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俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第七部 天蓋の渓谷編

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第101話「渓谷の底に、塔がある」


 山岳地帯に入って二日目。


 砂漠を砂帝蠍で抜けた後、東の山に入った。標高が上がるにつれて空気が薄くなる。でも氷山ほどじゃない。


 緑がある。木がある。鳥が鳴いてる。焦土帯や砂漠の後だと、緑のある山がすごく贅沢に感じる。


 チョンが山道を元気に歩いてる。


「タカラ、山の空気って気持ちいいね!」


〝焦土帯の後だとな〟


「焼けた匂いじゃないのがいい」


 ガウルが鼻をすんすんさせてる。


「ガウ。動物の匂いがいっぱいする。鹿、兎、鳥。山は生きてるな」


 ガルドが隣を歩いてる。砂帝蠍から降りてからは快調だ。


「タカラ、渓谷まであと何日だ」


〝博士〟


『このペースなら明日の昼頃に着く。マリウスの部隊の到着予想は明後日。一日の余裕がある』


〝一日のリードだ〟


「一日あれば十分だ。塔の前に着いて、入り口を確認できる」


 レグナが蒼い炎をちろちろさせてる。山の空気は程よく乾いてて、蒼炎の調子がいい。


「この山は蒼炎と相性がいいな。出力は九割五分。ほぼ全力で使える」


 レグナ、ここでは強い。海とは大違いだ。


 リーリアが山の花を摘みながら歩いてる。アイがぷるんと肩の上にいる。


「この花、薬草に使えるかも。アイ、匂い嗅いでみて」


「ぷるん」(いい匂い)


 平和な山歩き。これが戦いの前の静けさだと、分かってるけど。



 ◇



 三日目の昼。


 山道が——突然、途切れた。


 崖だ。


 目の前に、巨大な渓谷が口を開けてる。


 でかい。幅が五百メートルくらい。深さが——見えない。底が霧に包まれてて、どこまで深いか分からない。


 渓谷の両壁は、垂直の岩肌。手がかりが少ない。


「うわー……」


 チョンが崖の縁から覗き込んだ。


「深い……。底が見えない……」


〝離れろ 落ちるぞ〟


「大丈夫、しっかり立ってる」


〝子供は言うこと聞け〟


「はーい」


 チョンが一歩下がった。


 天蓋(てんがい)渓谷(けいこく)


 名前の由来は——上を見ると分かった。渓谷の上に、岩のアーチが何本もかかってる。天然の橋。渓谷の上空を覆うように岩が組み合わさって、天蓋みたいな構造になってる。


 太陽の光が、天蓋の隙間から細く差し込んで、渓谷の中を柱のように照らしてる。


「すげえ景色だな」


 ガルドが崖の縁に立って、渓谷を見下ろした。


「で、塔はどこだ」


〝底にあるはず 博士〟


『渓谷の底に塔がある。霧の下だ。降りる必要がある』


〝降りる方法は〟


『渓谷の壁面に、大賢者が作った階段が刻まれているはずだ。八百年前の記録では、西壁側に下り階段がある』


 西壁。俺たちがいるのは北側だ。西に回り込む必要がある。


 ガウルが匂いを嗅いだ。


「ガウ。人間の匂いがしない。マリウスの部隊は、まだ来てない」


〝よし 先行できてる〟


「ただ——」


 ガウルが眉を寄せた。


「渓谷の底から、変な匂いがする。古い魔力の匂い。それと——何かが住んでる匂い」


 渓谷の底に何かがいる。


 塔の守護者か、それとも——第六の魔王か。



 ◇



 西壁に回り込んだ。一時間くらい歩いた。


 壁面に——階段があった。


 岩を削って作られた、幅一メートルくらいの階段。渓谷の壁面に沿って、ジグザグに下りていく。


 古い。八百年前の階段。でも、石造りだから崩れてない。


「ここを下りるのか」


 ガルドが下を覗いた。霧で先が見えない。


「何段あるんだ」


『記録では、約千段』


「千段!?」


「ガウ。千段って、何メートルだ」


『約三百メートル』


「三百メートルの崖を、階段で下りるのか」


〝下りるしかない 行くぞ〟


 先頭は俺。ズズズで階段を下りる。


 ……あ、ズズズで階段は危ない。雪山の時みたいに、がたんがたんする。


 ガルドが俺を見た。


「タカラ、持ち上げてやろうか」


〝…………〟


「荷物扱いじゃないぞ。仲間を運ぶだけだ」


〝……頼む〟


 ガルドが俺を抱えた。七十センチの宝箱を、ホブゴブリンが抱えて階段を下りる。


 パカッ。


〝ありがとう〟


「いいよ。おまえ軽いし」


〝軽くはないだろ〟


「まあ、重いけど。岩より軽い」


 微妙な褒め方だ。


 全員で階段を下り始めた。千段。長い。


 チョンが数えてる。


「いち、にー、さん、し……」


「全部数える気か」


「千まで数える!」


「途中で飽きるぞ」


「飽きない! ごー、ろく、なな……」


 百段目で飽きた。


「……やっぱ数えるのやめる」


「だから言っただろ」



 ◇



 三百段目くらいで、霧の中に入った。


 視界が悪くなる。五メートル先が見えない。


 湿度が高い。レグナの蒼炎が少し弱くなった。


「渓谷の底は湿度が高いか。海ほどではないが、蒼炎の出力が八割に落ちる」


 ガウルが鼻を嗅いだ。


「ガウ。霧の匂いが——普通の霧じゃない。魔力が含まれてる」


 魔力の霧。


『大賢者の結界の名残だろう。渓谷の底を霧で覆うことで、外部からの侵入を防ぐ仕組みだ。霧自体は無害だが、方向感覚が狂う可能性がある』


〝方向感覚か〟


「ガウ。匂いで追える。俺の鼻なら、霧の中でも方向が分かる」


 ガウルの鼻が頼りだ。


 五百段。六百段。七百段。


 霧がどんどん濃くなる。チョンがガルドの腕にしがみついてる。


「ガルド、怖い」


「大丈夫だ。俺がいる」


「うん」


 八百段。九百段。


 そして——千段目。


 足が——平らな地面についた。


 渓谷の底だ。


 霧の中。何も見えない。でも、足元は平らな石の床。整備されてる。


「ガウ。前方、百メートル先に——建物がある。でかい。石造り」


 百メートル先。


 霧の中を歩いた。ガウルの鼻を頼りに。


 五十メートル。


 三十メートル。


 十メートル。


 霧の中から——輪郭が現れた。


 灰色の石の塔。


 でかい。今までの塔よりでかい。高さ四十メートルはある。幅も広い。渓谷の底いっぱいに広がってる。


 そして——形が違う。


 今までの塔は直方体か柱型だった。この塔は——


 二つに分かれてる。


 左右に分岐した、Y字型の建物。


 入り口が一つ。中に入ると、途中で道が二つに分かれる構造が、外観からも分かる。


「……二股の塔か」


 ガルドが見上げた。


「選択の塔、って博士が言ってたな。二つの道があって、片方を選ぶともう片方が閉じる」


『そうだ。この塔は——入った瞬間から、選択を迫られる。どちらの道を選ぶか。何を選び、何を捨てるか。それが、第六の塔の試練だ』


 第四の塔(灰守の塔)は「捨てる」がテーマだった。


 第六の塔は「選ぶ」がテーマ。


 似てるようで、違う。「捨てる」は一方的な喪失だけど、「選ぶ」は片方を取って、もう片方を手放すこと。


 何を選ぶか。何を手放すか。


 入り口に——文字が刻まれてた。



 ──────────────────

  この塔に入る者よ。


  全ての選択には、代償がある。

  得るものの裏に、失うものがある。

  二つの道のうち、一つしか歩けない。


  おまえは、何を選ぶか。

 ──────────────────



 パカッ。


〝入るぞ〟


「おう」


「ガウ」


「うむ」


「はい」


「うん!」


 俺は——扉に蓋を当てた。


 蓋裏が反応。



 ──────────────────

  第六の塔の封印術式を検出


  通常解錠:塔守の資格+巫女の魔力

  代替解錠:第一〜第五の塔を解放した者


  * 代替条件を満たしています

   解錠を実行しますか?

 ──────────────────



 実行。


 ゴゴゴゴ……。


 扉が開いた。


 中から——乾いた空気が流れてきた。霧のない、澄んだ空気。


 入る。


 マリウスより先に。



 ◇



 【次回】塔の中。最初の選択。二つの道。そして——マリウスの部隊の足音が、渓谷に響き始める。

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