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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第七部 天蓋の渓谷編

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第104話「にこにこの仮面が、剥がれ落ちる」


 マリウスが立ってる。


 紫のローブ。金の飾り紐。にこにこ。


 後ろに——カシスと弟子たち。十五人ほど。力の道を突破してきた連中だ。何人か怪我してる。力の試練で消耗したらしい。


 マリウスだけが無傷。涼しい顔。


「やあ。先に着いていたんですね。さすがです、蓋を開ける者(オープナー)殿」


〝来るな〟


「来るなと言われても、来てしまいました。大賢者の遺産——あれは王国の財産です。私が預かります」


〝預かるんじゃなく、利用する気だろ〟


「利用? とんでもない。安全に管理するだけです」


 にこにこ。


 この笑顔も、全部嘘だ。


 大賢者の石板を読んだ。遺産を手に入れた者が、魔王の王の封印を制御できる。マリウスがそれを欲しがってる理由は——大陸を支配するためだ。


 第六の魔王——老人が、マリウスを見た。


「おまえが……マリウスか」


「ええ。初めまして、第六の魔王殿」


「初めてではない。おまえの弟子が、五年前にここに来た。遺産を調べに」


 マリウスの笑顔が——ほんの一瞬、固まった。


「……ほう。ご存知でしたか」


「五年前、銀環という魔導士が来た。我の目の前で遺産を調べ、構造を記録していった。我は止めなかった。封印されている我には、止める力がなかったからだ」


 銀環が五年前にここに来てた。マリウスは五年前から遺産の情報を持ってた。


「だが——今日は違う」


 老人が杖を地面に突いた。


蓋を開ける者(オープナー)が来た。我の封印を解く者が。今なら——我にも、選ぶ力がある」


 老人がマリウスを見据えた。


「遺産を誰に渡すか。それは——我が決める」



 ◇



 マリウスの笑顔が消えた。


 二秒くらい。


 直ぐに戻した。


「なるほど。魔王殿が仲裁してくださるのですね。ありがたい」


「仲裁ではない、選択だ。遺産を託す相手を、我が選ぶ」


「その選択基準は?」


「大賢者の意志に最も近い者。大賢者は——魔王の王と対話することを望んでいた。力で支配することではなく」


 マリウスの目が一瞬、冷たくなった。


 にこにこの奥に、別の顔が見えた。


「対話、ですか。残念ですが——対話では世界は動きません」


 マリウスの声から、柔らかさが消え始めた。


「私は十五年、宮廷で政治を見てきました。対話で問題が解決したことは、一度もない。力で、利益で、恐怖で——人は動く。魔王の王の力を手に入れれば、この大陸を正しく導ける」


「正しく導く?」


「ええ。無秩序な解放ではなく、秩序ある統治を。魔物も人間も、一つの権力の下で管理する。それが——最も効率的な平和です」


 マリウスの「共存政策」の正体。


 共存じゃない。支配だ。魔王の王の力で、魔物も人間も、一人の男の下に置く。


〝マリウス おまえの本音は——支配か〟


「支配という言葉は好みません。管理です。効率的な管理」


〝殺さないのか〟


「殺す必要がなければ殺しません。管理に従わない者は——別ですが」


 にこにこが、薄くなった。


 仮面が——剥がれかけてる。


 ガルドが拳を握った。


「タカラ、もう話すことないだろ」


〝ああ〟


〝遺産は渡さない〟


「それは——困りますね」


 マリウスが両手を掲げた。


「カシス。弟子たち。遺産を確保しなさい」


 カシスと弟子十五人が——動いた。



 ◇



 戦闘。


 ホールの中。大賢者の遺産を挟んで、俺たちとマリウス派が向かい合う。


 カシスが先頭に出た。


蓋を開ける者(オープナー)殿、お久しぶりです」


 にこにこ。


〝もう三回目だな〟


「三度目の正直、と言いますからね」


 カシスが手を掲げた。弟子たちも魔法陣を展開。


「全員で——かかれ!」


 十五人の魔導士が同時に魔法を放った。火、氷、風、雷——四属性の魔法が俺たちに向かって飛んでくる。


「〝覇受(はじゅ)〟!」


 ガルドが前に出た。両腕に闘気を纏って、魔法を受け止める。


 ドドドドッ!


 四属性の魔法がガルドの腕に当たる。闘気で防いだ。でも衝撃が重い。十五人分だ。


「ぐっ……多いな!」


 レグナが動いた。


「〝蒼き炎の壁ロア・フレイムウォール〟!」


 蒼い炎の壁が、俺たちとマリウス派の間に立ちはだかった。


 弟子たちの魔法が蒼炎の壁に当たって弾かれた。


 レグナの蒼炎、九割五分。ほぼ完全体の炎は——十五人の魔導士の魔法を、壁一枚で止めた。


「な……蒼炎の壁で、全員の魔法を……!?」


 カシスが驚いた顔をした。


 レグナの蒼い炎が、壁から形を変えた。


「〝蒼き炎の剣ロア・フレイムブレード〟——四本同時展開」


 四本の蒼い炎の剣が、空中に浮かんだ。レグナが四本同時に制御してる。


 ほぼ完全体の蒼烈将軍(そうれつしょうぐん)の力。


 四本の剣が、弟子たちに向かって飛んだ。


「散れ!」


 カシスが指示。弟子たちが散開した。


 蒼炎の剣が弟子の一人に当たった。鎧が焼けた。倒れた。気絶。


 もう一本が別の弟子に。倒れた。


 二人撃破。残り十三人。


 ガウルが走り出した。


「〝銀牙疾走(シルバーファング)〟!」


 銀色の残像が弟子たちの間を駆け抜けた。残光が三人に触れて——痺れて動けなくなった。


 三人無力化。残り十人。


 俺は——〝武装擬態(アームドミミック)〟!


 五枚の蓋を五つの武器に。


 弟子の一人に剣で斬りかかった。


 弟子が魔法障壁を張った。剣が弾かれた。


 でも——槍が横から突いた。障壁の隙間。脇腹に当たって弟子が吹き飛んだ。


 鎖鎌で別の弟子を拘束。斧でもう一人を叩いた。


 三人撃破。残り七人。


 リーリアが後方から支援。


「〝巫女の祈り(プレイヤー)〟——魔力回復!」


 ガルドとレグナの魔力を回復させてる。アイもリーリアの魔力を補充してる。


 チョンは俺の後ろに隠れてる。戦闘では前に出ない。約束だ。


 残り七人の弟子のうち、四人がカシスの指示で防御に回った。三人が攻撃。


 攻撃の三人を——ガルドが一人、レグナが一人、ガウルが一人。


 六秒で三人倒した。


 残り四人。カシスを入れて五人。


 カシスが——にこにこを消した。


「やはり……正面からでは勝てませんか」


 カシスが後ろを向いた。


「マリウス様。お力を」


 マリウスが——前に出た。


 初めて。マリウスが自分で戦闘に参加する。


「仕方ありませんね」


 マリウスが——にこにこのまま、両手を掲げた。


 魔力が膨れ上がった。


 ホール全体が、紫色の光に包まれた。


〝査定〟。



 ──────────────────

〝査定〟


  対象:マリウス


  総合戦力:S

  種族:人間(宮廷魔導士筆頭)

  スキル:全属性魔法(最上級)

      精神魔法(上級)

      結界魔法(上級)


  * 全力状態

 ──────────────────



 Sランク。


 宮廷魔導士の筆頭は——Sランクだった。


 Aランクだと思ってた。ドルトンもレイスもそう言ってた。


 でも——Sランク。隠してたのか。


「驚きましたか? 私は——隠し事が得意なんです」


 にこにこ。


 マリウスの両手から——紫色の光弾が、十発同時に飛んだ。


 速い。


 レグナの蒼炎の壁が——


 貫通された。


「な……!」


 紫の光弾が蒼炎を突き破って、俺たちに向かってくる。


 ガルドが覇受で二発受けた。腕が痺れた。


 俺が盾で三発受けた。闘気纏で耐えた。でも衝撃がえぐい。


 残り五発——


「〝蒼き炎の鎧ロア・フレイムアーマー〟!」


 レグナが全員に蒼炎の鎧を展開。五発が鎧に当たって散った。


 耐えた。


 でも——レグナの顔が引きつってる。


「Sランクか……。蒼炎を貫通するとは」


 マリウスが笑った。


蒼烈将軍(そうれつしょうぐん)。八百年前は恐ろしい存在だったのでしょうね。ですが——今の私の方が強い」


 …………。


 マリウスがSランクで、レグナもSランク上位。でも——レグナは魂が98%。完全体じゃない。


 完全体なら勝てるかもしれない。でも今は——


 第六の魔王が——動いた。


「もう十分だ」


 老人が杖を振った。


 ホールの中に——金色の光が走った。


 全員の動きが止まった。マリウスも、カシスも、弟子たちも、俺たちも。


 光が——全員を拘束してる。体が動かない。


「この塔の中では、我がルールだ」


 老人が杖を地面に突いた。


「戦いで遺産を決めるのではない。我が選ぶと言っただろう」



 ◇



 老人が、マリウスを見た。


「マリウス。おまえは力で世界を管理すると言った」


「ええ」


「大賢者も——同じことを考えた時期があった。力で魔王を封じれば、世界は安全だと。だが——友人として、私は大賢者に言った。〝力で管理した平和は、力が消えた瞬間に崩れる〟と」


 老人がタカラを見た。


蓋を開ける者(オープナー)。おまえは対話を選んだ」


〝選んだ〟


「大賢者と同じ答えを出した。だが大賢者には力が足りなかった。おまえには——仲間がいる」


 老人が——俺の仲間を見渡した。


 ガルド。レグナ。ガウル。リーリア。アイ。チョン。博士。スミ。シロ。


「大賢者は一人だった。おまえは一人ではない。それが——おまえと大賢者の違いだ」


 老人が杖を掲げた。


「遺産は——蓋を開ける者(オープナー)に託す」


 大賢者の遺産が——光った。


 金色の光が装置から溢れて、俺の方に飛んできた。


 蓋の中に吸い込まれた。


 収納に。


 大賢者の遺産が、俺の収納に入った。


 蓋裏に表示が出た。



 ──────────────────

  大賢者の遺産を収納しました


  * 七つの封印の統括管理機能を取得

  * 最後の封印(魔王の王)の

    制御権を取得

 ──────────────────



〝……入った〟


 マリウスの顔が変わった。


 にこにこが完全に消えた。


 冷たい目。計算の目じゃない。怒りの目。


「……そうですか」


 マリウスの声が、低い。


「魔王に選ばれた、と。……ふふ。そうですか」


「マリウス」


 老人が言った。


「おまえは帰れ。ここはもう、おまえの居場所ではない」


 マリウスが深く息を吐いた。


「……帰りますよ、今日は。ですが——」


 マリウスの目が俺を射抜いた。にこにこじゃない、剥き出しの敵意。


「第七の塔で、また会いましょう。蓋を開ける者(オープナー)殿」


 マリウスが背を向けた。


 カシスと弟子たちを引き連れて、力の道の出口に向かった。


 消えていく。


 紫のローブが闇に消えた。



 ◇



 拘束の光が解けた。全員が動けるようになった。


 ガルドが肩を回した。


「マリウスのやつ……Sランクだったのかよ」


〝隠してた〟


「あの笑顔の下に、あれだけの力を隠してたのか。やべえ奴だ」


 レグナが蒼炎を灯し直した。


「次にマリウスと戦う時は——我が完全体に戻ってから、だな」


〝レグナの魂の残り2%——〟


 老人が言った。


「ここにある」


 老人が手のひらを開いた。


 蒼い光の欠片。


「大賢者が封じた、蒼炎の将軍の魂の最後の欠片だ。返そう」


 蒼い欠片がレグナの方に飛んだ。


 レグナの胸に吸い込まれた。


「……っ」


 蒼い炎が——爆発的に燃え上がった。


 ホール全体を照らすほどの蒼い炎。


 今までとは——格が違う。


「……百パーセント。完全体だ」


 レグナの声が——深くなった。重みが増した。


「我は——蒼烈将軍(そうれつしょうぐん)。完全体の、蒼炎の将軍」


 蒼い炎が、静かに収まった。でも——密度が全然違う。空気が震えてる。


 完全体のレグナ。Sランク以上——いや、マリウスと互角か、それ以上。


「次は——負けぬ」


 レグナが、マリウスが消えた方向を見た。


 パカッ。



 ◇



 第六の魔王が、装置の前に立ってた。


蓋を開ける者(オープナー)。遺産は託した。あとは——我の封印を解いてくれ」


〝名前〟


「何?」


〝おまえにも名前をつけたいけど、今のおまえは名前を持ってるのか〟


「持っている。だが——もう要らない。大賢者はもういない。我を名前で呼ぶ者は、もういない」


〝……〟


「ただの老いた魔王だ。大賢者の友人だった、それだけの者だ」


〝じゃあ——このまま消えるのか?〟


「消える。知の王のように残る必要もない。潮音(しおね)のように海に帰る場所もない。我には——もう、居場所がない」


〝寂しくないか〟


「寂しい。だが——大賢者に会えるかもしれない。あの世で」


 老人が微笑んだ。


「蓋を開けてくれ。最後の蓋を」


〝解封〟。


 金色の光が老人を包んだ。


 老人の体が、光の粒になって——昇っていく。


『ありがとう、蓋を開ける者(オープナー)。大賢者の意志を、継いでくれ』


〝継ぐよ〟


『それと——第七の塔は、おまえの故郷にある』


〝故郷?〟


『パカラ村の地下。ダンジョンの最深部だ。おまえが——最初にミミックとして目覚めた場所に、最後の塔がある』


 …………。


 パカラ村の地下。


 俺が目覚めた場所に——最後の塔。


 旅の始まりが、旅の終わり。


 老人が——消えた。穏やかな笑顔のまま。


 ホールが静かになった。


 蓋裏に通知が来た。



 ──────────────────

  第六の塔の封印——解除

  第六の魔王、浄化完了


  * レグナの魂、完全回復


  * 第七の塔の位置情報:

    パカラ村地下

    ダンジョン最深部

 ──────────────────



 六基目。


 残り——一基。


 パカラ村に帰ろう。


 最後の蓋を開けに。



 ◇



 【次回】渓谷を出る。パカラ村へ帰る道。マリウスが何を準備しているか。そして——最後の旅が始まる。

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