第100話「走れ、全部の蓋を開けるまで」
出発の朝。
パカラ村の広場。五百八十二人の住人が集まってる。
グリンが叫んだ。
「タカラ! 行ってこーい!」
ホブゴブリンたちが拳を振り上げた。ウォーウルフが遠吠えした。コボルトが旗を振った。スライムがぷるぷるした。
サガが杖を突いた。
「五基も解いたんだ。あと二基、行ってこい」
〝行ってくる〟
「チョン」
サガがチョンを見た。
「強くなって帰ってきなさい」
「うん、おばあちゃん」
チョンがサガに抱きついた。サガがチョンの頭を撫でた。
グラドルが枝を揺らした。
「宝箱。あと二基で終わるのか」
〝終わるはず〟
「終わった後は、何をする」
〝…………〟
考えたことなかった。
七つの塔を全部解放した後、俺は何をするんだ。
〝……帰ってくる ここに〟
「なら、待っている。いくら遠くに行っても——帰る場所は、ここだ」
〝ああ〟
パカッ。
◇
パカラ村を出た。
ベイルの街を通過して、南東へ。砂漠の北端に向かう。
二日目に砂漠に入った。
ナギが出迎えてくれた。
「よう、タカラ! 久しぶり!」
〝久しぶり 元気か〟
「元気だ。井戸も掘れたし、集落は絶好調だ」
ナギが走りながら案内してくれる。
「砂帝蠍、もう呼んである。おまえらが来るって手紙もらったからな」
スミの手紙が届いてたか。
砂丘の向こうから——ずしんずしんと足音が聞こえてきた。
十五メートルの巨大サソリ。砂帝蠍。
「ギュウ」
〝久しぶりだな〟
「ギュ」
砂帝蠍が背中を低くしてくれた。乗りやすいように。
全員で背中に登った。
チョンが目を輝かせてる。
「でっかいサソリ! すごい! 乗っていいの!?」
「乗っていいよ。背中のここ、しがみつける場所がある」
ナギが教えてくれた。
チョンがサソリの甲殻にしがみついた。
「わー! 硬い! でもあったかい!」
ガルドが横で腕を組んだ。
「懐かしいな、砂帝蠍ライド」
「ガウ。今度は匂いが嗅げるから、もっと楽しめるな」
レグナが蒼い炎を灯した。砂漠の乾燥した空気で、炎がいつもより力強い。
「砂漠は蒼炎の調子がいい。氷山や海の逆だな」
リーリアがアイを抱えて座った。
「サソリって、揺れますか?」
「揺れる。でも船よりはマシだ」
ナギが笑った。
「船酔いするやつには、サソリの方が向いてるぜ」
「それは助かります……」
全員が乗った。
ナギが砂帝蠍の首の辺りを叩いた。
「よし、行け! 東へ! 全速力!」
「ギュウウウウ!」
砂帝蠍が——走り出した。
ずしん、ずしん、ずしんずしんずしん——
速い。地面が後ろに流れていく。砂漠の景色がどんどん変わっていく。
「うわぁぁぁ! はやーい!」
チョンが叫んでる。
ガルドがしがみつきながら笑った。
「やっぱ速えなこいつ!」
「ガウ! 風が気持ちいい!」
シロ(仮)が俺の蓋の上で耳をぴったり伏せてる。風圧で耳が持ってかれそうなんだろう。
パカパカ——できない。振動で蓋が勝手にパカパカしてる。自然発生パカパカ。
〝揺れでパカパカしてるだけだからな〟
「タカラ、楽しそう」
〝楽しくない 勝手にパカパカしてるだけだ〟
「それ、楽しいんだよ」
チョン、変な解釈するな。
◇
砂帝蠍ライドで砂漠を横断。一日で砂漠の東端まで到達した。
ナギが降りた。
「ここから先は、俺の管轄外だ。東の山岳地帯に入る」
〝世話になった〟
「気をつけろ。マリウスの部隊がいるんだろ?」
〝いる〟
「殴ってこい」
〝殴るかどうかは分からないけど〟
「殴れ。にこにこしてるやつは殴っていい」
ナギ、過激だな。
砂帝蠍に礼を言った。
〝ありがとう 砂帝蠍〟
「ギュ」
でかいハサミを持ち上げて振ってくれた。
バイバイ。十五メートルのサソリのバイバイ。
◇
砂漠を抜けて、東の山岳地帯に入った。
ここからは徒歩。
でも——砂漠を一日で通過できたおかげで、行程が大幅に短縮された。
あと三日で天蓋の渓谷に着く。マリウスの部隊より——たぶん、二日早い。
間に合う。
山道を歩きながら、俺は蓋裏を確認した。
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解放済みの塔:5基
残り:2基
第6の塔:天蓋の渓谷
── 大賢者の遺産がある
第7の塔:位置不明
── 第六の塔解放後に判明
* マリウス派の部隊が
第六の塔に向かっています
* 到達予想:あなたの方が先
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あと二基。
そして——大賢者の遺産。魔王の王の封印。マリウスの最終計画。
全部が、ここに集まってきてる。
パカッ。
今まで——五つの塔を解放した。
対話して。武で語って。知で語って。名前を入れて。歌を返して。
五人の魔王を——五通りのやり方で救った。
残り二人の魔王と、一人の政治家。
全部の蓋を開けるまで——俺は、止まらない。
ズズズ。
山道を、進む。
◇
第六部「潮騒の岬編」——完。
◇
【次回・第七部】天蓋の渓谷。大賢者の遺産を巡る、マリウスとの最終決戦。第六の塔と、第七の塔。七つの蓋が——全て開く日が、近づいている。




