つの存在だった。
「うわ、それやばくないか」
ガルドが顔をしかめた。
「七人分の力を持ってるってことだろ。いや、七人が分かれた後の残りだから、もっとやばいかもしれない」
〝戦力:計測不能だ〟
「計測不能って、測れないほど強いってことか」
〝か、測る基準がないか、だ〟
「どっちにしろやべえ」
チョンが聞いてた。
「ねえタカラ。魔王の王って、七人のお父さんみたいなもの?」
〝……そう言えるかもな〟
「じゃあ、子供たちの話をすれば、お父さんも聞いてくれるんじゃないかな」
〝…………〟
子供たちの話。
七人の魔王の話を、魔王の王にする。
対話の王がどう生きたか。戦の王が何を願ったか。知の王が何を知ったか。灰守が何を悔いたか。潮音が何を歌ったか。
七人の物語を、親に伝える。
それが——対話の糸口になるかもしれない。
〝チョン、おまえ天才かもしれない〟
「えへへ」
チョンの「心の素質」が、また核心を突いた。
◇
夜。野営。焚き火を囲んでる。
レグナが蒼い炎で焚き火を点けた。完全体の蒼炎は、火をつけるのも一瞬。
「……調子がいいな。今までとは全然違う」
〝完全体って、どれくらい違うんだ〟
「蒼炎の密度が、98%の時の三倍くらいある。同時展開できる剣の数も増えた。四本が六本になった」
〝六本同時〟
「うむ。それと——新しいスキルを一つ思い出した。完全体に戻ったことで、封じられていた記憶が甦った」
〝新しいスキル?〟
「〝蒼き炎の薙〟の上位版。名は——」
レグナが、右手に蒼い炎を集めた。炎が圧縮されて、小さな太陽みたいに輝いた。
「——まだ使わない。マリウスとの決戦まで、取っておく」
〝気になるな〟
「ふふ。楽しみにしておけ」
レグナがレアスキルを隠してる。完全体の将軍の切り札。
ガルドが焚き火に肉を焼きながら言った。
「レグナが完全体になったのはでかいな。マリウスがSランクでも、完全体のレグナがいれば互角以上だ」
〝ああ〟
「あと——タカラ自身も強くなってるぞ。気づいてるか?」
〝俺?〟
「おまえ、壁をよじ登って五人同時に倒しただろ。あれ、半年前のおまえにはできなかった」
〝まあ、スキルが増えたからな〟
「スキルだけじゃない。判断が速くなってる。昔は一人で悩んでたけど、今は仲間に任せるところは任せて、自分がやるべきところだけ集中してる」
〝……そうかな〟
「そうだ。宝箱としての〝中身〟が、でかくなってる」
パカッ。
……そうか。俺も成長してるのか。
スキルの数だけじゃなく、使い方が。仲間との連携が。判断の速さが。
中身が、でかくなってる。
◇
翌日。砂漠の北端を通過。
ナギの集落の近くを通ったけど、今回は寄らない。急いでるから。
ナギに手紙だけ送った。スミが書いてくれた。
『ナギへ
第六の塔を解放した。大賢者の遺産を確保した。マリウスの筆頭が復帰してる。
第七の塔はパカラ村の地下にある。
帰ったらすぐに最後の塔に挑む。
何かあったら連絡する。
タカラ(スミ代筆)』
メブキにも、潮音にも、灰港の長老にも、知の王にも——同じ内容の手紙を送った。
スミが五通書いてくれた。
「ぷるん」(五通は多い)
〝ごめん ありがとう〟
「ぷるん」(別にいいけど)
スミ、ちょっと疲れてるな。秘書の仕事が増えすぎだ。
シロ(仮)が蓋の上で耳をぱたぱた。風を楽しんでる。この兎はいつも楽しそうだ。
ベイルの街に向かう。あと二日。
◇
【次回】ベイルの街でドルトンに報告。マリウスの新たな一手——パカラ村への「査察」。




