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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第七部 天蓋の渓谷編

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第105話「渓谷を、出る」


 塔を出た。


 霧の中を、千段の階段を上る。


 ガルドが俺を抱えて階段を上ってくれてる。四回目、もう文句も言わない。


「タカラ、おまえもいい加減、階段対策考えろよ」


〝考える〟


「毎回言うな」


〝毎回考えてる 結論が出ないだけだ〟


「結論出せよ」


 ……宝箱にとって階段は永遠の課題だ。ズズズは平面専用。階段は構造的に無理。


 チョンが横で数えてる。


「ひゃくにじゅういち、ひゃくにじゅうに……」


「また数えてるのか」


「今度は最後まで数える!」


「百で飽きたくせに」


「今回は違う! ひゃくにじゅうさん、ひゃくにじゅうよん……」


 三百段目で飽きた。


「……やっぱ無理」


「だから言っただろ」



 ◇



 五百段を過ぎた辺りで、霧が薄くなってきた。


 ガウルが耳を立てた。


「ガウ。上の方に——人がいる。マリウスの匂い。五人」


 五人。マリウスの部隊の残党か。塔に入らずに、外で待ってた組がいたのか。


〝待ち伏せか〟


「ガウ。階段の上で構えてる。俺たちが出てくるのを待ってる」


 千段の階段は一本道だ。左右に逃げ場がない。上に敵がいたら——正面突破しかない。


「タカラ、どうする」


 ガルドが俺を抱えたまま聞いた。


〝ガルド、俺を投げろ〟


「は?」


〝上に投げろ 五百段分、上に〟


「五百段分って、百五十メートルだぞ!? 俺の腕力じゃ無理だ!」


〝じゃあ二十メートルでいい あとは自分でなんとかする〟


「なんとかって何だよ」


〝万蓋と武装擬態で壁を掴みながら登る〟


「……マジか」


〝マジだ ボルダリングする宝箱だ〟


 ガルドが俺を持ち上げた。砲丸投げのフォーム。


「いくぞ」


〝いけ〟


 ガルドが——俺を投げた。


 ぶぉんっ!


 宝箱が宙を飛んだ。二十メートル上昇。


 頂点で——〝武装擬態〟! 左右の蓋を鉤爪の形に変えて、渓谷の壁面に突き刺した。


 ガキンッ!


 壁に張り付いた。宝箱が壁にしがみついてる。


 ここから——鉤爪で壁を登る。


 左の蓋を上に突き刺す。右の蓋を上に突き刺す。交互に。


 ガキン、ガキン、ガキン。


 宝箱がボルダリングしてる。


 チョンが下から叫んだ。


「タカラ、かっこいい! 壁登ってる!」


〝かっこよくはない 必死だ〟


 壁を登りながら、敵の位置に近づく。


 残り五十メートル——


 階段の上で、マリウス派の五人が下を覗いてる。


「おい、何か壁を登ってこないか?」


「……宝箱が壁を登ってる」


「は?」


 五人が俺を見た。


 俺は——壁を蹴って、飛んだ。


 宝箱が壁面からジャンプ。五人の真上に。


五連星(ファイブスター)〟!


 五枚の蓋から、五発のスキルを同時発射。


 ファイアランス、フロストエッジ、光弾、蔦、アローレイン。


 五人に一発ずつ。


 ドドドドドッ!


 五人全員が吹き飛んだ。階段から転がり落ちた。


 俺は階段に着地。ずしん。


 五人は気絶してる。


 下からガルドが叫んだ。


「タカラ! 終わったか!?」


〝終わった 上がってこい〟


「了解!」


 全員が階段を上ってきた。


「タカラ、壁を登って奇襲って、新しい戦法だな」


〝二度とやりたくない 腕——蓋が痛い〟


「蓋も筋肉痛になるのか」


〝なる たぶん〟



 ◇



 渓谷の上に出た。


 霧を抜けて、山の空気が広がってる。


 空が青い。山が緑。


「はあー、やっと地上だ」


 ガルドが伸びをした。


 気絶した五人は、階段の途中に放置した。目が覚めたら自力で帰るだろう。


 渓谷の縁に——もう一人いた。


 白い服。にこにこ——いや、にこにこしてない。


 カシス。


 にこにこが消えてる。表情がない。能面みたいだ。


 カシスが俺たちを見た。


「……遺産は、取られたそうですね」


〝そうだ〟


「マリウス様が、初めてあんな顔をしたのを見ました」


〝どんな顔〟


「怒りの顔です。十五年仕えて、一度も見たことがなかった」


 カシスの声に——疲れが滲んでる。


蓋を開ける者(オープナー)殿。一つだけ聞いていいですか」


〝なんだ〟


「あなたは——マリウス様に勝てますか」


〝……〟


「マリウス様はSランクです。しかも、それは表の力だけです。裏に——もっと別の手段を隠しています」


〝別の手段?〟


「私にも全ては分かりません。ただ——マリウス様は、遺産がなくても、最終的に目的を達成する手段を持っていると思います」


 遺産がなくても。


「気をつけてください。マリウス様は——負けを認めない人です。どんな手を使ってでも、勝ちに来ます」


〝カシス おまえはマリウスの弟子だろ なんでそんなことを教える〟


 カシスが少しだけ、笑った。にこにこじゃない、苦笑いだ。


「弟子ですが……。最近、少し、迷っています」


「迷い?」


「マリウス様の目的が〝共存〟だと信じて従ってきました。でも——さっきのあの顔を見て。あの怒りを見て。……あれは、共存を望む人の顔ではなかった」


 カシスが背を向けた。


「私は——まだマリウス様の弟子です。でも、次に会う時は——どちら側にいるか、分かりません」


 カシスが歩いていった。


 にこにこのない背中。


「ガウ。あいつの匂い……マリウスと同じ冷たい匂いだったけど、今は少し、違う。揺れてる匂いだ」


 揺れてる。


 カシスも——考え始めてる。マリウスについていくべきかどうか。


 パカッ。


〝行こう 帰るぞ〟



 ◇



 渓谷を離れて、山道を西に歩く。パカラ村への帰路。


 ガルドが隣を歩きながら言った。


「カシス、どうなるかな」


〝わからん〟


「にこにこ消えてたな。マリウスの弟子も、にこにこじゃなくなってきた」


〝にこにこがなくなると、あいつらは普通の人間に見えるな〟


「にこにこが仮面だったんだな。師匠も弟子も」


 仮面が剥がれた師匠。仮面に疑問を持ち始めた弟子。


 マリウスの陣営が——揺れてる。


 でも油断はできない。カシスが言った通り、マリウスには「遺産がなくても目的を達成する手段」がある。


〝博士〟


『なんだ』


〝マリウスの「裏の手段」って何だと思う〟


『推測だが——魔王の王に直接接触する方法を、別に持っているのかもしれない。遺産は封印を〝制御〟する装置だ。だが、封印を〝破壊〟する方法があれば——遺産なしでも魔王の王を解放できる』


〝破壊?〟


『七つの塔の封印は、全て解かれれば自動的に魔王の王の封印が解ける。だが——七つの塔の封印を解くのではなく、封印の構造自体を物理的に破壊するという手段もある。乱暴だが、可能だ』


 封印を破壊する。


 力ずくで。


〝そんなことしたら、魔王の王が暴走するんじゃないか〟


『するだろう。だが——マリウスはそれを制御できると考えているのかもしれない。Sランクの魔導士の力で、暴走する魔王の王を御す、と』


〝無茶だろ〟


『無茶だ。だが、マリウスは「負けを認めない人」だとカシスが言った。無茶でもやる可能性がある』


 ……急がないと。


 パカラ村に帰って、第七の塔を解放して、魔王の王の封印を「安全に」解く。


 マリウスが力ずくで封印を破壊する前に。


 パカッ。


〝急ぐぞ〟



 ◇



 【次回】帰路。大賢者の遺産の機能を検証する。七つの封印の現状を確認。そして——魔王の王の正体に、少しだけ近づく。

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