第103話「選び続ける」
知識の道を進む。
通路がまた分岐した。今度は三方向。
天井に文字。
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第三の選択
三つの宝箱がある。
一つには真実が入っている。
一つには嘘が入っている。
一つには何も入っていない。
おまえは、どれを開ける?
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三つの宝箱。
分岐点の前に——本当に宝箱が三つ並んでた。
木の宝箱。俺とは違う、普通の宝箱。装飾もない。ただの木箱。
ガルドが笑った。
「宝箱が宝箱の前に立ってる」
〝笑うな〟
「いや、面白いだろ」
〝面白くない 仲間だぞ宝箱は〟
「仲間って、あれはただの木箱だろ」
〝……まあ、そうだけど〟
三つの宝箱。真実、嘘、空っぽ。
〝博士、ヒントは〟
『直接の答えは——いや、今は急いでいる。素直にヒントを出そう。おまえは宝箱だ。宝箱の中身が分かるのは——宝箱だけだ』
宝箱の中身が分かるのは、宝箱だけ。
〝……査定で見るか?〟
査定を三つの箱に向けた。
一つ目。反応なし。
二つ目。反応なし。
三つ目。反応なし。
〝査定が効かない〟
『この塔では査定が効かない場合がある。だが——おまえには、もう一つの目がある』
もう一つの目。
〝蓋裏辞典〟。
辞典を使ってみた。三つの箱に。
一つ目——反応なし。
二つ目——反応なし。
三つ目——
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〝蓋裏辞典〟
対象:木の宝箱(三番目)
* 中身:なし
* この箱は空です
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三つ目は空。辞典で分かった。
残りは一つ目と二つ目。真実と嘘のどちらか。
でも——問いは「どれを開ける?」だ。
真実、嘘、空っぽ。
知の王の塔で学んだ。「知ったかぶりが一番の不正解」。「判断を保留する」のも答えになる。
でも今回は違う。開けないといけない。前に進むために。
真実か、嘘か。
……俺はミミックだ。宝箱を開けさせるのが、本来の仕事だ。
開けた者が何を得るか——それは、開ける者次第。
真実を開けたら、真実を得る。重いかもしれないけど。
嘘を開けたら——嘘に惑わされる。
空っぽを開けたら——何も得ない。
俺は——
〝一つ目を開ける〟
理由は——勘だ。ミミックの勘。宝箱を見続けてきた宝箱の勘。
一つ目の蓋を、俺の蓋で持ち上げた。パカッ。
中に——光の球がある。
光が——文字になった。
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正解
真実を恐れない者は、
先に進む資格がある。
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当たり。
ガルドが拳を振った。
「よし! おまえの宝箱の勘、当たったな!」
〝ミミックだからな 同業者の中身は分かる〟
「同業者って」
一つ目の宝箱の下に、隠し通路が開いた。先に進める。
◇
隠し通路を進むと、また部屋。
今度は——壁に十枚の絵が飾られてる。
天井に文字。
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第四の選択
十枚の絵のうち、
一枚だけが本物。
残りは偽物。
本物を選べ。
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十枚の絵。全部似たような風景画。山と川と空。微妙に違うけど、どれが本物か分からない。
俺は——査定も辞典も使えない。絵画の鑑定は専門外だ。
「タカラ、これ分かるか」
〝分からない〟
「俺もだ。絵とか全然分からん」
「ガウ。匂いで分かるかも——いや、全部同じ匂いだ。石と絵の具の匂い」
レグナが十枚を順番に見てる。
「……我にも分からぬ。絵画の知識がない」
リーリアが首を傾げてる。
「どれも同じに見えます……」
チョンが——一枚の絵の前で止まった。
三枚目の絵。
「タカラ。これ」
〝何か分かるのか〟
「分かるっていうか……この絵だけ、なんか違う」
〝何が違う〟
「他の絵は、きれいに描いてある。でもこの絵だけ——ここ、この山の端っこが、ちょっとはみ出してる」
言われてみれば——三枚目の絵の右下、山の輪郭線が微かにはみ出してる。他の九枚にはない。
「完璧に描かれてる絵は、たぶん偽物だよ。本物の絵って、ちょっとだけ粗がある。人間が描くから」
〝……なんでそれを知ってる〟
「知の王の先生が教えてくれた。〝完璧すぎるものは疑え〟って」
知の王の教え。チョンが知の王の塔で学んだことが、ここで活きてる。
〝三番だ〟
三枚目の絵に蓋を当てた。
絵が——光った。
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正解
完璧を疑える者は、
真実に近い。
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また当たり。チョンの観察力。
「チョン、やるな」
ガルドが感心した。
「えへへ」
絵の裏に、次の通路が開いた。
◇
次の部屋。次の選択。次の部屋。次の選択。
連続する選択の試練を、俺たちは一つずつ解いていった。
五番目の選択:「二人の旅人の証言のうち、どちらを信じるか」→チョンが「どっちも信じない。自分の目で確かめる」と答えて正解。
六番目の選択:「三つの鍵のうち、どれでこの扉を開けるか」→俺が〝空間収納〟で鍵穴の構造を見て、正しい鍵を選んで正解。宝箱スキルの応用。
七番目の選択:「この部屋から出る方法は?」→ガウルが匂いで隠し通路を見つけて正解。「壁の裏に、空気の匂いがする」。
八番目の選択:「この文章の矛盾を指摘せよ」→博士が三秒で解析して正解。「第四文と第七文の時制が一致しない」。
どんどん進む。
背後から——マリウスの部隊の足音が、近づいたり遠ざかったりしてる。左の道は力の試練だから、戦闘をしながら進んでるんだろう。
「ガウ。左の道から、戦闘の音が聞こえる。爆発音、金属音、叫び声。派手にやってるな」
マリウス派は力で突破してる。俺たちは知識で突破してる。
どっちが先に着くか。
◇
九番目の選択。
部屋に入った瞬間——声がした。
今までの石板の文字じゃない。声。
穏やかな老人の声。
『……ようやく、ここまで来たか』
全員が足を止めた。
〝誰だ〟
『私は——この塔の住人だ』
第六の魔王。
『大賢者の……古い友人だった者だ』
大賢者の友人。
『おまえたちの足音を、ずっと聞いていた。知識の道を選んだのだな。賢明だ』
〝あんたが、第六の魔王か〟
『魔王と呼ばれることには抵抗がある。私は——ただの学者だった。大賢者と一緒に、世界の仕組みを研究していた。魔王と呼ばれるようになったのは、力が強すぎたからに過ぎない』
学者の魔王。知の王に似てるけど——知の王は知識を蓄える者。この魔王は、知識を「研究する」者。
『九番目の選択だ。ここで問う』
天井に文字が浮かんだ。
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第九の選択
大賢者の遺産を手に入れたとき、
おまえはそれをどう使う?
A:魔王の王の封印を維持する。
永遠に、封印し続ける。
B:魔王の王の封印を解き、
対話を試みる。
C:魔王の王の封印を解き、
倒す。
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三つの選択肢。
A:封印維持。安全策。でも——魔王の王を永遠に閉じ込める。七人の魔王と同じことを、もう一人にもする。
B:封印を解いて対話。リスクが高い。魔王の王が対話に応じるかどうか分からない。
C:封印を解いて倒す。力ずくの解決。でも——魔王の王がどれだけ強いか、誰にも分からない。
ガルドが唸った。
「Aが安全だろ。封印しとけば問題ない」
「ガウ。でもそれだと、七人の魔王を封印してた大賢者と同じことになるぞ」
ガウル、いいことを言う。
レグナが蒼い炎を揺らした。
「Cは危険すぎる。相手の力が未知数だ」
チョンが——口を開いた。
「タカラ。Bだよね」
〝…………〟
「だって、タカラはずっとそうしてきたじゃん。対話の王とも、戦の王とも、知の王とも、灰守さんとも、潮音さんとも——全員と、対話してきた。蓋を開けて、中を見て、話をして。それがタカラのやり方でしょ」
…………。
チョン、おまえ——
「魔王の王だって、蓋を開けて話してみないと分からない。中に何があるかは、開けるまでわからない。タカラが言ったことだよ」
俺が言った言葉を、チョンが返してきた。
パカッ。
〝B〟
俺は蓋文字を出した。でかく。
〝魔王の王の封印を解き、対話を試みる〟
老人の声が——笑った。
『ふふ。やはりそう答えるか。大賢者と同じことを言う』
〝大賢者が?〟
『大賢者も——同じ問いに、同じ答えを出した。〝対話を試みる〟と。だが——大賢者には、力が足りなかった。対話する前に、魔王の王の力に圧倒されて、封印するしかなくなった』
『おまえなら——できるか?』
〝やってみないと分からない でも、やる〟
『……いい答えだ』
天井の文字が変わった。
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正解
対話を恐れない者は、
大賢者の意志を継ぐ者だ。
先に進め。
最深部で、待っている。
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通路が開いた。最深部への道。
〝行くぞ〟
パカッ。
◇
通路を走る。ズズズで全速力。
背後から——足音が加速してる。マリウスの部隊も、最深部に近づいてる。
「ガウ。あいつら、めちゃくちゃ近い。左の道の終わりに着いたっぽい」
合流が近い。
通路が広くなった。天井が高くなった。
そして——大きなホールに出た。
ホールの中央に——巨大な装置がある。
金属と水晶でできた、複雑な機械。高さ五メートル。八つの水晶柱が円形に並んでて、中央に一つ、大きな水晶がある。
七つの水晶柱は、七つの塔に対応してるんだろう。中央の大きな水晶は——魔王の王の封印。
大賢者の遺産。
そして——装置の前に、老人が立ってた。
半透明。知の王と同じ、魂だけの存在。白い髭。穏やかな目。杖を持ってる。
第六の魔王。大賢者の友人。
「来たか。蓋を開ける者」
〝来た〟
老人が微笑んだ。
「大賢者に似ているな、おまえ。蓋を開けることに、迷いがない」
——そのとき。
ホールの反対側の壁が——砕けた。
力の道の出口。
煙の中から——人影が現れた。
紫のローブ。金の飾り紐。
にこにこ。
「やあ。お会いできて光栄です、蓋を開ける者殿」
マリウス。
本人が来てる。
〝…………〟
「遺産は——私がいただきます」
◇
【次回】マリウスとの直接対決。大賢者の遺産を巡る、最後の戦い。第六の魔王が選ぶ側は——どちらか。




