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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第七部 天蓋の渓谷編

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第102話「二つの道」


 塔の中に入った。


 広い通路。灰色の石の壁。照明は——壁に埋め込まれた水晶が、淡い緑色の光を放ってる。


 外の霧と違って、中は澄んだ空気だ。乾いてて、温度も安定してる。


 レグナが蒼炎をちろちろさせた。


「中は乾いてるな。蒼炎の出力、九割以上出る」


 ガウルが匂いを嗅いだ。


「ガウ。石の匂い。それと——微かに人の匂いがする。古い。何年か前の」


〝何年か前?〟


「うん。最近じゃないけど、八百年前でもない。五年くらい前の匂い」


 五年前に、誰かがここに来てる。


『大賢者の遺産を調査した者がいたのかもしれない。マリウス派か、それ以前の調査隊か』


 マリウスは前から第六の塔に目をつけてたのか。


 通路を進む。五十メートルほど歩くと——


 分岐。


 通路がY字に分かれてる。左と右。


 分岐点の壁に、文字が刻まれてる。



 ──────────────────

  第一の選択


  左の道:力を得る。

   代償として、知識を失う。


  右の道:知識を得る。

   代償として、力を失う。


  一つを選べば、もう一つは

  永遠に閉じる。

 ──────────────────



 力か、知識か。


 ガルドが唸った。


「力を得るか、知識を得るか。で、もう片方は失う」


〝失うって、具体的にどういうことだ〟


『おそらく、実際にスキルや能力を失うわけではない。塔の試練として、〝何を優先するか〟を示す選択だ。選んだ側の試練を受けて、選ばなかった側の試練は永遠に受けられなくなる』


 つまり——試練の種類を選ぶってことか。


 力の試練か、知識の試練か。


「タカラ、どっちだ」


〝…………〟


 今までの経験を思い出す。


 戦の王の塔では武の試練を受けた。あれは「力」の試練だった。


 知の王の塔では知の試練を受けた。あれは「知識」の試練だった。


 両方やったことがある。


 でも——この塔の試練は、両方は選べない。


 チョンが口を開いた。


「タカラ。俺、知識の方が得意だよ。知の王の塔で二問当てたし」


〝確かに〟


「でも、ガルドとレグナは力の方が得意でしょ?」


 ガルドが頷いた。


「俺は殴る方が好きだ」


「我も、蒼炎の方が得意だ」


 メンバーの強みで考えると——


 力:ガルド、レグナ、ガウル

 知識:チョン、博士、俺


 半々だ。


〝博士、どっちを選ぶべきだ〟


『直接の答えは教えられない。だが一つだけ。大賢者の遺産は、この塔の最深部にある。最深部に至るには、全ての選択を正しく通過する必要がある。〝正しい〟とは——おまえ自身にとって正しい、という意味だ』


 自分にとって正しい選択。


 俺にとって——力と知識、どっちが大事か。


 ……いや、そうじゃない。


 俺は宝箱だ。


 宝箱に力はない。走れない。殴れない。蹴れない。


 でも——中身がある。収納がある。スキルがある。博士がいる。


 俺の強みは「中身」だ。


 中身=知識。


〝右だ 知識の道〟


「マジか。力の方が安全じゃないか?」


〝安全じゃなくていい 俺は宝箱だ 中身で勝負する〟


 ガルドが——ニッと笑った。


「おまえがそう言うなら、右だ。ついてくぜ」


 全員が右の道に入った。


 左の道が——ゴゴゴ、と音を立てて閉じた。石の壁が降りてきて、完全に塞がった。


 もう戻れない。



 ◇



 右の道を進む。


 通路が広くなって——部屋に出た。


 部屋の中央に、石のテーブル。テーブルの上に、一枚の石板。


 石板に文字が刻まれてる。



 ──────────────────

  第二の選択


  この石板には、

  大賢者が最後に残した言葉が

  刻まれている。


  読む者には、真実が与えられる。

  ただし、真実は時に重い。


  読むか、読まないか。

 ──────────────────



 大賢者が最後に残した言葉。


「読む一択だろ」


 ガルドが即答した。


〝待て 「真実は時に重い」って書いてある〟


「重くても読むだろ。情報は武器だ」


 博士が言った。


『ガルドの判断は正しい。知識の道を選んだ以上、知識を拒むのは矛盾する。読むべきだ』


 俺は石板に蓋を近づけた。


 文字が——浮かび上がってきた。蓋文字に変換される。チョンが触れた時の石碑と同じ反応。


 大賢者の言葉。



 ──────────────────

  この言葉を読む者へ。


  私は大賢者と呼ばれた者だ。

  七つの塔を建て、七人の魔王を

  封じた者だ。


  だが——私が封じたのは、

  魔王だけではない。


  七つの塔の下に、もう一つの

  封印がある。

  八番目の封印。

  七人の魔王の上に立つ者——

  魔王の王の封印。


  魔王の王は、実在する。

  私はこの者を封じるために、

  七つの塔を建てた。

  七人の魔王は——魔王の王の

  封印を維持するための、

  〝鍵〟に過ぎない。


  七つの鍵が全て外れたとき、

  魔王の王の封印が解ける。


  この事実を知った者よ。

  全ての塔を解放する前に、

  大賢者の遺産を手に入れよ。

  遺産があれば、魔王の王の

  封印を制御できる。


  遺産がなければ——

  七つの鍵が外れた瞬間、

  魔王の王が目覚める。

  その時、世界は終わる。


  大賢者 記す

 ──────────────────



 …………。


 全員が黙った。


 七人の魔王は——魔王の王の封印を維持するための「鍵」。


 俺が今まで解放してきた五人の魔王は——鍵を外してきたのと同じ。


 あと二つ外したら——魔王の王が目覚める。


「タカラ……」


 ガルドの声が硬い。


「俺たち、今まで——魔王を救ってきたと思ってた。でも実は——もっとやばいものの蓋を開けてたのか」


〝…………〟


 魔王を救うことが、世界を終わらせることに繋がってた。


 大賢者が七人の魔王を封じたのは——魔王たちを罰するためじゃなかった。魔王の王を封じるための手段だった。


 対話の王も、(いくさ)(おう)も、知の王も、灰守(はいもり)も、潮音(しおね)も——全員、鍵だった。


 俺が蓋を開けるたびに——魔王の王の封印が弱まってた。


「タカラ、どうする」


 ガルドが俺を見てる。全員が俺を見てる。


〝…………〟


 パカッ。


〝大賢者の遺産を手に入れる〟


〝遺産があれば、魔王の王の封印を制御できる 解放しても、暴走させない方法がある〟


〝あと二基の塔を解放することをやめるつもりはない〟


〝魔王たちは、鍵として封じられてた でも、あの人たちは鍵じゃない 一人一人が、生きた存在だ〟


〝俺は——全部の蓋を開ける 魔王の王の問題は、遺産で解決する〟


 ガルドが——拳を握った。


「おう。おまえがそう言うなら、ついていく」


「ガウ。賛成」


「我もだ」


「私も」


「ぷるん」


「うん!」


 全員が頷いた。


 パカッ。


〝先に進むぞ〟



 ◇



 石板の部屋を出て、次の通路に入った。


 ——その時。


 背後から、音が聞こえた。


 遠い。でも確実に聞こえる。


 足音。


 複数の足音。二十人分くらい。


 ガウルが耳を立てた。


「ガウ。来た。マリウスの匂い。部隊が塔に入ってきた」


 マリウスの部隊。予想より早い。


〝一日のリードがあったはずだ〟


「ガウ。でも足音が速い。走ってる。塔の入り口に着いたら、すぐに走り出したんだ」


 マリウスの部隊が、走って追いかけてきてる。


 そして——足音が、左の道から来てる。


 俺たちは右の道を選んだ。マリウスの部隊は——左の道を選んだ。


 力の道。


「あいつら、力の道に入ったのか」


 ガルドが呟いた。


「タカラ、二つの道はどこかで合流するのか?」


『Y字の塔は、最深部で合流する。左右の道はそれぞれ異なる試練を経由するが、最終的に同じ場所に至る』


 最深部で合流。


 つまり——俺たちとマリウスの部隊が、最深部で鉢合わせる。


「合流した時に——大賢者の遺産を、どっちが先に手に入れるか」


 ガルドが歯を見せた。


「競争だな」


〝競争だ〟


 パカッ。


 パカパカパカパカ。


 急ぐぞ。


 ズズズズズ——!



 ◇



 【次回】知識の道を進む。選択の試練が連続する。チョンが活躍する場面。そして——塔の奥に、第六の魔王の声が聞こえ始める。

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